あまみつつき君

さんといち

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二章 天満月くんの秘密

6.かぐや姫くん

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 そこは、教室三分の一くらいの小部屋だった。

 ガラス戸付きのおしゃれな本棚が囲んで、古い本の独特な匂いがする。
 窓はないけど、だいだい色の照明が温かい。

 中央には真っ黒な革張りのソファと、大きなガラステーブル。どっちも高そう。
 でもテーブル上はお菓子の箱や銀袋が散乱している。
 お面をつけた妖精たちがちまっと立っていることを除けば、酔っ払いの席みたいな散らかりっぷり。

 
 …いるのは酔っ払いじゃなくて、だらけた男子高校生だけど。
 制服を着崩して、ソファにごろんと寝転がって。
 入りきらない脚は、肘置きの上で組まれていた。

 天満月くんの頭は入口側。首が辛そうな角度で見上げてるから、彼から見て私は逆さまになってるだろう。

 一度視線が合うと、逸らせなくなった。
 彼は大きな目も、口も、満月みたいにまあるくして固まっている。
 どんなに見続けても、光になって消えることはない。

 何十秒か、何分か、わからないけど時間が経った。
 初めに声を発したのは、私だった。

「…あれっ? なんで入れてるんだろ……」

 とっさに動いてしまって忘れてたけど、ここは七不思議『開かずの部屋』。
 一瞬、蹴破ってしまったかと焦った。
 けれど振り向いて確認したら、普通に開いている。
 だよねよかった。建てつけが悪いだけどころか、するりと開けられた気がするよ?

 ごそごそと背後で動きを感じた。
 向きを戻すと天満月くんが仰向けからうつ伏せに変わっている。

 きっ、とにらむ姿は、いかくする猫みたい。
 だけどあまり効かない。攻撃的な目の奥に、なんとなく焦りも感じるから。

 それに…、ある意味心をこめて私を見てくれていると思ったら、魚の目よりもずっとうれしくて。

「『なんで』って……、それはこっちの台詞っ」
 言い放つと同時に、天満月くんが右手をぴゅっと動かす。

 ドッ‼
「きゃっ⁉」

 な、何? 今の鈍い音!

 そろそろと首だけ回すと、さっきまで開いていた戸がぴたりと閉じている。
 …入口に手が届くのは、私だけなのに。

「え、え、どういう技術? すごい…」

 きょろきょろ。どこかにセンサーでもあるのかな? 
 天満月くんの手の動きは、乱暴に閉める仕草に似ていた。

「こんなボロ部屋にハイテクドアがあるわけないでしょ」
「そ、そっか…。……え、じゃあなんで閉まったの⁇」

 すかさず質問を重ねると、天満月くんは「は~~」と頭をかきながら身体を起こした。
 はだけたシャツから鎖骨が見えてドキッとする。これまでの天満月くんは、服装はわりときっちりしていたんだもの…!

「だから、聞きたいことがあるのはこっちだ。その入口には部外者が入れないよう俺が術をかけていた。それを破るなんて……、あんた何者?」

 …ジュツヲカケテイタ? 
 それってつまり…、バリア…?

「わ、私は何者でもないっていうか…、ただの地球人だよ…」
「いや地球外生命体だとは思ってねえよ、さすがに」

 わお、鋭いツッコミを頂いてしまった。

「だって、天満月くんのほうが…、かぐや姫、みたいじゃん…」
「か、かぐや姫?」

 何者? って私が聞きたかった。
 分身とか、戸の閉め方とか、少ししか知らないけど…、天満月くんに超人的な力があるのは間違いない。

 そういう意味で言ったんだけど、天満月くんは苦い顔つきで、しかもほんのちょっぴり頬を赤くしていた。
 私は目を疑った。分身じゃない本物の天満月くん、すっごく表情変わる!

「かぐや姫はっ、女だろ…」
「せ、性別以外のところ! 物語だけど、月からやってきたかぐや姫は大勢を惑わす美人で、光に変われて、月の人は地上の人にないパワーを持ってるから!」

「おい、今『光に変われて』って言ったか?」
「えっ、うん。急に消えてびっくりしたよ」
「ってことは、分身の俺に告白したのは——」

「あ、私です」
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