91 / 524
アレクサンドル・クロムウェル
帰還とお引越し / 決意
しおりを挟む
柘榴宮を寄越せと言う俺に、ウィリアムは嫌な顔とまでは言わないが、良い顔はしなかった。
「柘榴宮は・・ちょっとなぁ」
後宮内にある柘榴宮は、宮の中で、広さも豪華さも群を抜いている。後継者のアーノルドが、母君と住まう翡翠宮は、内宮との行き来などの利便性は良いが、敷地も狭く、建物も後宮の中では質素な宮だ。
翻って柘榴宮は、数代前の皇帝が愛妾の為に贅を尽くして建てた宮だ。
敷地も広く、大変美しい宮だが、内装も調度品も豪華絢爛、ただ若干悪趣味ではある。
前述の皇帝の没後は、他国の王族など貴賓の滞在に利用されて来たが、魔物が跋扈する様になり、貴賓の滞在など絶えて久しい。
「柘榴宮で何するつもり?」
「レンと住むに決まっているだろう」
「・・・今のままじゃ駄目なの?」
「レンは愛し子だが、今はまだ、後ろ盾が少なすぎる。それなりの格付けが必要だ。皇弟と愛し子への婚姻祝いなら、文句も出んだろう?」
「まぁ、そうね・・・琥珀宮じゃ駄目?」
言いたい事は分かる。
愛し子の住まいとは言え、皇太子より何倍も豪華な宮では外聞が悪いと言う事だ。
「駄目だ。今回の件でよく分かった。俺は皇宮の人間が信用できないし、今まで見逃してきたが、今後、俺や獣人に対する差別や侮辱を、俺は許さない。」
「・・・」
「レンを連れて、大公領に退く事も考えた。領の騎士達を連れて、瘴気を消してまわれば良いとな。その方がレンも気が楽だろうからな」
「それは困る、駄目だよ!」
動揺するウィリアムを、分かっていると落ち着かせた。
「領に退いても、何の解決にもならん。解決の為には、今後、差別主義者を許す訳にはいかない。そうなれば、貴族、神殿に関わらず、俺は人族に喧嘩を売ることになるな?その事で、お前やレンに迷惑をかけるかもしれんが、柘榴宮なら、第2の詰所と練武場にも近く、余った部屋に第2の者を住まわせれば、警護も万全だ。差別主義の貴族どもや、神殿の奴らが何か仕掛けてきても、問題なく対処が出来る」
ギデオン帝が残した傷も、張り巡らせた根も深い。簡単に解決できるのもではないだろう。どれほどウィリアムが尽力した所で、当事者の俺が無関心では、ウィリアム1人では、どうにも出来なかった事もあるだろう。
今なら分かる。俺は皇位だけじゃ無い、面倒ごとの全てを、ウィリアムに押し付けて来ていたのだ。そのツケを払う刻が来ただけだ。
「アレクが前向きになってくれて、お兄ちゃん嬉しいよ。これもレンちゃんのお陰かな?」
「レンとは・・過去の・・・ジルベールの話をしたが、特に何かを言われてはいない。ただ、俺達はギデオンに囚われ過ぎていた。このままではいけない、と思っただけだ」
「・・・・そっか」
「お前のお気楽な老後と、アーノルドの治世のためにも、地均しが必要だしな」
「はは・・ありがたくて涙が出るよ」
人は多かれ少なかれ、消す事の出来ない傷のような物が有るだろう。
だが、その傷を悔やんで立ち止まっても、時間だけは過ぎて行く。
その傷を汚点として生きて行くのか、戦った証の、誇りに変えるのかは、自分次第だ。
それに気付かせてくれたのはレンだ。
レンは、尊厳を傷つけること、理不尽な事を、受け入れる必要は無いと言ってくれた。
ウィリアムに偉そうなことを言ったが、俺が前向きになれたのだとしたら、それは全て、レンのおかげだな。
◇◇◇
柘榴宮への引っ越しを明日に控え、今日も俺は、楽しくレンの髪を結っている。
今日のレンの髪型は、長い黒髪を細かく三つ編みにし、サイドを頭頂部に巻き付け、下半分の細かい三つ編みには、小さな真珠を編み込んでみた。
これを見たレンは「動きやすいし可愛い。アミダラ姫みたい!」と喜んでくれたが、アミダラ姫とは誰のことだろう。
「ん~~映画は、分かんないか。・・・アミダラは、ルーク・スカイウォーカーというヒーローのお母さんです」
と益々分からない事を言っているが、彼方の有名人と言うことで納得することにした。
本当は"エイガ"と言う物も含めて、詳しく聞きたいところだが、今日は面倒な謁見が控えている。今は我慢だ。
本日のレンの装いは、薄い柘榴石の上着に、黒の内着と下履き、謁見の相手への牽制も込めて、レンと俺の色で攻めてみた。
「今日も、世界一綺麗だ」
「礼服のアレクさんも素敵ですよ?」
と頬を染める、番とか・・・。
ーークッ!!
危うく朝っぱらから、昇天する所だった。
気を引き締めなければ。
「今日は神殿の大司教の・・・ゼノンさん?がお見えになるんですよね?」
「あぁ。他にも大神殿の司教が数人来るらしい」
これまで何度も、謁見を申し込んでいたゼノンが、とうとう痺れを切らし、大神殿の司教を引き連れ、愛し子に合わせるまで帰らないと、騒ぎを起こした。
これに辟易したウィリアムが、レンに伺いを立てたのだが。
「どんな方達か、一度確認したいと思っていたので、私はいつでも構いませんよ」とキリッとした顔で快諾したが、その目にはうっすらとだが、レンには珍しく、嫌悪の色が浮かんで見えた。
流石に、当日の謁見を受諾する事はできず、日を改めたのだが、関わらないで済むなら、一生関わり合いたくない相手ではある。
「何か、気を付ける事は有りますか?」
「いや。君の好きなようにすれば良い。聞きたいことは聞けばいいし、答えたく無いことは無視すればいい」
皇帝と主要貴族同席の謁見で、神官如きが、何を出来るでも無いだろう。
「そんな我儘な態度でいいんですか?」
「構わない。君は皇帝の貴賓で俺の番だ」
目を丸くする頬を撫でると、レンは擽ったそうに微笑んだ。
「じゃあ、気合い入れて、サクッと片付けちゃいましょう!」
拳を握り締め
全く出ない力瘤を作るとか
可愛すぎる!!
このままベットに連れ戻したらダメか?!
「柘榴宮は・・ちょっとなぁ」
後宮内にある柘榴宮は、宮の中で、広さも豪華さも群を抜いている。後継者のアーノルドが、母君と住まう翡翠宮は、内宮との行き来などの利便性は良いが、敷地も狭く、建物も後宮の中では質素な宮だ。
翻って柘榴宮は、数代前の皇帝が愛妾の為に贅を尽くして建てた宮だ。
敷地も広く、大変美しい宮だが、内装も調度品も豪華絢爛、ただ若干悪趣味ではある。
前述の皇帝の没後は、他国の王族など貴賓の滞在に利用されて来たが、魔物が跋扈する様になり、貴賓の滞在など絶えて久しい。
「柘榴宮で何するつもり?」
「レンと住むに決まっているだろう」
「・・・今のままじゃ駄目なの?」
「レンは愛し子だが、今はまだ、後ろ盾が少なすぎる。それなりの格付けが必要だ。皇弟と愛し子への婚姻祝いなら、文句も出んだろう?」
「まぁ、そうね・・・琥珀宮じゃ駄目?」
言いたい事は分かる。
愛し子の住まいとは言え、皇太子より何倍も豪華な宮では外聞が悪いと言う事だ。
「駄目だ。今回の件でよく分かった。俺は皇宮の人間が信用できないし、今まで見逃してきたが、今後、俺や獣人に対する差別や侮辱を、俺は許さない。」
「・・・」
「レンを連れて、大公領に退く事も考えた。領の騎士達を連れて、瘴気を消してまわれば良いとな。その方がレンも気が楽だろうからな」
「それは困る、駄目だよ!」
動揺するウィリアムを、分かっていると落ち着かせた。
「領に退いても、何の解決にもならん。解決の為には、今後、差別主義者を許す訳にはいかない。そうなれば、貴族、神殿に関わらず、俺は人族に喧嘩を売ることになるな?その事で、お前やレンに迷惑をかけるかもしれんが、柘榴宮なら、第2の詰所と練武場にも近く、余った部屋に第2の者を住まわせれば、警護も万全だ。差別主義の貴族どもや、神殿の奴らが何か仕掛けてきても、問題なく対処が出来る」
ギデオン帝が残した傷も、張り巡らせた根も深い。簡単に解決できるのもではないだろう。どれほどウィリアムが尽力した所で、当事者の俺が無関心では、ウィリアム1人では、どうにも出来なかった事もあるだろう。
今なら分かる。俺は皇位だけじゃ無い、面倒ごとの全てを、ウィリアムに押し付けて来ていたのだ。そのツケを払う刻が来ただけだ。
「アレクが前向きになってくれて、お兄ちゃん嬉しいよ。これもレンちゃんのお陰かな?」
「レンとは・・過去の・・・ジルベールの話をしたが、特に何かを言われてはいない。ただ、俺達はギデオンに囚われ過ぎていた。このままではいけない、と思っただけだ」
「・・・・そっか」
「お前のお気楽な老後と、アーノルドの治世のためにも、地均しが必要だしな」
「はは・・ありがたくて涙が出るよ」
人は多かれ少なかれ、消す事の出来ない傷のような物が有るだろう。
だが、その傷を悔やんで立ち止まっても、時間だけは過ぎて行く。
その傷を汚点として生きて行くのか、戦った証の、誇りに変えるのかは、自分次第だ。
それに気付かせてくれたのはレンだ。
レンは、尊厳を傷つけること、理不尽な事を、受け入れる必要は無いと言ってくれた。
ウィリアムに偉そうなことを言ったが、俺が前向きになれたのだとしたら、それは全て、レンのおかげだな。
◇◇◇
柘榴宮への引っ越しを明日に控え、今日も俺は、楽しくレンの髪を結っている。
今日のレンの髪型は、長い黒髪を細かく三つ編みにし、サイドを頭頂部に巻き付け、下半分の細かい三つ編みには、小さな真珠を編み込んでみた。
これを見たレンは「動きやすいし可愛い。アミダラ姫みたい!」と喜んでくれたが、アミダラ姫とは誰のことだろう。
「ん~~映画は、分かんないか。・・・アミダラは、ルーク・スカイウォーカーというヒーローのお母さんです」
と益々分からない事を言っているが、彼方の有名人と言うことで納得することにした。
本当は"エイガ"と言う物も含めて、詳しく聞きたいところだが、今日は面倒な謁見が控えている。今は我慢だ。
本日のレンの装いは、薄い柘榴石の上着に、黒の内着と下履き、謁見の相手への牽制も込めて、レンと俺の色で攻めてみた。
「今日も、世界一綺麗だ」
「礼服のアレクさんも素敵ですよ?」
と頬を染める、番とか・・・。
ーークッ!!
危うく朝っぱらから、昇天する所だった。
気を引き締めなければ。
「今日は神殿の大司教の・・・ゼノンさん?がお見えになるんですよね?」
「あぁ。他にも大神殿の司教が数人来るらしい」
これまで何度も、謁見を申し込んでいたゼノンが、とうとう痺れを切らし、大神殿の司教を引き連れ、愛し子に合わせるまで帰らないと、騒ぎを起こした。
これに辟易したウィリアムが、レンに伺いを立てたのだが。
「どんな方達か、一度確認したいと思っていたので、私はいつでも構いませんよ」とキリッとした顔で快諾したが、その目にはうっすらとだが、レンには珍しく、嫌悪の色が浮かんで見えた。
流石に、当日の謁見を受諾する事はできず、日を改めたのだが、関わらないで済むなら、一生関わり合いたくない相手ではある。
「何か、気を付ける事は有りますか?」
「いや。君の好きなようにすれば良い。聞きたいことは聞けばいいし、答えたく無いことは無視すればいい」
皇帝と主要貴族同席の謁見で、神官如きが、何を出来るでも無いだろう。
「そんな我儘な態度でいいんですか?」
「構わない。君は皇帝の貴賓で俺の番だ」
目を丸くする頬を撫でると、レンは擽ったそうに微笑んだ。
「じゃあ、気合い入れて、サクッと片付けちゃいましょう!」
拳を握り締め
全く出ない力瘤を作るとか
可愛すぎる!!
このままベットに連れ戻したらダメか?!
65
お気に入りに追加
1,316
あなたにおすすめの小説
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる