25 / 73
第25話 武器を求めて
しおりを挟む
込み合う市場で物資を調達してきたアメリアとルーカスは、イーサン達の待つ宿屋へと戻る。
しばらく体力が回復するまで滞在するつもりだったので荷物の量は適度に多く、縄で結ばれた食料をカウンターの上に乗せた後、重力から解放された気持ちで二人は長椅子の上に腰を下ろした。
ミアが少し温くなった紅茶に氷を入れ、二人の前にそれを差し出す。
「お疲れ様。宿屋にリーフティーがありましたのよ。あまり良い茶葉ではありませんが、美味しくなるよう魔法をかけました」
ミアの言う魔法というのは、手習いをした方法で丁寧に淹れたという意味だ。元々良いところのお嬢さんだったような雰囲気のミアは、お茶を淹れるのがうまい。アメリアは彼女の入れるお茶が子供の頃から大好きであった。
「ありがとう! ミアのお茶を飲んだら疲れなんか吹き飛んじゃうよー!」
味わう様子もなくルーカスが一気に喉に流し込んでいたのを肘で小突き、アメリアは加工屋で起きた一連の話を3人にし始めた。
「それはそうと、市場でね、武器を何とかできないか見て回ったの」
ベッドで横になっていたイーサンさんが顔をこちらに向ける。
「ほお?」
「そこにね、ドワーフの加工屋さんがあったんだ」
「ドヴェルグの?」
イライジャが目を丸くしていたが、イーサンとミアも興味を示している。
ドワーフは生息地に引きこもりで、他の大陸に出歩くことは滅多にない。それが外の町に住み着いているというのだから驚きもするだろう。
「その店主のドワーフは、過去の大戦を知っててね。まあ結構なお年寄りみたいだったんだけど……商売柄見て分かっちゃったみたいで」
察したイーサンが嗚呼とため息を漏らす。
「お前ぇのナックルダスターについたビオコントラクトか」
そこでイライジャとミアも『あっ』と声を出す。
「そう……。それで、まあ、悪い方には話が進まなかったんだけど、結果として武器は作ってもらえるみたいなんだ」
「んー……じゃあまあ、それはそれとして置いといて。お前ぇのその辛気臭え顔は何だ」
「それなんだけど……何だかお城の方でややこしいことになってるかもしれないって話を聞いちゃって」
イライジャが首を傾げる。
「どういうことですか」
ミアに紅茶のおかわりをもらいながら、ルーカスが続けた。
「騎士団にとってあまり良い噂とは言えないものが、この町で囁かれているらしいんだ。この町って言うかこの大陸?」
ミアが神妙な様子で口を開く。
「まあ、昔からそういった話は切って切れないものではありましたけれど……例えば?」
「騎士団は未だにビオコントラクトを吸収しながら活動してるかもしれないっていうのが一つ」
「まさか」
ミアは信じられないといった様子だが、ルーカスは続ける。
「実は魔物が一掃できておらず、未だに隠れて討伐を続けているかもしれないっていうのが二つ目」
イライジャが困ったように眉を下げた。
「最後はちょっとショッキングで、騎士団を含め王宮内部は魔物の巣窟かもしれない……てやつ」
「はあ?」
そこでイーサンさんが飛び起きた。
「そのドヴェルグのジジイがそう言ったのか」
アメリアが『ビョルグね』と付け加える。
「その話をした後、急に武器を加工してくれるって言い出したの」
「だから、僕たちお金ないよーって言ったら、南にあるエルフの森の近くにある海岸沿いに行って、西から吹く森の風を受けた珊瑚礁の死骸を取ってこいって言われたんだ」
それに反応したイライジャが顔を上げた。
「エルフ森の珊瑚……」
「イライジャ知ってるの?」
「んん、まあ、私は半分エルフですから、聞いたことはあります。何でも死んだ珊瑚が、エルフ森からの西風で結晶化するとか。それを鉱物に混ぜると、魔物耐性のインゴットができるそうです」
「エルヴァルドコラレか……」
イーサンがつぶやいたのに、ミアが反応する。
「どう思う? イーサン」
「ポイントオブソードは現に魔物が紛れ込んでたんだ。ドヴェルグジジイの話も可能性として捨てきれねぇ」
アメリアが『ビョルグだよ』と小声で付け加えた。
「耐魔武器か……」
「わたくしたち、大戦の処理討伐が全て終わった後、アーティファクトを王宮に返還してしまったわ。内側にある力を肉体から通して外側に放出するとなると、制御するための依代が必要となる。今のままでは何もできませんわ」
イライジャもミアの話に頷く。
「エルヴァルドコラレなら、低級鉱物で製造した武器でも、多少の威力は見込めるかと思います。現役当時と同等になるわけではありませんが、今よりは遥かに良くなるかと」
「このままではアメリアとルーカスだけに頼ることになってしまうわ。戦闘経験の少ない2人にこれ以上の負担をかけさせるわけには参りません。わたくしたちも何か装備しなくては」
イーサンは少し考え、二人に向き直る。
「……このうん十年、エイヴァから音沙汰ないのは、騎士団に入ったからかと思ってた」
いつもの余裕が消えた彼の言葉を聞き、イーサンとミアははっと息を呑む。
「そんなこと考えもしなかった。俺たちが討ち漏らしたかもしんねぇなんて……」
何かあればエイヴァが自分たちを必要とするはず。そう信じて疑わなかったが、その道理が通るのは王宮や騎士団が正道にいるのが前提だ。
3人は重苦しさに俯いたが、彼らは曲がりなりにも勇者である。向かうべき方向は心得ているつもりだ。
「王宮に行くのは一旦やめだ。先に南にある海岸線に向かう」
様子を見ていたアメリアが頷く。
「エルヴァルドコラレを採りに行くのね」
「ああ。耐魔装備を作りに行くぞ」
備えあれば憂いなし。彼らはひとたび南へ進路を変更する。
しばらく体力が回復するまで滞在するつもりだったので荷物の量は適度に多く、縄で結ばれた食料をカウンターの上に乗せた後、重力から解放された気持ちで二人は長椅子の上に腰を下ろした。
ミアが少し温くなった紅茶に氷を入れ、二人の前にそれを差し出す。
「お疲れ様。宿屋にリーフティーがありましたのよ。あまり良い茶葉ではありませんが、美味しくなるよう魔法をかけました」
ミアの言う魔法というのは、手習いをした方法で丁寧に淹れたという意味だ。元々良いところのお嬢さんだったような雰囲気のミアは、お茶を淹れるのがうまい。アメリアは彼女の入れるお茶が子供の頃から大好きであった。
「ありがとう! ミアのお茶を飲んだら疲れなんか吹き飛んじゃうよー!」
味わう様子もなくルーカスが一気に喉に流し込んでいたのを肘で小突き、アメリアは加工屋で起きた一連の話を3人にし始めた。
「それはそうと、市場でね、武器を何とかできないか見て回ったの」
ベッドで横になっていたイーサンさんが顔をこちらに向ける。
「ほお?」
「そこにね、ドワーフの加工屋さんがあったんだ」
「ドヴェルグの?」
イライジャが目を丸くしていたが、イーサンとミアも興味を示している。
ドワーフは生息地に引きこもりで、他の大陸に出歩くことは滅多にない。それが外の町に住み着いているというのだから驚きもするだろう。
「その店主のドワーフは、過去の大戦を知っててね。まあ結構なお年寄りみたいだったんだけど……商売柄見て分かっちゃったみたいで」
察したイーサンが嗚呼とため息を漏らす。
「お前ぇのナックルダスターについたビオコントラクトか」
そこでイライジャとミアも『あっ』と声を出す。
「そう……。それで、まあ、悪い方には話が進まなかったんだけど、結果として武器は作ってもらえるみたいなんだ」
「んー……じゃあまあ、それはそれとして置いといて。お前ぇのその辛気臭え顔は何だ」
「それなんだけど……何だかお城の方でややこしいことになってるかもしれないって話を聞いちゃって」
イライジャが首を傾げる。
「どういうことですか」
ミアに紅茶のおかわりをもらいながら、ルーカスが続けた。
「騎士団にとってあまり良い噂とは言えないものが、この町で囁かれているらしいんだ。この町って言うかこの大陸?」
ミアが神妙な様子で口を開く。
「まあ、昔からそういった話は切って切れないものではありましたけれど……例えば?」
「騎士団は未だにビオコントラクトを吸収しながら活動してるかもしれないっていうのが一つ」
「まさか」
ミアは信じられないといった様子だが、ルーカスは続ける。
「実は魔物が一掃できておらず、未だに隠れて討伐を続けているかもしれないっていうのが二つ目」
イライジャが困ったように眉を下げた。
「最後はちょっとショッキングで、騎士団を含め王宮内部は魔物の巣窟かもしれない……てやつ」
「はあ?」
そこでイーサンさんが飛び起きた。
「そのドヴェルグのジジイがそう言ったのか」
アメリアが『ビョルグね』と付け加える。
「その話をした後、急に武器を加工してくれるって言い出したの」
「だから、僕たちお金ないよーって言ったら、南にあるエルフの森の近くにある海岸沿いに行って、西から吹く森の風を受けた珊瑚礁の死骸を取ってこいって言われたんだ」
それに反応したイライジャが顔を上げた。
「エルフ森の珊瑚……」
「イライジャ知ってるの?」
「んん、まあ、私は半分エルフですから、聞いたことはあります。何でも死んだ珊瑚が、エルフ森からの西風で結晶化するとか。それを鉱物に混ぜると、魔物耐性のインゴットができるそうです」
「エルヴァルドコラレか……」
イーサンがつぶやいたのに、ミアが反応する。
「どう思う? イーサン」
「ポイントオブソードは現に魔物が紛れ込んでたんだ。ドヴェルグジジイの話も可能性として捨てきれねぇ」
アメリアが『ビョルグだよ』と小声で付け加えた。
「耐魔武器か……」
「わたくしたち、大戦の処理討伐が全て終わった後、アーティファクトを王宮に返還してしまったわ。内側にある力を肉体から通して外側に放出するとなると、制御するための依代が必要となる。今のままでは何もできませんわ」
イライジャもミアの話に頷く。
「エルヴァルドコラレなら、低級鉱物で製造した武器でも、多少の威力は見込めるかと思います。現役当時と同等になるわけではありませんが、今よりは遥かに良くなるかと」
「このままではアメリアとルーカスだけに頼ることになってしまうわ。戦闘経験の少ない2人にこれ以上の負担をかけさせるわけには参りません。わたくしたちも何か装備しなくては」
イーサンは少し考え、二人に向き直る。
「……このうん十年、エイヴァから音沙汰ないのは、騎士団に入ったからかと思ってた」
いつもの余裕が消えた彼の言葉を聞き、イーサンとミアははっと息を呑む。
「そんなこと考えもしなかった。俺たちが討ち漏らしたかもしんねぇなんて……」
何かあればエイヴァが自分たちを必要とするはず。そう信じて疑わなかったが、その道理が通るのは王宮や騎士団が正道にいるのが前提だ。
3人は重苦しさに俯いたが、彼らは曲がりなりにも勇者である。向かうべき方向は心得ているつもりだ。
「王宮に行くのは一旦やめだ。先に南にある海岸線に向かう」
様子を見ていたアメリアが頷く。
「エルヴァルドコラレを採りに行くのね」
「ああ。耐魔装備を作りに行くぞ」
備えあれば憂いなし。彼らはひとたび南へ進路を変更する。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ポリゴンスキルは超絶チートでした~発現したスキルをクズと言われて、路地裏に捨てられた俺は、ポリゴンスキルでざまぁする事にした~
喰寝丸太
ファンタジー
ポリゴンスキルに目覚めた貴族庶子6歳のディザは使い方が分からずに、役に立たないと捨てられた。
路地裏で暮らしていて、靴底を食っている時に前世の記憶が蘇る。
俺はパチンコの大当たりアニメーションをプログラムしていたはずだ。
くそう、浮浪児スタートとはナイトメアハードも良い所だ。
だがしかし、俺にはスキルがあった。
ポリゴンスキルか勝手知ったる能力だな。
まずは石の板だ。
こんなの簡単に作れる。
よし、売ってしまえ。
俺のスキルはレベルアップして、アニメーション、ショップ、作成依頼と次々に開放されて行く。
俺はこれを駆使して成り上がってやるぞ。
路地裏から成りあがった俺は冒険者になり、商人になり、貴族になる。
そして王に。
超絶チートになるのは13話辺りからです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる