40 / 73
第40話 雨雲が迫る
しおりを挟む
早朝から野焼きが始まった。
まず周囲のシュクレイムをミアが焼却し、進路を開く。次に気化したビオコントラクトを彼女がオーバードーズする。大足で進むとシュクレイムは移動してついてくるので、再度集まってきた塊を焼き払う。そしてまたオーバードーズ。これを延々と繰り返して進んだ。
「さすがにこれだけ大きいのを一気に摂ると、いくらシュクレイムでも満腹になりそうですわ」
「しかし、延々と湧いてくるなこりゃ……。どうなってんだか本当によ」
「怨霊の方はどうなってる?」
「まだついてきますね。一度目をつけられたらしつこいですから、引き剥がすのに苦労しそうです」
「浄化しちまえよ」
「ミアの負担が増えてしまいます。やるならもっと間をおかないと、ビオコントラクトの再建築ができなくなってしまう」
早い話、取り込んだ直後は互換性がないという意味になる。ゆっくりと時間をかけて自分のビオコントラクトに変換していかなくてはならず、そのあたりは口から入れた食べ物と同じ原理だ。
まあ仕方がない。ゆっくり地道にやりながら進む他ない。
川の蛇行が激しい部分は飛ばしていたが、ほぼ毎日水源が近くにある状態で旅をするのは安心感がある。水も食料も手に入れようと思えば困らない程度には確保でき、持ってきた物資も枯れずに残りそうだ。
「中間の町は木こりの町なんでしょう? だったら、大足のアップグレードとかできないかな?」
アメリアの案にルーカスが賛成して手を叩いた。
「いいね! 魔力で進んだりできたら最高!」
ミアがそれを聞いてワゴンの中で笑っている。
「あの辺りの木材は人間が育てているから、魔法を通すのはむりでしてよ。エルフ森の深い場所にある木ならできたかもしれないけれどね」
「でも、歯車に細工をするのは可能かもしれませんよ。メンテナンスも兼ねて一度見てもらった方がよいかもしれませんね」
イーサンの発言にイーサンも頷く。
「加工はさておき、こいつは便利な乗り物だかんな、なくなったらオレたちが困るし。かなり手荒なことが続いてるから、職人に見てもらうのは賛成だな」
ルーカスがワゴンを振り返り、まじまじと全体を眺めた。
「だよねえ。これ、置いてあった廃材組み立てて作っただけだし」
「ルーカス器用よね。その槍だって、元は自分で細工して縮められるようにしたんでしょう?」
「アメリアもね? それ元はジョッキの持ち手だよ?」
「違えねぇ」
後からイーサンの笑い声が聞こえる。
そんな談笑をしながら進んでいると、しばらくしてまたシュクレイムが集まり始めた。陽も大分傾き、夜が近い。
「今日はこれが最後かしら」
ミアが立ち上がり、小窓から外を眺める。
「お前ぇ、明日はずっと屋根の上にいた方が楽なんじゃねぇの」
「イヤよー、埃っぽくなっちゃうでしょ。直射日光はシミも増えちゃうし!」
「まだそんなこと言ってんの!? もういいだろその歳で!!」
「デ・リ・カ・シー!! 冒険者やってた頃が祟ってシミだらけなの!! これ以上増やしたくないって乙女の気持ちはいくつになっても変わらなくてよ!!」
アメリアが外で2輪を漕ぎながら微妙な顔をしている横で、ルーカスがその彼女を横目で窺っている。
陽が沈むのとはまた別に、雲の影が周囲を急に暗くし始めた。
「ねえ、やるなら早いほうがいいよ。雨降るかも……」
ルーカスの声でイライジャが後ろの扉を開けた。
「ああ……確かに。湿気を感じますね……。大足は雨漏りするのでどこかに移して雨宿りしないと」
「オイオイ、マジかよ……すぐやんでくれないと先に進めねぇぞ」
「そんな悠長なこと言ってられませんことよ。雨でシュクレイムが増えまくったら、この一帯ぬるぬる地獄絵ができあがりましてよ。わたくしの魔法もセーブしてるから効きが悪くなってしまいますし、イライジャの結界と併せても、量が迫って押し返せなくなる可能性だってありますわ」
「カンベンしてよおぉ!」
ルーカスの悲鳴が木霊する。
「川辺だし、雨降ったらマズイよ……。もっと高い場所行こう?」
漕ぎ出そうとするアメリアを制してミアが杖を構えた。
「ちょっと待って、少し数を減らして時間を稼ぎましょう。一回焼いておきますわ」
口調に対してやることがえげつない。彼女がスペルを唱えると、ミアを中心に火の輪が広がり、大地に赤い閃光がなぞられて遠退いていく。それから目を閉じた大魔道士は、解除魔法でビオコントラクトのロックを解除する。
「Unlock-overdose」
周辺が歪み、ひどく引き寄せられる感覚に息を止めた後、ぱっとそれを放される。
「はい、おしまい。行きましょう」
アメリアがミアの顔を覗き込んだ。
「全然変わらない」
「シュクレイムだもの。500回淹れた紅茶を飲んでるようなものでしてよ」
「そりゃ変わらないわ……」
アメリアはミアの若い姿が見てみたいのだ。今でもこんなに可愛いらしい人なのだ、それは若い頃特有のかわゆさも見てみたくなろう。
早く行こうと騒ぐルーカスを宥め、一行は川から距離を取って西に進み始めた。
まず周囲のシュクレイムをミアが焼却し、進路を開く。次に気化したビオコントラクトを彼女がオーバードーズする。大足で進むとシュクレイムは移動してついてくるので、再度集まってきた塊を焼き払う。そしてまたオーバードーズ。これを延々と繰り返して進んだ。
「さすがにこれだけ大きいのを一気に摂ると、いくらシュクレイムでも満腹になりそうですわ」
「しかし、延々と湧いてくるなこりゃ……。どうなってんだか本当によ」
「怨霊の方はどうなってる?」
「まだついてきますね。一度目をつけられたらしつこいですから、引き剥がすのに苦労しそうです」
「浄化しちまえよ」
「ミアの負担が増えてしまいます。やるならもっと間をおかないと、ビオコントラクトの再建築ができなくなってしまう」
早い話、取り込んだ直後は互換性がないという意味になる。ゆっくりと時間をかけて自分のビオコントラクトに変換していかなくてはならず、そのあたりは口から入れた食べ物と同じ原理だ。
まあ仕方がない。ゆっくり地道にやりながら進む他ない。
川の蛇行が激しい部分は飛ばしていたが、ほぼ毎日水源が近くにある状態で旅をするのは安心感がある。水も食料も手に入れようと思えば困らない程度には確保でき、持ってきた物資も枯れずに残りそうだ。
「中間の町は木こりの町なんでしょう? だったら、大足のアップグレードとかできないかな?」
アメリアの案にルーカスが賛成して手を叩いた。
「いいね! 魔力で進んだりできたら最高!」
ミアがそれを聞いてワゴンの中で笑っている。
「あの辺りの木材は人間が育てているから、魔法を通すのはむりでしてよ。エルフ森の深い場所にある木ならできたかもしれないけれどね」
「でも、歯車に細工をするのは可能かもしれませんよ。メンテナンスも兼ねて一度見てもらった方がよいかもしれませんね」
イーサンの発言にイーサンも頷く。
「加工はさておき、こいつは便利な乗り物だかんな、なくなったらオレたちが困るし。かなり手荒なことが続いてるから、職人に見てもらうのは賛成だな」
ルーカスがワゴンを振り返り、まじまじと全体を眺めた。
「だよねえ。これ、置いてあった廃材組み立てて作っただけだし」
「ルーカス器用よね。その槍だって、元は自分で細工して縮められるようにしたんでしょう?」
「アメリアもね? それ元はジョッキの持ち手だよ?」
「違えねぇ」
後からイーサンの笑い声が聞こえる。
そんな談笑をしながら進んでいると、しばらくしてまたシュクレイムが集まり始めた。陽も大分傾き、夜が近い。
「今日はこれが最後かしら」
ミアが立ち上がり、小窓から外を眺める。
「お前ぇ、明日はずっと屋根の上にいた方が楽なんじゃねぇの」
「イヤよー、埃っぽくなっちゃうでしょ。直射日光はシミも増えちゃうし!」
「まだそんなこと言ってんの!? もういいだろその歳で!!」
「デ・リ・カ・シー!! 冒険者やってた頃が祟ってシミだらけなの!! これ以上増やしたくないって乙女の気持ちはいくつになっても変わらなくてよ!!」
アメリアが外で2輪を漕ぎながら微妙な顔をしている横で、ルーカスがその彼女を横目で窺っている。
陽が沈むのとはまた別に、雲の影が周囲を急に暗くし始めた。
「ねえ、やるなら早いほうがいいよ。雨降るかも……」
ルーカスの声でイライジャが後ろの扉を開けた。
「ああ……確かに。湿気を感じますね……。大足は雨漏りするのでどこかに移して雨宿りしないと」
「オイオイ、マジかよ……すぐやんでくれないと先に進めねぇぞ」
「そんな悠長なこと言ってられませんことよ。雨でシュクレイムが増えまくったら、この一帯ぬるぬる地獄絵ができあがりましてよ。わたくしの魔法もセーブしてるから効きが悪くなってしまいますし、イライジャの結界と併せても、量が迫って押し返せなくなる可能性だってありますわ」
「カンベンしてよおぉ!」
ルーカスの悲鳴が木霊する。
「川辺だし、雨降ったらマズイよ……。もっと高い場所行こう?」
漕ぎ出そうとするアメリアを制してミアが杖を構えた。
「ちょっと待って、少し数を減らして時間を稼ぎましょう。一回焼いておきますわ」
口調に対してやることがえげつない。彼女がスペルを唱えると、ミアを中心に火の輪が広がり、大地に赤い閃光がなぞられて遠退いていく。それから目を閉じた大魔道士は、解除魔法でビオコントラクトのロックを解除する。
「Unlock-overdose」
周辺が歪み、ひどく引き寄せられる感覚に息を止めた後、ぱっとそれを放される。
「はい、おしまい。行きましょう」
アメリアがミアの顔を覗き込んだ。
「全然変わらない」
「シュクレイムだもの。500回淹れた紅茶を飲んでるようなものでしてよ」
「そりゃ変わらないわ……」
アメリアはミアの若い姿が見てみたいのだ。今でもこんなに可愛いらしい人なのだ、それは若い頃特有のかわゆさも見てみたくなろう。
早く行こうと騒ぐルーカスを宥め、一行は川から距離を取って西に進み始めた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ポリゴンスキルは超絶チートでした~発現したスキルをクズと言われて、路地裏に捨てられた俺は、ポリゴンスキルでざまぁする事にした~
喰寝丸太
ファンタジー
ポリゴンスキルに目覚めた貴族庶子6歳のディザは使い方が分からずに、役に立たないと捨てられた。
路地裏で暮らしていて、靴底を食っている時に前世の記憶が蘇る。
俺はパチンコの大当たりアニメーションをプログラムしていたはずだ。
くそう、浮浪児スタートとはナイトメアハードも良い所だ。
だがしかし、俺にはスキルがあった。
ポリゴンスキルか勝手知ったる能力だな。
まずは石の板だ。
こんなの簡単に作れる。
よし、売ってしまえ。
俺のスキルはレベルアップして、アニメーション、ショップ、作成依頼と次々に開放されて行く。
俺はこれを駆使して成り上がってやるぞ。
路地裏から成りあがった俺は冒険者になり、商人になり、貴族になる。
そして王に。
超絶チートになるのは13話辺りからです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる