上 下
46 / 71

浮遊島

しおりを挟む

 港から街に行くまでの道のりの横には畑や果樹園、家畜小屋などがあった。

「こんなところで農作業をしているんだね」
「陸路がねえから、いくらか生産しねえと街を維持できねえんだろ」

 浮遊島への物資の輸送手段は飛行船のみ。
 税金をつぎ込んで国が大量に飛ばしているが、それだけで街ひとつを支えるのは難しいのだろう。

「日照はともかく水はどうしてるのかな? 雲の上じゃあ雨も降らないよね」
「精霊術と……あとはなんか水源があるらしい。そこから水を引いてるんだと」
「水源? こんなところに?」
「ああ。まあ、湧いてるのは街の外らしいが」

 つまりは魔物の出るエリアである。

 そもそも魔境というのは『魔物化した地形』のことで、魔境となってからも元の地形の特徴を引き継ぐ特性がある。

 山の魔境なら斜面のある立体的な地形になるし、湖の魔境なら水棲系の魔物が潜む湖となる。
 迷宮が『洞窟』という形状を保っていたのもそのためだ。

 浮遊島に水源があるのもその理由だろう。もともと泉なり川なりがある場所が魔境化したためにそれが残存している、というわけだ。

「ちなみに水の中には魔物も出る。さすがに用水路には頑丈な柵を作って魔物が入ってこねえようにしてるが、たまにぶっ壊されて街に侵入されることもあるらしい」
「ぶ、物騒だね……さすが魔境だ」

 浮遊島は全体が魔境だ。開拓してある場所でも油断はできない。
 そんなことを話していると――シグは視界の端に何か見つけた。

「……何だありゃ」

 手押しの荷車だ。近くに人はいないが、目を引くのはその積載量である。
 クゥが二人は詰め込めそうな樽が五つ。さらに箱状のカゴに積まれた果物の山。
 とても一人で引くようなものには見えない。

「おお、すごい積み荷の量だね」

 クゥが驚き半分感心半分の声で言った。

「馬もいないようだけど……あんなの誰が引くんだろう」
「さあな。屈強なおっさんとかじゃねえか?」
「もしくは荷運び用の魔導具とか」

 そんな感じで予想を適当に口にしていると、果樹園の木々の奥から荷車の持ち主らしき人影が現れた。
 たった今収穫してきたらしい果物入りのカゴを荷車に追加したのは――

『よいせ、っと』

 老婆だった。
 どう見ても七十はとうに超えている感じの。

「「…………、」」

 コメントに窮するシグとクゥの二人。
 そのまま老婆は過剰積載の荷車の持ち手を握りしめる。まさかそれを運ぶつもりか。

「……貴族学院の連中に追いつかれたくねえからさっさと街に行きてえんだ俺は」
「わかる。よくわかるよシグ」

 そんな会話をする二人の視線の先で、老婆が亀すら同情しそうな速度で荷車を引き始める。

 荷車を動かせているのはおそらく身体強化を使っているからだろう。
 数М動かして、ふう、と一息。また数М動かして休憩。

「…………はー」

 シグは溜め息を吐いて隣のクゥに尋ねた。

「お前、あれ半分持つ気あるか」
「全部だって運ぼうじゃないか。ところで、シグってやっぱり優しいよね」
「あれ放置したら寝覚め悪すぎるだろうが……」

 二人は荷車を押す老婆のもとに足を向けた。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...