96 / 113
連載
シャンという竜
しおりを挟む
「騎乗の訓練を行う必要があるな」
竜を選んだ後、オズワルドさんがそんなことを言った。
「竜に乗る練習ということですか?」
「そうだ。そこの赤髪は初心者のようだし、俺もブランクがある。出発する前にある程度は慣れておきたい」
「あー……確かにぶっつけ本番で長距離飛ばせって言われたら自信ねえなあ」
髪をかきながらレベッカが同意する。
「それもそうだね。よければ僕が教えようか?」
「悪りーなハルク、助かる」
「構わないよ」
ハルクさんは以前私に竜の乗り方をわかりやすく教えてくれた。教師役にはぴったりだろう。
竜に乗るためには専用の道具がいくつか必要になるけど、幸い予備で持っていたものが使えた。
レベッカの竜は体格が大きいので、やや窮屈そうだったけど。
岩竜山脈を降りたら、どこかの町で新しい道具を用意する必要がありそうだ。
「それじゃあセルビア、行ってくるね」
「はい。三人ともお気をつけて。回復魔術が必要な時は呼んでくださいね」
というわけで三人は火竜の長の洞窟から出て行った。
さて、私は何をしていようか。
『ガアッ』
あ、シャンが寝そべった。
これはブラッシング待ちの姿勢だ。
隣ではタックもシャンの真似をするように同じ態勢を取っている。
「ブラッシングしてほしいんですか?」
『ガウ』
「時間もありそうですし……わかりました。いいですよ」
『『ガウ、ガウッ』』
特にすることもないので、ブラッシング開始。
いつもの剣山のようなブラシで鱗の隙間を丁寧に磨いていく。
『……驚いた。このお転婆がここまで人間に気を許すなんてね』
火竜の長が不意にそんなことを言った。
「このお転婆って……シャンのことですか?」
『そうとも。こいつはこの山の竜の中でも、一番の問題児でねえ……気性が荒くていつも喧嘩ばかりする。毎日毎日他の火竜と小競り合いを起こし、しまいには窪地から出て勝手に山の隅に暮らし始めちまった』
火竜の長が語ったのはこの山にいた頃のシャンのことだった。
なんというか、容易に想像できるなあ……
『こいつが気を許していたのはそっちの弟だけだったよ。同年代の他の竜は、だいたいそのシャンに一度はこてんぱんにされてたね』
『グルウ』
知ったことか、という感じでシャンは鼻を鳴らした。
火竜の長は唸るような声を発する。
『……で、群れから離れたのが災いした。弟もろとも人間に捕らえられちまったんだから。私のそばにいればそんなことはさせなかったのにね』
「……!」
『私はそいつらを捕まえた人間を見つけたら、血祭りにあげてやるつもりだった。乱暴者だろうとそいつらは同胞だからね。けど――あんたらを見て気が変わったよ。少なくともその二匹は望んであんたらと一緒にいる』
「そうなんですか?」
『見てたらわかるよ。あんたがシャンと呼んでるその竜は、あんたに相当入れ込んでるね』
火竜の長の言葉を聞きながらシャンをちらりと見る。
『……フン』
ぷい、とシャンは目を逸らした。
……この反応は、もしかして照れてる?
か、可愛い!
もしかするとシャンは教会にいた頃に読んだ乙女向け小説でよく見た、『つんでれ』というものなんだろうか。
今までもシャンのことは頼りにしていたけれど、こんな話を聞かされたらさらに好感度が上がってしまう。
『もしあんたたちが無理に同胞を連れ回しているなら、あんたらを始末してでも二匹を連れ戻すつもりだった。けど、その必要はなさそうだね』
火竜の長は満足そうにそう言って笑うのだった。
竜を選んだ後、オズワルドさんがそんなことを言った。
「竜に乗る練習ということですか?」
「そうだ。そこの赤髪は初心者のようだし、俺もブランクがある。出発する前にある程度は慣れておきたい」
「あー……確かにぶっつけ本番で長距離飛ばせって言われたら自信ねえなあ」
髪をかきながらレベッカが同意する。
「それもそうだね。よければ僕が教えようか?」
「悪りーなハルク、助かる」
「構わないよ」
ハルクさんは以前私に竜の乗り方をわかりやすく教えてくれた。教師役にはぴったりだろう。
竜に乗るためには専用の道具がいくつか必要になるけど、幸い予備で持っていたものが使えた。
レベッカの竜は体格が大きいので、やや窮屈そうだったけど。
岩竜山脈を降りたら、どこかの町で新しい道具を用意する必要がありそうだ。
「それじゃあセルビア、行ってくるね」
「はい。三人ともお気をつけて。回復魔術が必要な時は呼んでくださいね」
というわけで三人は火竜の長の洞窟から出て行った。
さて、私は何をしていようか。
『ガアッ』
あ、シャンが寝そべった。
これはブラッシング待ちの姿勢だ。
隣ではタックもシャンの真似をするように同じ態勢を取っている。
「ブラッシングしてほしいんですか?」
『ガウ』
「時間もありそうですし……わかりました。いいですよ」
『『ガウ、ガウッ』』
特にすることもないので、ブラッシング開始。
いつもの剣山のようなブラシで鱗の隙間を丁寧に磨いていく。
『……驚いた。このお転婆がここまで人間に気を許すなんてね』
火竜の長が不意にそんなことを言った。
「このお転婆って……シャンのことですか?」
『そうとも。こいつはこの山の竜の中でも、一番の問題児でねえ……気性が荒くていつも喧嘩ばかりする。毎日毎日他の火竜と小競り合いを起こし、しまいには窪地から出て勝手に山の隅に暮らし始めちまった』
火竜の長が語ったのはこの山にいた頃のシャンのことだった。
なんというか、容易に想像できるなあ……
『こいつが気を許していたのはそっちの弟だけだったよ。同年代の他の竜は、だいたいそのシャンに一度はこてんぱんにされてたね』
『グルウ』
知ったことか、という感じでシャンは鼻を鳴らした。
火竜の長は唸るような声を発する。
『……で、群れから離れたのが災いした。弟もろとも人間に捕らえられちまったんだから。私のそばにいればそんなことはさせなかったのにね』
「……!」
『私はそいつらを捕まえた人間を見つけたら、血祭りにあげてやるつもりだった。乱暴者だろうとそいつらは同胞だからね。けど――あんたらを見て気が変わったよ。少なくともその二匹は望んであんたらと一緒にいる』
「そうなんですか?」
『見てたらわかるよ。あんたがシャンと呼んでるその竜は、あんたに相当入れ込んでるね』
火竜の長の言葉を聞きながらシャンをちらりと見る。
『……フン』
ぷい、とシャンは目を逸らした。
……この反応は、もしかして照れてる?
か、可愛い!
もしかするとシャンは教会にいた頃に読んだ乙女向け小説でよく見た、『つんでれ』というものなんだろうか。
今までもシャンのことは頼りにしていたけれど、こんな話を聞かされたらさらに好感度が上がってしまう。
『もしあんたたちが無理に同胞を連れ回しているなら、あんたらを始末してでも二匹を連れ戻すつもりだった。けど、その必要はなさそうだね』
火竜の長は満足そうにそう言って笑うのだった。
5
お気に入りに追加
12,218
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。