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37 夏休み最終日と新学期の始まり
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それから2人はつくも神に言われるまま、モバイルバッテリーを買いに大手家電量販店へと向かった。
バッテリーは劣化すると消耗が激しくなるので、お金がなくてもここは新品一択。
朝の6時から動き通しだ。2人がいくら若いとはいえ、さすがに足は棒になっている。
「足の裏ぺちゃんこだよう……自分の体重が痛いー」
「もう疲れたー」
そんな愚痴を言いながらも歩き続け、一歩一歩が針を刺すように足の裏を攻撃してくるのを堪えつつ、しみじみとサークルは大変なんだなと痛感。買い手はここまで体力を消耗しないので、サークルが適当な靴で行くと大変な目にあうのだと分かったのは大きな収穫だった。
モバイルバッテリーの予算は5,000円以下。急速充電できるものを2人で買い、つくも神のやりとりをお互いのスマホで自由にできるようにする。
購入してから外に出て、さっそくチャージを開始。これにて任務完了となる。
「やっとお家に帰れるぅー!」
「激動の一日だったねぃー!!」
とは言え、埼玉の奥地まで戻るのはそれはそれで大変だ。これから電車を乗り継いで2時間近くかかる。
「スマホ使えるようになったから、電車の中で自由研究の最後のレポート書いちゃお」
「そうか、その手があったんだ」
ほっとすると、現実に生きていることを思い出す。
「あーっ、明日から学校かー」
「かったるいねぃ……」
夏休み最終日は、これにて終了。
翌日。
新学期がスタート。
すっかり休みボケした鈴と慧だが、宿題が完璧な分、心の負担は軽い。しかし、身体の負担が回復していなかった。
今日も今日とて、オーウェン・モーガンがおはようアラームで鈴を起こす。
『へえ? どうしたそんな顔をして? 何の夢を見たんだ? 早く顔を洗ってこい、その顔を俺以外のヤツに見せるんじゃないぞ……』
布団の中では、卍形になった鈴が身動きできずに震えていた。
「き、昨日受けたダメージが……」
起きるのに必死になるほど筋肉痛に襲われている鈴を見て、一足早く目を覚まして起動していたつくも神が溜め息を吐く。
「10代半ばでその身体能力はまずいですよ鈴さん……」
「オタクなんだから仕方がないだろぉ……」
「慧さんもこの状態ですか」
「慧は超ド級の運動オンチだ……私よりひどいはず」
「バイトで少しは体力がついたと思ったのに……」
「イベントで使う筋肉は、バイトで使う筋肉じゃねんだ……」
「料理をテーブルに出すのも本を受け渡しするのも似たようなものですし、料理を運ぶワゴンも本を運ぶ台車も似たようなものじゃないですか」
「やってみろこのポンコツアルミケース!」
「そんな無茶な」
怪我をしているわけではない。筋肉痛ならばむりやり身体を動かしているうちに解れてくるだろう。とにかく新学期早々遅刻してはマズイと、鈴は根性で起き上がった。
玄関前で慧と合流し、学校へ向かう。案の定慧からは湿布の匂いがプンプン漂っており、ほぼロボット状態。
「シヌノデハ……」
「イキロ……」
学校が見えてくると、ここ2週間見慣れた後ろ姿が目に入る。
「あの後ろ姿、藤原クンでは」
「おはよー」
慧の声に大地は振り返り、嫌な顔をしつつかけていた眼鏡のブリッジを中指で上げた。
「おはよう」
「嫌でも挨拶はできるんやな」
「人間が一番最初に教えてもらうことは挨拶だからな。幼児にできることをマトモにできないようでは話にならんだろ。ところで何だ、変な歩き方をして……」
「筋肉痛じゃぃ……」
ああ、という様子で大地は正面を向く。
「藤原クンは平気なの?」
「……まあ、ふくらはぎが張ってはいる」
「その程度なんか」
「いいなあ男子は……元から筋肉ついてて」
珍しい3人組みが一緒に歩いているのを見つけた学友達が、笑いながら通り過ぎていくのを目で追いつつ、大地は続ける。
「それより宿題はできたのか」
「バッチリよ」
「その節はどうも」
「先生から返却されたら、僕にも見せてくれ」
「え、何で? 共同自由研究だから、3人が同じ内容じゃん」
「2人とも、最後のレポートを書くと言っていただろう」
「昨日のイベントのことだよ?」
「うむ。興味がある。読ませてくれ」
鈴と慧はその意外な言葉に目を見開く。
「……藤原クン……昨日、もしかして、楽しかったりした……?」
大地の眼鏡が太陽に光り、目を隠す。
「……まあ、興味深い体験は、できたと思っている」
何ともハッキリしない答えが返り、鈴と慧はよく分からず首を傾げる。
「まあ……いいけど。じゃあ、宿題返ってきたら連絡するわ」
「連絡先、杏花梨さんのしか知らないよ?」
「ああ、チャットツールの類い持ってる?」
「うむ」
正直ガリ勉大地がSNSをやっていて意外だなと思ったが、まあそれはよし。アドレスを交換してから、正門から下駄箱のある正面玄関に向かう。
「じゃあな」
「うん」
「またねぇー」
そこで別れて、各々の教室へ。
この後、始業式が始まって、いつも通りの日常が始まっていく。
とは言え、今彼女達の近くには、非日常的な付喪神がいるのだが。
2人の少女は、これからが本当の厄難の始まりであるのを、まだ知らない。
バッテリーは劣化すると消耗が激しくなるので、お金がなくてもここは新品一択。
朝の6時から動き通しだ。2人がいくら若いとはいえ、さすがに足は棒になっている。
「足の裏ぺちゃんこだよう……自分の体重が痛いー」
「もう疲れたー」
そんな愚痴を言いながらも歩き続け、一歩一歩が針を刺すように足の裏を攻撃してくるのを堪えつつ、しみじみとサークルは大変なんだなと痛感。買い手はここまで体力を消耗しないので、サークルが適当な靴で行くと大変な目にあうのだと分かったのは大きな収穫だった。
モバイルバッテリーの予算は5,000円以下。急速充電できるものを2人で買い、つくも神のやりとりをお互いのスマホで自由にできるようにする。
購入してから外に出て、さっそくチャージを開始。これにて任務完了となる。
「やっとお家に帰れるぅー!」
「激動の一日だったねぃー!!」
とは言え、埼玉の奥地まで戻るのはそれはそれで大変だ。これから電車を乗り継いで2時間近くかかる。
「スマホ使えるようになったから、電車の中で自由研究の最後のレポート書いちゃお」
「そうか、その手があったんだ」
ほっとすると、現実に生きていることを思い出す。
「あーっ、明日から学校かー」
「かったるいねぃ……」
夏休み最終日は、これにて終了。
翌日。
新学期がスタート。
すっかり休みボケした鈴と慧だが、宿題が完璧な分、心の負担は軽い。しかし、身体の負担が回復していなかった。
今日も今日とて、オーウェン・モーガンがおはようアラームで鈴を起こす。
『へえ? どうしたそんな顔をして? 何の夢を見たんだ? 早く顔を洗ってこい、その顔を俺以外のヤツに見せるんじゃないぞ……』
布団の中では、卍形になった鈴が身動きできずに震えていた。
「き、昨日受けたダメージが……」
起きるのに必死になるほど筋肉痛に襲われている鈴を見て、一足早く目を覚まして起動していたつくも神が溜め息を吐く。
「10代半ばでその身体能力はまずいですよ鈴さん……」
「オタクなんだから仕方がないだろぉ……」
「慧さんもこの状態ですか」
「慧は超ド級の運動オンチだ……私よりひどいはず」
「バイトで少しは体力がついたと思ったのに……」
「イベントで使う筋肉は、バイトで使う筋肉じゃねんだ……」
「料理をテーブルに出すのも本を受け渡しするのも似たようなものですし、料理を運ぶワゴンも本を運ぶ台車も似たようなものじゃないですか」
「やってみろこのポンコツアルミケース!」
「そんな無茶な」
怪我をしているわけではない。筋肉痛ならばむりやり身体を動かしているうちに解れてくるだろう。とにかく新学期早々遅刻してはマズイと、鈴は根性で起き上がった。
玄関前で慧と合流し、学校へ向かう。案の定慧からは湿布の匂いがプンプン漂っており、ほぼロボット状態。
「シヌノデハ……」
「イキロ……」
学校が見えてくると、ここ2週間見慣れた後ろ姿が目に入る。
「あの後ろ姿、藤原クンでは」
「おはよー」
慧の声に大地は振り返り、嫌な顔をしつつかけていた眼鏡のブリッジを中指で上げた。
「おはよう」
「嫌でも挨拶はできるんやな」
「人間が一番最初に教えてもらうことは挨拶だからな。幼児にできることをマトモにできないようでは話にならんだろ。ところで何だ、変な歩き方をして……」
「筋肉痛じゃぃ……」
ああ、という様子で大地は正面を向く。
「藤原クンは平気なの?」
「……まあ、ふくらはぎが張ってはいる」
「その程度なんか」
「いいなあ男子は……元から筋肉ついてて」
珍しい3人組みが一緒に歩いているのを見つけた学友達が、笑いながら通り過ぎていくのを目で追いつつ、大地は続ける。
「それより宿題はできたのか」
「バッチリよ」
「その節はどうも」
「先生から返却されたら、僕にも見せてくれ」
「え、何で? 共同自由研究だから、3人が同じ内容じゃん」
「2人とも、最後のレポートを書くと言っていただろう」
「昨日のイベントのことだよ?」
「うむ。興味がある。読ませてくれ」
鈴と慧はその意外な言葉に目を見開く。
「……藤原クン……昨日、もしかして、楽しかったりした……?」
大地の眼鏡が太陽に光り、目を隠す。
「……まあ、興味深い体験は、できたと思っている」
何ともハッキリしない答えが返り、鈴と慧はよく分からず首を傾げる。
「まあ……いいけど。じゃあ、宿題返ってきたら連絡するわ」
「連絡先、杏花梨さんのしか知らないよ?」
「ああ、チャットツールの類い持ってる?」
「うむ」
正直ガリ勉大地がSNSをやっていて意外だなと思ったが、まあそれはよし。アドレスを交換してから、正門から下駄箱のある正面玄関に向かう。
「じゃあな」
「うん」
「またねぇー」
そこで別れて、各々の教室へ。
この後、始業式が始まって、いつも通りの日常が始まっていく。
とは言え、今彼女達の近くには、非日常的な付喪神がいるのだが。
2人の少女は、これからが本当の厄難の始まりであるのを、まだ知らない。
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