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連載
犬……? いや、狼……?
しおりを挟む戦闘終了だ。
もう周囲には他の魔物はいない。
私はそれを確認してから、深く溜め息を吐いた。
「…………不覚です……」
自分で自分が信じられない。いくら強敵を倒したばかりだからと、気を緩めるなんて。
「ティナ、大丈夫?」
「はい。助かりました、ノア。それにしてもあなたは普通に魔術が使えたんですね」
「教えてもらった」
そういえばノアはここに来る前、宮廷魔術師に魔術の訓練をしてもらっていたんだった。
……とはいえ、まだ初めてせいぜい二日かそこらでは?
それでああも的確に魔術を使えるというのは、ノアは案外天才肌なのかもしれない。
なんて考えていると、ノアが私に向かって言った。
「屈んで」
「はい?」
頭に何かついているのだろうか。
私が言われた通りにすると、ノアは位置の下がった私の頭を撫でた。
なでなでと何度もさすってくる。
「……あの、ノア。これは一体」
「ティナ、落ち込んでたみたいだったから。落ち込んだ相手にはこうする」
「本に書いてあったんですか?」
「ん」
どうやら私はノアが見てわかるほど気落ちしていたようだ。
どうしよう。なんだか今の私はすごく情けないような気がする。
「も、もういいです。お気遣いありがとうございます」
さすがに恥ずかしかったのでさっさと切り上げる。その際にノアが少し残念そうにしていたように見えたのは、私の目の錯覚だろう。
さて、魔石を拾わないと。
そう思って視線を下に向けると、私はあることに気付いた。
「魔石が二つ……?」
そう、二体目のベヒーモスを倒した場所には大小ひとつずつの魔石が落ちていた。
どれだけ強い魔物でも、倒したあとに残る魔石はひとつ。
これはどういうことだろう。
……ああ、もしかして。
「さっきの魔物、二体もいるとは思わなかった」
ちょうどよくノアがそんなことを言ったので、私は仮説を語った。
「おそらく、つがいだったのでしょうね」
「つがい?」
「ええ。二体目のベヒーモスからはふたつ魔石が出ました。おそらく親のぶんと、お腹の中にいた子供のぶんでしょう」
魔物は体内で子供の魔石を生成する。だから二体目のベヒーモスからはふたつの魔石が出たんだろう。
となると、ここにベヒーモスがいた理由も想像がつく。
おそらく出産のためだ。隙のできやすい出産を安全に行うため、周囲に危険な魔物の少ない『神隠しの森』までやってきたというわけだ。
「ふうん」
ちなみにノアはわりとどうでもよさそうだった。
いや、まあ、感心してもらいたかったわけではないんですが。
「それより、ここ、どうして『神隠しの森』っていうの?」
どうやらノアには森の名前の由来のほうが大事らしい。
「そのままですよ。なんでもここに入った人間がたまに失踪することがあるそうです。おそらくは迷信でしょうが」
「へえ」
「失踪の理由についても様々です。怪物に食い殺されるだの、精霊に連れていかれるだのと色々と説はありますね」
おそらく、森の周辺に住む人たちがそういう教訓を口伝しているんだろうと思う。
この森にはベヒーモスほど危険ではなくとも、魔物が住んでいる。
村の子供たちが無暗に森に入らないように、そういう言い伝えで脅かしているのだ。
つまりは眉唾である。
「神様がいるわけじゃないんだね」
「こんなところにいたりはしないと思いますよ」
……そんなことを話していたからだろうか。
「貴様ら、大儀であった! よくぞあの忌まわしい黒き獣を始末してくれたな! 礼を言ってやろう! わははははっ!」
なにか聞こえた。
私とノアが視線を向けると、そこにはいつの間にか動物がやってきていた。
小さい犬。
いや、狼だろうか。
その狼はなぜか赤く、四肢にオレンジ色の炎を纏っていた。
「ん? おい、なぜ返事をせんのだ。せっかくこの我が話しかけてやっているというのに!」
しかもどう見ても人間の言葉をしゃべっている。
「「……」」
私とノアは顔を見合わせた。
なんですか、これは。
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