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紫藤 蓮(シトウ レン)

sideアレク

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 俺の番は子供と見紛う程小柄だが、誰もが認め、本当に俺の番で良いのかと自問したくなる、美貌の人だ。

 穏やかな笑みを絶やす事のない、花のかんばせ、嫋やかな所作、どの貴族家の令息と比較しても遜色のない品も持ち合わせている。

 なのにだ。
 何故、ああも無茶な事ばかりをするのか。

 浄化については、良しとしよう。
 使命を授けた神には言いたい事もあるが、こればかりは仕方が無い。

 だが、イマミアでは、瘴気によって病を得た村人を浄化し、体の不調を感じながらも、その足で洞窟の調査に赴こうとする。

 大事を取って食事を摂らせはしたが、案の定移動中のエンラの上で熟睡してしまっていた。
 本人はなんて事ない様に話しているが、呪具への浄化だけでなく、その他の物への浄化もレンに与える負担は、俺達が想像しているより大きいのではないだろうか?

 でなければ、いくら軍用のエンラの走行が安定しているとは言え、あそこまでぐっすりと眠れるものでは無いだろう?

 レンは滅多に弱音を吐かない。

 だが、一日で病人と井戸そして呪具を浄化し、戦闘に加わり大規模な土魔法を展開するというのは、やりすぎではないか?

 俺達がいくら無理をするなと言っても、レンは自分に出来ることを、その能力の限りに遂行しようとする頑固な一面もある。

 そんなきかん気なところも
 堪らなく可愛いかったりするのだが。

 本人が限界が来るまで弱音を吐かず、俺にも体の不調を隠そうとするのだから、俺がレンの体調に、もっと細かく気を配るべきなのだろうな。

 しかし、あの華奢な体の何処にあれ程のエネルギーと行動力が隠されているのか、不思議で仕方がない。

 それにレンの独特な洞察力。
 イマミアでの待機中に、レンが話した事を報告に来たマークも、顔色が悪くなっていたな。
 まぁ、内容が内容だけに仕方が無いとも言えるが・・・。

『泉の瘴気は物凄く濃い状態でしたが、流れていくうちに、だんだん薄れてはいくでしょう。でもその影響がなくなるとは思えない。泉で作られた瘴気が、川や地下水脈に紛れて流れていって、ただ流れていくだけなら、その場に影響はないかもしれませんが、川の水を引き込んで池を造れば、そこに瘴気がたまるかもしれない。地下水だってただ流れている訳では無くて、地底湖に溜まるだろうし、井戸の様に水を留めて置く場所も多いでしょ?そして最後は海に流れ着く』

『水が無ければ人は生きていけません。ですが水の流れを留めると言うなら、人の体も同じ事。もしかしたら、私達全員が何らかの瘴気の影響を受けている可能性はあるのではないでしょうか』

「・・・本当にレン様が仰った事なのですか?」
 
 随分と険しい顔でマークの報告書を読んでいたが、モーガンの表情が暗いな。
 いつもの覇気もないし、自慢の鳩胸が萎んで見えるぞ?

「一言一句間違いないそうだ」
「そうですか・・・瘴気の存在を知ったのは最近の事ですが、このような可能性について考えた事はありませんでした」
「俺も同じだ」
「他には何か仰っておられるのですか?」
「アガス達はクレイオスの力を削ぐために、呪具を使っているのだろう、と言って居たそうだ」
「成る程、その先のことはまだお分かりにならないのでしょうか?」
「さあな。レンは思い付いたことの全てを話す訳では無いからな。何かを言いかけて言葉を飲み込む事が偶にあってな?そ言う時は、こっちが何を言っても口を割らないな」
「私たちが知るべきではないと、お考えなのでしょうか?」
「それはどうだろう。レンは思ったことを口にしない様に、自ら枷をかけているように見えるな」
「流石によく見ていらっしゃる」
「これでも番なんでな」
 
 そう言うとモーガンは「お熱いことですな」と笑っているが、俺としてはレンが全てを話してくれた方が嬉しいのだがな。

「このブネの調査が終わったら、一度皇宮で軍議を開こうと思っている。ヴァラク教の動きを追うにも、範囲が広すぎる。情報の共有を改めてした方が良いだろう」
「そうですね。聖地を巡礼していると言う理由で、信徒を拘束も出来ませんしね」

 疲れているだけなのか?
 茶の啜り方がおっさん臭いぞ?

「その軍議に、レンも参加させようと思うのだが」
「それは良い。レン様のご意見は的を射ていますから、みなの良い刺激にもなるでしょうな」

あの小さな頭の中で、どんな思考が巡らされているのか、俺も知りたいよ。

「そう言えば、アルケリスが捕縛されたそうですよ?」
「やっとか?」
「なんでもかなり重要な証拠を、第1に送り付けて来た人物が居たそうで、その証拠が無ければ、捕縛はまだ先になったそうです」
「密告か?・・・アイツも嫌われたもんだな」
「それだけの事をしたからですよ。自業自得ですな」
 
 その通りだ。
俺の番をいやらしい目で見やがって。
本当は俺の手で、あの汚らわしい目玉をくり抜いてやりたいぐらいだ。

「話を戻すが、第3の管轄区域でイマミアのような病は見られたのか?」
「はい。タマス平原に近い街で妙な病が流行っているとの報告は受けています。アイオスでも数名確認出来ました。残りは調査中です」
 と、やはり返事に精彩を欠いている。

「モーガン。どこか具合が悪いのか?」
「いえ・・・私ではなく息子なのですが・・此の所体調を崩し勝ちだったのですが、今のお話を聞いて、どうやら息子もこの病にやられている様です」

 子供が・・・そうか。
 獣人は皆子煩悩だが、特に鳥は子に対する思いが強い。
 モーガンが萎れる筈だ。
 
「では、レンに相談するといい」
「宜しいのですか?」
「あまり無理はさせたくないが、何も言わずに後で知られた方が怖い」
「閣下・・・ありがとうございます」
 
 モーガンが頭を下げているが、面映いからやめて欲しい。

「頭を上げてくれ。浄化をするのはレンだ。それに、息子の病が瘴気によるものとも決まっていない」
「そうですね。ですがお気遣い頂いた事への感謝ですので」

 相変わらず真面目だな。
 ロロシュにモーガンの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

「レンなら “ブネでの調査が終われば、アイオスのポータルを使って皇都に戻るのだから、そのついでだから気にするな” と言うだろうな」
「はははっ!確かに言いそうですな」

 少しは元気が出た様だな。

「話はここ迄だ。森の池に案内してもらおう」
「はい。先日レッドベアの討伐はしましたが、クロムウェル殿からの連絡を受けて、池の周辺の警備を増やし、森への出入りもギルドの登録証を持ったものに限定しています。しかし森全体を封鎖することはできません」
「うむ」
「夜陰に紛れ不届者に森に入り込まれて仕舞えば、イマミアの様に転移陣を展開される可能性も捨てきれません。どうかご注意を」

 モーガンの言う事は、当然想定内だ。
 その為に、第3に警護を頼んだのだ。

 これ迄は、攻撃力の高い魔物が召喚されていたが、イマミアでは物量が酷かった。

 俺も浜と入江を埋め尽くすロッククラブとサハギンに、お目に掛かる日が来るとは思っていなかったからな。

「まぁ、森を丸焼けにしない様に気を付けよう」
「頼みますよ?」
 
 なんだその顔は?
 今のは冗談だぞ?
 まるで俺が本当に森を焼き尽くすみたいじ
 ゃないか。

 森を焼いたのは、セルゲイ・ゲオルグだ!

 俺は世間では色々言われているが、戦闘狂ではないのだぞ?

 セルゲイあ れと同列に見られるとはな。
 非常に心外だ。  
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