上 下
81 / 491
アレクサンドル・クロムウェル

帰還とお引越し /戦闘狂

しおりを挟む
「閣下、ロロシュ殿が報告に参りました」
「通せ」
「よう!邪魔するぞ~」

 相変わらずの口の利き方だな。

 シッチンを伴い、垂れ布を捲って天幕に入って来たロロシュに、マークは苦い顔だ。

「成功したか?」
「何とかな、こいつの補助があったから何とかなった」と背中を叩かれたシッチンは恐縮したように縮こまって居る。

 一月前、ザンド村に到着直後、ゲオルグを大人しくさせた俺は、第2の団員を中心に森での討伐を開始した。懸案のガルーダも、対空戦用のバリスタと投石機、何よりうちの連携力が有れば、さして手間の掛かる相手では無かった。が、やはりミーネの森の様子はおかしかった。

 狩っても狩っても、魔獣が湧いてくる。
 それは北の辺境でも経験した事だが、あの時とはどうも勝手が違う、その原因は、生息域が異なる魔獣が湧いてくる事だ。
 しかもそのどれもが、興奮した状態で、攻撃的になっている。

 魔獣といえど、本能的な部分は動物と変わらない、満腹で有れば大人しくなるし、此方が刺激しなければ、攻撃してくることも少ない。
 それが攻撃する事を目的としているかの様に、襲いかかってくるのだから、堪ったものではない。

 3日程観察して気がついたのだが、魔獣が現れるのは、森の南西部、神殿とは逆の位置が中心のようだ。また一種の魔獣を討伐すると、5時間程で別の種の魔獣が現れると言う、妙な法則性があった。

 森の南西部に何かある。
 これは確信に近い。

 そこで俺は、団員を森での討伐と、調査の二手に分けて事に当たらせる事にした。

 調査開始2日目、予想通り森の南西部で発動し続ける魔法陣が発見された。
 その報告を受け、ロロシュに調べさせてみたが「魔獣がこの陣から出て来るのは、確認済みだが、どういう原理になっているのかは判らない」との答えが返ってきた。

 ロロシュに陣を書き写させ、魔法局で調べさせる為、皇宮へ送ったのだが、時間がかかった割に、魔法局の人間も陣の正体は判らなかったらしい。

 そこでウィリアムは、駄目元で陣をレンに見せたそうだ。
 レンは暫く考え込んだ後。
「これ、召喚陣らしいです。陣に込めた魔力が尽きる迄、魔獣を他所から召喚し続けた上に、召喚するたびに、もっと獰猛な魔獣を、召喚する仕様になって居るみたいなので、早く消したほうが良いですよ?」とあっさり判明したそうだ。

 また、陣を無効化する方法についても
「長い期間、召喚魔法を発動させ続けるのは難しいそうです。近くに魔力を供給する物と、供給を媒介する物が有るらしいので、それを破壊すれば良いそうです」
 と教えられたのだそうだ。

 ウィリアムから陣に関する情報と共に
 「レンちゃんって、本当にすごいね!」
 と言う褒め言葉が送られてきた。

 知ってはいたが
 やはり俺の番は素晴らしい。
 
 この魔獣の騒動は、人為的なものだった。
 誰がこんな馬鹿げた事をしでかしたのかは、今はまだ不明だ。犯人を調べ捕らえる必要もある。

 だが今は、陣を消しさり、魔獣を屠れば
 俺はレンの元に帰れる。

 と喜んだのも束の間、ゲオルグがとんでもないことを遣らかしてくれた。

 陣の周囲に結界を張り、魔獣が召喚されても陣の側から出られない様にした上で、魔力の供給と媒介物の捜索に、俺の部下達を当たらせた。

 すでに召喚された魔獣については、新たな魔獣が召喚されるのを防ぐため、森から出ようとするか、攻撃してこない限り、召喚陣を消すまでは、手出し無用と言い渡した。

 本人の希望もあって、今いる魔獣の警戒は、ゲオルグに任せた。
 好物魔獣を前に、“待て”を覚える良い機会だと考えたからだ。
 しかし、それが間違いだった。

 元々いた森の魔獣は、コネリなどの小型の魔獣以外狩り尽くされている。そのせいで召喚されたライカンの群れが、腹を満たすことが出来ず、餌を求めて森を出る動きを見せた。
 それを見たゲオルグは、ライカンの群れを森に封じ込めるのではなく、嬉々として20頭以上の群れを狩りまくった。

 まぁ、そこまでは良いとしよう。
 しかし・・・。

 同じ団長職に就く者として、情報の共有は必要だ。
 当然ゲオルグにも召喚陣の詳細を話してある。
 ライカンを狩り尽くしたゲオルグは、新しい魔獣が出て来るのが見たいと、陣から少し離れた場所で待機していたらしい。

 問題は此処からだ。
 運の悪い事に、この時現れたのは、2匹の火竜だった。
 戦闘狂のゲオルグは、興奮して結界に近寄り、結界の持続時間と、強度を上げるために配置した魔晶石を壊してしまったのだ。

 俺の張る結界は、それなりに強力な物だと自負しているが、離れた場所で長時間持続させることは出来ない。
 その為レンの部屋にも、二つ程魔晶石を置いてある。

 魔晶石を見たレンは「パワーストーンみたいで綺麗ですね」と微笑っていたな。
  
 クソッ。
 レンの愛らしい顔を思い出してしまった。

 本気で帰りたい。

 帰ったら駄目だろうか?
 ・・・・駄目だよな。 
 クッ、辛すぎる。

 魔晶石は簡単に壊せる物では無いのだが、火竜の召喚を目の当たりにして、興奮したゲオルグが魔力制御を誤った。

 ゲオルグの無駄に強い魔力が魔晶石を壊し、結界が弱まったことに気付いた火竜が、大暴れして結界を破壊してしまった。

 結界から出た火竜は、当然目の前に居るゲオルグを攻撃した。
 そこでゲオルグが、火竜を仕留めていれば、面倒事も少なくて済んだのだ。

 だが、結局ゲオルグはその場で2匹を仕留めることが出来ず、散々追いかけ回した挙句、危険極まりない火竜を取り逃がす、と言う失態を犯した。

 火竜の吐くブレスで森は炎上、その消火作業に追われている間に、火竜は移動に2日程も掛かるホレポ山という岩山に逃げ込んでしまった。

 しかも、その地域には、小さな村が散在し、火竜の被害を考慮して、村人達ををアレナ砦まで避難させる必要がある。

「面目無い!!言い訳はしない。好きなように処分してくれ!」
 と流石のゲオルグも、自分の失態に萎れていたが、帰還を先延ばしにされた俺は、腹の虫が治らず、本人が希望する通り、躾けと称し、再度ゲオルグを木に吊るしてやる事にした。

 近隣の村人達を避難させている間に、火竜が別の場所に移動されても困る。
 岩山に見張りをたて、避難と魔法陣を消す作業を優先した結果、現在に至るという訳だ。

「御苦労だった」
 恐縮して縮こまるシッチンから、ロロシュへ視線を戻す。

「魔力の媒介は、この魔晶石だ」
 ロロシュがゴトリと卓に置いたのは、どす黒く禍々しい色に変色した魔晶石だった。

「なんだこの色は」
「邪法を使ったらしい。うまく隠していたが死体があった。魔力の供給源だ」
「1人か?」
「いや。5人だ」

 5人も?

「ザンド村の者か?」
「いや、避難の際に人数の確認はしてある。村のもんじゃぁね~な」

 この人数はどこかで聞いたことがある。
 どこで聞いた?

「アガスの護衛も5人でしたね」
 ミュラーの呟きに全員がハッとなった。
「アガスは、いつ村を離れた?」
 それが・・・。とマークとミュラーがバツの悪そうな顔をした。
「魔獣騒ぎで、気がついた時には、村を離れた後でした」
 申し訳ありません。とマークは頭を下げたが、次々と大型の魔獣が湧けば、それどころでは無かっただろう。

「召喚魔法を設置した犯人の捜査は、ゲオルグの管轄だが、第2でも探りを入れた方がいいだろう。アガスの安否確認からだな。その前に火竜を討伐する」
「そうですね。閣下も早く帰りたいでしょうし」
「分かっているなら話しは早い、ホレポ山の様子はどうだ?」

 今俺の周りに居るのは全員が獣人だ、求愛行動中のオスの危険性を十分承知している。
 そして、日に日に俺の機嫌が悪くなっていることも。
 それが分かっているから、マーク達も余計なことは言わず、苦笑を浮かべただけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】転生したら異酒屋でイキ放題されるなんて聞いてません!

梅乃なごみ
恋愛
限界社畜・ヒマリは焼き鳥を喉に詰まらせ窒息し、異世界へ転生した。 13代目の聖女? 運命の王太子? そんなことより生ビールが飲めず死んでしまったことのほうが重要だ。 王宮へ召喚? いいえ、飲み屋街へ直行し早速居酒屋で生ビールを……え? 即求婚&クンニってどういうことですか? えっちメイン。ふんわり設定。さくっと読めます。 🍺全5話 完結投稿予約済🍺

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...