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第5話
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『クッキー!』
『約束のクッキーだ!』
花畑に帰ってきた翌日、私は朝早くに起きだしてハーブを採りに行った。妖精たちはローズマリー入りのサクサクしたクッキーがお気に入りだ。他にも香りのよい花びら入りのクッキーも大好き。
だから朝露に濡れたローズマリーと、食べられて香りの良い花を摘んで家に戻る。朝食の後、手早くクッキーを作る。家族のために少しだけ取り置いた後、花畑に向かった。
「いっぱい食べて。約束のクッキーよ」
そういえばいつも以上にたくさんの妖精が集まり、あっと言う間に無くなった。
『もっと!』
『足りないよ!』
おかしい、普段の三倍は作ったのに。とはいえ妖精との契約は絶対だ。
「えっと今日はこれで終わりだけど、材料があれば明日、なければ手に入った翌日に今日と同じだけ焼くから許してくれる?」
『いいよー』
『また作ってくれるなら』
『たくさん作ってー』
私の一言にたくさんの言葉が返ってくる。
変わらない日常、これまでもこれからもきっと続く。
妖精との契約は絶対だ。
私がこんなところに居たくない、帰りたい、もう王子の顔を二度と見たくないと願って、その対価にクッキーを作ると契約した。
結果、私の日常は元通りになった。
きっともう王子と会うことも、王宮に召し上げられることもない。
王子のその後がどうなったかは知らないけど、気遣うことはしない。
妖精は人とは違う。
花畑に集まる子たちは陽気で難しいことを考えることが嫌いな快楽主義ばかりだ。善悪の区別はなく好悪で行動を決める。
それに人間とは行動規範が全く違う。
このことを頭に入れて契約しないととんでもないことになるのだ。
例えば嫌いな人に付きまとわれてどうにかしてほしいと願えば、自分か相手が死んで一緒になれない状況を作り出す。
お金持ちになりたいと願えば、大怪我を負い、慰謝料で大金持ちになる。
一事が万事がこうなのだ。
だから付きまとう男をなんとかしたいなら、相手が私以外の女性と相思相愛になり、自然につきまといがなくなるようになって欲しいと願わなくてはいけない。お金持ちになりたいと願うなら、自分がやりたい職業で成功してお金持ちになりたい。でも自分や家族が害されたり、家族の仲が壊れるような事態は望まないことを契約に盛り込む必要がある。
でも私はあの時、そんなことは願わなかった。
今頃きっと王子は私に近づけるような状態ではない。居たくないと言ったから、王宮も人が住める状態ではない可能性がある。
知ってしまえば罪悪感に苛まされ後悔するだろう。
だから敢えて気にしないのだ。
「ありがとう、皆のお陰で助かったわ」
何も知らないまま、この場所で幸せな生活を送り続ける。
「エミリー、まだ陽は高いが冷えるころ合いだ。家に帰ろう」
日暮れにはまだ早い時間、迎えが来た。
家族ではないけど、これから家族になるかもしれない人。
私は今、村の男の一人と好い仲になりつつある。
『エミリーの好きな人だ!』
『えー、エミリーにはもっといい人がいるよ!』
『でも一番、エミリーに優しい』
妖精たちが彼の人物評価をすれば、彼が少し困ったような照れた顔をする。彼は一族のなかでも数少ない、妖精がはっきり見える人なのだ。
「色々言うけど、あなたたち彼の事が好きでしょう?」
『まあねー』
『どっちかっていうと好きー』
『遊んでくれるから好き』
「あんまり彼らを使ってからかうな」
照れて笑う彼のことが、妖精とは別の意味で愛おしい。
私は彼の手を取って家に帰る。
きっとこのまま結婚して子を産み育てるのだろう。花畑にいる時間は減るけど、次代の愛し子が生まれる可能性を伝えれば、妖精たちは納得する。人の世界とは時間の流れが違う妖精界とを行き来する彼らが、人の世界に来た時に住処が無くなっているのは嫌なのだから。
『約束のクッキーだ!』
花畑に帰ってきた翌日、私は朝早くに起きだしてハーブを採りに行った。妖精たちはローズマリー入りのサクサクしたクッキーがお気に入りだ。他にも香りのよい花びら入りのクッキーも大好き。
だから朝露に濡れたローズマリーと、食べられて香りの良い花を摘んで家に戻る。朝食の後、手早くクッキーを作る。家族のために少しだけ取り置いた後、花畑に向かった。
「いっぱい食べて。約束のクッキーよ」
そういえばいつも以上にたくさんの妖精が集まり、あっと言う間に無くなった。
『もっと!』
『足りないよ!』
おかしい、普段の三倍は作ったのに。とはいえ妖精との契約は絶対だ。
「えっと今日はこれで終わりだけど、材料があれば明日、なければ手に入った翌日に今日と同じだけ焼くから許してくれる?」
『いいよー』
『また作ってくれるなら』
『たくさん作ってー』
私の一言にたくさんの言葉が返ってくる。
変わらない日常、これまでもこれからもきっと続く。
妖精との契約は絶対だ。
私がこんなところに居たくない、帰りたい、もう王子の顔を二度と見たくないと願って、その対価にクッキーを作ると契約した。
結果、私の日常は元通りになった。
きっともう王子と会うことも、王宮に召し上げられることもない。
王子のその後がどうなったかは知らないけど、気遣うことはしない。
妖精は人とは違う。
花畑に集まる子たちは陽気で難しいことを考えることが嫌いな快楽主義ばかりだ。善悪の区別はなく好悪で行動を決める。
それに人間とは行動規範が全く違う。
このことを頭に入れて契約しないととんでもないことになるのだ。
例えば嫌いな人に付きまとわれてどうにかしてほしいと願えば、自分か相手が死んで一緒になれない状況を作り出す。
お金持ちになりたいと願えば、大怪我を負い、慰謝料で大金持ちになる。
一事が万事がこうなのだ。
だから付きまとう男をなんとかしたいなら、相手が私以外の女性と相思相愛になり、自然につきまといがなくなるようになって欲しいと願わなくてはいけない。お金持ちになりたいと願うなら、自分がやりたい職業で成功してお金持ちになりたい。でも自分や家族が害されたり、家族の仲が壊れるような事態は望まないことを契約に盛り込む必要がある。
でも私はあの時、そんなことは願わなかった。
今頃きっと王子は私に近づけるような状態ではない。居たくないと言ったから、王宮も人が住める状態ではない可能性がある。
知ってしまえば罪悪感に苛まされ後悔するだろう。
だから敢えて気にしないのだ。
「ありがとう、皆のお陰で助かったわ」
何も知らないまま、この場所で幸せな生活を送り続ける。
「エミリー、まだ陽は高いが冷えるころ合いだ。家に帰ろう」
日暮れにはまだ早い時間、迎えが来た。
家族ではないけど、これから家族になるかもしれない人。
私は今、村の男の一人と好い仲になりつつある。
『エミリーの好きな人だ!』
『えー、エミリーにはもっといい人がいるよ!』
『でも一番、エミリーに優しい』
妖精たちが彼の人物評価をすれば、彼が少し困ったような照れた顔をする。彼は一族のなかでも数少ない、妖精がはっきり見える人なのだ。
「色々言うけど、あなたたち彼の事が好きでしょう?」
『まあねー』
『どっちかっていうと好きー』
『遊んでくれるから好き』
「あんまり彼らを使ってからかうな」
照れて笑う彼のことが、妖精とは別の意味で愛おしい。
私は彼の手を取って家に帰る。
きっとこのまま結婚して子を産み育てるのだろう。花畑にいる時間は減るけど、次代の愛し子が生まれる可能性を伝えれば、妖精たちは納得する。人の世界とは時間の流れが違う妖精界とを行き来する彼らが、人の世界に来た時に住処が無くなっているのは嫌なのだから。
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