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第3話  

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王子side

 妖精の住まう地を一度は見ておくように。
 そう国王である父上に言われたのはつい先日のことだ。妖精は自分たちの住処を守るため、その地に実りを与える。だから国が富むのだと、守り続けている限り飢えとは無縁でいられるのだと言われた。

 花畑以外何もないと言われて興味は失せたが、命令されたからには行かなければならない。面倒くさかったが仕方のないことだった。

 かったるい……。

 馬車に乗り込んで早々、俺は父上の命令に従ったことを後悔する。朝早く王宮を出て着くのは昼頃だ。その間ずっと馬車の中に居続けるのは苦痛だった。
 王族の使う馬車だから乗り心地は良い、
 それだけが救いだが、こんな狭い中に何時間も押し込められる身になってほしい。

 ようやく着いた妖精の生息地は何もないところだった。
 森と管理人一族が住む村があるだけ。

「つまんねえ所だな」

 そう呟いて俺は散歩にでかけることにした。運が良ければ鹿かうさぎを仕留められるかもしれない。狩の道具は馬車に積んできている。

 役人どもは俺のやることに口を出さない。視察なら連中がつつがなく終わらせるだろう。
 そうやって歩けば、突然森が開け一面の花畑が現れた。その真ん中で一人の女が座ってた。否、妖精と一緒だ。
 俺に妖精の姿ははっきりと見えないが、小さな光として認識できる。女の周りに小さな光がいくつも動いていた。
 花畑の中で一人、美しい金髪の娘が妖精と語らい遊ぶ姿はとても幻想的だった。
 笑っている女は鄙には不釣り合いの美しさだった。

「お前、名をなんという?」
 近寄った俺は女を誰何する。

「フィールズ家のエミリーと申します。妖精のお相手をさせていただいております」
 微笑みながら名乗る女は、遠くで見るよりも一層美人だった。
 顔だけでなく、鈴を転がすといった形容に相応しい声。

 ――気に入った。

 面倒なだけの視察だと思ったが、こんな役得があるとは。

「そうか、フィールズの娘ななら身分も申し分無い。王宮に連れ帰る」
 言い放つと有無を言わさず抱きかかえ馬車に連れ込んだ。

「おやめください! 私にはこの地を守る義務がございます!」
 妖精守りの娘は抵抗したが、羽根で叩かれるようなものだ。

「王子殿下の愛人になれるのだ、光栄に思え」
 そう言えば大人しくなった。

 しくしくと辛気臭く泣いているが、王宮の煌びやかな中で多くの使用人に傅かれれば気持ちも変わるだろう。
 女を靡かせるのは馬の調教よりも簡単だ。

 自分の願いが叶わなかったことが一度も無い王太子は、一目惚れしたエミリーを大喜びで連れ帰ったのだ。

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