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「セルビア」と「ロゼ」
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「今日は付き合わせてしまってすみません。帰りましょうか」
シャンから降りたあと、私はロゼさんと一緒に街に戻ることにした。
森を抜ける途中でロゼさんが呟くように言った。
「……あの、さっきの言葉は本当ですか?」
「さっきの言葉?」
「セルビアさんが、わたしのことを尊敬しているって」
ロゼさんの問いに私は特に迷わず頷いた。
「本当ですよ。私はロゼさんの努力家なところを尊敬していますし、好ましく思っています」
「……だったら、その、よかったらなんですが」
「?」
首を傾げた私にロゼさんは思い切ったように言ってきた。
「それなら、セルビアさん。……わ、わたしのお友達になってくれませんか!?」
緊張したのか裏返り気味な声でそう申し出てくるロゼさん。
……
「…………一応、私はもうロゼさんの友達のつもりでいたんですが」
「えっ」
驚いたような表情をするロゼさん。その反応はちょっとショックだ。
……いや、でも図書塔で勉強を教えてもらったときも、「わたしには友達がいない」みたいなことを言ってたし、予想はしていたけど……
「で、でも、セルビアさんはずっと敬語じゃないですか」
「私はこれ以外の喋り方ができないんです」
これは本当だ。
幼少期から教会で過ごした私は、淑女教育やら周りの喋り方の影響やらで敬語以外の会話がほとんどできなかったりする。
「ですから、私に合わせてくれる必要はないですよ。私はロゼさんには喋りやすい口調で話して欲しいです」
「えっと……いいの?」
「はい」
「――!」
ロゼさんに頷くと、ロゼさんはぱあっと笑みを浮かべた。
その表情を見るに、もともと彼女は素直な性格だったんだろう。
環境によって卑屈になってしまっただけで。
「呼び方もセルビアでいいですよ」
「じゃ、じゃあ、わたしのこともロゼって呼んでくれま……くれる?」
「わかりました。ではこれからはロゼで」
「う、うん」
どこか緊張したように頷くロゼさん――もといロゼ。
「では帰りましょうか」
「そうだね」
話すべきこともなくなったので、再度森の出口に足を向ける。
歩きながら私はわざと落ち込んだような声で言った。
「それにしてもショックです。まさか私はいまだにロゼと友達だと思ってもらえてないなんて……」
「そ、それは申し訳なかったからで……! セルビアは凄い人だし、わたしと友達なんて迷惑かなって思っただけで――」
「あはは」
「なんで笑うの!? 絶対からかってるよね!?」
そんな感じで抗議してくるロゼの言葉を聞き流しつつ、私たちは街に戻るのだった。
▽
「あれ、オズワルド?」
「ハルクか。こんな場所で何をしている?」
街中の一角。
『剣神』ハルクは意外な人物とばったり遭遇していた。
ハルクは周囲に聞き耳を立てている人がいないか確認したあと、オズワルドの質問に応じる。
「いや、僕は普通に街の調査だよ。『第一学院』の中庭は調べ終わったからね」
「ふむ。何か成果は?」
「うーん……例の仮面の剣士がかなりの実力者だとわかったくらいかな」
ハルクが言うと、オズワルドは「特に進展はなかったということか」と呟いた。
中庭での事件は半月前のことだし、特に期待はしていなかったようだ。
「オズワルドこそ街で何を? 普段ならまだ学院にいる時間じゃないか」
「警備ゴーレムの調整だ」
「警備ゴーレムの?」
ハルクの問いにオズワルドは頷く。
「警備ゴーレムには映像記録装置が組み込まれている。それに仮面の剣士の情報を加え、見つけ次第衛兵に知らせるよう調整した」
「本当に何でもできるねきみは……」
半ば呆れたようにハルクは言った。
オズワルドは警備ゴーレムを管理するシステムを改良し、副会長から聞いた仮面の剣士の特徴を入力したのだ。
警備ゴーレムはとても複雑なプログラムで動く。
それを書き換えるのも並大抵の難易度ではないはずだが、オズワルドにとっては問題にならないようだ。
「もっとも入力したのは仮面の模様くらいだ。これで効果があればいいがな」
「副会長のほうは放っておいて大丈夫なのかい?」
「身を守る防御魔術と、緊急連絡機能を持った魔道具を渡してある。迂闊に出歩かなければ安全だろう」
「そっか。それなら安心だね」
ひとまず副会長がもたらした情報に関する処理は終えてあるようだ。
「ああ、そうだ。さっき衛兵に会ったときに聞いたことがある」
オズワルドが思い出したように言う。
「どんなことだい?」
「行方不明事件とは関係ないが、街の研究所から『蛇』が脱走したらしい」
「蛇……って、たぶん普通のじゃないよね」
この街の研究所で扱われている動物の多くは、家畜化実験や解剖に使われる魔物ばかりだ。
「察しの通り、人工的に生み出された特別な魔物らしい。
街に潜伏している可能性があるから、お前も見つけたら適当に捕まえておいてやれ」
「それはいいけど、人工魔物は厳重に管理されているんじゃなかったの?」
この街では魔物の研究も盛んだ。
だからこそその管理についても徹底されている。
そんな環境下で魔物が逃げ出した以上、何か特別な理由があるはずで――
「あまりのその魔物が可愛らしく所長が毎晩抱いて寝ていたら、逃げ出されたそうだ」
「本当にこの街の研究者は変人ばっかりだ……!」
何とも言えない気持ちでハルクは頭を抱えるのだった。
シャンから降りたあと、私はロゼさんと一緒に街に戻ることにした。
森を抜ける途中でロゼさんが呟くように言った。
「……あの、さっきの言葉は本当ですか?」
「さっきの言葉?」
「セルビアさんが、わたしのことを尊敬しているって」
ロゼさんの問いに私は特に迷わず頷いた。
「本当ですよ。私はロゼさんの努力家なところを尊敬していますし、好ましく思っています」
「……だったら、その、よかったらなんですが」
「?」
首を傾げた私にロゼさんは思い切ったように言ってきた。
「それなら、セルビアさん。……わ、わたしのお友達になってくれませんか!?」
緊張したのか裏返り気味な声でそう申し出てくるロゼさん。
……
「…………一応、私はもうロゼさんの友達のつもりでいたんですが」
「えっ」
驚いたような表情をするロゼさん。その反応はちょっとショックだ。
……いや、でも図書塔で勉強を教えてもらったときも、「わたしには友達がいない」みたいなことを言ってたし、予想はしていたけど……
「で、でも、セルビアさんはずっと敬語じゃないですか」
「私はこれ以外の喋り方ができないんです」
これは本当だ。
幼少期から教会で過ごした私は、淑女教育やら周りの喋り方の影響やらで敬語以外の会話がほとんどできなかったりする。
「ですから、私に合わせてくれる必要はないですよ。私はロゼさんには喋りやすい口調で話して欲しいです」
「えっと……いいの?」
「はい」
「――!」
ロゼさんに頷くと、ロゼさんはぱあっと笑みを浮かべた。
その表情を見るに、もともと彼女は素直な性格だったんだろう。
環境によって卑屈になってしまっただけで。
「呼び方もセルビアでいいですよ」
「じゃ、じゃあ、わたしのこともロゼって呼んでくれま……くれる?」
「わかりました。ではこれからはロゼで」
「う、うん」
どこか緊張したように頷くロゼさん――もといロゼ。
「では帰りましょうか」
「そうだね」
話すべきこともなくなったので、再度森の出口に足を向ける。
歩きながら私はわざと落ち込んだような声で言った。
「それにしてもショックです。まさか私はいまだにロゼと友達だと思ってもらえてないなんて……」
「そ、それは申し訳なかったからで……! セルビアは凄い人だし、わたしと友達なんて迷惑かなって思っただけで――」
「あはは」
「なんで笑うの!? 絶対からかってるよね!?」
そんな感じで抗議してくるロゼの言葉を聞き流しつつ、私たちは街に戻るのだった。
▽
「あれ、オズワルド?」
「ハルクか。こんな場所で何をしている?」
街中の一角。
『剣神』ハルクは意外な人物とばったり遭遇していた。
ハルクは周囲に聞き耳を立てている人がいないか確認したあと、オズワルドの質問に応じる。
「いや、僕は普通に街の調査だよ。『第一学院』の中庭は調べ終わったからね」
「ふむ。何か成果は?」
「うーん……例の仮面の剣士がかなりの実力者だとわかったくらいかな」
ハルクが言うと、オズワルドは「特に進展はなかったということか」と呟いた。
中庭での事件は半月前のことだし、特に期待はしていなかったようだ。
「オズワルドこそ街で何を? 普段ならまだ学院にいる時間じゃないか」
「警備ゴーレムの調整だ」
「警備ゴーレムの?」
ハルクの問いにオズワルドは頷く。
「警備ゴーレムには映像記録装置が組み込まれている。それに仮面の剣士の情報を加え、見つけ次第衛兵に知らせるよう調整した」
「本当に何でもできるねきみは……」
半ば呆れたようにハルクは言った。
オズワルドは警備ゴーレムを管理するシステムを改良し、副会長から聞いた仮面の剣士の特徴を入力したのだ。
警備ゴーレムはとても複雑なプログラムで動く。
それを書き換えるのも並大抵の難易度ではないはずだが、オズワルドにとっては問題にならないようだ。
「もっとも入力したのは仮面の模様くらいだ。これで効果があればいいがな」
「副会長のほうは放っておいて大丈夫なのかい?」
「身を守る防御魔術と、緊急連絡機能を持った魔道具を渡してある。迂闊に出歩かなければ安全だろう」
「そっか。それなら安心だね」
ひとまず副会長がもたらした情報に関する処理は終えてあるようだ。
「ああ、そうだ。さっき衛兵に会ったときに聞いたことがある」
オズワルドが思い出したように言う。
「どんなことだい?」
「行方不明事件とは関係ないが、街の研究所から『蛇』が脱走したらしい」
「蛇……って、たぶん普通のじゃないよね」
この街の研究所で扱われている動物の多くは、家畜化実験や解剖に使われる魔物ばかりだ。
「察しの通り、人工的に生み出された特別な魔物らしい。
街に潜伏している可能性があるから、お前も見つけたら適当に捕まえておいてやれ」
「それはいいけど、人工魔物は厳重に管理されているんじゃなかったの?」
この街では魔物の研究も盛んだ。
だからこそその管理についても徹底されている。
そんな環境下で魔物が逃げ出した以上、何か特別な理由があるはずで――
「あまりのその魔物が可愛らしく所長が毎晩抱いて寝ていたら、逃げ出されたそうだ」
「本当にこの街の研究者は変人ばっかりだ……!」
何とも言えない気持ちでハルクは頭を抱えるのだった。
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