つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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74 いざ冬コミへ出発!

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 一言で言えば、クッッッッッッッッッッソ朝早い。
 朝というか真夜中で、現在時刻は真冬の3時30分。外は当然真っ暗闇。
 こんな時間だというのに、オーウェン様は今日も変わらぬ姿勢で鈴を起こしてくれる。

『起きろ、毎日起こしてやってる俺の身にもなれ。いい加減パッと行動に移せないのかお前は……。(カンカンカンカン)おーきーろー! バッタの群れに放り込まれたいかこの野郎』

 とはいえ、すでに鈴は起きている。眠りが浅くて少しの物音でも目が覚めてしまうような状態を長時間浮遊していたので、オーウェン様が喋り出そうとした起動音で目を開いていた。遅れてつくも神が立ち上がって現れたが、ひどい寝癖でベッドの上にぼんやり座る鈴を見て眉を下げてしまう。

「大丈夫ですか?」
「体の中心が塩の塊でできてるみたいだよぉお……」

 起きれたことは起きれたのだ、何とかなる。とにかく支度をして外に出れば有明まで行ける。
 こんな時間に起きたのは生まれてこの方ない。食欲はないがムリヤリ腹に何か入れておかないと一日がもたないのを知っているので、キッチンでカップラーメンを作ってそれを流し込んでいた。

「朝からインスタントラーメンはつれえ……」

 そうこうしていると、奥の部屋から鈴父が起きてくる。

「あ……ごめん、起こしちゃった」
「いや、お前にあわせて起きたんだ」
「え……なんで」
「お母さんが寝る前におむすび握ってるもんだから、何かあるのか聞いたら、今日がコミケで、お前たち真夜中に出て行くって言うじゃないか。子供2人だけでこんな時間に放り出すわけにもいかないだろ」
「えっ……! もしかして駅までついてきてくれんの?」
「仕方ないだろー」
「パパーッ!」

 調子の良い娘だが、大半の父には効果がある。

「良かったー! 外見たら真っ暗じゃん? ビビってたトコだった」
「全く……計画性のない」

 それはこの数ヶ月、身にしみて分かっている。
 娘の用意が終わるまでと、居間のソファに身体を横たえた鈴父を見て鈴が言った。

「あれ、着替えないの?」
「こんな夜中に出歩いてる奴いねーよ」

 おそらくそれは同業者。行く場所も同じとかいう。


 4時30分、玄関前。
 100回くらいは忘れ物がないか見直した。それでも自分が信用できずにまた確認をする。何度もつくも神に大丈夫かと訪ねたので、多分大丈夫。
 ドアを開けると、慧と一緒に寝癖でパジャマにコートを羽織った慧父が待っていた。

「オハヨー」
「はよー」

 似たような姿の父親同士が照れくさそうに会釈する。このあたりの見通しの甘さが娘に引き継がれてしまったのだろう。

「鈴ちゃのトコの父上も送ってくれるのねぃ」
「良かったー、ウチのパパ上貧弱だから、帰りに1人で暴漢に襲われでもしたらどうしようかとちょっと心配だった」
「でもこのあたり人いないから、襲われるとしたら獣なんじゃねぃ」

 タヌキは通常運転。猪はいる。もっと奥に行けば熊も出るらしい。東京の隣とはいえ、埼玉は侮れないのだ。

「では、ゆっくりしていられないので、出発します」

 始発に間に合わなければ予定が狂ってしまうのだ、ちょっとした緊張感に包まれながらコミケへの旅が始まった。


 パジャマの父2人と別れ、始発に乗れるともう勝った気分。

「終点まで爆睡だぜ」
「つくもさんに起こしてもらおう」
「バッテリーは用意してありますが、何かあると困るので無駄遣いしない方がいいですよ」
「まあ、終点までいきゃ誰か起こしてくれるだろうし」

 早朝から他力。コミケでそんな甘えた根性を披露していたら周囲に迷惑がかかるのだぞ。何でも自分でしっかり決めて行動するのが鉄則なのだ。

「一応5分前くらいにSNS経由でお声はかけます」

 目覚ましに関しては、これ程頼りになる奴もいない。


 この季節、東京の日の出は午前6時40分あたりだ。終点の池袋に到着してもまだ真っ暗闇。夜のお仕事メンたちが酒臭い匂いで帰宅しようと入れ違いで電車に乗ってくる。そのいつもと違う光景に鈴と慧は慎重になっていた。

「コミケに行くのに、リアル大人の世界を垣間見ている気がしゅりゅ」
「早くオタクの群れの中に身を投じたい」

 最強は世界が滅びても動くだろう西武線だが、名前だけさいつよの埼京線に乗り換えて大崎へ。この辺りに来ると空気中にオタク濃度が増えてきて、それを吸い込んだオタクたちの豹変によってやたらと騒がしくなってくる。
 鈴と慧はと言えば、起きたのが朝早すぎて騒ぐ元気もなく、電車の中からぼんやり窓の外を見ていたが、空がうっすらと白けてきたのに気づいて目を見開いた。

「おお……朝が来る……」

 陽の光が目に入ると、脳が『朝じゃね?』と覚醒し始め、そのあたりからエンジンがかかり始める。
 8時、東京テレーポート到着。すし詰めになっていたオタクたちが一斉に電車の外へ放たれ、車内に残された1人2人のパンピーがキョトンとなる瞬間。一歩足を踏み出せばもう、そこはコミケの圏内だ。
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