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アレクサンドル・クロムウェル

討伐とお留守番/ お留守番2・お勉強・sideレン

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「レン様。パフォス様がお見えです」

「どうぞ」

「レン様、ご機嫌はいかがですかな」

「パフォスさん、こんにちは」

「・・・そのご様子だと、随分退屈されている様ですね」

「分かっちゃいましたか?」

「そりゃあ、もう」

 と細めた視線は、私の前に置かれた文字の練習用の紙に注がれています。

 その紙の大半が、文字ではなく、悪戯書きで埋まっているのを、見られてしまいました。

「レン様は、絵がお上手ですな」

「下手のよこ好きで、恥ずかしいです」

「ご謙遜なさいますな」

 とパフォスさんは穏やかに微笑んでいますが、そそくさと悪戯書きをしまって、証拠隠滅です。

「今日は何を、お話ししましょうか」

 セルジュさんが入れてくれたお茶を飲みながら、のんびりと聞かれて、少し迷いましたが、一番気になっていることを、聞いてみる事にしました。

「・・・あの、なぜ獣人の方を差別する人がいるのでしょうか?」

「レン様は、差別主義者の事を聞いたのですね?」

「はい」

「誠に嘆かわしい事です」

「・・・私は、まだ知り合いも少ないですし、このお部屋の外の事も、よく分かりません。でも、アレクさんや他の獣人の方たちに対して、あからさまな態度でヒソヒソ悪口を言ったりするのって、おかしいと思うんです。だってアレクさんはこの国を救った人でしょう?」

「・・・・ギデオン帝の話を聞かれたのですね?」

「はい・・・アレクさんが話してくれました」

「そうですか・・・閣下が・・・番とは言え、当時の事を閣下が、自らお話しされるとは。やはりレン様は特別な方の様ですな」

「そうでしょうか?」

「そうですとも」

 もっと自信を持って、とパフォスさんが言ってくれました。

「レン様は、創世神話についてご存知ですかな?」

「創世神話、ですか?」

「はい、この国の差別主義と創世神話には、深い関わりがあるのです」

「そうなんだ・・」

 私は、自分が知っている範囲の事をお伝えしました。

「神話の方は、世界創造の途中までしか読んでなくて・・・」

「ほほほ・・神話の序盤は退屈ですからな。では、重要なところを掻い摘んでお話ししましょう」

「創世の混沌とした時代、アウラ神とドラゴンのクレイオスが、創世の疲れを癒している間に、人族と獣人族を、アザエルと言う魔族の王が虐げていました」

「魔族?魔族の事は初めて聞きました」

「そうでしょうな。今魔族は、交易の時以外は、地上にはおりませんからな」 

「何処に住んでるんですか?」

「地底深くですな。人は神が、獣人はドラゴンが創りましたが、魔族は地上に満ちた神とドラゴンの力から自然に産まれた、純粋な力の結晶のような存在ですから、人も獣人も全く歯が立ちません。そこで、人と獣人は神に助けを求めたのですな」

「なるほど」

「願いを聴いた神は、最も脆弱な人族に加護を与え、ドラゴンもそれに倣って、獣人に強靭な肉体と、膨大な魔力を与えました。人と獣人はアザエルと戦い勝利しますが、魔族の力を恐れ、神に魔族を滅ぼすことを願うのです。暴虐の限りを尽くし、邪悪なものと成り果てた魔族も、神とドラゴンから産まれた子であり、慈悲深い神はその願いに是とは言えません」

 アウラ様なら、そうだろうなぁ。

「そこで、神はそれぞれの王に提案します」

 人の子はその脆弱さ故にすぐに死んでしまう。獣の王よ、地上の玉座は人の子へ譲り、そなたらは、玉座へ着く者の剣と盾となってはくれまいか。その代わり、人の子を守り続ける限り、永劫の繁栄を約束しよう。
 
 人の子よ、其方らは剣となり、盾となる者達を庇護し、その繁栄を助け続けるなら、玉座を与えよう。

 魔の王アザエル。私の哀れな子よ。地上の栄華を諦めるなら、地の底に最も大きな、領土を与えよう。地底に留まり、他の子らへ牙を剥かぬなら、終わらぬ栄華を約束しよう


「その提案を其々の王は受け入れ、アザエルは魔族を率いて地の底へ退き、人の王ラジートと獣人の王ヘルムントは、力を合わせ、神の降り立ち地、ヴィースに国を興し、偉大なエンシェントドラゴンの名に因んで、その名をクレイオスと定めたのですな」

 アウラ様も大変だったのね。

「とても分かり易かったです。でも、人と獣人は、昔から仲が良かったのでしょう?それがどうして差別に繋がるのでしょうか?」

「玉座を人に、獣人は剣と盾にですな。この時獣人を神がケモノと呼びましたからな」

「そんな揚げ足取りみたいな」

 呆れる私にパフォスさんもお茶を飲みながら、ご尤もと頷いています。

「最初は、差別など無かったようです。それがいつの頃からか、獣人は人に仕える卑しい者。と言う考え方が生まれ、ギデオン帝の治世の頃、爆発的に広まったのです」

「・・・ギデオン帝ですか」

「ギデオン帝の御代に、この世界はアウラ神の物であり、唯一絶対の神である。よって地上の主はアウラ神が産んだ人族である。獣人は人に仕える下僕にすぎない。と言う教えの宗教が広がったのです」

「でも創世神話には、お互い助け合いなさい、と書かれているんですよね?」

「そうです。ですが獣人族は能力の高さから、国の重要な役職に就いている人が多い。特に軍部に関しては、人族はなかなか出世できませんから、嫉み、恨み、やっかみ、などもあるのでしょう」

「だからって、そんなことを広めても良いことなんて無いのに」

「この国の神殿に仕える者は、人族が殆どです。人は神力を使いますからな。そして、ハッキリとは断言できません。あくまで噂ではありますが、件の宗教も、神殿が創世神話を曲解して広める為の、隠れ蓑なのではないかという話ですな」

 どうしましょう、まだ会った事もないのに、神殿の方達を嫌いになってしまいそうです。

「神に仕える方が、そんなことをして良いのですか?」

「あくまで噂ですからな。ただ、人は弱い生き物です。強者に対する恐怖心が、そうさせるのでは無いかと」

「弱い?」

「我々人は、獣人に比べて体は脆弱、魔法も使えません」

「えっ?でも、治癒魔法とか」

「厳密に言うと、人が使うのは魔力ではなく神力と言って、治癒や身体強化などの補助的なものしか使えません。しかし、獣人の魔法は、個人差はありますが、攻撃、治癒、強化、弱体化、全てを操ることができます。人族の中にも、稀に魔法を使える者も居りますが、それが次の世代に引き継がれることは無いのです」

「そんなに違うんですね・・・魔法と神力の他の違いは?」

「人が持つ神力は、神の御力を分けていただく力。獣人の魔法は、己の中を巡る魔力と、世界に満ちた気を、練り合わせて使う物だと言われております。神は慈愛そのもの、ドラゴンは神を護る眷族です。その特性が出たと言えるのでは無いでしょうか」

 この説明には納得です。

「特に閣下は、大変に御強いですからな。恐れられるのも致し方ないかと」

「そんなに強いんですか?」

「そうですなあ・・・閣下なら、この皇宮をあっという間に、瓦礫の山に変えらるでしょうし。本気を出したら、山の一つ二つ、簡単に吹き飛ばせるでしょうな」

「そんなに!?」

 ビックリです!!
 強そうとは思ってたけど
 普段の甘々アレクさんからは
 想像できません。

 たしかに、そんなに強い人がそばに居たら 
 時限爆弾を抱えてる気分になるのかも。
 だって、それって
 災害と一緒じゃないですか?
 
 でも普段は、甘々なんですよね。
 人って不思議。
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