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アレクサンドル・クロムウェル

討伐とお留守番 / ダンプティー

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「言ってくれれば、他のものを用意させたのに」
「でも、朝早くから、頑張って作ってくれてるのに、自分だけ違うものを、用意させるのも申し訳なくて・・・」
「使用人を気遣う気持ちは尊いが、それで体を壊したら、本末転倒だろう?君は気を使い過ぎだ」
「・・・日本人ですから」

 その理屈もよくわからない。
 ニホンジンだから、なんだと言うのだ。

 そこで、改めて、どんなものを食べていたのかを聞いてみたが、そんな物で本当に腹が膨れるのか?と言いたくなる様な物ばかりだった。食べる量も今用意されている物の三分の一より少なく、俺からしたら、子供のおやつより少ない。

 それに、何が驚きかと言ったら、主食が“コメ”と呼ばれる穀物で、こちらでは家畜のモークの餌に、利用されている穀物に似ていた事だ。

「モークの餌を食べるのか?」
「お米はすごく沢山種類があって、等級も有るんです。ランクが低いものは、あちらでも、“牛”と言う家畜の餌にしてましたよ?」

 “でも、高級和牛はコシヒカリを食べるって言ってたような”とブツブツ言っている。

 今の話を聞いた限り、レンがあちらで食していた物を、直ぐに用意するのは難しそうだ。

 さて、どうしたものか。

「・・・何か、好きな食べ物はあるか?」
「そうですねぇ。フルーツは好きです」
「フルーツ?」
「えッ?分かりません?甘い果実のことなんですけど」
「それなら分かる。すぐ用意させよう」

 侍従にアッポの実を持って来させると、飾り切りにされたそれを見て、レンは喜んでくれた。

「りんごだぁ!」
「りんご?これはアッポの実と言って、今の時期の定番だな」
「アッポ・・アウラ様、ネーミングセンス~」
 と何やら、また知らない単語が出てきたが、もう気にしても仕方がないな。

「ほら、口を開けて」

 あ~んと、開けたかわいい口に、アッポを入れてやると、レンの瞳が輝いた。

「うまいか?」
「美味しいです。りんごより酸味が強いけど、さっぱりしてます!」
「そうか、よかったな。もっと食べなさい」

 あ~ん モグモグ
 あ~ん シャクシャク

 ウロシュの様に、頬を膨らませて、一生懸命食べる番の、なんと愛しいことよ

 これだ!
 俺が夢見た給餌は
 これなんだ!!

 ゴン・・・ゴンゴン
 ゴエ~~

「・・・・・・・」
「あッ!ダンプティー」

 だから、感慨に耽らせろってッ!!

 ギョワ~~~
「まったく、タイミングの悪い」
 ガラス戸を開けて、俺の肩に留まったダンプティーから、レンに見えない様に、手紙を受け取る。

 食事中に、見たい物では無いからな。

 手紙を吐き出したダンプティーが、テーブルに飛んで行き、レンの前に留まった。

「ふふっ。昨日の子とは違うのね?やっぱり、ぶさかわ」
 とレンが頭を撫でてやると、ダンプティーが、アッポの乗った皿を嘴で叩いた。

「お腹すいたの?がんばったもんね?」
 とレンが、アッポを一切れ摘み・・・・
「はい。あ~ん」

 俺は一歩でテーブルに戻り、ダンプティーをガシッと鷲掴みにして、窓の外に全力で投げた。

クア~~
 空でダンプティーの羽が、太陽を反射して、キラリと光る。

「あッアレクさん?どうしました?」

 俺は額に浮かんだ汗を、手の甲で拭い、レンに向き直って、微笑んでみせた。

「あれは雑食だが、生の果物を食べると、腹を壊すからな」
「そうなんですね?気をつけます」

 ダンプティーは、本当はなんでも食う。
 魔鳥だから、腹も壊さない。

 だが、俺だって
 まだ “あ~ん”  して貰ってないのに。
 レンの初 “あ~ん”  は俺の物だ!!

「お手紙は、マークさんからですか?」
「あ?あぁ、そのようだ」

 知らせは、緊急増援要請だった。
「ウォーウルフの群れと、ガルーダ?!」
 しかもガルーダが3匹も?!

 有り得ない。
 ウォーウルフは北、ガルーダは西の砂漠が生息域だ、それにバーブ、あれは南。
 一種だけなら逸れはぐれで通るが、流石に三種は、有り得ない。

 拙いぞ。
 ワーバーンの渡りの時期では無いから、第4は対空戦の準備をしていない可能性がある。
マーク達は、移動速度重視だったから、最低限の装備しかない。

 急がないと。

 警護の近衛に、モーガンへの面会を申し込ませると、今は謁見の順番待ちだとの応えがあった。

 第4騎士団の団長のゲオルグは今アレナ砦だ。モーガンの謁見に、俺とゲオルグの代理の同席の申し込みを命じ、第4の副官のピッドにも、謁見に同席するよう使いを出させた。
 何事か起きたと察した近衛は、顔を引き締めて走り去った。

「レン。すまない。少し出る」
 手紙の事かと聞かれて、そうだと答えると、自分のことは気にせず “お仕事がんばって”  とにっこりされた。

 かわいい顔で “がんばって”
 なんて言われたら
 頑張るしかないな?

 しかし、休みのつもりで、騎士服も、礼服も自室に置いたままだ。
 一々着替えに戻るのも面倒だ。
 後で一揃い持ってくることにしよう。

「では、行ってくる」
 身を屈めて、レンの頬にリップ音を立ててキスをすると、その頬に朱が差した。

 道は遠いな。

 苦笑と共に体を起こそうとして、レンの腕が首に絡んだ。

 ムニッ?

 俺の右頬にレンの顔がくっついている。
 慌てて身を引いたレンは「行ってらっしゃい」と言って、両手で顔を隠してしまった。

「あ、あぁ。行ってくる」

 一瞬の出来事だが、あれはキスだよな?
 恥ずかしがり屋の、俺の番が自分からキスしてくれた。

 “Chu!”じゃなくて“ムニッ!”だったが
 キスはキスだ!!

 緩む口元を手で押さえ、自室に着替えに向かった。

 そんな俺を見て
「のわっ!!」
「ひいッ!!」
 と怯える者が続出したが、そんな事は、どうでもいい。

 ムニッ!! だって。
 あ~~!!
 俺、今、最高に、幸せだ!!



 
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