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第2話

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 王宮はキラキラしていた。
 女の人はみんなレースをたっぷりつかった高そうなドレスを着ている。男の人もレースやフリルのあるシャツを着こみお洒落だった。

 でもここには妖精はいない。

 私は妖精を愛するのが仕事だった。彼らに愛されることに喜びを感じていたから、とても毎日が幸せだった。
 なのに視察についてきた王子が無理やり私を王宮に連れてきたのだ。

 どうして……。
 帰りたい……。

 花畑から無理やり連れだされてからずっと、涙があふれてしかたがない。
 人はこんなに泣いても涙はつきることがないのだと、泣きながら不思議な気持ちになった。

『泣かないでエミリー』
『エミリー笑って』
 声の方を見れば妖精が何人かいた。

「どうして? 花畑にいるんじゃなかったの?」
『エミリーが心配してボクたちついてきたんだ』
『でも花畑をあんまり長く離れられない』
『ここは空気が悪い』
『ダルい』

 花畑にいるよりもずっと少ない妖精たちは、少し元気が無かった。

『帰ろうよ、みんなのところに』
「帰りたいけど、帰れないの」
 またほろりと涙が零れる。
 自分で言って悲しくなった。

 帰りたいのに帰れない。どこまで来たのか分からないし、そもそもどうやって帰ればいいか分からない。

『エミリー悲しい?』
『エミリー泣かないで』

 妖精たちはエミリーの周囲を飛び回り話しかける。
 でも言葉を返すことはできなかった。




 気付けば夜になっていた。
 窓の外には星空が広がっている。

「いい加減に泣き止んだか」

 音を立ててドアを開けた王子様は、昼間と同じようにズカズカと歩いて近づいてくる。自分の思うように人が動いて当然という傲慢さに満ちた行動がとても怖い。

「帰してください……」
「ならん、お前はもう俺のものだ。ここで俺を慰めるのが仕事になったのだ」

 王子様のお顔はうっすら赤らんで、酒に酔っているのは一目瞭然だった。
「いつまで泣いてる気だ? 俺の気も引かないで」

 言うなり王子様は私を掴んで無理やりベッドの方に引きずっていく。

「やめてくださいっ! やめて……!」

 息荒く音をたてながら歩く王子様はとても怖い。掴まれた腕はふりほどこうにも万力で絞められたようにビクともしない。

 ドサリとベッドに投げ出された。

「嫌! 誰かっ! 止めて!」
 私は手足を動かしてもがくけど、男の力には敵わない。

「イヤーッ!!」

『エミリー助ける!』
『エミリーどうしてほしい?」
「助けて! 一族の所に帰りたい! みんなの守る花畑に帰りたい!」
『帰ったらボクたちにクッキー焼いて!』
『いい香りのするやつだよ!』
「約束するわ! だから家族の所に帰して! こんなところ居たくない!」
『王子はどうする?』
「二度と顔なんてみたくない!」
『判った! 一緒に帰ろう!』
『エミリー帰る』
『二度と王子が会えないようにするよ!』
『花畑に戻るよ!』
『王子いらない!』
『帰る!』

 次の瞬間、私は一族の守る花畑の真ん中にいた。

 妖精の契約

 私は妖精と契約し、一族の守る地へと帰ってきたのだった。


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次話は週明け投稿になります。
次から王子視点の話です。
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