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アレクサンドル・クロムウェル

神託の愛し子 / 苦悩

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 ショックを受けているレンに気づかないのか、わざと気付かぬふりをしているのか、モーガンの態度は変わらず、レンは涙目でモーガンの話を聞いている。

 レンの涙目も可愛いな。

 涙目にしたのが、モーガンなのが癪に障るが、俺は別の意味で、鳴かせれば良いからな。

「本日、愛し子様に拝謁をば、願いましたのは、神託への感謝と、お詫びをお伝えしたかったからです」
「感謝とお詫びですか?」

 嫌な予感がした。
 モーガンは、あの話をするつもりなのか?

「この度は、大変有り難い神託を賜り、誠にありがとう御座います。愛し子様の神託により、魔物の発生に備え、また多くの民を救うことが出来ましょう」

 深く頭を下げるモーガンに、レンは自分は当然の事をしただけだから、頭を上げてくれと、逆に恐縮している。

「そして、私は昨日クロムウェル殿へ大変失礼な行いを致しました。そ・・」
「モーガン!!」

 モーガンの言葉を遮り、急に声を荒げた俺に、レンは驚いて、モーガンは真顔のままの顔を向けた。

「アレクさん?」
「・・・クロムウェル殿は、愛し子様に、何もお伝えしていないのか?」
「俺は、貴公の謝罪を受けた。それで終いだ」

「差し出がましい様だが、何も知らねば、ご自身で、身を守る事も出来ないのですぞ?」
 とモーガンが剣呑な目を俺に向けている。

「あの様な話し、レンが知る必要は無い!」
「真綿で包むくるむばかりが、守ることではあるまい!」

 モーガンの言うことは正論だ。

 だが、噂の話を聞いたら、聡明なレンは、皇弟である俺が、何故ここまで恐れられながらも、蔑まれるのかを、疑問に思うだろう。
 見た目だけが原因ではないと、気付くはずだ。

 いつか話さなければならない。

 俺が話さなくとも、いつか耳には入るだろう。それに、アウラ神に与えられた、あの加護で知るかもしれない。

 それでも、今は駄目だ。

 レンは“実感が湧かない”と言った。
 “心を育てたい”と、心が育ち切る前に、レンが知ったらどうなる?

 多くの貴族を粛清したと。

 実の兄の首を、この手で刎ねたのだと。

 血に塗れた手で触れるなと、言われたら俺は、どうすればいい?!

 嫌だ!!
 耐えられない!!


 睨み合う俺たちの間で、魔力がぶつかり合い、パチパチと小さな火花が散った。

 パンッパンッ!

「はい!そこまで」

 手の平を打ち合わせる音に振り向くと、そこには、凛とした立ち姿のレンがいた。

 レンは、一つため息を吐いて、ソファーに座り直した。

「モーガンさん続きをどうぞ。アレクさんは、少し大人しくしてて下さい」
「レン!」
「アレクさん?私はアレクさんの事を知りたいと言いましたよね?それに私が関係している事なら、聞くかどうかは、私が決めます」
「しかし」
 つと、レンが俺の手を取って、その甲を優しく叩いた。

「大事な事なら、自分でも考えなきゃダメです。私にとって、たいした事ない話なら、笑って忘れます。・・・もし酷い事なら、一緒に悩んでくれますか?」
「クロムウェル殿、愛し子様は聡明な方のようだ。隠して居ても、何れ耳に入るぞ」

 そう2人に言われて、反論することは出来なかった。

 モーガンは、今皇宮内で流れている、噂をレンに話た。

 冷酷な大公が、子供を攫い犯した。
 さらに皇帝を脅し、その子供を貴賓室に住まわせて、陵辱を続けている。

 自分と宰相が、噂の火消しを役命じられ、噂の出所として、すでに数名の名が上がって居る。愛し子と皇弟に対する不敬を働いた者達に、必ず処罰を与えると約束する。

 モーガンの話振りは淡々としていて、事実を過不足なく話しているのが分かる。

 話を聞いたレンは、痛みを耐える様に、きつく瞼を閉じ、次に開いた時には、銀の虹彩が光り、強い意志が宿って居るように見えた。

「分かりました。暫くこの部屋で大人しくしています」
「ご理解頂き、感謝致します」
「・・・さっきのナメクジ男の、無礼な態度のわけが分かりました」
「なめくじ?・・・アルケリスの事か?」
「ナメクジ分かりませんか?」

 レンからナメクジとは何ぞや、との説明を受けた。
「それは・・・スネイに似ているな」

レンはものの例えが上手い。

「その様ですね。それで、その“なめくじ男”がどんな無礼を?」

 俺は、アルケリス達と、その取り巻きの名前を教えて、一連のやり取りを語って聞かせた。

「プッ!・・・変態の、ドグサレ野郎・・・プップ・・・・ドゥワハハハ・・・!!!」

 ツボにハマったのか、ヒイヒイと腹を抱えて笑うモーガンに、レンは若干引いている。

 やっと笑いが収まる頃には、モーガンは笑いすぎて、涙を流していた。

「アレクさん。私そんなにおかしな事を言ったでしょうか?」
「いや?機転が効いてて、痛快だ」
「そうなんですか?お二人とも、笑いの沸点低すぎませんか?」
「“ふってん”が何かは知らんが、今の話を聞いて笑うのは、俺たちだけじゃないと思うぞ?」

 モーガンに目をやると、笑いすぎて声が出なくなったモーガンが、大きく頷いた。




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