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アレクサンドル・クロムウェル
神託の愛し子 / 休憩
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「魔物の大発生・・・それは・・誠でしょうか」
俺たちの仕事は、一度討伐に出たら、現場では想定外のことばかりだ。それでも、被害を抑えた上で、臨機応変に対応しなければならない。
だが、モーガンにとって、レンが授かった神託は、その範疇を超えていたようだ。
「神官の曖昧な神託より、信頼度は高い、と俺は見ている」
「余も同意見だ。しかし、その“すたんぴーど”と言うものが起きる、正確な、場所・日時・規模、については不明だ。よって、地下洞窟の場所と、実際の様子などを確かめねばならん」
皇帝の言を受けて、モーガンは大きく頷いた。
「タマスは、穀物輸送の中継地、アギアに近く、アギアの守りも堅めねばなりません」
「調査を最優先に、討伐・守備の準備は並行して、輸送・運搬の調整も必要だな。主要庁の大臣共は、大人しく控えているか?」
皇帝に問われ
「皆、陛下のお声掛をお待ちいたしております」と恭しくグリーンヒルは答えた。
皇帝同席の会議は、無駄に白熱し、終わりが見えない。
途中、レンが気になり、落ち着かない俺に気付いた皇帝は、一旦食事休憩を取ることを全員に命じた。
そこでモーガンが、レンへの拝謁を願い出た。
皇帝は俺に目を向け、好きにしろと肩を竦めて見せた為、本人に確認してみると答えた。
面倒だったのは、それを聞きつけた大臣達が我も我も、と寄って来たことだ。
訳の分からん香水と、加齢臭に囲まれても、嬉しくも何ともないし、獣人の敏感な鼻を持つ俺に、この臭いは拷問に近い。
ジジイの臭いに辟易し、レン会いたさにジリジリしながら、“愛し子は体調を崩している故、一度には無理だ。パフォスと相談し、体調を見ながら、随時”と言って、ジジイ共を黙らせた。
配膳係を1人捕まえ、俺の分と追加の軽食を持たせて、貴賓室に向かった。
部屋の前で、怯える配膳係を追い返し、愛しい番の待つ寝室のドアに、ウキウキしながらノックすると、中から「はい。どうぞ」と鈴を振るような声が聞こえた。
開いたドアの先に、重ねたクッションを背もたれにして、膝を立て、ちんまりと座る番が居た。
「お帰りなさい」
笑顔で出迎えてくれる、番がかわいい。
ジジイの加齢臭で、疲弊した心が癒される。
「寝てなくて良いのか?」
「目が冴えちゃって」と笑う番の手をとり、指先に唇を寄せる。
「へぅ!」と息を呑んだレンの頬が赤い。
異界では、仕事をしていたと言っていたが、こんなに純情で、大丈夫だったのだろうか、と心配になる。
「食事を持って来た。食べられるか?」
「少しなら」との返事に、レンを抱き上げて、ソファーへ移動する。
まだ躊躇いを見せるものの、獣人の性と受け入れてくれたのか、少し遅めの夕食では、楽しい給餌の時間を過ごすことが出来た。
「レン。第3騎士団、団長のモーガンが、君に会いたいと、言っているのだが」
「モーガンさん?」
誰だろう、と言いた気なレンに、タマス平原の管轄が、第3だと説明すると、「じゃあ、明日でいいですか?」と快諾してくれた。
食事を終え、膝の上に抱いたレンの香りを嗅いでいると、ジジイの臭いに犯された肺が、浄化されていくようだ。
「そう言えば、1人で何をしていたんだ?」
「ふふふ・・・内緒ですよ」と言って、レンは人差し指を唇に当てた。
あ~!!
かわいい!!
もうあの会議に戻りたくない!!
内心の叫びを押し隠して、レンには真面目な顔をして見せる。
「ああ、誰にも言わない」
「こちらの世界の、お勉強をしていました」
勉強?
1人で?
どうやって?
「実は、アウラ様の加護の一つなんですが、ここに」と顔から、3、40チル離れたところを指差した。
「ステータス画面と言うのが浮かんでまして、これは私にしか見えないのですが、こちらの、世界のいろいろな情報が、見られるようになっているんです」
「それは・・・凄いな」
「ただ・・・」とレンはしょんぼりした。
「どうした?」
「スタンピードの事で、何か力になれないかなって、色々調べてみたんですけど、土地の名前の由来とか、広さとか、そういう基本的な情報しか見つけられなくて」
そう言って肩を落とすレンに、俺は驚いてしまった。
レンの言う“すてーたすがめん”と言うもので、基本的な情報を得られる事自体、すごい事なのだが。
ほんの数日前まで、縁もゆかりも無かったこの世界で、目覚めて一日も経っていないと言うのに、俺たちの力になりたいと言ってくれる、その心根の優しさに驚いた。
神殿の奴等は、曖昧な神託を、有難がれと言わんばかりに丸投げし、後は勝手にしろと、放置して来た。
“神の愛し子”
神に愛される人とは、正にレンのような人物の事を言うのだろう。
感動に震える胸を抑え、会議はまだ時間が掛かるが、何か必要な物は有るか。と聞くと
「お風呂に入りたいです。・・・あと着替えも」との答えに。
“念願の風呂の世話が出来る”
と喜んだ俺は、「では、今から入れてやろう」と言って、レンを抱き上げようと、細い手首をとった直後、気がついたら、天井を見上げていた。
なんだ?これは
どうして、俺はひっくり返ってるんだ?
そんな俺を、腰に手を当てたレンが、怒った顔で見下ろしている。
「アレクさん?私の話覚えてますか?裸は無闇に人に見せてはいけないって、言いましたよね?」
「いや・・・だが・・伴侶は見て良いと・・」
「番だけど、婚約したばかりですよ?今は、まだダメです」
「だが、1人では」
「見た目はこんなですけど、私は大人です。1人で入れます。お風呂の使い方と、着替えをどうするのかだけ、教えてください。」
「いや・・・しかし」
「アレクさん、まだお仕事が残ってるんですよね?」
嗚呼、そうだった。
また、あのジジイ共の所に戻るのか。
嫌だ
行きたくない。
俺たちの仕事は、一度討伐に出たら、現場では想定外のことばかりだ。それでも、被害を抑えた上で、臨機応変に対応しなければならない。
だが、モーガンにとって、レンが授かった神託は、その範疇を超えていたようだ。
「神官の曖昧な神託より、信頼度は高い、と俺は見ている」
「余も同意見だ。しかし、その“すたんぴーど”と言うものが起きる、正確な、場所・日時・規模、については不明だ。よって、地下洞窟の場所と、実際の様子などを確かめねばならん」
皇帝の言を受けて、モーガンは大きく頷いた。
「タマスは、穀物輸送の中継地、アギアに近く、アギアの守りも堅めねばなりません」
「調査を最優先に、討伐・守備の準備は並行して、輸送・運搬の調整も必要だな。主要庁の大臣共は、大人しく控えているか?」
皇帝に問われ
「皆、陛下のお声掛をお待ちいたしております」と恭しくグリーンヒルは答えた。
皇帝同席の会議は、無駄に白熱し、終わりが見えない。
途中、レンが気になり、落ち着かない俺に気付いた皇帝は、一旦食事休憩を取ることを全員に命じた。
そこでモーガンが、レンへの拝謁を願い出た。
皇帝は俺に目を向け、好きにしろと肩を竦めて見せた為、本人に確認してみると答えた。
面倒だったのは、それを聞きつけた大臣達が我も我も、と寄って来たことだ。
訳の分からん香水と、加齢臭に囲まれても、嬉しくも何ともないし、獣人の敏感な鼻を持つ俺に、この臭いは拷問に近い。
ジジイの臭いに辟易し、レン会いたさにジリジリしながら、“愛し子は体調を崩している故、一度には無理だ。パフォスと相談し、体調を見ながら、随時”と言って、ジジイ共を黙らせた。
配膳係を1人捕まえ、俺の分と追加の軽食を持たせて、貴賓室に向かった。
部屋の前で、怯える配膳係を追い返し、愛しい番の待つ寝室のドアに、ウキウキしながらノックすると、中から「はい。どうぞ」と鈴を振るような声が聞こえた。
開いたドアの先に、重ねたクッションを背もたれにして、膝を立て、ちんまりと座る番が居た。
「お帰りなさい」
笑顔で出迎えてくれる、番がかわいい。
ジジイの加齢臭で、疲弊した心が癒される。
「寝てなくて良いのか?」
「目が冴えちゃって」と笑う番の手をとり、指先に唇を寄せる。
「へぅ!」と息を呑んだレンの頬が赤い。
異界では、仕事をしていたと言っていたが、こんなに純情で、大丈夫だったのだろうか、と心配になる。
「食事を持って来た。食べられるか?」
「少しなら」との返事に、レンを抱き上げて、ソファーへ移動する。
まだ躊躇いを見せるものの、獣人の性と受け入れてくれたのか、少し遅めの夕食では、楽しい給餌の時間を過ごすことが出来た。
「レン。第3騎士団、団長のモーガンが、君に会いたいと、言っているのだが」
「モーガンさん?」
誰だろう、と言いた気なレンに、タマス平原の管轄が、第3だと説明すると、「じゃあ、明日でいいですか?」と快諾してくれた。
食事を終え、膝の上に抱いたレンの香りを嗅いでいると、ジジイの臭いに犯された肺が、浄化されていくようだ。
「そう言えば、1人で何をしていたんだ?」
「ふふふ・・・内緒ですよ」と言って、レンは人差し指を唇に当てた。
あ~!!
かわいい!!
もうあの会議に戻りたくない!!
内心の叫びを押し隠して、レンには真面目な顔をして見せる。
「ああ、誰にも言わない」
「こちらの世界の、お勉強をしていました」
勉強?
1人で?
どうやって?
「実は、アウラ様の加護の一つなんですが、ここに」と顔から、3、40チル離れたところを指差した。
「ステータス画面と言うのが浮かんでまして、これは私にしか見えないのですが、こちらの、世界のいろいろな情報が、見られるようになっているんです」
「それは・・・凄いな」
「ただ・・・」とレンはしょんぼりした。
「どうした?」
「スタンピードの事で、何か力になれないかなって、色々調べてみたんですけど、土地の名前の由来とか、広さとか、そういう基本的な情報しか見つけられなくて」
そう言って肩を落とすレンに、俺は驚いてしまった。
レンの言う“すてーたすがめん”と言うもので、基本的な情報を得られる事自体、すごい事なのだが。
ほんの数日前まで、縁もゆかりも無かったこの世界で、目覚めて一日も経っていないと言うのに、俺たちの力になりたいと言ってくれる、その心根の優しさに驚いた。
神殿の奴等は、曖昧な神託を、有難がれと言わんばかりに丸投げし、後は勝手にしろと、放置して来た。
“神の愛し子”
神に愛される人とは、正にレンのような人物の事を言うのだろう。
感動に震える胸を抑え、会議はまだ時間が掛かるが、何か必要な物は有るか。と聞くと
「お風呂に入りたいです。・・・あと着替えも」との答えに。
“念願の風呂の世話が出来る”
と喜んだ俺は、「では、今から入れてやろう」と言って、レンを抱き上げようと、細い手首をとった直後、気がついたら、天井を見上げていた。
なんだ?これは
どうして、俺はひっくり返ってるんだ?
そんな俺を、腰に手を当てたレンが、怒った顔で見下ろしている。
「アレクさん?私の話覚えてますか?裸は無闇に人に見せてはいけないって、言いましたよね?」
「いや・・・だが・・伴侶は見て良いと・・」
「番だけど、婚約したばかりですよ?今は、まだダメです」
「だが、1人では」
「見た目はこんなですけど、私は大人です。1人で入れます。お風呂の使い方と、着替えをどうするのかだけ、教えてください。」
「いや・・・しかし」
「アレクさん、まだお仕事が残ってるんですよね?」
嗚呼、そうだった。
また、あのジジイ共の所に戻るのか。
嫌だ
行きたくない。
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