8 / 524
アレクサンドル・クロムウェル
5
しおりを挟む
「ねぇ~おねがい!もう許して?」
ギャイギャイと姦しいことこの上ない。
ウィリアムはお調子者でアホだが、バカではない。
皇帝としての役割を理解もしているし、行動もできる。
なのでギリギリまで神託が降りたことを伏せていたゼノンに対し叱責を与えたが、あまり効果はなかったそうだ。
のらりくらりと躱せれて、出かかった罵声を堪えるのに必死だったらしい。
「ほんと、ここまで出かかったからね!」
と掌で顎先を叩いてみせた。
「愛し子が招来されるなら場所は"大神殿以外ない~"とか言っちゃってさぁ。神殿内のミーネの森に関係ありそうなとこ調べてましたとかぁ、あんな言い訳にもならない言い訳、初めて聞いたよ!」
我慢し過ぎて頭痛くなっちゃった。
そう言って肩を落とされれば、これ以上は可哀想な気もしてくる。
本当は揶揄い半分、八当たり半分だしな。
「僕もアレクみたいに顔が怖ければ、舐められなくて済むのになぁ」
「おい!」
一言多い。可哀想だと思ったのは気のせいだな。
「陛下、そう言えば最近、鍛錬に参加してませんでしたよね?」
「あっそうだね~。でも君の地獄の鍛錬は僕には無理かなぁ」
目を泳がせるくらいなら、余計なことは言うなよ。
「まぁいい。それで?大前提だが、愛し子は本当に来るのか?」
「えっ?」
何を驚く
「えっと・・・逆に聞くけど、なんで疑ってんの?」
「俺は愛し子の招来なんて、御伽話だと思っている」
「ハイ?」
「650年前もそれ以前も、災害や飢饉、所謂国難があったのは本当だろう。誰か有能な者が改革もし、技術を発展させもしたんだろうさ。だがそれは身を粉にして働いた誰かであって、愛し子の奇跡は眉唾物、神殿の捏造だと俺は考えている」
「うわー、何それ。疑り深いなぁ。アレクに夢とかロマンとかないの?」
「俺は騎士なんでな、夢やロマンでは生き残れない」
なぜ憐れんだ様な目で見る
「騎士道だって、充分ロマンだよ?」
「それで?来るのか?」
「そりゃあ来るよ!?来るに決まってるじゃない!!」
何故こんなにもハッキリ断言できるのか、不思議でならない。
「650年前にいらした"ヨシタカ様"の記述もそれ以前の愛し子の記録も色々残ってるからね」
「そう なのか?」
「あれ?知らないの?・・・・まぁ君はあれだよね。剣とか魔法の修行ばっかりで、皇宮の禁書室になんて行かないものね」
「いい機会だから、一度行っておいでよ。ヨシタカ様より前の愛し子の記録もあるしさ。心配しなくても好きな時に許可は出してあげるよ?」
だから、憐れむ様な目はやめろ
「いい?話を戻すけど。ヨシタカ様は確かにいらしたし、この国の為に多くの事をしてくださった。これは細かな記録があるから間違いない」
「了解した」
コイツがここまで言うなら、そうなんだろう。
「細かい内容は覚えてないけど、ヨシタカ様がいらした時も神託はあったんだ。この時、神託が示し、ヨシタカ様が現れたのはボルザーグ村の小さな神殿…ていうより祈祷所かな?そこの裏庭にある、これまた小さな泉の中。白蓮の花の中から現れたそうだよ」
「大神殿ではないんだな?」
「そう!そこがキモなんだよね。兎に角神官達ってさぁ、権威~とか威光っ!とか大好きじゃない?」
そうだなと頷くとウィリアムもウンウンと首を縦に振った。
「だから、ど田舎の神殿とも呼べない様な、小ちゃな祈祷所に愛し子が現れましたぁ!なんて言いたくなかったんだろうねぇ」
「なるほどな。今回も同じか?」
だろうね とウィリアムは小さな溜息を吐いた。
「アレクの事疑り深いとか言っちゃったけど、実際、巷に溢れてる愛し子の伝説なんて神殿の捏造とか喧伝が殆どなんだよね」
「そうなのか?」
「うん。中には本当にあった話にちょびっと尾鰭がついたかなぁってやつもあるけどね」
意外ではないが、神殿の奴らのやる事は進歩がないな。
アガスもそうだが、神官になるのに学習能力は必要ないらしい。
「ほんと、やになっちゃうよね」
とウィリアムは顔の横で手をヒラヒラと振ってみせた。
「因みに皇宮にある記録は、ほぼ真実だと思う」
「ほぼ?全てではないのか?」
「そりゃあそうさ。何かを書き留める時に自分の主観を入れないのは難しいよ?筆者の見た真実とヨシタカ様が見た真実が同じだとは限らないでしょ?」
「それは・・・そうだな」
コイツは偶に、物事の真理を突いたようなことを言う。
無意識なんだろうが、皇帝であるが故の洞察なのだろうな。
「あとアレクはね、愛し子がいらした後の参考になるから、絶対目を通した方がいい」
ふむ と考えていると、マークが遠慮がちに声をかけてきた。
「あの・・・禁書に載っている内容を、私達が聞いて良いのでしょうか?」
これにウィリアムはカラカラと笑って答えた。
「全然平気!神殿に都合が悪いだけで、僕たちには関係ないし、色々面倒くさいからしまってあるだけだよ」
神官て、バカだよねぇと笑うウィリアムにマークは「あぁそうなんですね」と気の抜けた返事を返した。
「まぁ、そう言うことだから気にしないで」
コイツのこういう重みの無い所が残念でならない。
これに付き合うグリーンヒルの苦労が思い遣られる。
宰相殿には、後で誰かに胃薬でも届けさせるか。
ギャイギャイと姦しいことこの上ない。
ウィリアムはお調子者でアホだが、バカではない。
皇帝としての役割を理解もしているし、行動もできる。
なのでギリギリまで神託が降りたことを伏せていたゼノンに対し叱責を与えたが、あまり効果はなかったそうだ。
のらりくらりと躱せれて、出かかった罵声を堪えるのに必死だったらしい。
「ほんと、ここまで出かかったからね!」
と掌で顎先を叩いてみせた。
「愛し子が招来されるなら場所は"大神殿以外ない~"とか言っちゃってさぁ。神殿内のミーネの森に関係ありそうなとこ調べてましたとかぁ、あんな言い訳にもならない言い訳、初めて聞いたよ!」
我慢し過ぎて頭痛くなっちゃった。
そう言って肩を落とされれば、これ以上は可哀想な気もしてくる。
本当は揶揄い半分、八当たり半分だしな。
「僕もアレクみたいに顔が怖ければ、舐められなくて済むのになぁ」
「おい!」
一言多い。可哀想だと思ったのは気のせいだな。
「陛下、そう言えば最近、鍛錬に参加してませんでしたよね?」
「あっそうだね~。でも君の地獄の鍛錬は僕には無理かなぁ」
目を泳がせるくらいなら、余計なことは言うなよ。
「まぁいい。それで?大前提だが、愛し子は本当に来るのか?」
「えっ?」
何を驚く
「えっと・・・逆に聞くけど、なんで疑ってんの?」
「俺は愛し子の招来なんて、御伽話だと思っている」
「ハイ?」
「650年前もそれ以前も、災害や飢饉、所謂国難があったのは本当だろう。誰か有能な者が改革もし、技術を発展させもしたんだろうさ。だがそれは身を粉にして働いた誰かであって、愛し子の奇跡は眉唾物、神殿の捏造だと俺は考えている」
「うわー、何それ。疑り深いなぁ。アレクに夢とかロマンとかないの?」
「俺は騎士なんでな、夢やロマンでは生き残れない」
なぜ憐れんだ様な目で見る
「騎士道だって、充分ロマンだよ?」
「それで?来るのか?」
「そりゃあ来るよ!?来るに決まってるじゃない!!」
何故こんなにもハッキリ断言できるのか、不思議でならない。
「650年前にいらした"ヨシタカ様"の記述もそれ以前の愛し子の記録も色々残ってるからね」
「そう なのか?」
「あれ?知らないの?・・・・まぁ君はあれだよね。剣とか魔法の修行ばっかりで、皇宮の禁書室になんて行かないものね」
「いい機会だから、一度行っておいでよ。ヨシタカ様より前の愛し子の記録もあるしさ。心配しなくても好きな時に許可は出してあげるよ?」
だから、憐れむ様な目はやめろ
「いい?話を戻すけど。ヨシタカ様は確かにいらしたし、この国の為に多くの事をしてくださった。これは細かな記録があるから間違いない」
「了解した」
コイツがここまで言うなら、そうなんだろう。
「細かい内容は覚えてないけど、ヨシタカ様がいらした時も神託はあったんだ。この時、神託が示し、ヨシタカ様が現れたのはボルザーグ村の小さな神殿…ていうより祈祷所かな?そこの裏庭にある、これまた小さな泉の中。白蓮の花の中から現れたそうだよ」
「大神殿ではないんだな?」
「そう!そこがキモなんだよね。兎に角神官達ってさぁ、権威~とか威光っ!とか大好きじゃない?」
そうだなと頷くとウィリアムもウンウンと首を縦に振った。
「だから、ど田舎の神殿とも呼べない様な、小ちゃな祈祷所に愛し子が現れましたぁ!なんて言いたくなかったんだろうねぇ」
「なるほどな。今回も同じか?」
だろうね とウィリアムは小さな溜息を吐いた。
「アレクの事疑り深いとか言っちゃったけど、実際、巷に溢れてる愛し子の伝説なんて神殿の捏造とか喧伝が殆どなんだよね」
「そうなのか?」
「うん。中には本当にあった話にちょびっと尾鰭がついたかなぁってやつもあるけどね」
意外ではないが、神殿の奴らのやる事は進歩がないな。
アガスもそうだが、神官になるのに学習能力は必要ないらしい。
「ほんと、やになっちゃうよね」
とウィリアムは顔の横で手をヒラヒラと振ってみせた。
「因みに皇宮にある記録は、ほぼ真実だと思う」
「ほぼ?全てではないのか?」
「そりゃあそうさ。何かを書き留める時に自分の主観を入れないのは難しいよ?筆者の見た真実とヨシタカ様が見た真実が同じだとは限らないでしょ?」
「それは・・・そうだな」
コイツは偶に、物事の真理を突いたようなことを言う。
無意識なんだろうが、皇帝であるが故の洞察なのだろうな。
「あとアレクはね、愛し子がいらした後の参考になるから、絶対目を通した方がいい」
ふむ と考えていると、マークが遠慮がちに声をかけてきた。
「あの・・・禁書に載っている内容を、私達が聞いて良いのでしょうか?」
これにウィリアムはカラカラと笑って答えた。
「全然平気!神殿に都合が悪いだけで、僕たちには関係ないし、色々面倒くさいからしまってあるだけだよ」
神官て、バカだよねぇと笑うウィリアムにマークは「あぁそうなんですね」と気の抜けた返事を返した。
「まぁ、そう言うことだから気にしないで」
コイツのこういう重みの無い所が残念でならない。
これに付き合うグリーンヒルの苦労が思い遣られる。
宰相殿には、後で誰かに胃薬でも届けさせるか。
111
お気に入りに追加
1,316
あなたにおすすめの小説
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる