さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ

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迷宮攻略(四層)

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 六大魔境のひとつ、『迷宮』は全十層に分かれている。


 そのうち第三層までは正規ルートが存在し、整備が行き届いているため、下級精霊使いだけでも問題なく探索することができる。

 しかし下層に行くごとに魔物は強くなっていく。

 これは迷宮が自身の『心臓』を守るため、より強い魔物を配置したがるからだ。

 その影響が顕著に表れるのが三層より下というわけだ。

 具体的には危険度D……下級精霊使いだけでは倒せない魔物が増えてくる。

 よって、今までシグが足を踏み入れたことがあるのは三層までだったのだが――

 なんだかなあ、とシグは思う。

「全っ然苦戦とかしねえのな」

 四層初出の魔物『パペットウォリアー』の群れをばったばったと切り倒す。

 まったく負ける気がしなかった。

 精霊術を使うまでもない。身体強化だけでじゅうぶんだ。

 二十体近い細身の人形兵たちを草刈りするくらいの気分で経験値に変えつつ、ひょい、とシグは一歩横に移動する。

『『『――――!?』』』

 さっきまでシグがいた場所を、ものすごい勢いで吹っ飛んできた人形兵の破片が通過していった。

「……おい、クゥ。殴ったやつこっちに飛ばすんじゃねえよ」
「ごめんごめん。なんかこの魔物軽くてさ」

 シグの後方では、クゥがほぼ同数の人形兵たちを殴り飛ばして回っていた。

 場所は迷宮四層の一本道。

 その前後を人形兵の群れに囲まれ、シグとクゥは前と後ろをそれぞれ一方ずつ受け持っている状態だ。剣と盾で武装したパペット系の魔物が波のように押し寄せてきているのを、シグの剣とクゥの拳や蹴りで応戦している。

 迷宮にはトラップという要素がある。

 中でも一番厄介なのはスイッチを踏むと大量の魔物が湧き出す『魔物湧き』で、これは①一本道であり、②周囲に人が少ないときに発生しやすい。

 要するに、少人数でうろつく冒険者を多数の魔物で囲んですり潰そうという迷宮の極悪な創意工夫である。

 一~三層で正規ルートを整備しているのは、条件②を対策してこのトラップを発生させない、という理由もある。

 初心者がこれを踏むと、大量の魔物に袋叩きにされて死ぬ。

 ほぼ確実に死ぬ。

 ギルドで最初に渡される資料にも要注意事項の一つとして記載されているほどだ。

 シグもそれを知っており、またよく見れば起動のための魔法陣マナサークルも判別できるので、今まで引っかかったことはない。

 それをついさっきクゥが踏んだ。

 結果、計五十体近い危険度Dの魔物たちに囲まれるという下級精霊使いなら即死するような状況に陥ったシグとクゥだったが、普通に対処できてしまっている。

(……それだけクゥのマナ保有量がとんでもねえってことだろうな)

 剣を振るいながらシグはそんなことを思う。

 五分足らずで、シグとクゥは人形兵の群れを倒しきった。

 通路は人形兵から落ちた魔核でぐちゃぐちゃである。その光景を見回して、クゥは満足げに頷いた。

「ふふふ、こんな程度の数でぼくたちを倒そうとするなんて迷宮も甘いなあ――いふぁいいふぁい」
「お前は調子に乗る前に見え見えの罠にかかったことを反省しやがれ」

 ぐにぐにとシグはクゥの頬を引っ張りつつ、ドスの利いた声で言う。

 しばらくそうしてから手を離すと、クゥは涙目になって自分の頬を手でさすった。

「ひどい……」
「うるせえ。とりあえず魔核拾うぞ」

 そう言い、人形兵たちの魔核を拾い始める。その途中でクゥが「あっ」と声を上げた。

「シグ見て! ドロップアイテムだ!」
「あん?」

 シグが振り向くと、クゥの手には土を焼き固めたような五角形の盾が掲げられていた。

 ドロップアイテムとは、冒険者を殺すため迷宮が魔物に持たせた・・・・特殊アイテムのことだ。

 武器や防具が多いが、中には任意の場所に移動できるワープアイテムなんかもあるらしい。

 このドロップアイテムは、与えられた魔物を倒すことで奪うことができる。

 マナの塊である魔物の肉体と違って持ち主の魔物を倒しても消えない。ギルドに持っていけばたいてい魔核より高値で売れる。もちろん自分で使ってもいい。

 もっとも、アイテム持ちの魔物は数が少ない。遭遇は幸運といえた。

「で、この盾がそれか」
「ぼくはいらないけど、シグは使う?」
「あんまり使ったことはねえが、便利ではありそうだよな」

 と、クゥがシグに五角形の盾を渡してくる。

 サイズはそこまで大きくない。身体強化を使っていない状態のシグでも持ち運ぶことができるくらいの重さでもある。

 シグの使う剣術は盾を使わないものだが、盾を持ったまま何度か剣を振ったところ、雑魚相手なら問題ないと結論が出た。

「うんうん。シグは盾を持ってもかっこいいなあ」

 クゥがよくわからないことを言っている。

 かさばりそうなので捨てていくのも選択肢だが、あとでここを通りかかった他の冒険者に拾われるのも面白くない。他の魔物が再利用する可能性もある。

「まあ、一応持ってくか」
「わかった。それならぼくが運ぼうじゃないか」

 そう胸を張るクゥに、シグは盾を渡した。

 通路の隅には巨大なバックパックが置かれている。迷宮探索に必要なものや、道中で得た魔核なんかを詰め込んだものだ。

 それに盾を縄でくくりつけ、クゥは実に軽々と持ち上げた。

 クゥの膂力はシグをはるかに上回る。

 身体強化を使ってもなお、拳骨の威力ならクゥのほうが上だ。

 よってクゥが荷物運びをするのは適材適所なのだが、

(……また他の冒険者に見られたらまた煽られそうだな)

「? どうかしたの、シグ」
「何でもねえよ」

 そんなことを考えるシグを、クゥが不思議そうに見上げていた。
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