少女、途中下車の旅

金剛愛宕

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2019年夏の出会い

5312F 次の行程

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 接続する名鉄三河線の刈谷駅を右手に、5312Fは刈谷駅を定刻通りに出発する。

 新幹線との接続駅である三河安城は通過し、安城に停車する。
 八時五十五分に安城を出発すると、名鉄西尾線と交差し、矢作川を渡ると、左手に愛知環状鉄道がみえてくる。

 岡崎に停車だ。

「で、さくらはどこまで行くの?」

 ひかりが尋ねた。
 さくらは少し考える。

「んー。一応は東京方面のやねんけど、ちゃんと決まってはないねん」

 この無計画性にひかりが驚く。

「私は計画しておかないと、不安だからね。その旅は私には無理ね」
「ノリと勢いだけやけど」

 しかし、それはそれで楽しいのも事実。

「取り敢えず、東京まで一緒に行く?」
「是非!」

 ひかりは即答した。


  ◇


 名鉄蒲郡線と三河湾が見えてくると、三河塩津駅を通過する。
 もうすぐ蒲郡だ。

「で、この列車は浜松から乗り換えになるこだけど……」
「連絡してる電車は、興津行きになっとる」
「熱海まで直通する列車は少ないからね」

 ひかりとさくらは、時刻表と睨めっこしていた。
 さくらは元々、名古屋から時刻表を再確認する予定だったのだ。
 これが一時間もズレたことになる。
 時間を持て余す一人旅とは、ここが大きな差になってくる。体感時間が短い。

「関西発やと、ホームライナー乗れんしなー」
「時間的に無理だからね」

 ホームライナーは特急車両で運転される。乗り心地も良く、整理券320円で18切符を利用できる。
 18キッパーの強い味方だが、関西人はあまり縁が無かったりする。
 静岡周辺に来た時には、ホームライナーの走る時間帯をどうしても超えてしまうのだ。
 ホームライナー大垣で大阪方面へ帰るにしても、夜遅くなり過ぎるのだ。

「興津で乗り換えとなると……」
「つぎは三島行きね。三島駅でまた乗り換えね」
「なんやてひかり!」
「せやかてさくら!」
「ひかりさん! 関西弁上手!」
「えっと、私、関西人なのだけど?」

 関西人なのに標準語の人もいる。
 ひかりはそんな部類の人だ。

「とにかく、その乗り換えじゃあ賢くないわね」
「賢くない?」
「そうよ」

 ひかりはドヤ顔で頷く。
 ひかりは座りたいが為に、大垣で後続に乗り換えたくらいだ。

「まず、興津から座れない」
「……そうかも」
「次に、乗り換え回数が多い」
「……直通列車が無いし仕方ない」
「最後に、外は暑いから、なるべく避暑ひしょりたい」
「それ、ひかりさんの願望……」

 とにかく、さくらの道程よりも上手い乗り換え方法があるという事だ。

「まず、興津じゃなくて、島田か静岡で乗り換えね」
「……後続が島田始発やからやね?」
「そうそう。座れるのだよ板東くん」
「だれ?!」

 浜松から熱海の区間は車両編成数が少なく、混雑する。
 故に、『下りは興津、上りは島田で降りる』というのが、18切符の定石だ。

「やけど、静岡ってのはなんや?」
「熱海行きが静岡始発」
「なるほど!」
「静岡乗り換えなら、乗り換えが1回だけで熱海に着くの。それでいて、座りやすい」

 紙の時刻表だから、この乗り換えが調べやすい。
 ネットだけだと、これを調べるのに中々苦労するのだ。

「それに、島田発の三島行きは、興津で特急ワイドビューふじかわ5号を退避するし、乗車時間が長いのよ。静岡乗り換えだと、30分も乗り換え時間が確保できるから、軽めの軽食とかができる」
「静岡だと、お店も多いんじゃない? なら、益々便利やね」
「アスティ静岡だと、クーラーも効いてるし避暑にも最適なのよ」
「最高やん」

 なお、時間帯やダイヤによつては、この計画は使えないので注意が必要だ。
 沼津始発の熱海行きも忘るるべからず。

「あと、島田で乗り換えて、沼津から御殿場線に乗る技もあるわね」
「御殿場線は乗ったことないからなー。国府津で東海道本線にもどるんやっけ?」
「御殿場線経由だと、一時間余計に掛かるから、注意が必要ね」
「なるほど」

 一方、5312F列車は九時十六分、三河大塚に臨時停車。
 飯田線と並走し、九時二十五分には豊橋に到着した。
 七分間の停車で浜松へ出発となる。

 

 
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