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アレクサンドル・クロムウェル

神託の愛し子 /仲直りと美の基準

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 レンが寝室に篭って、二刻近くになる。
 このまま許して貰えなかったら、と思うと
 体が地面にめり込みそうな程、気が重い

 暫く今後のことを話していたウィリアムも、いつまでもレンが出てこない事に、気の毒そうな視線を向けて、「がんばって」と肩を叩いて、執務に戻っていった。

 テーブルの上に置かれた、2枚の紙を見つめて、何度目かわからない溜息が漏れる。

 グリーンヒルが置いていった、婚約申請書と、その許可証。この2枚にレンは、サインをしてくれるだろうか。

 いや、すぐにサインをしてくれなくとも、レンには俺の婚約紋を、刻んである。少なくとも、他の奴等への、牽制にはなる筈だ。

 それにレンは、聡明で優しい人だ、俺がきちんと話しをすれば、必ず分かってくれるだろう。

 本当にそうか?
 俺はレンの優しさに
 甘えているだけではないのか?

「はあ・・・」
 マークなら、こんな時、もっと上手く対処できるのだろうな、情けないが、恋愛初心者の俺では、番の心を掴むことすら難しい。

 “カチャ”
 寝室の鍵が開く音に、俺は飛び起きた。
扉の影から、そっとこちらを覗き込む、番の姿に涙が出そうだ。

「レン?」
「あっ、アレクさん?ずっと待っててくれたんですか?」
「君がいる所が、俺の居場所だ。他にどこにいけと?」
「ヴッ・・・・そう・・なんですね?」

 レンは心臓の上に手を当てて
「アウラ様、私、本当に慣れるでしょうか?」
 と祈るような小声を出した。

 やはり、レンは神託や祈りとは別に、神と話すことが出来るのかもしれない。

「レンこちらで、少し話をしよう」
 レンは素直に頷いて「私も大切なお話があるんです」と歩いてきた。

 だが、レンがソファーの向かい側に、行こうとしているのを察知した俺は、慌てて腕を伸ばして、俺の膝の上に抱き上げた。

「またですか?」
「嫌か?」
 嫌ではないけど、恥ずかしい。と答える番に「では、慣れてくれ」と懇願した。
「これは獣人のさがだ。愛しい番とは、片時も離れたくない」
 するとレンは「精進します」と頬を染めた。

 番のつむじに顎を乗せて、芳しい香りを胸一杯に吸い込んだ。

 幸せだ。

 機嫌はもう治ったのかと聞くと
 説明を省いたアウラに怒っただけで
 俺の事は怒ってないと、言ってくれた。

「心配かけてごめんなさい」
「いや、俺の方こそデリカシーがたりなかっった」

 お互い謝りあって、仲直りができた。
 肩の荷が降りた気分だ。
 よかった。やっと安心できる。

「お着替えの事は、看病の一環だから仕方がないって、分かってるんです。でも・・・」

 言い難い事なのか、レンは両手の指を絡ませたり、離したりを繰り返している。

「でも?」
「・・・私と、アレクさん達男の人は、体が違うので、胸とか、その・・下の方・・・とかは、旦那様にしか見せてはいけないと、祖母に言われていまして」
「そうか・・・」

 レンの祖母は、貞操観念が強いのだな。
 こちらの世界も、ゆるい訳ではない。
 だが、旦那になら見せて良いのなら
 俺は見てもいいって事だな?

「それと、抱っことか色々、恋愛的なものには、あまり慣れていないので、出来ればお手柔らかにお願いしたいです」
「では、早く馴れるように、うんと甘やかしてあげよう」と俺がニヤリと笑うと。

 レンは“ウッ”と息を止め「イケメンって怖い」とこぼした。

「そのイケメン、とはなんだ?」
 俺の問いに、レンは「それ聞きます?」と慄いた顔をする。

 何か、悪い意味なのだろうか。
 
「え?や・・あの違いますよ?変な意味じゃなくて・・・」
 では、どんな意味かと問うと、レンはプイッとそっぽを向いた。

「レン?」
「・・・イケメンとは、カッコいいって意味です。・・・・わッ私は。アレクさんがカッコ良すぎて困ってるんです!!」

 拳を握りしめて、一息で言い切ったレンは、顔を赤くして、肩で息をしている。

 その姿は、とても愛らしい。
 愛らしいのだが。

 俺がかっこいい?

「君は、何を言ってるんだ?」
 俺の言葉に、レンは不思議そうな顔で振り向いた。

「何って・・・アレクさんのお顔がとても綺麗で、お姿も素敵だって話ですよ?」
「・・・君は目が悪いのか?」
「いえ。目はいい方ですけど」
「「うん?」」

 俺たち2人は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、お互いを見つめあった。

「あ~。一旦整理しよう。君は神殿でも、俺のことを綺麗だと言ったな?そして、今もかっこいいと思ってる」

 あってるか?との問いに、レンは頬を染めて頷いた。

「レンがそう思ってくれているのは、嬉しい。とても嬉しいんだが・・・俺は醜男ぶおとこで有名でな?」

 レンは大きく目を見開いて、ピキリと固まって、次にヘニャリと笑った。

「うそだあ。もう、アレクさんてば、またまた~」と冗談だと思ったのか、顔の前で手を振りながら笑っている。

「いや、自分でいうのも情けない話だが、本当の事だぞ?」と言うと、笑いを引っ込めたレンは、困惑で眉を顰めた。

「なんで?」

 こんなにかっこいいのに?と首を捻る姿は、嘘をついたり、俺に気を遣っているようには見えない。

「こんな醜男の俺を、君が特に嫌がるでもなく、受け入れてくれて、とても嬉しい。が驚いてもいる。と言うのが本音だな」
「すみません。ちょっと理解できないです」

 頭痛を堪えるように、こめかみを押さえる様子は、本当に理解できないからだろう。

「多分認識の差だな。だが君は、文句なく美しいぞ」
「??・・・私は平凡な地味顔ですよ?」
「君が、地味で平凡?それはない」

 再び、お互いを見つめる視線は、困惑の一言だ。

「ちょっと待ってください。こちらの美の基準って、どうなってるんですか?」

 美の基準と言われて、思い浮かんだのは、マークだった。
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