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アレクサンドル・クロムウェル

紫藤 蓮/シトウ・レン 出逢い・回想2

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「少し頭がクラクラして、気持ち悪いです」
「そうか・・・それは魔力切れの症状だな。それに、少し声も掠れているようだ、水は飲めるか?」

 大丈夫だと思う、と答えると。
 男の方は、私の体を抱き起こして、水を入れたカップを渡してくれました。

 ですが、うまく手に力が入らまくて、カップを持つことが出来ません。

 すると男の方は、私の後ろに回って、自分の体を背凭れにして、水を飲むのを手伝ってくれました。

 いただいたお水は、ペットボトルの天然水よりも、ずっと甘くて美味しくて、思わず一気飲みしてしまいました。

 すると、すかさず差し出された二杯目のお水を受け取って、口を付けたところで、私はハタ!と気付いてしまいました。

 私・今・イケメンと。
 0距離・で・密着してる。

 一度気付いてしまったら、後はもう、恥ずかしさで指が震えてきます。

 凭れた背中の暖かさや
 背後から回された腕は、一方は腰を
 もう一方の手は、水を飲みやすい様に
 カップを支えてくれているのですが。

 この構図は、恋人のそれではないですか?

 分かってます。
 これは介護です。
 親切心なのだと、分かっているのです!

 でも、男らしい筋張った手とか、0距離で耳にかかる吐息とか、意識するなと言う方が、無理なのでは?!

 羞恥で死ねる!!とは
 こう言うことでしょうかっ?!

 お水は、まだ飲み足りない気もしますが
 この体勢はもう、無理っ!!

 一旦距離を取らなければ、心臓発作で死にそうです。

 親切にしてくださる方に、煩悩を抱くなど許されません。

 だって、私は痴女じゃないッ!!
 ビッチチートの加護はない!!
               たぶん。


 身体中の煩悩を吐き出すように、息を吐いて心を落ち着かせます。

「もう充分です、ありがとう」
 と伝えたら、イケメンさんの目の端が、微かに笑いの形に緩みました。

 その後、ベットに戻してくれる手つきも優しくて・・・。

 1人きりだったら、枕に顔を埋めて、大声で叫びたい!

 本気で調子が悪いので、悪化しそうだから、やらないですけどね?

 そこでふと気付いたのですが。
 あれだけ深く刺されたのに、動くことも出来るし、痛みもありません。

 毛布の下で、刺された箇所を触ってみると、熱を持って、少しだけ歪に盛り上がっている様ですが、傷口はすっかり塞がっていました。

 この世界の、治癒って凄い。

 感心してしまいます。

 でも、”元の姿で“とは言いましたが、アウラ様も、そこは、治してくれてもよかったんじゃ・・・?

 そんな益体も無いことを考えながら、モダモダしていると。

「俺は、アレクサンドル。クロムウェル。君の名を聞いてもいいか?」

 アレクサンドル。クロムウェル。
なんだか、とっても強そうな、お名前です。

 それにしても、お名前も、容姿も、西洋風なのに、日本語上手すぎませんか?

 いや、よく考えると、口の動きが、日本語と合ってないような・・・・。

 これは、ラノベで定番、最早様式美とさえ言える、自動翻訳機能チートなのでは?

「日本語じゃ無いのかな?これもチート?」
と思わず口から、言葉が出てしまいました。

「名を教えてはくれないのか?」
 困った様な声に、目を向けると。

 イケメンが小首をかしげるとか・・・。
 あざとすぎるっ!!
 心臓バクバクです。
 
 この方は、私の息の根を止めに来てるんですか?!

 内心が煩悩まみれなのが、バレたくなくて

「あッごめんなさい。ちょっと他のこと考えてて」

 っとか言って、惚けてしまいました。
 誤魔化されてくれたでしょうか?

 私が名乗ると、クロムウェルさんは、私の名前を褒めてくれて、自分の事は“アレク”と呼んで欲しいと、言われました。

 確かに本名だと、長くて呼びにくそうです。

言われた通り
「アレクさん?」
と呼ぶと、嬉しそうに眼が細められました。

 イケメンボンバー炸裂!

 やっぱり、この方
 私の息の根を止めに来ています。

 イケメン・ヒットマンです!

介抱するのか、息の根を止めるのか
どっちかにして貰えないでしょうか?
 

私の体調を気遣ってくれて、詳しい話は後にしようと、アレクさんは言って、ゆっくり休めと、髪を撫でてくれています。

 この方は、これが平常運転?
 無自覚っぽいですけど?

 私は、25年の人生で初めて

 無自覚なイケメンほど
 タチの悪い生き物はいない

 と知りました。

 うつらうつらとする私に、アレクさんが
 何故、自分を天使と呼んだのか?
 と聞いてきました。

 寝落ち寸前の私は、“綺麗だったから”と答えたつもりですが、ちゃんと聞こえたでしょうか?

 そのまま深く眠ってしまった私が、次に目覚めたのは

この部屋でした。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


 アレクさんとのファーストコンタクトを、思い出しても、心臓がバクバクだったことばかりです。

 私。これから一生、アレクさんに振り回されそう。

 でも、そうだとしても。
 全然、嫌な気持ちにならないのが、不思議です。
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