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69 心臓止まるって500回くらい言う
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彩中央高校は、午前中しっかり授業があって午後終業式という、生徒から中指立てられそうなおなかいっぱいの献立だ。学園生活を楽しむマンたちですら、最終日だからという気持ちで乗りきらないと面倒くさすぎて萎えてしまうというのに、締め切り当日で睡眠不足のオタクがテンションを上げられるはずがない。
心臓止まると思いつつ、何とか終業式を終えたのが午後3時。みんな晴れやかな笑顔でバイバイと言い合っているが、鈴と慧はこれからバイトだ。
ベッドまであと6時間。
その頃になると、ある意味ゾーンに近づいており、けれどゾーンに到達するには集中力も気力も体力も足りないので入るに入れず、宙に浮いた精神がハイテンションにうっかり踏み込んだ状態になってしまった。
「フヘッ……フヘヘヘヘヘ」
「なんか笑いが止まらないんだけど……イヒフッ」
「フヒヒッ、やめ……笑わせないで……」
「ヒヒッ、なにもやってねッ……ヒヒッヒヒッ」
16歳であるはずなのにやたらと深いシワが顔に浮かび、気持ち悪い笑顔のままちゃんこ料理藤原へと向かう。
本当に心臓止まると思いつつも、苦しい時間は流れて夜の8時。
気持ちは悪いが終始良い笑顔を振りまき、バイトも最終日が終了した。前回と同じくお賃金は手渡し希望なので、今回も藤原女将の待つ事務所でそのやりとりをするわけだが、2人の様子を見て古の貴腐人はピンときた様子。まあ自分の娘も現在似たような状態なのだろうし、過去の自分も似たようなことをやっていただろう。最後の台詞が『早く帰って寝なさい』だった。全てを知り尽くした古オタクに別れを告げ、おそらく今後もお世話になるだろうと悟りながら帰路へつく。
もうあと1時間でオフトゥンだ。風呂とかマジ心臓止まるからむりと思いつつ、鈴と慧はお互いの身体を支え合い、ガクブルする足を何とか前へ進める。
玄関が見えた。早くしないと心臓止まる。2人ともサラバの挨拶をする気力がなく、そのまま糸がほつれるようにしてお互いの家へと入っていく。ドアノブの鍵穴とか小さすぎる。鍵を刺そうという気力もないのに心臓止める気か。靴を脱いだ。並べるのは心臓が止まるのでむり。すまんママ上と思いながら階段を這って登り、ようやく自分の部屋の匂いを嗅いでHPが1回復する。+1+1+1……と少しずつ継続回復しているが、全体体力はもう9.9割削れている。毒を受けたが毒消し草を持っていないのに気づいて町まで戻る勇者の気持ちはこうだったのかと思い、次冒険に出るときは必ず毒消し草を持って行くと心に決めた。そうこうしているうちにつくも神がゆっくり起動する音が聞こえたが、かまっていたら心臓止まる。
「おかえりなさい、大丈夫ですか?」
虫。誤字を修正するとか心臓とまるので無視。制服のジャケットを脱いだところで限界が訪れた。どうせ明日から学校はないのだ、シワになってもかまやしねえ。鈴はベッドに倒れ込んで、そのまま意識をプッツリ途切れさせた。
「ああ……」
つくも神は哀れんだ声を漏らしたが、これで山は越えた。
やっとやっと、長い時間が終わりを告げたのだ。
鈴と慧は夢を見ていた。
本人達は疲労がピークで覚えていないだろう深い眠りだが、意識下で脳が一生懸命記憶を整理しようと動き回り始めたところだ。
慢性的な睡眠不足からここ何か月の整理が滞っていたが、ようやくきちんと記憶を定着させられると、脳はウキウキで近い過去をほじくり返している。
「おう慧」
「あ、鈴ちゃ」
夢でも2人はいつも一緒。ニコイチなのだ。まあ、四六時中一緒なので、記憶の整理に出てくるのも仕方がない。
「入稿したなんて信じられない」
「わかる。まだ実感湧かない」
長期のストレスで時間感覚が麻痺してしまったのだろう。今だ興奮状態が覚めやらずなので、まだ神経はピリピリ継続中といったところか。それもゆっくりすれば数日で戻ってくるはず。
「これで呪いは終わったのかな?」
「でもつくもさんから発生してるんでしょう? 鈴ちゃの部屋にでかいぱしょこんが鎮座してますよ?」
「特大の呪いがラストに来るかと思ってたんだけどなあ~?」
「うん、思ってた。もしかして原稿落とすんじゃないだろうかとか、実は考えてハラハラしていた」
「ねっ!?」
「つくもさんが壊れたのが特大の呪いってことなのかなあ……?」
それにしては今一パッとせず、つくも神も修理で直って戻ってきたではないか。2人とも唸って過去の記憶を遡り始めた。
心臓止まると思いつつ、何とか終業式を終えたのが午後3時。みんな晴れやかな笑顔でバイバイと言い合っているが、鈴と慧はこれからバイトだ。
ベッドまであと6時間。
その頃になると、ある意味ゾーンに近づいており、けれどゾーンに到達するには集中力も気力も体力も足りないので入るに入れず、宙に浮いた精神がハイテンションにうっかり踏み込んだ状態になってしまった。
「フヘッ……フヘヘヘヘヘ」
「なんか笑いが止まらないんだけど……イヒフッ」
「フヒヒッ、やめ……笑わせないで……」
「ヒヒッ、なにもやってねッ……ヒヒッヒヒッ」
16歳であるはずなのにやたらと深いシワが顔に浮かび、気持ち悪い笑顔のままちゃんこ料理藤原へと向かう。
本当に心臓止まると思いつつも、苦しい時間は流れて夜の8時。
気持ちは悪いが終始良い笑顔を振りまき、バイトも最終日が終了した。前回と同じくお賃金は手渡し希望なので、今回も藤原女将の待つ事務所でそのやりとりをするわけだが、2人の様子を見て古の貴腐人はピンときた様子。まあ自分の娘も現在似たような状態なのだろうし、過去の自分も似たようなことをやっていただろう。最後の台詞が『早く帰って寝なさい』だった。全てを知り尽くした古オタクに別れを告げ、おそらく今後もお世話になるだろうと悟りながら帰路へつく。
もうあと1時間でオフトゥンだ。風呂とかマジ心臓止まるからむりと思いつつ、鈴と慧はお互いの身体を支え合い、ガクブルする足を何とか前へ進める。
玄関が見えた。早くしないと心臓止まる。2人ともサラバの挨拶をする気力がなく、そのまま糸がほつれるようにしてお互いの家へと入っていく。ドアノブの鍵穴とか小さすぎる。鍵を刺そうという気力もないのに心臓止める気か。靴を脱いだ。並べるのは心臓が止まるのでむり。すまんママ上と思いながら階段を這って登り、ようやく自分の部屋の匂いを嗅いでHPが1回復する。+1+1+1……と少しずつ継続回復しているが、全体体力はもう9.9割削れている。毒を受けたが毒消し草を持っていないのに気づいて町まで戻る勇者の気持ちはこうだったのかと思い、次冒険に出るときは必ず毒消し草を持って行くと心に決めた。そうこうしているうちにつくも神がゆっくり起動する音が聞こえたが、かまっていたら心臓止まる。
「おかえりなさい、大丈夫ですか?」
虫。誤字を修正するとか心臓とまるので無視。制服のジャケットを脱いだところで限界が訪れた。どうせ明日から学校はないのだ、シワになってもかまやしねえ。鈴はベッドに倒れ込んで、そのまま意識をプッツリ途切れさせた。
「ああ……」
つくも神は哀れんだ声を漏らしたが、これで山は越えた。
やっとやっと、長い時間が終わりを告げたのだ。
鈴と慧は夢を見ていた。
本人達は疲労がピークで覚えていないだろう深い眠りだが、意識下で脳が一生懸命記憶を整理しようと動き回り始めたところだ。
慢性的な睡眠不足からここ何か月の整理が滞っていたが、ようやくきちんと記憶を定着させられると、脳はウキウキで近い過去をほじくり返している。
「おう慧」
「あ、鈴ちゃ」
夢でも2人はいつも一緒。ニコイチなのだ。まあ、四六時中一緒なので、記憶の整理に出てくるのも仕方がない。
「入稿したなんて信じられない」
「わかる。まだ実感湧かない」
長期のストレスで時間感覚が麻痺してしまったのだろう。今だ興奮状態が覚めやらずなので、まだ神経はピリピリ継続中といったところか。それもゆっくりすれば数日で戻ってくるはず。
「これで呪いは終わったのかな?」
「でもつくもさんから発生してるんでしょう? 鈴ちゃの部屋にでかいぱしょこんが鎮座してますよ?」
「特大の呪いがラストに来るかと思ってたんだけどなあ~?」
「うん、思ってた。もしかして原稿落とすんじゃないだろうかとか、実は考えてハラハラしていた」
「ねっ!?」
「つくもさんが壊れたのが特大の呪いってことなのかなあ……?」
それにしては今一パッとせず、つくも神も修理で直って戻ってきたではないか。2人とも唸って過去の記憶を遡り始めた。
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