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アレクサンドル・クロムウェル
誤解を解くならお早め / 惨劇
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「ゼノン大司教が殺された?」
「いい歳だったろ?病気で死んだとかじゃないのかよ」
「行けばわかる。ミュラー後を頼む。ロロシュお前はついて来い」
足早にエンラの厩舎に向かう途中、ロロシュがシッチンを可愛がっていたことを思い出した。
「ロロシュ。お前ミーネでシッチンに色々仕込んでいたな?」
「それが?」
朝の鍛錬のことを根に持っているのだろう、答えが反抗的だ。
「シッチンも連れて来い。神殿絡みだ、役に立つかもしれん」
「分かった」
態度は不貞腐れているし、言葉遣いも悪いままだが、大人しく指示に従う真面目な面もある。
レンやマークのことが無ければ、使い勝手の良い奴なのだが・・・・。
ロロシュがマークにとった態度は、同じ獣人のオスとして納得が出来るものではないし、八つ当たりと分かっていても、レンと会えない苛立ちをぶつけたくなる。
俺は本当に狭量すぎる。
だからレンに出て行かれるんだ。
ミュラーの話は、耳に痛い物ではあったが、自分の行いを振り返り、これからのことを考える良い指針になったように思う。
ロロシュの態度が改まらない様であれば、ミュラーと話しをさせた方が良いだろう。
実際の経験談に勝るものはないからな。
そう考えると、ミュラーは騎士よりも教師に向いている気がするな。
◇◇
エンラを駆り駆けつけた大神殿は、一種異様な雰囲気に包まれていた。
朝の礼拝から夕方の礼拝終了まで開け放たれている筈の大門は閉ざされ、その前には騎士達が立ち、中に入る者がいない様に睨みを利かせている。締め出された一般信者たちは、神殿に向かって祈りを捧げながら、その周りを、取り囲むように群れを成していた。
人の壁に邪魔されて、近付くこともままならない状況だ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、大門を護っていた騎士の一人が俺たちに気付き、仲間を呼んで人垣を掻き分け、道を作り門の中へ導いてくれた。
「閣下こちらです」
エンラを降り案内されたのは、神殿の中央の礼拝堂の中だった。
祭壇の前に第1の副団長のバルドと、数名の騎士たちが難しい顔で、何事かを話していた。
礼拝堂の中は、鉄臭い血の匂いが鼻をついた。
それに構わず軍靴を響かせてバルド達に近付くと、俺に気付いたバルドの顔に安堵の表情が浮かぶのが見えた。
バルドは母上の下で、長く副団長を務めた剛の者だ、それがこうも動揺するとは、一体ゼノンの身に何があったのだろうか。
「閣下!ご足労頂きまして、申し訳ございません」
とバルド以下騎士達が揃って頭を下げたた。
「気にするな。ゼノンが殺されてと聞いたが?」
「それが正確には、ゼノンと見られる遺体と身元不明の遺体が御座います」
「もう一人?、遺体は運んだ後か?」
「いえ。まだこちらに」
バルドと騎士たちが横にずれると、祭壇の前に血の滲んだ掛け布が見えた。
バルドの合図で騎士の二人が掛け布を外すと、そこには大司教の祭服を身に付けた遺体と、全裸で内臓を抉り取られた肉塊が現れたが、その両方とも頭部が見当たらなかった。
「・・・これは」
流石の俺もその凄惨さに、鼻の上に皺がよるのを我慢出来なかった。
俺の後ろのロロシュも息を呑み、シッチンに至っては、吐き気を我慢しているのか、喉が鳴っている。
凄惨な現場ではあるが、どこか違和感がある。
「・・・ここが現場で合っているのか?」
「流石のご慧眼ですな。現場は合っていますが、あそこに居る愚か者どもが、血と証拠を洗い流してしまったのです」
バルドの睨む先に、祭服を血で濡らした司教と神官達が神兵に護られる様にして、震えながら立っていた。
「隠蔽しようとして、失敗したと言う事か」
「仰る通りです」
司教達に軽蔑の目を向けたバルドが、ことの経緯を説明し始めた。
大神殿の朝は礼拝から始まる。
朝の礼拝の開始時刻は、毎日朝の五刻。
それに間に合うように四刻には、下級神官達が、礼拝堂の掃除と準備を始めることになっている。
今朝も通常通り礼拝の準備にやって来た神官達が、変わり果てた大司教らしき遺体と、もう一人の遺体を発見した。
知らせを受けた司教達は、ことの重大さに色を失った。何故ならその遺体は、明らかに邪悪な魔法陣に囲まれていたからだ。
司教達は礼拝堂の扉を閉め切り、二人の遺体を布で包んで移動させ、床の魔法陣を消すことに躍起なった。
大司教の死を悲しむより、大神殿が邪悪なものに穢されたとう言う、不名誉な事態を隠す事の方が、大事だったと言うことだ。
しかし、時間を過ぎても礼拝堂の扉が開かれないことを、不審に思った信者達が騒ぎ始めた。
詰め寄られた下級神官達も、扉が開かない理由が分からず右往左往する中、以前祭礼の手伝いをしたことのある信者の一人が、地下墓地と礼拝堂が繋がっている事を思い出し、庭園にある地下墓地の入り口を通って、礼拝堂に向かったらしい。
誰でも良いから、外で待つ信者達に事情を説明して貰おうと、礼拝堂にを覗き込んだ信者は、司教達の狂気じみた行動を目撃する事となり、そのあまりの悍ましさに、そのまま皇都の警備隊に助けを求め、事件が発覚するに至った。
しかし相手は大神殿だ、警備隊では門前払いを喰らう可能性が高い、そこで警備隊の隊長は自ら第一騎士団の詰所に走り、報告を受けた騎士団の騎士達が扉を破って中に入ると、正に布で巻かれた遺体が運び出される処だった。
「如何致しましょう」
「そうだな・・・」
探るようにこちらを見るバルドは、俺の事を試しているようにも見える。
どうせ逐一母上に報告する気だろ?
癒しを求める民を思えば、大神殿の門を閉ざすことはできない、下手をすれば信者が暴動を起こす可能性も有る。
「まず、証拠の隠滅に加担した全員は牢にぶち込め。そいつらと、この遺体は裏から目立たないように馬車で運ぶように。遺体は詳しく調べる必要があるからな」
「なるほど、他には?」
「神兵は宿舎で軟禁。ゼノンが死んだ事だけ発表させて、葬儀の準備と鎮魂の祈りの為だとでも言って、癒し処以外を閉めさせろ。あいつらの尋問とこの件の捜査。神殿の警備、神官の監視はお前に任せる」
「承りました。後は何か御座いますか?」
「発見時の、状況が知りたい」
バルドは礼拝堂の隅で震えている司教達に目を向けたが、あまりの怯えように、証言を諦め、自分の口で説明する事にしたようだ。
「ゼノンと見られる遺体は、こちらの祭壇の上に縛り付けられていたそうです。そして祭壇の下の床に魔法陣が描かれていて、その魔法陣のすぐ脇に、もう一体が倒れていたのですが、儀式に利用したと思われる抜き取られた臓物は、どこにも見当たらなかった様です」
「・・・・魔法陣は全て消されたのか?」
「彼奴らは、祭壇まで動かして消した様ですな」
「この重そうな祭壇をね・・・悪いが祭壇を退かしてみてくれ」
クーロ製の祭壇は、騎士が四人掛りで漸く持ち上げる事が出来た。
これ程重い祭壇を、貧弱な神官達が動かすのに何人掛りでやったのやら。
「ロロシュ。シッチンもここを見ろ」
「おっ。消し残しがあるな」
「魔力の残滓と合わせて、何かわかるか?」
魔法陣は、少し時間をくれと言うロロシュとシッチンに任せて、俺とバルドは遺体の検分をする事にした。
「そもそも、この遺体はゼノンで間違いないのか?」
「司教はそう言っています。首が無いので断言はできませんが、少なくとも祭服とこの指輪は、大司教の物に間違いないそうです」
「しかし、殺すなら一息で済ませてやれば良いものを」
「そうですな。魔法陣の事を考えると、そこも含めて何かの儀式、という事でしょうか」
「そう言う事だろうな」
「こっちの遺体の身元は、分からないんだな?」
「所持品が何も有りませんから。ただ司教のアガスの所在が不明です」
「アガスが?」
身体を切り開かれ、内臓を抜かれた無惨な姿を繁々と眺めてみたが、脂肪に埋もれたアガスの顔とは重ならなかった。
確かに太り肉では有るが・・・。
「あいつ。こんなに細かったか?」
「いい歳だったろ?病気で死んだとかじゃないのかよ」
「行けばわかる。ミュラー後を頼む。ロロシュお前はついて来い」
足早にエンラの厩舎に向かう途中、ロロシュがシッチンを可愛がっていたことを思い出した。
「ロロシュ。お前ミーネでシッチンに色々仕込んでいたな?」
「それが?」
朝の鍛錬のことを根に持っているのだろう、答えが反抗的だ。
「シッチンも連れて来い。神殿絡みだ、役に立つかもしれん」
「分かった」
態度は不貞腐れているし、言葉遣いも悪いままだが、大人しく指示に従う真面目な面もある。
レンやマークのことが無ければ、使い勝手の良い奴なのだが・・・・。
ロロシュがマークにとった態度は、同じ獣人のオスとして納得が出来るものではないし、八つ当たりと分かっていても、レンと会えない苛立ちをぶつけたくなる。
俺は本当に狭量すぎる。
だからレンに出て行かれるんだ。
ミュラーの話は、耳に痛い物ではあったが、自分の行いを振り返り、これからのことを考える良い指針になったように思う。
ロロシュの態度が改まらない様であれば、ミュラーと話しをさせた方が良いだろう。
実際の経験談に勝るものはないからな。
そう考えると、ミュラーは騎士よりも教師に向いている気がするな。
◇◇
エンラを駆り駆けつけた大神殿は、一種異様な雰囲気に包まれていた。
朝の礼拝から夕方の礼拝終了まで開け放たれている筈の大門は閉ざされ、その前には騎士達が立ち、中に入る者がいない様に睨みを利かせている。締め出された一般信者たちは、神殿に向かって祈りを捧げながら、その周りを、取り囲むように群れを成していた。
人の壁に邪魔されて、近付くこともままならない状況だ。
どうしたものかと頭を悩ませていると、大門を護っていた騎士の一人が俺たちに気付き、仲間を呼んで人垣を掻き分け、道を作り門の中へ導いてくれた。
「閣下こちらです」
エンラを降り案内されたのは、神殿の中央の礼拝堂の中だった。
祭壇の前に第1の副団長のバルドと、数名の騎士たちが難しい顔で、何事かを話していた。
礼拝堂の中は、鉄臭い血の匂いが鼻をついた。
それに構わず軍靴を響かせてバルド達に近付くと、俺に気付いたバルドの顔に安堵の表情が浮かぶのが見えた。
バルドは母上の下で、長く副団長を務めた剛の者だ、それがこうも動揺するとは、一体ゼノンの身に何があったのだろうか。
「閣下!ご足労頂きまして、申し訳ございません」
とバルド以下騎士達が揃って頭を下げたた。
「気にするな。ゼノンが殺されてと聞いたが?」
「それが正確には、ゼノンと見られる遺体と身元不明の遺体が御座います」
「もう一人?、遺体は運んだ後か?」
「いえ。まだこちらに」
バルドと騎士たちが横にずれると、祭壇の前に血の滲んだ掛け布が見えた。
バルドの合図で騎士の二人が掛け布を外すと、そこには大司教の祭服を身に付けた遺体と、全裸で内臓を抉り取られた肉塊が現れたが、その両方とも頭部が見当たらなかった。
「・・・これは」
流石の俺もその凄惨さに、鼻の上に皺がよるのを我慢出来なかった。
俺の後ろのロロシュも息を呑み、シッチンに至っては、吐き気を我慢しているのか、喉が鳴っている。
凄惨な現場ではあるが、どこか違和感がある。
「・・・ここが現場で合っているのか?」
「流石のご慧眼ですな。現場は合っていますが、あそこに居る愚か者どもが、血と証拠を洗い流してしまったのです」
バルドの睨む先に、祭服を血で濡らした司教と神官達が神兵に護られる様にして、震えながら立っていた。
「隠蔽しようとして、失敗したと言う事か」
「仰る通りです」
司教達に軽蔑の目を向けたバルドが、ことの経緯を説明し始めた。
大神殿の朝は礼拝から始まる。
朝の礼拝の開始時刻は、毎日朝の五刻。
それに間に合うように四刻には、下級神官達が、礼拝堂の掃除と準備を始めることになっている。
今朝も通常通り礼拝の準備にやって来た神官達が、変わり果てた大司教らしき遺体と、もう一人の遺体を発見した。
知らせを受けた司教達は、ことの重大さに色を失った。何故ならその遺体は、明らかに邪悪な魔法陣に囲まれていたからだ。
司教達は礼拝堂の扉を閉め切り、二人の遺体を布で包んで移動させ、床の魔法陣を消すことに躍起なった。
大司教の死を悲しむより、大神殿が邪悪なものに穢されたとう言う、不名誉な事態を隠す事の方が、大事だったと言うことだ。
しかし、時間を過ぎても礼拝堂の扉が開かれないことを、不審に思った信者達が騒ぎ始めた。
詰め寄られた下級神官達も、扉が開かない理由が分からず右往左往する中、以前祭礼の手伝いをしたことのある信者の一人が、地下墓地と礼拝堂が繋がっている事を思い出し、庭園にある地下墓地の入り口を通って、礼拝堂に向かったらしい。
誰でも良いから、外で待つ信者達に事情を説明して貰おうと、礼拝堂にを覗き込んだ信者は、司教達の狂気じみた行動を目撃する事となり、そのあまりの悍ましさに、そのまま皇都の警備隊に助けを求め、事件が発覚するに至った。
しかし相手は大神殿だ、警備隊では門前払いを喰らう可能性が高い、そこで警備隊の隊長は自ら第一騎士団の詰所に走り、報告を受けた騎士団の騎士達が扉を破って中に入ると、正に布で巻かれた遺体が運び出される処だった。
「如何致しましょう」
「そうだな・・・」
探るようにこちらを見るバルドは、俺の事を試しているようにも見える。
どうせ逐一母上に報告する気だろ?
癒しを求める民を思えば、大神殿の門を閉ざすことはできない、下手をすれば信者が暴動を起こす可能性も有る。
「まず、証拠の隠滅に加担した全員は牢にぶち込め。そいつらと、この遺体は裏から目立たないように馬車で運ぶように。遺体は詳しく調べる必要があるからな」
「なるほど、他には?」
「神兵は宿舎で軟禁。ゼノンが死んだ事だけ発表させて、葬儀の準備と鎮魂の祈りの為だとでも言って、癒し処以外を閉めさせろ。あいつらの尋問とこの件の捜査。神殿の警備、神官の監視はお前に任せる」
「承りました。後は何か御座いますか?」
「発見時の、状況が知りたい」
バルドは礼拝堂の隅で震えている司教達に目を向けたが、あまりの怯えように、証言を諦め、自分の口で説明する事にしたようだ。
「ゼノンと見られる遺体は、こちらの祭壇の上に縛り付けられていたそうです。そして祭壇の下の床に魔法陣が描かれていて、その魔法陣のすぐ脇に、もう一体が倒れていたのですが、儀式に利用したと思われる抜き取られた臓物は、どこにも見当たらなかった様です」
「・・・・魔法陣は全て消されたのか?」
「彼奴らは、祭壇まで動かして消した様ですな」
「この重そうな祭壇をね・・・悪いが祭壇を退かしてみてくれ」
クーロ製の祭壇は、騎士が四人掛りで漸く持ち上げる事が出来た。
これ程重い祭壇を、貧弱な神官達が動かすのに何人掛りでやったのやら。
「ロロシュ。シッチンもここを見ろ」
「おっ。消し残しがあるな」
「魔力の残滓と合わせて、何かわかるか?」
魔法陣は、少し時間をくれと言うロロシュとシッチンに任せて、俺とバルドは遺体の検分をする事にした。
「そもそも、この遺体はゼノンで間違いないのか?」
「司教はそう言っています。首が無いので断言はできませんが、少なくとも祭服とこの指輪は、大司教の物に間違いないそうです」
「しかし、殺すなら一息で済ませてやれば良いものを」
「そうですな。魔法陣の事を考えると、そこも含めて何かの儀式、という事でしょうか」
「そう言う事だろうな」
「こっちの遺体の身元は、分からないんだな?」
「所持品が何も有りませんから。ただ司教のアガスの所在が不明です」
「アガスが?」
身体を切り開かれ、内臓を抜かれた無惨な姿を繁々と眺めてみたが、脂肪に埋もれたアガスの顔とは重ならなかった。
確かに太り肉では有るが・・・。
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