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王城の祭壇
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翌日、私たちは宿を出て王城へと向かった。
「オズワルドさん、それは何ですか?」
オズワルドさんが見慣れない魔道具を手にしているのを見て尋ねる。
見た目は直径五センチぐらいの石がついたネックレスだけど、石の中には不思議な光が揺れている。普通のネックレスではないだろう。
「これはかざしたものの魔力波長を保存する魔道具だ。これを使って例の場所の魔力のパターンを採取する」
例の場所――つまり封印の祭壇のことだ。
「採取するとどうなるんですか?」
「疑似的にではあるが、それをもとに同じ魔力を再現できる。それを用いて実験を行い結界の仕組みを考えるのだ」
「そんなことができるんですか!」
「可能だ。もっとも再現する時には多量の魔力が必要になるがな」
つまりこのネックレスを使えば、魔神の妖気を再現できるということだ。
危険なものではあるけれど、それがないと結界の試作もできない。
「……一応ですけど、再現するときは厳重に管理してくださいね」
「当たり前だ。ああ、セルビア。お前の魔力も後でサンプルをもらうが構わないな? 聖女候補の魔力も必要だ」
「わかりました」
今は結界の試作品を作る準備段階、というところだ。
魔神の影響を封じる結界ができるのにはいくつもステップを残しているだろうけど、一つ一つこなしていくしかない。
頑張ろう。
「――ようこそ、元聖女候補セルビアとお連れの方々。本日は要請を受け入れてくれたこと、感謝いたします」
……?
謁見の広間に向かうと、国王様の隣に座る聖女エリザ様に私たちはそんなことを言われた。
「ええと、要請というのは」
私が聞くと、聖女様は謁見の広間にいる騎士たちにも聞こえるような声で言った。
「もちろん、あなたたちに城に地下にある封印を見ていただくことです。先日“私が依頼した”ように」
依頼も何も、こっちからエリザ様に調査協力をお願いしたはずで……
あ、そっか。
王城の封印だろうと、結局は私たちが魔神討伐のために動いていることを知られないに越したことはない。教皇様がエリザ様に一芝居打ってもらうようお願いしたんだろう。
徹底している。
それだけ教皇様は教会内の他派閥を警戒しているようだ。
「それでは皆様、こちらへ」
エリザ様は私たちを先導し、謁見の広間の外へと向かうのだった。
王城の中を移動していく。
やがて地下に入り、誰も近くにいなくなったところで……
「……はあ、まったく面倒な……なぜ私がこんなことに協力を……」
エリザ様が心の底から嫌そうに吐き捨てた。
ハルクさんが聖女様に尋ねる。
「今更ですが、よく協力してくれる気になりましたね。僕は正直断られるかもしれないと思っていましたよ」
「仕方ないでしょう。迷宮からあふれた魔物のせいで王都は壊滅状態に陥りました。それが短期間でここまで復興したのはなぜだと思いますか?」
「なぜって……ああ、そういうことですか」
ハルクさんが納得している。ちなみに私はちっともわからない。
「どういう意味ですか?」
「要するに、王都を立て直すためにラスティア教が多額の出資を行ったってことだよ。だから王家は教会に借りがあるんだ」
「あ、なるほど。そういうことだったんですか」
国王様もエリザ様も、基本的には魔神討伐に対して否定的だ。
なのに今回協力してくれているのは、教皇様が事前に貸しを作っておいてくれたから、ということだろう。
「まったく、ただでさえ最近は祈祷が過酷で疲れているというのに……」
さらにつぶやくエリザ様。
そういえば、白粉でごまかしてはいるけれどエリザ様の顔色はあまり優れないように見える。
「祈祷が過酷? ……まさか、封印の祭壇に異常でもあったんですか?」
私はエリザ様に尋ねた。
もしそうだとしたら一大事だ。
迷宮が出現したせいで、王城の祭壇にも影響があったんだろうか。
「そういうわけではありません。ただ、ここのところ聖女候補の派遣が減っているんです」
「聖女候補の派遣が減っている?」
「何を白々しい……あなたのせいですよ、セルビア。あなたがいなくなったせいで教会の祭壇の封印を維持するのに、聖女候補たちを集中させざるを得なくなったのです」
ああ……
そういえば私がいた頃は、私が毎日十時間以上も祈祷を行うことで封印をもたせていたんだった。迷宮の一件で私と、ついでにリリアナが離脱したせいで教会の封印維持が難しくなっているのだ。
「これまでは私の祈祷は週に三日で済んだのに、今は週に六日……! これでは休む暇がありません!」
エリザ様はうんざりしたように言う。
そう聞くと大変そうだけど、私としては言いたいことがある。
「あの、エリザ様。聖女様に選ばれるのは、王城の祭壇を一人で管理できる実力がある人だけですよね?」
「な、なんですか!? まさか私が派遣される聖女候補に仕事を押し付けて自分の責務をさぼっていたとでも言うつもりですか!?」
「そこまでは言ってませんが……」
「ストレスのかかる祈祷は肌に良くないのですよ。王妃たるもの美しくあることが必須。ゆえに祈祷はあまりしないほうがいいのです」
開き直ったようにそう言うエリザ様。なんというか、リリアナたちと話しているときのことを思い出すなあ……
エリザ様は気まずい空気をごまかすように咳ばらいをした。
「さ、最近は聖女候補も人手不足なので、本部の教会から見習いを呼び込んでいるそうですね」
「そうなんですか?」
聖女候補はまず教会にスカウトされたあと、教会の本部で修道女としての修行をする。
簡単な除霊や治療魔術の実践、あとは一般教養の勉強などだ。
そういうことを終えてから、見習いたちは聖女候補としての仕事をするために王都にやってくる、という手順である。
どうやら教会は聖女候補不足を解消するために、その見習いを招集しているらしい。
「聖女候補としての適性が高いものを五人ほどこちらに送ってきたようです。中には脱走を繰り返す問題児もいるようですが」
「「「「……」」」」
私たち全員の頭に、昨日見かけた茶髪の少女の姿が思い浮かんだ。
確かにあのモニカと呼ばれていた聖女候補は問題児の風格があった。
……ま、まあ、聖女候補の祈祷に性格は関係ないから問題ないだろう。
「彼女たちが祈祷に慣れて、こちらにも来てくれることを祈るばかりです。……と、つきましたね」
エリザ様はそう言って足を止めた。
地下通路の奥。
そこには重厚な黒褐色の扉が待っていた。
「オズワルドさん、それは何ですか?」
オズワルドさんが見慣れない魔道具を手にしているのを見て尋ねる。
見た目は直径五センチぐらいの石がついたネックレスだけど、石の中には不思議な光が揺れている。普通のネックレスではないだろう。
「これはかざしたものの魔力波長を保存する魔道具だ。これを使って例の場所の魔力のパターンを採取する」
例の場所――つまり封印の祭壇のことだ。
「採取するとどうなるんですか?」
「疑似的にではあるが、それをもとに同じ魔力を再現できる。それを用いて実験を行い結界の仕組みを考えるのだ」
「そんなことができるんですか!」
「可能だ。もっとも再現する時には多量の魔力が必要になるがな」
つまりこのネックレスを使えば、魔神の妖気を再現できるということだ。
危険なものではあるけれど、それがないと結界の試作もできない。
「……一応ですけど、再現するときは厳重に管理してくださいね」
「当たり前だ。ああ、セルビア。お前の魔力も後でサンプルをもらうが構わないな? 聖女候補の魔力も必要だ」
「わかりました」
今は結界の試作品を作る準備段階、というところだ。
魔神の影響を封じる結界ができるのにはいくつもステップを残しているだろうけど、一つ一つこなしていくしかない。
頑張ろう。
「――ようこそ、元聖女候補セルビアとお連れの方々。本日は要請を受け入れてくれたこと、感謝いたします」
……?
謁見の広間に向かうと、国王様の隣に座る聖女エリザ様に私たちはそんなことを言われた。
「ええと、要請というのは」
私が聞くと、聖女様は謁見の広間にいる騎士たちにも聞こえるような声で言った。
「もちろん、あなたたちに城に地下にある封印を見ていただくことです。先日“私が依頼した”ように」
依頼も何も、こっちからエリザ様に調査協力をお願いしたはずで……
あ、そっか。
王城の封印だろうと、結局は私たちが魔神討伐のために動いていることを知られないに越したことはない。教皇様がエリザ様に一芝居打ってもらうようお願いしたんだろう。
徹底している。
それだけ教皇様は教会内の他派閥を警戒しているようだ。
「それでは皆様、こちらへ」
エリザ様は私たちを先導し、謁見の広間の外へと向かうのだった。
王城の中を移動していく。
やがて地下に入り、誰も近くにいなくなったところで……
「……はあ、まったく面倒な……なぜ私がこんなことに協力を……」
エリザ様が心の底から嫌そうに吐き捨てた。
ハルクさんが聖女様に尋ねる。
「今更ですが、よく協力してくれる気になりましたね。僕は正直断られるかもしれないと思っていましたよ」
「仕方ないでしょう。迷宮からあふれた魔物のせいで王都は壊滅状態に陥りました。それが短期間でここまで復興したのはなぜだと思いますか?」
「なぜって……ああ、そういうことですか」
ハルクさんが納得している。ちなみに私はちっともわからない。
「どういう意味ですか?」
「要するに、王都を立て直すためにラスティア教が多額の出資を行ったってことだよ。だから王家は教会に借りがあるんだ」
「あ、なるほど。そういうことだったんですか」
国王様もエリザ様も、基本的には魔神討伐に対して否定的だ。
なのに今回協力してくれているのは、教皇様が事前に貸しを作っておいてくれたから、ということだろう。
「まったく、ただでさえ最近は祈祷が過酷で疲れているというのに……」
さらにつぶやくエリザ様。
そういえば、白粉でごまかしてはいるけれどエリザ様の顔色はあまり優れないように見える。
「祈祷が過酷? ……まさか、封印の祭壇に異常でもあったんですか?」
私はエリザ様に尋ねた。
もしそうだとしたら一大事だ。
迷宮が出現したせいで、王城の祭壇にも影響があったんだろうか。
「そういうわけではありません。ただ、ここのところ聖女候補の派遣が減っているんです」
「聖女候補の派遣が減っている?」
「何を白々しい……あなたのせいですよ、セルビア。あなたがいなくなったせいで教会の祭壇の封印を維持するのに、聖女候補たちを集中させざるを得なくなったのです」
ああ……
そういえば私がいた頃は、私が毎日十時間以上も祈祷を行うことで封印をもたせていたんだった。迷宮の一件で私と、ついでにリリアナが離脱したせいで教会の封印維持が難しくなっているのだ。
「これまでは私の祈祷は週に三日で済んだのに、今は週に六日……! これでは休む暇がありません!」
エリザ様はうんざりしたように言う。
そう聞くと大変そうだけど、私としては言いたいことがある。
「あの、エリザ様。聖女様に選ばれるのは、王城の祭壇を一人で管理できる実力がある人だけですよね?」
「な、なんですか!? まさか私が派遣される聖女候補に仕事を押し付けて自分の責務をさぼっていたとでも言うつもりですか!?」
「そこまでは言ってませんが……」
「ストレスのかかる祈祷は肌に良くないのですよ。王妃たるもの美しくあることが必須。ゆえに祈祷はあまりしないほうがいいのです」
開き直ったようにそう言うエリザ様。なんというか、リリアナたちと話しているときのことを思い出すなあ……
エリザ様は気まずい空気をごまかすように咳ばらいをした。
「さ、最近は聖女候補も人手不足なので、本部の教会から見習いを呼び込んでいるそうですね」
「そうなんですか?」
聖女候補はまず教会にスカウトされたあと、教会の本部で修道女としての修行をする。
簡単な除霊や治療魔術の実践、あとは一般教養の勉強などだ。
そういうことを終えてから、見習いたちは聖女候補としての仕事をするために王都にやってくる、という手順である。
どうやら教会は聖女候補不足を解消するために、その見習いを招集しているらしい。
「聖女候補としての適性が高いものを五人ほどこちらに送ってきたようです。中には脱走を繰り返す問題児もいるようですが」
「「「「……」」」」
私たち全員の頭に、昨日見かけた茶髪の少女の姿が思い浮かんだ。
確かにあのモニカと呼ばれていた聖女候補は問題児の風格があった。
……ま、まあ、聖女候補の祈祷に性格は関係ないから問題ないだろう。
「彼女たちが祈祷に慣れて、こちらにも来てくれることを祈るばかりです。……と、つきましたね」
エリザ様はそう言って足を止めた。
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