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試験②
しおりを挟む「試験では、守護者戦を想定した模擬戦を行います」
修練場に移動し、シグたちとじゅうぶん距離を取ってからルドルフは言った。
「具体的には?」
「こういうことです。――【製造・リトルガーゴイル】【製造・ガーゴイル】」
ルドルフが行使したのは地属性の精霊術だった。
土色に輝くマナは、ルドルフの前方に小型十体、大型一体の石像を作り出した。
「……ゴーレム?」
出現した『それ』を見て呟くシグに、ルドルフは頷きを返した。
「似たようなものです。完全自立型である魔物のゴーレムとは違い、ガーゴイルは私の指示に従って動くものですが」
ゴーレム系は迷宮によく出現する魔物の種類だ。特徴としては、動きが遅い代わりにやたらと堅く、また力が強い。
剣に頼っていたシグにとっては相性が悪く、ろくな思い出がない。目の前に並ぶ石像たちはそれを彷彿させる外見だった。
ルドルフが作り出したガーゴイルは、小型のほうでもシグに近い大きさで、大型のほうに至っては体高が三Мに迫る。
それがずらりと並んでいる光景はなかなか圧巻だ。
(つーか平気な顔して十一体の石像とか……)
並大抵のマナ保有量では不可能な芸当である。ルドルフが上級精霊、それもかなり高位のものを宿していることは間違いない。
サブマスターやってるだけのことはあるな、と内心で感嘆しつつ、シグは剣の柄に手をかけた。
「要するに、こいつらを倒せばいいってことか」
「その通りですが、くれぐれも油断しないようにしてくださいね」
「あん?」
「この試験は、本来『上級精霊使いを含む複数人チーム』を想定したものです。当然、難易度もそれ相応に高い」
脅すような響きはなく、あくまで淡々とルドルフはそう告げる。
それがむしろ事実を示しているように思えた。
「精霊の守護なく一発でも食らえば、内蔵のひとつふたつは弾けます。……それでもまだ、試験を受けると言いますか?」
シグの答えは決まっている。ああ、と頷こうとしたところで、被せるように声が割り込んできた。
「もちろんさ。あと、サブマス君。話をする相手を間違えているよ」
「はい?」
クゥが、シグを押しのけて前に出る。目を瞬かせるルドルフに対して、
「――その人形たちと戦うのは、ぼくだ。というわけで、試験の内容はわかったからさっさと始めようじゃないか」
そんなことを言った。
スバァン、とシグはフードを被ったクゥの後頭部をはたく。
「痛い! なんで!?」
「お前、さっきルドルフが俺に言った台詞を根に持ってんだろ」
「そ、それだけじゃないよ」
理由の一つではあるらしい。
「ほら、シグってぼくに何ができるのかまだ知らないでしょ? せっかくだから披露しようかと思って。ほら、戦力把握は大事じゃないか」
「は? お前って戦えんのか?」
「それなりに。あのくらいなら何とかしてみせようじゃないか」
クゥは特に見栄を張っている様子はない。
戦力把握が大事、という点にも一理ある。
だが、それで試験に落ちたら元も子もない。
「……お前が一発でも食らったら、俺も介入する。かすったり、敵の攻撃が避け切れない状態に追い込まれたりしてもアウトだ。その条件なら構わねえ」
「うん。いけると思う」
あっさり頷くクゥ。そんなに自信があるならやらせてみるか、とシグはそう結論した。
「すまん、待たせた。こいつがやるそうだ」
ルドルフにそう声をかけると、眼鏡越しに怪訝な視線が返ってくる。
「この試験を一人で、ですか?」
「ルール違反か?」
「試験をクリアした人間がいれば、そのパーティは守護者に挑戦できますが……」
「なら構わねえだろ。いざとなったら俺も加勢する」
意見を曲げる様子のないシグに、ルドルフは溜め息を吐いた。
「……はぁ。これ以上言っても無駄なようですね」
ルドルフの視線が鋭さを増す。ぴり、とシグは彼の雰囲気が変わったのを悟った。
戦闘態勢だ。
「――では、これより試験を開始します! ガーゴイルたちよ、戦闘に移りなさい!」
ルドルフの宣言と同時、ガーゴイルたちが揃えて一歩を踏み出した。
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