58 / 113
連載
昼食②
しおりを挟む「セルビアさんのお陰で彼らはわたしに手を出してこなくなりました。今さらわたしは気にしていません」
強がりでも何でもなく、本当にそう思っていそうな口調で言うロゼさん。
私は溜め息を吐いた。
「……わかりました。ロゼさんがそれでいいならいいです。他に空いている席もありませんし」
「そうだな。それがいいぞ我がライバルよ」
「言っておきますが、私はあなたを許したわけではありませんからねルーカスさん」
満足げに頷いているルーカスに釘を刺しておく。
またロゼさんに何かしようものならこの場で報復する所存だ。
そんなわけで、私、ロゼさん、ルーカスにその仲間たちという謎の組み合わせで昼食をとることになった。
「そういえばロゼさん、さっきオズワルドさんに見せていたレポートってどんなものだったんですか?」
ランチセットを食べながらロゼさんに話題を振ってみる。
「ああ、雨林地帯の治水に関するレポートです。水害に強い土嚢を効率的に魔術で生み出せないかと」
「水害……どうしてそんなテーマを?」
「……わたしは魔術師としては落ちこぼれですから。将来は魔術研究者になって、人の役に立つ発明がしたいんです」
はにかみながらそんなことを言うロゼさん。
なんて健気な!
ぜひとも頑張ってほしい。
「セルビア、次の魔術戦闘学の演習で勝負だ!」
ロゼさんと話していると、ルーカスが唐突に変なことを言い出した。
「……いきなり何なんですか。演習って何のことですか?」
「なんだ、知らないのか? 魔術戦闘学ではそろそろダンジョンを用いた実習が行われるはずだ。
ダンジョン内の指定された魔物を狩る、というな」
ちらりと視線を向けると、ロゼさんも頷いている。
講義ではそんな話はされていないはずだけど……あ、そういえば講義の予定表みたいなのはもらっていたっけ。
もしかしてそっちには書かれていたかもしれない。
ダンジョンで魔物と戦う、かあ……
あまり自信はないけど、オズワルドさんにもらった魔力植物の種があればなんとかなるかな?
「そんな実習があるなら気合いを入れなくちゃいけませんね。勝負はしませんけど」
「セルビアはつれないな……少しくらいボクに興味を示したまえよ。ほら、何か質問とかはないのか?」
「わかりました。では、何か嫌いなものや怖いものはありますか?」
「ボクの弱点を知ってどうするつもりだキミは」
あ、そうだ。せっかくだしこの人たちにも調査しておこう。
「ルーカスさん。最近何か変わったことはありませんか?」
「ん? どういう意味だ?」
「例の行方不明事件についてですよ。ほら、魔力の高い人が狙われるそうじゃないですか」
実はこのルーカス、犠牲者候補リストに入っているのだ。
魔力だけは高いので、万が一次の事件が起こる際はルーカスが標的になる可能性もある。
「その話か。……いや、特にないな」
「本当ですか? 何者かの視線を感じたりとかは」
「それもない」
現状ルーカスの周りに異変はないらしい。
もう少し突っ込んで聞いておこう。
「……実は私も魔力が高いので少し不安なんですが、ルーカスさんは何か事件について知っていることはありませんか?」
「そのへんの連中と知っていることは変わらないと思うが……」
「犯人の姿を見たとか、被害者には意外な共通点があるとか」
「いや、知らない。
まあ、仮に事件だとすれば、犯人はコソコソ小細工をしている臆病者だ。ボクの目の前に出て来れば叩きのめしてやるさ」
ルーカスが勇ましげに言うと、取り巻き三人が次々に同意の声を上げた。
うーん、この口ぶりならルーカスが特別な情報を持っていることはなさそうだ。
念のためにこっそり嘘発見用の懐中時計をチェックすると、やっぱり針は動いていなかった。
「……事件が解決するまでは極力一人にならないようにしてくださいね」
とりあえず義理としてそう忠告しておいた。
そんな中、ふとルーカスの取り巻きの一人が口を開く。
「行方不明事件といえば、聞きましたかルーカスさん。副会長の話」
「ああ、最近めっきり暗くなってしまったらしいな。まあ無理もないが」
一体何の話だろう。
私が首を傾げていると、ロゼさんが横から説明してくれた。
「事件の犠牲者の一人が、この学院の生徒会長なんです。副会長は会長と仲が良かったので、それがショックだったようで」
「ああ、なるほど」
友人が失踪してしまって落ち込んでいる、ということのようだ。
ロゼさんは言葉を続ける。
「副会長さんは、最近だと講義にも全然出ずに寮にこもっているようです。セルビアさんも、あの方に話を聞くのは控えたほうがいいかもしれません。
かなり気が滅入っているようですから」
「……わかりました」
ロゼさんの忠告に私は頷くのだった。
5
お気に入りに追加
12,199
あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。