つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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57 呪いの集大成キタ

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 パソコンの修理代など、機械オンチには見当もつかない。金持ちの大地が『異様』と言うくらいかかる金額とは一体いくらなのだ。

「どのくらいかかるの……?」
「今と同じものを積むとすれば、CPUだけで15枚は必要だな」
「敢えて聞きますが……」
「万札だ」
「デスヨネーッ!!」
「ちなみにメモリも買い換えるなら3万。マザーボードもそのくらいだな」

 当然買って交換するという選択肢以外はないのだが、そんな額を高校生がポンと払えるわけもなく。

「うぐぅ……印刷代を回したとしても全然足りない……」

 崩れ落ちて床を叩く鈴を見て、アルティメット慧は必殺技を繰り出した。

「鈴ちゃあ! 私のバイト代使って!!」

 私のバイト代使って……私のバイト代使って……私のバイト代使って……。

 その声は遙か彼方にある小惑星に届き、星の住人達は彼女の友情に涙したという。当然惑星日本に生息する多くの民は知らぬことだが、少なくとも鈴と大地はそれをハッキリと聞いた。

「さ……慧、いくら何でもそんな……金額がヤバイよ」
「私のバイト代ほぼ手つかずだし、分厚くなった本の印刷代を心配してたけど、その心配もなくなってまるっと使えるし、あとは冬休み、二人でもう一度藤原でバイトしたら買えるよ!」

 慧のその一生懸命訴える姿を見ていると、鈴は鼻がツンとして両目から汁が垂れてくる。
 彼女もまた、会いたいのだ。つくも神に。

 呪いのに集大成がやってきた。今までどれだけの試練が彼女達に降りかかってきただろう。それらを全てはねのけ、ここまでたどり着いた。コミケで本を出したいというただそれだけの願いがここまで大きく膨らみ、濃厚な数ヶ月を必死に生きてきた。

 最後にこの鉄の塊になったポンコツを救えるだろうか?
 付喪神とは、物に取り憑く怪士だったはず。では、だったら、鈴と慧がするべきことはたった一つ。とても単純な答えがそこに見えた。

 物を大切にすれば、つくも神は戻ってくる。

「おい」

 涙と鼻水を垂らした小汚い少女2人を回想から引き戻したのは、冷酷無慈悲の大地だ。

「今僕が言った金額は、あくまでも『今と同じものを積むとすれば』の話だ」
「……ん?」
「こんな廃人仕様のスペックにする必要はない。今のお前たちに必要なのはパソコンに慣れることであって、使いこなせない性能を持て余すことではないということだ」

 大地の説明は機械オンチには分かりづらい。

「コストパフォーマンスの良い別の部品にすれば、もっと安く直せる」
「えっ!!」
「同じ部品じゃなくても動くの!?」
「マザーボードは同じにした方が安全だな。その他はグレードダウンしたものでも何とかなる」
「そ、それでどのくらい金額が下がるの……?」
「合計で7万くらいかな」
「7万も下がるのか……」
「違う。合計7万支払えば、必要なパーツは全部揃う」
「そんな変わるの!?」

 パソコンの部品はピンキリなのだ。鈴と慧は呆気に囚われて言った。

「このぱしょこんて……ものすごくない?」
「だからお前達にはもったいないと言ったんだ」

 やっと物の価値というものが理解できた。散々ポンコツ呼ばわりしたマシンを等身大に感じることができるなんて、こんな日がくるとは思いもしなかった。

「藤原クン、土曜日にパーツを買いに付き合ってほしいんだけど……」
「いいだろう。僕がいなくてはどうにもならないからな」

 そこで慧は、あることに気が付く。

「藤原クンて、いつも見返りがないと手伝ってくれないのに……なんで今回は何も要求してこないの?」

 言われてみればと、鈴も大地に視線を送る。
 2人の視線を受け、大地は眼鏡のブリッジを中指で上げた。キラリと光る眼鏡のレンズは彼の切れ長の目を隠す。

「僕はお前たちに1つ借りがあっただろう」
「え?」
「いつも助けてもらってたのはこっちだったよねぃ?」
「自由研究を借りただろ」
「え、あれ?」
「あんなのが借りになっちゃうの?」

 分かっていない2人に見つめられ、大地は顔をそらす。

「僕は2人の研究結果に興味があった。お前達の、苦しみながらもただひたすら命を削って創作に打ち込んでいる姿を見て、半ば羨ましく思ったんだ」
「羨ま、しい……?」
「藤原クン……」

 少し間が空き。

「オタクになりたいの?」
「なんでそうなる!」

 慧の見当違いな質問に歯を剥き、大地は溜め息を逃す。

「僕にはお前達ほど見えないが、ここに大事な物があるのだろうことは分かっている。だからそれを取り戻す手助けをしてやろうと思っただけだ」
「つくもが見えるようになったの!?」
「む? なにが見えるって?」
「今……お前達ほど見えないって」
「デジタルで原稿を描いていたのだろう? データがハードの中にあるはずだ」

 ああ、と2人が言葉を止める。

「なーんだ、自由研究程度の条件でもいいんだ」
「労働には対価を支払う。それが藤原家の鉄則だ」

 思い返せば、夏休みの宿題から始まり、ずっと助けてくれていたのは大地だ。時に厳しくしないと物事が順調にいかないのであれば、大地の性格はこの2人の歯車によく噛み合っていたのだろう。

「そう言えば、仕切りは11月の10日と言ってなかったか?」
「うん。でももういいの。土曜日につくもが戻ってきたら、日曜日はお祝いするから」

 大地はきっと、パソコンに名前をつけたのかと呆れているだろう。もうそれでいいやと2人は思っていた。
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