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第42話 年輪の町
しおりを挟むようやく中間地点に辿り着き、若い森が彼らを出迎えてきた。木こりが伐採と栽培を繰り返している人工林なので、霊的なものは宿ることもなく、この周辺の木々は単なる資源として活用される。人の手の入った新しい森は空気も清々しく新鮮だ。
「気持ちいい場所だねー」
横の川では、何本もの丸太が下流に向かって流されて運ばれてゆく。上に立っている人は、コメツィエラアンボスまで行った後はまたここに戻らねばならないので、中々大変な仕事だ。
イーサンがようやく安堵し、後ろのドアを閉める。
「まだ村はあるみてぇだな」
そこから1日ほど歩いた辺りで、湖が見えてきた。その周辺に小さな町の入り口があり、看板が掛かっている。
「『ヤーエスバウムの町へようこそ』」
「町になったのね」
「林業はどこへ行っても盛んですからね。何をするにも火は必要ですし、家も家具も道具も木が使われている。村も大きくなるはずです」
「よしゃ、じゃあ大足を何とかできそうな場所を探すぞ」
「2輪が無事で良かったよねえ」
「補修道具も買っておこうよ。杭を石で叩くとか大変過ぎる」
そんな話をしつつ、宿屋に向かった。宿屋は簡素な作りだが中々大きい。城からの客がメインで、コメツィエラアンボスからやってくるのは行商人と馬車の御者、あとは傭兵あたりの様子。その辺りのサポートは期待できそうだが、旅人向けの情報となると、北から船で直接ゴーサホルツハマーに向かうルートが主流のため、期待するのも難しそうだ。
大足を馬車の停める場所に置き、一同は宿屋に入る。
「いらっしゃい。旅人さんかい?」
見事な赤毛にたくさんのそばかすが可愛らしい主人だ。
「5人頼む。女を分けてくれ。無理なら一部屋でかまわねぇ」
「はいはい、大丈夫よ」
ロビーには巨大な木彫りの細工が所狭しと飾ってあり、イライジャはそれを見ながら尋ねた。
「見事な木彫りですね。この町には手先の器用な方がいらっしゃるようだ」
「ああ、それ俺が作ったんだ。毎年民芸品の選手権やるんだよ。それでたまっちゃった」
「お見事な腕前です」
「いやいや、この町は木こりの町だからさ、木を扱うのが得意な奴はごまんといる。俺なんか下手な方さ」
とはいえ、主人はまんざらでもない様子。流石イライジャと言うべきか、懐柔しておいて話を聞き出すのがうまい。当然次に出る質問はこれだ。
「木工が優れている町なら、壊れた台車や馬車みたいなものを修理できる方はいらっしゃいませんか? 移動に利用しているジプシーワゴンが事故に遭って壊れてしまいまして……」
「んー、まあ木こりは切る方だからねえ。加工は城でやってるから、急ぎじゃないなら城までいく方がいいけど、足となるとそうはいかないもんなあ。だったら……大工に頼んでみるといいよ」
場所を教えてもらったので、二手に分かれることになった。大足を動かせるのはアメリアとルーカスだけなので、この2人は必然的に大工の所へ。年寄り連中は城の聞き込みに回ることとなった。
先の騒動で、大量に沸いた怨霊のビオコントラクトをかたっぱしから取り込んだおかげで、ミアは大分足腰が動くようになっている。
若さを戻していないのはイライジャだけであったが、人間とエルフの子供であるハーフエルフは、エルフの長寿が混じっているために人より寿命が長い。人間ほど老いが早くもないので、元々他の2人より動けていたため、今の状態でも何とかやりくりはできていた。
これで何となく3人の動きに釣り合いが取れてきたように見える。
「待て」
突然先頭を歩いていたイーサンが、後ろからついてくる2人を止めた。
「なあに?」
「城の人間がいる」
その一言でイライジャとミアは近くの路地にさりげなく曲がるふりをし、角で止まると壁に背を向けて少しだけ顔を出して様子を窺った。
大量に積まれた丸太の前で、町の木工業者と思われる男と、城からの使いと思われる男が何かの書面をやりとりしている姿が見える。
「本当だわ。木材の買い付けに来たのかしら」
「多分な」
「刻印入りの手形を腰にかけているところを見ると、ゴーサホルツハマーの人間というよりも、城の使いですね」
「あの木材全部買うのかしら」
「投石機でも作る気かァ?」
「魔族の残党討伐が終了となり、完全平和となって80年くらいは経ちます。これといった大型兵器も必要ないでしょうに。治安維持のための弓と矢を作るには多すぎますね」
二人の男が書面をやり取りした後、町の奥から男たちがたくさん馬を連れてやってくる。木材の荷台に繋いだグループを先に行かせ、手際よく次々と荷を運ばせていった。
「やだわあ……王宮の人達を監視するなんて」
「しゃーねえだろ。変な噂立っちまってんだから」
「アダム様の時代は、魔物という目に見えた敵勢力がおりましたからね。現国王であらせられるジェームズ様とはお立場が違いましょう……」
「それだけだと願いてぇな」
イーサンの呟きは、他の2人の胸中にも沸いた言葉だ。
馬の列は更に増え、周囲が埃で煙たくなってくる。
「長くかかりそうだな。イライジャ、ここ頼んだぞ。オレはもっと別の場所行ってくる」
「わたくしも。女性に入り込んでみますわ」
お互い頷き、ここで分かれた。
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