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90 家に着いてからオフトゥンまでの速度
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周囲は暗くなり、小田舎の道路は人気がなくなってくる。その頃になると何となく危機感も出てくるので、痛む足裏に耐えて黙々と歩いていた。買ったジャンクフードをできるだけ冷まさないようにしたいのもあったが、食べ物の香りに釣られた獣が飛び出してきたとか、この体力の時にシャレならんので、そういった意味でもサッサカ歩く。
ようやくお互いの家の前に辿り着くと、へとへとになった様子で健闘をたたえ合った。
「ついたあー」
「おつかれちゃんだよお-」
「ひいー、もう早く寝たい」
「心臓止まるから、色々と話したいことはまた明日にしよ」
「うん、またねー」
そう言って別れ、ドアを開けて靴を脱ぐなり、荷物を廊下に置いて風呂場へ直行。首から下げていたケースの中から、つくも神が慌ててそれを止める。
「ちょっと鈴さん! 小生がいるのを忘れずに!」
つくも神が近くにいるのに慣れすぎて、鈴はそのまま洋服を脱ごうとして手を止める。ポイとドアの隙間から荷物の上に放り投げられ、バンとドアが閉められた。
待つこと10分。ドアが開く。
「早くないです!?」
「表面の汚物コーティングが洗い流されればいい……」
コミケ帰りのサークルはそのくらい必死なのだ。とりあえず汗と埃と菌はこれで何とかなっただろうからして、また明日以降に期待でヨシ。むしろこの状態で風呂に入ったその精神力を褒め称えよ。
風呂から上がった娘の気配で、奥から鈴母が顔を出す。
「おかえり、楽しかった?」
「ただいまー、死ぬほど疲れたあ」
「ご飯買ってきたの?」
「うん。もう流し込んで寝る」
娘のげっそりした様子を見て鈴母は察したのだろう、手短にそれだけで終えてやるとキッチンに戻ってくれた。
タオルを身体に巻いたままのとんでもない恰好で、荷物を抱きかかえて部屋に戻ると、床に鞄を置いてクロゼットから新しい部屋着を引っ張り出す。それに着替えていると、背後でパソコンのスリープが解除されて起動音が響き始めた。
「ああ……窮屈だった」
そんなつくも神を放置して、鈴がジャンクフードの入ったビニールを開けると、ほんのり暖かさが底に残った、湿気でしなびている紙袋が顔を出す。
「ぬおおおお……ごはんーっ!」
中身のソレにかぶりつき、むさぼり食う。美味しいとかどうでもいい、とにかく栄養を身体が求めている。
「ちゃんと噛んでます……?」
「むん」
「次回はもう少し食事に気をつけましょう。これじゃ身体へ負担がかかりすぎていけません」
「むん」
サークルをやる上で栄養の大切さを再確認したところで、ジュースを飲み干した鈴が炭酸にゲップをする。
「寝る……!」
言うやベッドに沈み込むと、全てが完了した達成感と開放感に身体が言った。『オフトゥン最高』と。
「うああーっ……終わったぁ……」
その一言を最後に、気絶するように鈴は眠りについた。
家に到着してからのスピード感たるや、3倍速の動画のようであった。つくも神はそれを見届け、苦笑いするように微笑むのである。
「おやすみなさい。本当……お疲れ様でした」
これで、ようやく長い長いコミケの一日が終わったということになるのだ。
泥のように眠るとはまさにこのことである。原稿で徹夜続きの時とはまた別の、身体を動かしまくった後の泥だ。夢なんか当然見ない。
早朝、いつも学校に行く時間に、オーウェン様のおはようコールが起動する。
『寒いな……布団から出たくないようだが、起きなくていいのか? 今日は休んでいいならそのままにしておくが、やることがあるなら起きた方がいいんじゃないのか? おい、聞いてるか』
が、当然鈴は眠ったままだ。冬休みなのにタイマーを解除しないまま寝てしまったのだろうと分かるので、つくも神も起こそうとはせずそのまま寝かせてやる。
鈴が起きたのは31日の午後。目が覚めた瞬間、体中に疲労が残っているのを感じたが、前日は一日中動き回っていたので、体内の血液とリンパ液の循環はよくなっており、運動不足で蓄積したオタクの老廃物がすっかりきれいに流されて、体調が良いんだか悪いんだか分からない状態で思い切り伸びをする。休みだという強みがストレスをどこかへやってくれているので、そのままベッドの上で仰向けになってじっとしていた。
「つくもー、おきてるー?」
ようやくお互いの家の前に辿り着くと、へとへとになった様子で健闘をたたえ合った。
「ついたあー」
「おつかれちゃんだよお-」
「ひいー、もう早く寝たい」
「心臓止まるから、色々と話したいことはまた明日にしよ」
「うん、またねー」
そう言って別れ、ドアを開けて靴を脱ぐなり、荷物を廊下に置いて風呂場へ直行。首から下げていたケースの中から、つくも神が慌ててそれを止める。
「ちょっと鈴さん! 小生がいるのを忘れずに!」
つくも神が近くにいるのに慣れすぎて、鈴はそのまま洋服を脱ごうとして手を止める。ポイとドアの隙間から荷物の上に放り投げられ、バンとドアが閉められた。
待つこと10分。ドアが開く。
「早くないです!?」
「表面の汚物コーティングが洗い流されればいい……」
コミケ帰りのサークルはそのくらい必死なのだ。とりあえず汗と埃と菌はこれで何とかなっただろうからして、また明日以降に期待でヨシ。むしろこの状態で風呂に入ったその精神力を褒め称えよ。
風呂から上がった娘の気配で、奥から鈴母が顔を出す。
「おかえり、楽しかった?」
「ただいまー、死ぬほど疲れたあ」
「ご飯買ってきたの?」
「うん。もう流し込んで寝る」
娘のげっそりした様子を見て鈴母は察したのだろう、手短にそれだけで終えてやるとキッチンに戻ってくれた。
タオルを身体に巻いたままのとんでもない恰好で、荷物を抱きかかえて部屋に戻ると、床に鞄を置いてクロゼットから新しい部屋着を引っ張り出す。それに着替えていると、背後でパソコンのスリープが解除されて起動音が響き始めた。
「ああ……窮屈だった」
そんなつくも神を放置して、鈴がジャンクフードの入ったビニールを開けると、ほんのり暖かさが底に残った、湿気でしなびている紙袋が顔を出す。
「ぬおおおお……ごはんーっ!」
中身のソレにかぶりつき、むさぼり食う。美味しいとかどうでもいい、とにかく栄養を身体が求めている。
「ちゃんと噛んでます……?」
「むん」
「次回はもう少し食事に気をつけましょう。これじゃ身体へ負担がかかりすぎていけません」
「むん」
サークルをやる上で栄養の大切さを再確認したところで、ジュースを飲み干した鈴が炭酸にゲップをする。
「寝る……!」
言うやベッドに沈み込むと、全てが完了した達成感と開放感に身体が言った。『オフトゥン最高』と。
「うああーっ……終わったぁ……」
その一言を最後に、気絶するように鈴は眠りについた。
家に到着してからのスピード感たるや、3倍速の動画のようであった。つくも神はそれを見届け、苦笑いするように微笑むのである。
「おやすみなさい。本当……お疲れ様でした」
これで、ようやく長い長いコミケの一日が終わったということになるのだ。
泥のように眠るとはまさにこのことである。原稿で徹夜続きの時とはまた別の、身体を動かしまくった後の泥だ。夢なんか当然見ない。
早朝、いつも学校に行く時間に、オーウェン様のおはようコールが起動する。
『寒いな……布団から出たくないようだが、起きなくていいのか? 今日は休んでいいならそのままにしておくが、やることがあるなら起きた方がいいんじゃないのか? おい、聞いてるか』
が、当然鈴は眠ったままだ。冬休みなのにタイマーを解除しないまま寝てしまったのだろうと分かるので、つくも神も起こそうとはせずそのまま寝かせてやる。
鈴が起きたのは31日の午後。目が覚めた瞬間、体中に疲労が残っているのを感じたが、前日は一日中動き回っていたので、体内の血液とリンパ液の循環はよくなっており、運動不足で蓄積したオタクの老廃物がすっかりきれいに流されて、体調が良いんだか悪いんだか分からない状態で思い切り伸びをする。休みだという強みがストレスをどこかへやってくれているので、そのままベッドの上で仰向けになってじっとしていた。
「つくもー、おきてるー?」
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