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アレクサンドル・クロムウェル
神託の愛し子 / 観光ツアー?
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テーラーの到着を待つ間、ソファーで寛ぎながら、タマス平原の件で、昨夜の会議で決まったことや、レンの体調が戻るまで、休みを取った事等を話した。
「それで、申し訳ないが、事情があってしばらくの間、夜間は自室へ戻らねばならん」
「はぁ。そうなんですね?」
とレンの反応がいまいちだ。
一緒にいたいと、泣いて縋ってほしい。とまでは言わないが、もう少し寂しがってくれても、良いのではないか?
逆にホッとした様に見えるのは、気のせいだと思いたい。
「皇宮で、君に害を為すような、愚か者が居るとは思わないが、俺が部屋を離れる時は、念の為、結界と、感知魔法を掛けていく。何かあれば、俺には直ぐに分かるから、心配しなくていい」
「そっそうなんですね?」
と言ったレンの顔が、若干引き攣って見える。
安心させるつもりが、逆に不安にさせてしまったのか?
「君の就寝中は、部屋の前に近衛の不寝番が着く。なにか困ったことがあったら、近衛に声を掛ければ、俺を呼びに来るはずだ。だから安心していいぞ」
「不寝番も・・ですか・・・分かりました」
と、どうも表情が冴えない。
これは、レンは優しい人だから、自分の為に、寝ずの番をさせるのが、後ろめたいのかも知れないな。
俺の番は、本当に優しい人だ。
テーラーの準備ができたとの知らせに、俺はレンを片腕に抱いて、外宮へと向かった。
外宮へは時間がかかる、道すがらレンに皇宮について説明しながら歩いた。
皇宮は一つの街とも言えるだろう。
皇宮は、大きく四つの区画に分けられる。
皇帝の居城としての後宮。
他国の貴賓の滞在に利用され、皇家の親族が住まう館が、何棟か建つ、離宮。
高位貴族や、俺達高位武官の執務室や居室がある内宮。
外部の者の立ち入りが許された外宮。
この四つの区画を合わせて、皇宮と呼ぶ。
内宮は、皇帝の執務室や謁見の間。主要な大臣達の執務室と居室も有れば、実際に政務に携わっている、文官達が働く部署として使われている区画も有る。
それは、俺達武官も同じだが、これに加えて、各団毎の練武場と、エンラや馬の厩舎が用意されている。
要は、国の要となる者達が集う場が、内宮になる訳だ。
皇宮で働く、文官や侍従達には、外宮近くに寮として、別の建物が何棟か用意されていて、そこをどう呼ぶかは、今のところ曖昧だ。
今向かっている外宮は、主に皇宮との取引がある商人等が、立ち入りを許された場で、契約や交渉、売込みなどに利用され、文官や侍従が私物を購入したり、また受け取る場でもある。
高位貴族に接することの多い侍従達は、情報漏れを防ぐ為、皇宮からの外出が制限される。
その為、月に一度商人達が、流行の商品を持って集まり、侍従相手の商売をするのも、この外宮だ。
また外交に携わる文官が、他国の使者との面会に利用することも多い。
通常であれば、テーラーは採寸や仮縫い後の微調整など、より貴族と身近に接する必要があるため、内宮への立ち入りを許可される。
しかし今回の様に、大量の生地を持参した場合、警備の都合上、内宮への立ち入りは許されず、外宮を利用する事になる。
生地を詰めた箱の中に、間者や暗殺者が紛れ込まない、とは言い切れないからだ。
テーラーを待たせている外宮へは、貴賓室からかなり距離がある。
外宮までの距離は、街の端から端へ移動する様なものだ。その距離をレンの小さな体で歩けるとは、どうしても思えない。
レンは自分で歩いていくと言い、俺は、もっと自分の体を大切にしてほしい、と話しは平行線だ・・・。
「動かないのも健康に悪いですよ?ウォーキングは健康の第一歩です」
と言われる始末だ。
安静にするよう言われているから、と説得したが、なかなか折れてくれない。
結局
「君の靴がない」
「たったしかに」
やっと、俺が抱いて移動することに、納得してもらえた。
事実を言えば、衣とは別に、レンの履き物も俺が保管している。
ただ、ウィリアムに渡し忘れただけで、わざとでは無いが、それを教えるつもりは無い。
嘘は言ってない
あれは靴では無いし
ただ黙ってるだけだ
この国に、レンほど小柄な人は居ないから、全員が全員とは言わないが、街に出れば、伴侶や婚約者を抱えて歩く獣人が、結構いるのだが・・。
獣人にとって、番を抱いて歩くのは、常識なのだと、レンもその内分かってくれるだろう。
抱えられて歩くことを、最初は恥ずかしがっていたレンも、皇宮内の装飾や美術品が物珍しいのか、気になる物を見つけては、俺の袖をひいて
「あれは何?」と目をキラキラさせている。
その姿は愛らしく
心が浄化されるようだ。
レンが興味を示した物の、由来や美術品のテーマや作者の話など、子供の頃に教えられた事を、必死に思い出しながら説明した。
どうしても思い出せない物も幾つか有り。
こんな事なら、もっと真面目に座学の授業を受けるべきだった。と冷や汗が流れた。
「アレクさん、何でも知ってて凄い!ヨーロッパのツアー観光みたい!」
キャッキャと喜んで、楽しそうにするレンを見て、皇宮の所蔵品目録を、熟読しようと心に決めた。
そんな風に歩く俺達と、すれ違う者達は、俺の姿を見て慄き、次にレンの花の顔を見て、陶然となった。
皇宮を守る近衛は、見目の良いものが揃っている。
皇帝が、国の行事などに帯同させる近衛は、他国の貴賓の目に留まることも多く、行事に花を添えることが出来るからだ。
そんな美形を見慣れている者達を、一目で魅了するレンが、己の番かと思うと・・・。
そうだろう、そうだろう
俺の番は美しかろう?
と今の俺は鼻高々で、レンを見せびらかしたい気持ちだ。
だが、一方で、他の雄に見られたくない気持ちもあり、なんとも複雑な気分だ。
「それで、申し訳ないが、事情があってしばらくの間、夜間は自室へ戻らねばならん」
「はぁ。そうなんですね?」
とレンの反応がいまいちだ。
一緒にいたいと、泣いて縋ってほしい。とまでは言わないが、もう少し寂しがってくれても、良いのではないか?
逆にホッとした様に見えるのは、気のせいだと思いたい。
「皇宮で、君に害を為すような、愚か者が居るとは思わないが、俺が部屋を離れる時は、念の為、結界と、感知魔法を掛けていく。何かあれば、俺には直ぐに分かるから、心配しなくていい」
「そっそうなんですね?」
と言ったレンの顔が、若干引き攣って見える。
安心させるつもりが、逆に不安にさせてしまったのか?
「君の就寝中は、部屋の前に近衛の不寝番が着く。なにか困ったことがあったら、近衛に声を掛ければ、俺を呼びに来るはずだ。だから安心していいぞ」
「不寝番も・・ですか・・・分かりました」
と、どうも表情が冴えない。
これは、レンは優しい人だから、自分の為に、寝ずの番をさせるのが、後ろめたいのかも知れないな。
俺の番は、本当に優しい人だ。
テーラーの準備ができたとの知らせに、俺はレンを片腕に抱いて、外宮へと向かった。
外宮へは時間がかかる、道すがらレンに皇宮について説明しながら歩いた。
皇宮は一つの街とも言えるだろう。
皇宮は、大きく四つの区画に分けられる。
皇帝の居城としての後宮。
他国の貴賓の滞在に利用され、皇家の親族が住まう館が、何棟か建つ、離宮。
高位貴族や、俺達高位武官の執務室や居室がある内宮。
外部の者の立ち入りが許された外宮。
この四つの区画を合わせて、皇宮と呼ぶ。
内宮は、皇帝の執務室や謁見の間。主要な大臣達の執務室と居室も有れば、実際に政務に携わっている、文官達が働く部署として使われている区画も有る。
それは、俺達武官も同じだが、これに加えて、各団毎の練武場と、エンラや馬の厩舎が用意されている。
要は、国の要となる者達が集う場が、内宮になる訳だ。
皇宮で働く、文官や侍従達には、外宮近くに寮として、別の建物が何棟か用意されていて、そこをどう呼ぶかは、今のところ曖昧だ。
今向かっている外宮は、主に皇宮との取引がある商人等が、立ち入りを許された場で、契約や交渉、売込みなどに利用され、文官や侍従が私物を購入したり、また受け取る場でもある。
高位貴族に接することの多い侍従達は、情報漏れを防ぐ為、皇宮からの外出が制限される。
その為、月に一度商人達が、流行の商品を持って集まり、侍従相手の商売をするのも、この外宮だ。
また外交に携わる文官が、他国の使者との面会に利用することも多い。
通常であれば、テーラーは採寸や仮縫い後の微調整など、より貴族と身近に接する必要があるため、内宮への立ち入りを許可される。
しかし今回の様に、大量の生地を持参した場合、警備の都合上、内宮への立ち入りは許されず、外宮を利用する事になる。
生地を詰めた箱の中に、間者や暗殺者が紛れ込まない、とは言い切れないからだ。
テーラーを待たせている外宮へは、貴賓室からかなり距離がある。
外宮までの距離は、街の端から端へ移動する様なものだ。その距離をレンの小さな体で歩けるとは、どうしても思えない。
レンは自分で歩いていくと言い、俺は、もっと自分の体を大切にしてほしい、と話しは平行線だ・・・。
「動かないのも健康に悪いですよ?ウォーキングは健康の第一歩です」
と言われる始末だ。
安静にするよう言われているから、と説得したが、なかなか折れてくれない。
結局
「君の靴がない」
「たったしかに」
やっと、俺が抱いて移動することに、納得してもらえた。
事実を言えば、衣とは別に、レンの履き物も俺が保管している。
ただ、ウィリアムに渡し忘れただけで、わざとでは無いが、それを教えるつもりは無い。
嘘は言ってない
あれは靴では無いし
ただ黙ってるだけだ
この国に、レンほど小柄な人は居ないから、全員が全員とは言わないが、街に出れば、伴侶や婚約者を抱えて歩く獣人が、結構いるのだが・・。
獣人にとって、番を抱いて歩くのは、常識なのだと、レンもその内分かってくれるだろう。
抱えられて歩くことを、最初は恥ずかしがっていたレンも、皇宮内の装飾や美術品が物珍しいのか、気になる物を見つけては、俺の袖をひいて
「あれは何?」と目をキラキラさせている。
その姿は愛らしく
心が浄化されるようだ。
レンが興味を示した物の、由来や美術品のテーマや作者の話など、子供の頃に教えられた事を、必死に思い出しながら説明した。
どうしても思い出せない物も幾つか有り。
こんな事なら、もっと真面目に座学の授業を受けるべきだった。と冷や汗が流れた。
「アレクさん、何でも知ってて凄い!ヨーロッパのツアー観光みたい!」
キャッキャと喜んで、楽しそうにするレンを見て、皇宮の所蔵品目録を、熟読しようと心に決めた。
そんな風に歩く俺達と、すれ違う者達は、俺の姿を見て慄き、次にレンの花の顔を見て、陶然となった。
皇宮を守る近衛は、見目の良いものが揃っている。
皇帝が、国の行事などに帯同させる近衛は、他国の貴賓の目に留まることも多く、行事に花を添えることが出来るからだ。
そんな美形を見慣れている者達を、一目で魅了するレンが、己の番かと思うと・・・。
そうだろう、そうだろう
俺の番は美しかろう?
と今の俺は鼻高々で、レンを見せびらかしたい気持ちだ。
だが、一方で、他の雄に見られたくない気持ちもあり、なんとも複雑な気分だ。
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