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アレクサンドル・クロムウェル

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「ねぇ~おねがい!もう許して?」
 ギャイギャイと姦しいことこの上ない。

 ウィリアムはお調子者でアホだが、バカではない。
 皇帝としての役割を理解もしているし、行動もできる。
 なのでギリギリまで神託が降りたことを伏せていたゼノンに対し叱責を与えたが、あまり効果はなかったそうだ。

 のらりくらりと躱せれて、出かかった罵声を堪えるのに必死だったらしい。
「ほんと、ここまで出かかったからね!」
 と掌で顎先を叩いてみせた。

「愛し子が招来されるなら場所は"大神殿以外ない~"とか言っちゃってさぁ。神殿内のミーネの森に関係ありそうなとこ調べてましたとかぁ、あんな言い訳にもならない言い訳、初めて聞いたよ!」

 我慢し過ぎて頭痛くなっちゃった。
 そう言って肩を落とされれば、これ以上は可哀想な気もしてくる。
 本当は揶揄い半分、八当たり半分だしな。

「僕もアレクみたいに顔が怖ければ、舐められなくて済むのになぁ」
「おい!」

 一言多い。可哀想だと思ったのは気のせいだな。

「陛下、そう言えば最近、鍛錬に参加してませんでしたよね?」
「あっそうだね~。でも君の地獄の鍛錬は僕には無理かなぁ」

 目を泳がせるくらいなら、余計なことは言うなよ。

「まぁいい。それで?大前提だが、愛し子は本当に来るのか?」
「えっ?」

 何を驚く

「えっと・・・逆に聞くけど、なんで疑ってんの?」
「俺は愛し子の招来なんて、御伽話だと思っている」
「ハイ?」
「650年前もそれ以前も、災害や飢饉、所謂国難があったのは本当だろう。誰か有能な者が改革もし、技術を発展させもしたんだろうさ。だがそれは身を粉にして働いた誰かであって、愛し子の奇跡は眉唾物、神殿の捏造だと俺は考えている」
「うわー、何それ。疑り深いなぁ。アレクに夢とかロマンとかないの?」
「俺は騎士なんでな、夢やロマンでは生き残れない」

 なぜ憐れんだ様な目で見る

「騎士道だって、充分ロマンだよ?」
「それで?来るのか?」
「そりゃあ来るよ!?来るに決まってるじゃない!!」

 何故こんなにもハッキリ断言できるのか、不思議でならない。

「650年前にいらした"ヨシタカ様"の記述もそれ以前の愛し子の記録も色々残ってるからね」
「そう なのか?」
「あれ?知らないの?・・・・まぁ君はあれだよね。剣とか魔法の修行ばっかりで、皇宮の禁書室になんて行かないものね」
「いい機会だから、一度行っておいでよ。ヨシタカ様より前の愛し子の記録もあるしさ。心配しなくても好きな時に許可は出してあげるよ?」

 だから、憐れむ様な目はやめろ

「いい?話を戻すけど。ヨシタカ様は確かにいらしたし、この国の為に多くの事をしてくださった。これは細かな記録があるから間違いない」
「了解した」

 コイツがここまで言うなら、そうなんだろう。

「細かい内容は覚えてないけど、ヨシタカ様がいらした時も神託はあったんだ。この時、神託が示し、ヨシタカ様が現れたのはボルザーグ村の小さな神殿…ていうより祈祷所かな?そこの裏庭にある、これまた小さな泉の中。白蓮の花の中から現れたそうだよ」

「大神殿ではないんだな?」
「そう!そこがキモなんだよね。兎に角神官達ってさぁ、権威~とか威光っ!とか大好きじゃない?」
 そうだなと頷くとウィリアムもウンウンと首を縦に振った。
「だから、ど田舎の神殿とも呼べない様な、小ちゃな祈祷所に愛し子が現れましたぁ!なんて言いたくなかったんだろうねぇ」
「なるほどな。今回も同じか?」

 だろうね とウィリアムは小さな溜息を吐いた。

「アレクの事疑り深いとか言っちゃったけど、実際、巷に溢れてる愛し子の伝説なんて神殿の捏造とか喧伝が殆どなんだよね」
「そうなのか?」
「うん。中には本当にあった話にちょびっと尾鰭がついたかなぁってやつもあるけどね」

 意外ではないが、神殿の奴らのやる事は進歩がないな。
 アガスもそうだが、神官になるのに学習能力は必要ないらしい。

「ほんと、やになっちゃうよね」
 とウィリアムは顔の横で手をヒラヒラと振ってみせた。
「因みに皇宮にある記録は、ほぼ真実だと思う」
「ほぼ?全てではないのか?」
「そりゃあそうさ。何かを書き留める時に自分の主観を入れないのは難しいよ?筆者の見た真実とヨシタカ様が見た真実が同じだとは限らないでしょ?」
「それは・・・そうだな」

 コイツは偶に、物事の真理を突いたようなことを言う。
 無意識なんだろうが、皇帝であるが故の洞察なのだろうな。

「あとアレクはね、愛し子がいらした後の参考になるから、絶対目を通した方がいい」

 ふむ と考えていると、マークが遠慮がちに声をかけてきた。

「あの・・・禁書に載っている内容を、私達が聞いて良いのでしょうか?」
 これにウィリアムはカラカラと笑って答えた。
「全然平気!神殿に都合が悪いだけで、僕たちには関係ないし、色々面倒くさいからしまってあるだけだよ」
 神官て、バカだよねぇと笑うウィリアムにマークは「あぁそうなんですね」と気の抜けた返事を返した。
「まぁ、そう言うことだから気にしないで」

 コイツのこういう重みの無い所が残念でならない。
 これに付き合うグリーンヒルの苦労が思い遣られる。
 宰相殿には、後で誰かに胃薬でも届けさせるか。
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