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第34話 耐魔鉱エルドヴェリエン
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店内は暗すぎてよく見えないが、アメリアがその咳払いの方向へと駆け寄っていく。
「ビョルグ! 珊瑚を持って来たよ!」
アメリアの人懐こい声を聞き、ビョルゴルグルがいつものようにふいごを一度叩く。風が高炉に当たると、オレンジ色の光が店内を照らしだした。栗毛のドワーフが不機嫌そうな顔でこちらを眺めていたが、いかにも年配者のソレらしい風格で年寄り3人は嬉しくなってしまう。
「まあまあまあ! ドヴェルグに会えるなんて本当光栄だわ! お友達のヴィーリを思い出してしまうーっ!!」
ミアは高揚して頬が赤い。若い2人はそこまでかと思ったが、イーサンもイライジャもソワソワが激しく、一体ドワーフにどんなレベルの好感度を抱いているのかと不思議に思った。
「もしかして、みんなドワーフに会ったことがあるの?」
「ありましてよぉ。昔一緒に冒険したことがあるの。本っ当、いい子でねぇ! お陰でわたくし達、ドヴェルグが大好きになってしまって」
目を丸くしていたのはアメリアとルーカスだけではない。ビョルゴルグルもまたその話を聞いて驚いていた。
「ドヴェルグが冒険に出ていた時代は100年も前じゃ。あんたらどんだけ長生きなんじゃ。それとも……」
彫りの深い右目にはめ込んであるレンズが高炉の火で光り、イーサンに向く。
「あんた、アンチエイジャーじゃな」
そう言われたにも関わらず、イーサンは嬉しそうだ。
「純度の高い銀を見てるみてぇな目ぇしやがる」
それからルーカスの持っていた鞄を手にし、ビョルゴルグルの前のカウンターに置いた。
「エルヴァルドコラレだ。全員分の武器を何とかして欲しい。余ったら謝礼としてやる」
「……いらん。そんなモン持ってたら、何かあった時に真っ先に狙われるわ」
「ここに置いとけとは言ってねぇだろ。どう使うかはアンタ次第だってことだ」
どう思ったのか定かではないが、ビョルゴルグルは眉間に深く皺を寄せた。アメリアが心配してその年寄りドワーフに声をかける。
「あの……言った通り、珊瑚を持ってきたんだけど……ビョルグ?」
「分かってる」
「作ってもらえるの?」
「お前と、そこの槍使いの分は作ってやる。だが他のヤツらの分は、今考え中じゃ」
ルーカスがバツの悪そうな顔をして言った。
「あー……、言い訳じゃないけど、こうなるって思ってなかったから、言ってなかっただけなんだ。僕たち、珊瑚を採ってこいって急に言われただろう?」
「分かってる。いいから黙ってろ」
「はい……」
ビョルゴルグルは次にイライジャに目をつけ、またも眉間に深い皺を寄せる。
「エルフ……」
「ハーフです」
「ああ、大分多くなったな。あんたの責任じゃない。それに、あんたからは、あのいけ好かない高慢ちきなニオイを感じない。ほとんど人間のそれだ」
「私は森で育っていないので……」
それからイライジャとミアを交互に眺める。
「あんたと、あんたからは、大きな器を感じる。元々大量に満たされていたが、今はそれが空っぽに近い。ほとんどニュートラルな状態だ」
そして、再びイーサンに視線を移す。
「だが、あんたからは新鮮なビオコントラクトを感じる。ここ半月の間に摂取したような瑞々しさだ」
「それがどういうことだか分かるか?」
「あんたがアンチエイジャーだということじゃ」
「ははっ!」
「……何で笑ってるのよイーサンは……」
アメリアが小声でそう嘆き、渋い顔をしている。
ビョルゴルグルが手を差し出した。
「エルヴァルドコラレを練り込んだ所で、その武器じゃ大した力は出せないぞ。魔術もこの2人の力に耐えられんじゃろう。セーブしながら戦うのはストレスが溜まる。相応のテクニックも必要とされる。それでもいいのか?」
「ああ、頼むわ」
そう言い、イーサンが腰のなまくら剣をカウンターに乗せた。
アメリアが首を傾げる。
「え? 今の、どういうこと」
イライジャが同じように杖を乗せ、柔らかい笑みを向けた。
「ドヴェルグはちょっと判り難いところはありますが、純粋で良い鉱物を見定める、素晴らしい目利きの方ばかりですよ」
「……作ってくれるってこと?」
「そうよ」
ミアも自分の杖をカウンターの上へ預ける。
どういう流れでこうなったのか、何故なのか、アメリアとルーカスはビョルゴルグルに視線を向けた。
「何で?」
「この男が吸収したビオコントラクトは魔物のものじゃ。だったら必要になるじゃろ」
ルーカスの素朴な問いに単純明快な答えが返り、アメリアが心配して重ねる。
「『アンチエイジャー』でも……?」
「いいか嬢ちゃん、ルールを決めるのはお上じゃ。そこがもし歪んどったら、他の誰かが正さにゃならん。剣の曲がりを打つのが鍛冶屋の仕事なら、魔物の討伐は冒険者の仕事じゃ。誰がアンチかを決めるのは、正道を歩む者の仕事じゃ」
アメリアの心にその言葉はスンと入り、そして落ち着いた。
「そうね。私もそう思う……」
そして、自分もジョッキで作ったナックルダスターをカウンターに置いた。ルーカスもそれに続き、全員がビョルゴルグルの加工を依頼する。
ビョルゴルグルは大きく息を吸い込み、肺の中を全部吐き出して言った。
「急ぐなら手を貸せ。ドヴェルグとエルフは仲が悪い。混じり合わせるのは至難の業じゃ。火は灼熱、怒り狂って吹き上がる溶岩に近い。耐魔鉱エルドヴェリエンを作るには、ドヴェルグとエルフが5人は必要じゃ。お前たちにその代わりができるか?」
結局休めず、アメリアとルーカスは肩を落として深いため息を吐いた。
「ビョルグ! 珊瑚を持って来たよ!」
アメリアの人懐こい声を聞き、ビョルゴルグルがいつものようにふいごを一度叩く。風が高炉に当たると、オレンジ色の光が店内を照らしだした。栗毛のドワーフが不機嫌そうな顔でこちらを眺めていたが、いかにも年配者のソレらしい風格で年寄り3人は嬉しくなってしまう。
「まあまあまあ! ドヴェルグに会えるなんて本当光栄だわ! お友達のヴィーリを思い出してしまうーっ!!」
ミアは高揚して頬が赤い。若い2人はそこまでかと思ったが、イーサンもイライジャもソワソワが激しく、一体ドワーフにどんなレベルの好感度を抱いているのかと不思議に思った。
「もしかして、みんなドワーフに会ったことがあるの?」
「ありましてよぉ。昔一緒に冒険したことがあるの。本っ当、いい子でねぇ! お陰でわたくし達、ドヴェルグが大好きになってしまって」
目を丸くしていたのはアメリアとルーカスだけではない。ビョルゴルグルもまたその話を聞いて驚いていた。
「ドヴェルグが冒険に出ていた時代は100年も前じゃ。あんたらどんだけ長生きなんじゃ。それとも……」
彫りの深い右目にはめ込んであるレンズが高炉の火で光り、イーサンに向く。
「あんた、アンチエイジャーじゃな」
そう言われたにも関わらず、イーサンは嬉しそうだ。
「純度の高い銀を見てるみてぇな目ぇしやがる」
それからルーカスの持っていた鞄を手にし、ビョルゴルグルの前のカウンターに置いた。
「エルヴァルドコラレだ。全員分の武器を何とかして欲しい。余ったら謝礼としてやる」
「……いらん。そんなモン持ってたら、何かあった時に真っ先に狙われるわ」
「ここに置いとけとは言ってねぇだろ。どう使うかはアンタ次第だってことだ」
どう思ったのか定かではないが、ビョルゴルグルは眉間に深く皺を寄せた。アメリアが心配してその年寄りドワーフに声をかける。
「あの……言った通り、珊瑚を持ってきたんだけど……ビョルグ?」
「分かってる」
「作ってもらえるの?」
「お前と、そこの槍使いの分は作ってやる。だが他のヤツらの分は、今考え中じゃ」
ルーカスがバツの悪そうな顔をして言った。
「あー……、言い訳じゃないけど、こうなるって思ってなかったから、言ってなかっただけなんだ。僕たち、珊瑚を採ってこいって急に言われただろう?」
「分かってる。いいから黙ってろ」
「はい……」
ビョルゴルグルは次にイライジャに目をつけ、またも眉間に深い皺を寄せる。
「エルフ……」
「ハーフです」
「ああ、大分多くなったな。あんたの責任じゃない。それに、あんたからは、あのいけ好かない高慢ちきなニオイを感じない。ほとんど人間のそれだ」
「私は森で育っていないので……」
それからイライジャとミアを交互に眺める。
「あんたと、あんたからは、大きな器を感じる。元々大量に満たされていたが、今はそれが空っぽに近い。ほとんどニュートラルな状態だ」
そして、再びイーサンに視線を移す。
「だが、あんたからは新鮮なビオコントラクトを感じる。ここ半月の間に摂取したような瑞々しさだ」
「それがどういうことだか分かるか?」
「あんたがアンチエイジャーだということじゃ」
「ははっ!」
「……何で笑ってるのよイーサンは……」
アメリアが小声でそう嘆き、渋い顔をしている。
ビョルゴルグルが手を差し出した。
「エルヴァルドコラレを練り込んだ所で、その武器じゃ大した力は出せないぞ。魔術もこの2人の力に耐えられんじゃろう。セーブしながら戦うのはストレスが溜まる。相応のテクニックも必要とされる。それでもいいのか?」
「ああ、頼むわ」
そう言い、イーサンが腰のなまくら剣をカウンターに乗せた。
アメリアが首を傾げる。
「え? 今の、どういうこと」
イライジャが同じように杖を乗せ、柔らかい笑みを向けた。
「ドヴェルグはちょっと判り難いところはありますが、純粋で良い鉱物を見定める、素晴らしい目利きの方ばかりですよ」
「……作ってくれるってこと?」
「そうよ」
ミアも自分の杖をカウンターの上へ預ける。
どういう流れでこうなったのか、何故なのか、アメリアとルーカスはビョルゴルグルに視線を向けた。
「何で?」
「この男が吸収したビオコントラクトは魔物のものじゃ。だったら必要になるじゃろ」
ルーカスの素朴な問いに単純明快な答えが返り、アメリアが心配して重ねる。
「『アンチエイジャー』でも……?」
「いいか嬢ちゃん、ルールを決めるのはお上じゃ。そこがもし歪んどったら、他の誰かが正さにゃならん。剣の曲がりを打つのが鍛冶屋の仕事なら、魔物の討伐は冒険者の仕事じゃ。誰がアンチかを決めるのは、正道を歩む者の仕事じゃ」
アメリアの心にその言葉はスンと入り、そして落ち着いた。
「そうね。私もそう思う……」
そして、自分もジョッキで作ったナックルダスターをカウンターに置いた。ルーカスもそれに続き、全員がビョルゴルグルの加工を依頼する。
ビョルゴルグルは大きく息を吸い込み、肺の中を全部吐き出して言った。
「急ぐなら手を貸せ。ドヴェルグとエルフは仲が悪い。混じり合わせるのは至難の業じゃ。火は灼熱、怒り狂って吹き上がる溶岩に近い。耐魔鉱エルドヴェリエンを作るには、ドヴェルグとエルフが5人は必要じゃ。お前たちにその代わりができるか?」
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