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ロゼの過去
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「賢者の一族は代々シャレアの長を務めます。そして有事の際にはその強力な魔術で敵を打ち払い、街を守るのです。
五年前、街を襲った竜を倒すために衛兵や街の魔術師たちが団結しました。
その先頭にはおじい様や、お母様、お父様が立っていました。
街の人たちは賢者の一族に鼓舞されながら、恐ろしい竜に立ち向かったんです」
ロゼさんは平坦な声で話し続ける。
「街の人は大勢死に、先代の『剣神』様も竜と刺し違えました。
……わたしの両親もその時に死んでいます。街の人を守り、立派な最期を遂げたそうです」
「……すごいご両親だったんですね」
私が言うと、ロゼさんは力なく頷いた。
「そうですね。でも、わたしは両親のようにはなれませんでした」
「――、」
「わたしは賢者の一族でありながら、弱くて、臆病です。竜が攻めてきたとき、わたしは怖くて避難所に逃げ込みました。
そして戦いが終わるまでずっと震えていたんです。
たくさんの人が死んでいくのをわたしは見殺しにしたんです。街を守る賢者の一族でありながら……!」
以前ルーカスがロゼさんに関して口にした言葉を思い出す。
敵は待ってくれない。
賢者の孫であるロゼさんが目の前の脅威に縮こまっていていい道理はない。
……あれは五年前のことを指していたのだ。
「竜との戦いが終わったあと、わたしは大勢の人に責められました。
賢者の一族でありながらどうして戦わなかったのかと。
わたしが戦わなかったせいで大勢の人が死んだ、とも」
「なっ……!」
続けられたロゼの言葉に、私は唖然とした。
「そんなの無茶苦茶じゃないですか! いくら賢者の一族だからって、ロゼさんは当時まだ子供だったはずです!」
「賢者の血筋は強い魔力を持つのが普通ですから。
おじい様も、わたしの母も、子供の頃から強力な魔術が使えたそうです。
わたしのように生まれつき魔力が少ないほうが珍しいんです」
だから責められて当然です、と。
ロゼさんは小さく笑った。
もう痛みには慣れてしまっているかのように達観した笑みだった。
「わたしは街の人に嫌われ、学院でもいじめを受けるようになりました。今思えば、竜に親しい人を殺された恨みをどこかにぶつけたかっただけかもしれません。
そして、おじい様もわたしを庇うことはできませんでした」
「……なぜですか?」
私が聞くとロゼさんはこう解説した。
「賢者は血筋によって選ばれます。両親がいない今、おじい様が亡くなれば次の賢者はわたしです。
そんなわたしが、おじい様に守られる弱者のままでは立ち行きません。
わたしは自分自身の力で、自分が賢者にふさわしいと周囲に認めさせなくてはならないんです」
「……」
「……でも、なかなかうまくいきません。わたしはやっぱり出来損ないで、落ちこぼれなんです。
だから今のわたしは誰かに優しくされる資格なんてありません」
声を落としてそう告げるロゼさん。
その姿に私は我慢ならなかった。
「――それは違うと思います」
「違う……? 何がですか?」
私は言葉を続ける。
「ロゼさんが賢者にふさわしいかどうかは、私にはわかりません。ですが優しくされるべき人ではあると思います。
ロゼさんは努力家で、人の役に立とうと一生懸命で……そんな人が虐げられていい理由はありません」
ロゼさんの教科書はたくさん書き込みがされていた。
オズワルドさんに水害対策の研究レポートを見てもらってもいた。
彼女は誰かの役に立ちたいと思っているのだ。
「私はロゼさんのことを尊敬しています。だから、そんなふうに自分のことを貶めないでください」
「――、」
私が言うと、ロゼさんが息を呑むような気配がした。
その後シャンが地面に戻るまで、ロゼさんが口を開くことはなかった。
五年前、街を襲った竜を倒すために衛兵や街の魔術師たちが団結しました。
その先頭にはおじい様や、お母様、お父様が立っていました。
街の人たちは賢者の一族に鼓舞されながら、恐ろしい竜に立ち向かったんです」
ロゼさんは平坦な声で話し続ける。
「街の人は大勢死に、先代の『剣神』様も竜と刺し違えました。
……わたしの両親もその時に死んでいます。街の人を守り、立派な最期を遂げたそうです」
「……すごいご両親だったんですね」
私が言うと、ロゼさんは力なく頷いた。
「そうですね。でも、わたしは両親のようにはなれませんでした」
「――、」
「わたしは賢者の一族でありながら、弱くて、臆病です。竜が攻めてきたとき、わたしは怖くて避難所に逃げ込みました。
そして戦いが終わるまでずっと震えていたんです。
たくさんの人が死んでいくのをわたしは見殺しにしたんです。街を守る賢者の一族でありながら……!」
以前ルーカスがロゼさんに関して口にした言葉を思い出す。
敵は待ってくれない。
賢者の孫であるロゼさんが目の前の脅威に縮こまっていていい道理はない。
……あれは五年前のことを指していたのだ。
「竜との戦いが終わったあと、わたしは大勢の人に責められました。
賢者の一族でありながらどうして戦わなかったのかと。
わたしが戦わなかったせいで大勢の人が死んだ、とも」
「なっ……!」
続けられたロゼの言葉に、私は唖然とした。
「そんなの無茶苦茶じゃないですか! いくら賢者の一族だからって、ロゼさんは当時まだ子供だったはずです!」
「賢者の血筋は強い魔力を持つのが普通ですから。
おじい様も、わたしの母も、子供の頃から強力な魔術が使えたそうです。
わたしのように生まれつき魔力が少ないほうが珍しいんです」
だから責められて当然です、と。
ロゼさんは小さく笑った。
もう痛みには慣れてしまっているかのように達観した笑みだった。
「わたしは街の人に嫌われ、学院でもいじめを受けるようになりました。今思えば、竜に親しい人を殺された恨みをどこかにぶつけたかっただけかもしれません。
そして、おじい様もわたしを庇うことはできませんでした」
「……なぜですか?」
私が聞くとロゼさんはこう解説した。
「賢者は血筋によって選ばれます。両親がいない今、おじい様が亡くなれば次の賢者はわたしです。
そんなわたしが、おじい様に守られる弱者のままでは立ち行きません。
わたしは自分自身の力で、自分が賢者にふさわしいと周囲に認めさせなくてはならないんです」
「……」
「……でも、なかなかうまくいきません。わたしはやっぱり出来損ないで、落ちこぼれなんです。
だから今のわたしは誰かに優しくされる資格なんてありません」
声を落としてそう告げるロゼさん。
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「――それは違うと思います」
「違う……? 何がですか?」
私は言葉を続ける。
「ロゼさんが賢者にふさわしいかどうかは、私にはわかりません。ですが優しくされるべき人ではあると思います。
ロゼさんは努力家で、人の役に立とうと一生懸命で……そんな人が虐げられていい理由はありません」
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彼女は誰かの役に立ちたいと思っているのだ。
「私はロゼさんのことを尊敬しています。だから、そんなふうに自分のことを貶めないでください」
「――、」
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その後シャンが地面に戻るまで、ロゼさんが口を開くことはなかった。
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