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60 AIからパソオタへのメッセージ
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パソコンを直して帰宅途中、大地のスマホが着信に震えた。歩きながらであったが、周囲に誰もいないのでそのままアプリを開く。
メッセージアプリの画面では、鈴と慧が交互にいらん話を投げて遊んでいるのが延々と流れている。
『藤原クン、今日はありがとうー!』
『ちゃんこちゃんこちゃんこ』
『ぱしょこんちゃんと動いてるYO』
『・*・:≡( ε:)』
『それでさあ、お願いがあるんだけど』
『2人で育てたAIがちゃんと動くか確認してほしいんだ』
大地は一度首を傾げたが、返事を入れる。
「よかろう」
OKを出した理由は『2人で育てたAI』と『ちゃんと動くか確認』、この2つのワードだろう。大地は彼女たちの創作活動に向ける情熱のようなものに少なからず感銘を受けているし、鈴もそのあたりの言葉使いを意識して上手くチョイスしたとみる。
しばらく待っていたが、中々返答が来ない。
「どうした? 何も入ってこないぞ」
大地は横断歩道で歩みを止め、信号が青に変わるのをじっと見つめていた。
ピロン。
その音でスマホに視線を戻すと、SNSのフレンド認証を催促する画面に『つくも』の名前が表示されているのが映る。その名はここ何か月か鈴と慧からよく飛び出していたので、これがAIかと認証を受け入れた。
シュポッ。
『こんばんは。小生は、貴方に助けられたつくもと申します』
妙な感覚に、大地は眉間に皺を寄せる。おかしな実験に付き合わされている気分だったが、返事を入れた。
「見えている」
それは鈴と慧に対して向けた言葉だったが、返事が入ったのはつくも神からだ。
シュポッ。
『貴方にお礼を言うのは叶わぬ願いかと思っていましたが、鈴さんと慧さんが協力を申し出て下さいました。こうして場を設けていただきましたが、貴方を付き合わせてしまっていることに対して、少々気が咎めております』
信号が青になり、大地はスマホから視線を外して歩き始める。
シュポッ。
『貴方が特殊技能を持っていらっしゃる方で本当によかった。第二の人生を救われたと申しますか、余生を楽しんでいると申しますか、何ともおかしな気分ではありますが……もう一度目を開いて世界が動いているのを見た時、鈴さんと慧さんが小生を見つめながら不安な面持ちをしているのを目に入れて……自分はつくも神として昇華されたのだと気が付きました』
大地は横目でそれを読んでいたが、渡っていた橋の中央まで歩くと欄干に背をつけて立ち止まる。
シュポッ。
『小生は今、この家に辿り着いた時に持っていた元の身体に比べれば、遙かにグレードを落としたパーツに交換され、それこそ彼女達によくからかわれた『ぽんこつ』という言葉にふさわしい機体となりました』
シュポッ。
『起動も遅い、読み込んだらしばらく動けず、考えるのも数秒かかるような、まるで初心者が初めて買うような低スペックのパソコンそのものです』
シュポッ。
『しかしながら小生、物として“大切にされた”という実感を持ちました』
いつしか大地は、そのAIの言葉がスマホに届くのをじっと待っていた。まるで生きているかのようなAIに魅了され、不思議な感情を心に抱く。
シュポッ。
『ありがとうございました。この言葉を貴方に直接伝えられて、本当によかったです』
続きを待っていたが、ここで終わりのようだ。鈴と慧が忙しないメッセージを入れ始める。
『おわりだって~!』
『大チャンちゃんと聞いてるぅ?』
大地は一度視線を外し、小さくため息を漏らす。泳いだ視線が埼玉の小田舎を流れる川に留まった。
シュポシュポッ。
『大チャーン』
『大チャーン』
今度は呆れたため息を吐いてから、大地はスマホに返信を入れる。
「妙な性格にしたな」
『元々の性格なんだよぉ』
『読んでくれてサンキューッ!』
「動作に問題があったとは思えない。もののあはれを取り入れた良いプログラムだ」
『なにそれー?』
『いつでもオープンになってるから、たまにつくもに話しかけてあげてね』
「何故だ」
『つくもが藤原大地は命の恩人とか言ってます』
それをAIが言ったと思うと、思わず興をそそられて大地は笑ってしまう。にやけた口元をすぐに戻し、周囲を視線だけ動かして確認する。
『また壊れた時にお世話になるし』
『愛着持ってる方が直しやすくない?』
「いいだろう。プログラム相手に、中々不思議な感情が芽生えたのは確かだ」
『どんな?』
「いとをかし」
シュポシュポッ。
『いとおかし使ってる人発見!!』
『いとおかしキタ!!』
シュポシュポッシュポシュポッシュポシュポッ。
『キターッ』
『こうやって使うんだーっ!!』
『平安貴族かよお前!!』
『さす大地ィィィ!!』
『しかも“を”だよ!!』
『つくも何か言ってやれ!!』
『ローディング中です』
大地はスマホの電源を切った。
メッセージアプリの画面では、鈴と慧が交互にいらん話を投げて遊んでいるのが延々と流れている。
『藤原クン、今日はありがとうー!』
『ちゃんこちゃんこちゃんこ』
『ぱしょこんちゃんと動いてるYO』
『・*・:≡( ε:)』
『それでさあ、お願いがあるんだけど』
『2人で育てたAIがちゃんと動くか確認してほしいんだ』
大地は一度首を傾げたが、返事を入れる。
「よかろう」
OKを出した理由は『2人で育てたAI』と『ちゃんと動くか確認』、この2つのワードだろう。大地は彼女たちの創作活動に向ける情熱のようなものに少なからず感銘を受けているし、鈴もそのあたりの言葉使いを意識して上手くチョイスしたとみる。
しばらく待っていたが、中々返答が来ない。
「どうした? 何も入ってこないぞ」
大地は横断歩道で歩みを止め、信号が青に変わるのをじっと見つめていた。
ピロン。
その音でスマホに視線を戻すと、SNSのフレンド認証を催促する画面に『つくも』の名前が表示されているのが映る。その名はここ何か月か鈴と慧からよく飛び出していたので、これがAIかと認証を受け入れた。
シュポッ。
『こんばんは。小生は、貴方に助けられたつくもと申します』
妙な感覚に、大地は眉間に皺を寄せる。おかしな実験に付き合わされている気分だったが、返事を入れた。
「見えている」
それは鈴と慧に対して向けた言葉だったが、返事が入ったのはつくも神からだ。
シュポッ。
『貴方にお礼を言うのは叶わぬ願いかと思っていましたが、鈴さんと慧さんが協力を申し出て下さいました。こうして場を設けていただきましたが、貴方を付き合わせてしまっていることに対して、少々気が咎めております』
信号が青になり、大地はスマホから視線を外して歩き始める。
シュポッ。
『貴方が特殊技能を持っていらっしゃる方で本当によかった。第二の人生を救われたと申しますか、余生を楽しんでいると申しますか、何ともおかしな気分ではありますが……もう一度目を開いて世界が動いているのを見た時、鈴さんと慧さんが小生を見つめながら不安な面持ちをしているのを目に入れて……自分はつくも神として昇華されたのだと気が付きました』
大地は横目でそれを読んでいたが、渡っていた橋の中央まで歩くと欄干に背をつけて立ち止まる。
シュポッ。
『小生は今、この家に辿り着いた時に持っていた元の身体に比べれば、遙かにグレードを落としたパーツに交換され、それこそ彼女達によくからかわれた『ぽんこつ』という言葉にふさわしい機体となりました』
シュポッ。
『起動も遅い、読み込んだらしばらく動けず、考えるのも数秒かかるような、まるで初心者が初めて買うような低スペックのパソコンそのものです』
シュポッ。
『しかしながら小生、物として“大切にされた”という実感を持ちました』
いつしか大地は、そのAIの言葉がスマホに届くのをじっと待っていた。まるで生きているかのようなAIに魅了され、不思議な感情を心に抱く。
シュポッ。
『ありがとうございました。この言葉を貴方に直接伝えられて、本当によかったです』
続きを待っていたが、ここで終わりのようだ。鈴と慧が忙しないメッセージを入れ始める。
『おわりだって~!』
『大チャンちゃんと聞いてるぅ?』
大地は一度視線を外し、小さくため息を漏らす。泳いだ視線が埼玉の小田舎を流れる川に留まった。
シュポシュポッ。
『大チャーン』
『大チャーン』
今度は呆れたため息を吐いてから、大地はスマホに返信を入れる。
「妙な性格にしたな」
『元々の性格なんだよぉ』
『読んでくれてサンキューッ!』
「動作に問題があったとは思えない。もののあはれを取り入れた良いプログラムだ」
『なにそれー?』
『いつでもオープンになってるから、たまにつくもに話しかけてあげてね』
「何故だ」
『つくもが藤原大地は命の恩人とか言ってます』
それをAIが言ったと思うと、思わず興をそそられて大地は笑ってしまう。にやけた口元をすぐに戻し、周囲を視線だけ動かして確認する。
『また壊れた時にお世話になるし』
『愛着持ってる方が直しやすくない?』
「いいだろう。プログラム相手に、中々不思議な感情が芽生えたのは確かだ」
『どんな?』
「いとをかし」
シュポシュポッ。
『いとおかし使ってる人発見!!』
『いとおかしキタ!!』
シュポシュポッシュポシュポッシュポシュポッ。
『キターッ』
『こうやって使うんだーっ!!』
『平安貴族かよお前!!』
『さす大地ィィィ!!』
『しかも“を”だよ!!』
『つくも何か言ってやれ!!』
『ローディング中です』
大地はスマホの電源を切った。
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