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え、嫌です
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「……」
ルークが話を終える。
私は憤りを覚えた。
出てくる人間がろくでもない人ばかりだ。
「ルーク。リヒター様を――いえ、リヒターを訴えましょう。国王様に直訴すれば」
「それは駄目だ」
「なぜですか! ルークは大切な師匠をリヒターのせいで大変な目に遭わされたんでしょう!?」
思わず声を荒げる私に対して、ルークは落ち着いた声で言った。
「証拠がない。俺がリヒターのしわざだと思ったのも、単にあいつがそう言ったからだ。確かな証拠もなしに王族に疑いをかければ、こっちが処刑されかねない」
「なら、証拠を集めれば」
「仮にリヒターの言葉が本当だったとして、俺がリヒターなら証拠はすぐに消す。嗅ぎまわっている人間がいれば始末する。……危険すぎるよ」
そう言うルークは拳を固く握っていた。
荒れ狂う感情をどうにか抑制しているようだった。それを見てしまえば、私はもうなにも言えない。
「……許せません。リヒターも、それを止めない国王様も」
「……そうだね」
けれどリヒターの悪事の証拠を見つけられない限りなにもできない。
ルークは私の何倍も歯がゆい思いをしているだろう。
どんなに追及したくても、今は棚上げするしかない。
「ルーク、私を師匠の元に連れて行ってくれませんか? 大怪我とは言っていましたが、生きてさえいればEXランクのヒールポーションでなんとかできるかもしれません」
私が言うと、ルークは首を横に振る。
「実は俺もそれを頼もうと思っていたんだけど……ブラド様や王城のメイドに聞いた限りだと、どうも師匠は王都を去ったらしい。どこに行ったかわからないってさ」
「故郷で療養している、という線はどうですか?」
「なくはない……けど、師匠の故郷がどこか知らないんだ」
「そうですか……では、居場所がわかり次第会いに行きましょう。スカーレル商会に協力を依頼すれば人探しはかなり確実性があります」
この大陸内であればスカーレル商会は相当な影響力を持つ。
きっとルークの師匠も見つかるはずだ。
ルークは微笑を浮かべた。
「……ありがとう。その言葉だけで救われるよ」
その言い方が引っかかる。
「ルーク、言葉だけではなく私は本気で言っています。……もしかして、ポーションの代金を心配しているんですか? 当然そんなものはいりません」
「そうじゃないんだ。アリシア、俺はトリッドの街までは護衛を続けさせてもらう」
「……『までは』?」
「今回の件で再確認できた。リヒターはやっぱり危険だ。そして俺が奴隷にもならず生きていると知られたら、何をしてくるかわからない。『緑の薬師』のみんなに迷惑がかかる。……だから俺はアリシアたちを無事に送り届けたら、トリッドの街を出るよ」
どこか寂しそうに笑って、ルークはそんなことを言った。
決定事項のようにどこか平坦な口調で。
その言い方から、ルークの言葉がこの場限りの思い付きでないことを理解する。
「まあ、さすがに後始末をせずにいなくなるのも申し訳ないから後任の護衛役は探しておくよ。実はトリッドの街の冒険者に何人か目星をつけて――」
「え、嫌です」
「……」
「嫌です」
ルークが話を終える。
私は憤りを覚えた。
出てくる人間がろくでもない人ばかりだ。
「ルーク。リヒター様を――いえ、リヒターを訴えましょう。国王様に直訴すれば」
「それは駄目だ」
「なぜですか! ルークは大切な師匠をリヒターのせいで大変な目に遭わされたんでしょう!?」
思わず声を荒げる私に対して、ルークは落ち着いた声で言った。
「証拠がない。俺がリヒターのしわざだと思ったのも、単にあいつがそう言ったからだ。確かな証拠もなしに王族に疑いをかければ、こっちが処刑されかねない」
「なら、証拠を集めれば」
「仮にリヒターの言葉が本当だったとして、俺がリヒターなら証拠はすぐに消す。嗅ぎまわっている人間がいれば始末する。……危険すぎるよ」
そう言うルークは拳を固く握っていた。
荒れ狂う感情をどうにか抑制しているようだった。それを見てしまえば、私はもうなにも言えない。
「……許せません。リヒターも、それを止めない国王様も」
「……そうだね」
けれどリヒターの悪事の証拠を見つけられない限りなにもできない。
ルークは私の何倍も歯がゆい思いをしているだろう。
どんなに追及したくても、今は棚上げするしかない。
「ルーク、私を師匠の元に連れて行ってくれませんか? 大怪我とは言っていましたが、生きてさえいればEXランクのヒールポーションでなんとかできるかもしれません」
私が言うと、ルークは首を横に振る。
「実は俺もそれを頼もうと思っていたんだけど……ブラド様や王城のメイドに聞いた限りだと、どうも師匠は王都を去ったらしい。どこに行ったかわからないってさ」
「故郷で療養している、という線はどうですか?」
「なくはない……けど、師匠の故郷がどこか知らないんだ」
「そうですか……では、居場所がわかり次第会いに行きましょう。スカーレル商会に協力を依頼すれば人探しはかなり確実性があります」
この大陸内であればスカーレル商会は相当な影響力を持つ。
きっとルークの師匠も見つかるはずだ。
ルークは微笑を浮かべた。
「……ありがとう。その言葉だけで救われるよ」
その言い方が引っかかる。
「ルーク、言葉だけではなく私は本気で言っています。……もしかして、ポーションの代金を心配しているんですか? 当然そんなものはいりません」
「そうじゃないんだ。アリシア、俺はトリッドの街までは護衛を続けさせてもらう」
「……『までは』?」
「今回の件で再確認できた。リヒターはやっぱり危険だ。そして俺が奴隷にもならず生きていると知られたら、何をしてくるかわからない。『緑の薬師』のみんなに迷惑がかかる。……だから俺はアリシアたちを無事に送り届けたら、トリッドの街を出るよ」
どこか寂しそうに笑って、ルークはそんなことを言った。
決定事項のようにどこか平坦な口調で。
その言い方から、ルークの言葉がこの場限りの思い付きでないことを理解する。
「まあ、さすがに後始末をせずにいなくなるのも申し訳ないから後任の護衛役は探しておくよ。実はトリッドの街の冒険者に何人か目星をつけて――」
「え、嫌です」
「……」
「嫌です」
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