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アレクサンドル・クロムウェル

帰還とお引越し / 決意

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 柘榴宮を寄越せと言う俺に、ウィリアムは嫌な顔とまでは言わないが、良い顔はしなかった。

「柘榴宮は・・ちょっとなぁ」

 後宮内にある柘榴宮は、宮の中で、広さも豪華さも群を抜いている。後継者のアーノルドが、母君と住まう翡翠宮は、内宮との行き来などの利便性は良いが、敷地も狭く、建物も後宮の中では質素な宮だ。

 翻って柘榴宮は、数代前の皇帝が愛妾の為に贅を尽くして建てた宮だ。
 敷地も広く、大変美しい宮だが、内装も調度品も豪華絢爛、ただ若干悪趣味ではある。
 前述の皇帝の没後は、他国の王族など貴賓の滞在に利用されて来たが、魔物が跋扈する様になり、貴賓の滞在など絶えて久しい。


「柘榴宮で何するつもり?」
「レンと住むに決まっているだろう」
「・・・今のままじゃ駄目なの?」
「レンは愛し子だが、今はまだ、後ろ盾が少なすぎる。それなりの格付けが必要だ。皇弟と愛し子への婚姻祝いなら、文句も出んだろう?」
「まぁ、そうね・・・琥珀宮じゃ駄目?」

 言いたい事は分かる。
 愛し子の住まいとは言え、皇太子より何倍も豪華な宮では外聞が悪いと言う事だ。

「駄目だ。今回の件でよく分かった。俺は皇宮の人間が信用できないし、今まで見逃してきたが、今後、俺や獣人に対する差別や侮辱を、俺は許さない。」
「・・・」
「レンを連れて、大公領に退く事も考えた。領の騎士達を連れて、瘴気を消してまわれば良いとな。その方がレンも気が楽だろうからな」
「それは困る、駄目だよ!」
 動揺するウィリアムを、分かっていると落ち着かせた。

「領に退いても、何の解決にもならん。解決の為には、今後、差別主義者を許す訳にはいかない。そうなれば、貴族、神殿に関わらず、俺は人族に喧嘩を売ることになるな?その事で、お前やレンに迷惑をかけるかもしれんが、柘榴宮なら、第2の詰所と練武場にも近く、余った部屋に第2うちの者を住まわせれば、警護も万全だ。差別主義の貴族どもや、神殿の奴らが何か仕掛けてきても、問題なく対処が出来る」

 ギデオン帝が残した傷も、張り巡らせた根も深い。簡単に解決できるのもではないだろう。どれほどウィリアムが尽力した所で、当事者の俺が無関心では、ウィリアム1人では、どうにも出来なかった事もあるだろう。
 
 今なら分かる。俺は皇位だけじゃ無い、面倒ごとの全てを、ウィリアムに押し付けて来ていたのだ。そのツケを払う刻が来ただけだ。

「アレクが前向きになってくれて、お兄ちゃん嬉しいよ。これもレンちゃんのお陰かな?」
「レンとは・・過去の・・・ジルベールの話をしたが、特に何かを言われてはいない。ただ、俺達はギデオンに囚われ過ぎていた。このままではいけない、と思っただけだ」
「・・・・そっか」
「お前のお気楽な老後と、アーノルドの治世のためにも、地均しが必要だしな」
「はは・・ありがたくて涙が出るよ」

 人は多かれ少なかれ、消す事の出来ない傷のような物が有るだろう。
 だが、その傷を悔やんで立ち止まっても、時間だけは過ぎて行く。
 その傷を汚点として生きて行くのか、戦った証の、誇りに変えるのかは、自分次第だ。

 それに気付かせてくれたのはレンだ。
 レンは、尊厳を傷つけること、理不尽な事を、受け入れる必要は無いと言ってくれた。
 ウィリアムに偉そうなことを言ったが、俺が前向きになれたのだとしたら、それは全て、レンのおかげだな。

 ◇◇◇

 柘榴宮への引っ越しを明日に控え、今日も俺は、楽しくレンの髪を結っている。

 今日のレンの髪型は、長い黒髪を細かく三つ編みにし、サイドを頭頂部に巻き付け、下半分の細かい三つ編みには、小さな真珠を編み込んでみた。
 これを見たレンは「動きやすいし可愛い。アミダラ姫みたい!」と喜んでくれたが、アミダラ姫とは誰のことだろう。

「ん~~映画は、分かんないか。・・・アミダラは、ルーク・スカイウォーカーというヒーローのお母さんです」
 と益々分からない事を言っているが、彼方の有名人と言うことで納得することにした。
 本当は"エイガ"と言う物も含めて、詳しく聞きたいところだが、今日は面倒な謁見が控えている。今は我慢だ。

 本日のレンの装いは、薄い柘榴石の上着に、黒の内着と下履き、謁見の相手への牽制も込めて、レンと俺の色で攻めてみた。

「今日も、世界一綺麗だ」
「礼服のアレクさんも素敵ですよ?」
 と頬を染める、番とか・・・。

 ーークッ!!
 危うく朝っぱらから、昇天する所だった。
 気を引き締めなければ。

「今日は神殿の大司教の・・・ゼノンさん?がお見えになるんですよね?」
「あぁ。他にも大神殿の司教が数人来るらしい」

 これまで何度も、謁見を申し込んでいたゼノンが、とうとう痺れを切らし、大神殿の司教を引き連れ、愛し子に合わせるまで帰らないと、騒ぎを起こした。

 これに辟易したウィリアムが、レンに伺いを立てたのだが。
「どんな方達か、一度確認したいと思っていたので、私はいつでも構いませんよ」とキリッとした顔で快諾したが、その目にはうっすらとだが、レンには珍しく、嫌悪の色が浮かんで見えた。

 流石に、当日の謁見を受諾する事はできず、日を改めたのだが、関わらないで済むなら、一生関わり合いたくない相手ではある。

「何か、気を付ける事は有りますか?」
「いや。君の好きなようにすれば良い。聞きたいことは聞けばいいし、答えたく無いことは無視すればいい」

 皇帝と主要貴族同席の謁見で、神官如きが、何を出来るでも無いだろう。

「そんな我儘な態度でいいんですか?」
「構わない。君は皇帝の貴賓で俺の番だ」
 目を丸くする頬を撫でると、レンは擽ったそうに微笑んだ。

「じゃあ、気合い入れて、サクッと片付けちゃいましょう!」

 拳を握り締め
 全く出ない力瘤を作るとか
 可愛すぎる!!
 このままベットに連れ戻したらダメか?!
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