9 / 52
試し打ち
しおりを挟む十本の矢の群れはすべてまっすぐ飛んでいき、ドガガガガガッ! と的の中央に突き刺さった。
なるほど、あれが『絶対命中』か。
「な、な……何だそりゃあ!?」
武器屋の店主が仰天して僕に尋ねてくる。
「弓の能力です。『矢数無限』は念じると矢が現れる効果、『絶対命中』なら狙った的に必ず当たる効果、『増殖』なら撃った矢が空中で増える効果みたいですね」
「みたいですって……お前さん、能力を知ってたのか!?」
「知らないはずなんですけど……」
これは僕もよくわからない。
ただ、的の前に立った時に弓の能力が頭の中にイメージとして浮かび上がってきたのだ。
まるで弓を使うという僕の意思に反応したかのように。
「つまり、今のお前さんは何となくその弓の使い方がわかると?」
「はい」
「何だよその武器……意味わかんねえよ……」
店主が呻いている。うん。正直僕も同じ気持ちだ。
「じゃあ、他の能力も使い方がわかるのか?」
「まあ、大体は」
「ちょっとやってみてくれよ」
もちろんそのつもりだ。
僕も何となくわかるだけで、実際に使ってみないとわからないこともあるだろうし。
「じゃあまず、【障壁】」
弓の持ち手を中心に、半透明の障壁が出現する。
「なんだこれ?」
「防御能力です。これに触ると弾かれます」
おそらく僕以外の人間を拒絶しているのはこの能力だろう。
接近戦に弱い弓使いとしてはかなりありがたい能力といえる。
「防御ねえ……実際どのくらいのもんなんだ?」
「そこまではちょっと……でも、実戦で使う前に一回は強度を確かめておきたいですね」
「そんじゃちょっとやってみるか」
と、庭に隣接する工房に引っ込んだ店主は、いくつかの武器を抱えて戻ってきた。
「まずはナイフだな」
そう言って軽い動きでナイフを障壁にぶつけられる。
ナイフは根元からへし折れて店主の後方に吹っ飛んでいった。
「……次は剣だな」
剣は半ばから折れて店主の後方に吹っ飛んでいった。
「「……」」
どうしよう。何だかとても居たたまれない。
店主は持ってきた中でもっとも大きなものを振りかぶった。
「ち、畜生負けてたまるか! 食らいやがれ俺の自信作! 魔鉱石をふんだんに使ったこの斧ならさすがに防げるはずが――」
ぽきっ、と斧は障壁との衝突に耐え切れず柄がヘシ折れた。
「ああああ俺の自信作がぁ―――――!?」
絶叫して地面に拳を打ち付ける店主。障壁に耐え切れず持ってきた武器がすべて壊れてしまったことで、職人としてのプライドがいたく傷ついてしまったようだ。
そんな感じで検証を進めていったところ、能力の大まかな効果が判明した。
『矢数無限』は何もないところから好きなだけ矢を取り出せる。
『絶対命中』は狙った標的に必ず当たる。
『射程拡張』は矢を失速させずにはるか彼方まで飛ばすことができる。
『不壊』は弓に絶対的な頑丈さを与える。
『最適化』は弓を僕がもっとも使いやすいサイズ、張力にする。
『自在出現』は弓を自在に出したり消したりできる。
『魔力吸収』は周辺の大気から魔力を吸収する。
『加速』は撃った矢を加速させる。
『増殖』は撃った矢を増やす。
『障壁』は半透明の壁を作り出す。
僕は言った。
「とんでもないですね、この弓」
正直強すぎて現実味がない。
「まったくだ。ぶっ壊れ性能もいいとこだな」
「ぶっ壊れ?」
「うちらの間じゃ、性能が強すぎる装備を『壊れ』とか呼んだりすんだよ。で、この弓はそんなレベルじゃねえからぶっ壊れってわけだ」
なるほど。武器職人の専門用語みたいなものだろうか。
「それは確かにぶっ壊れてますね」
「売ったらいくらになるんだろうな」
「さすがに預かってるものを売るのは……」
そもそも手から離れないので売りようがない。
何にしても、この弓が凄まじい性能を持っていることは間違いなさそうだ。
7
お気に入りに追加
1,258
あなたにおすすめの小説
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ダンジョンのモンスターになってしまいましたが、テイマーの少女が救ってくれたので恩返しします。
紗沙
ファンタジー
成長に限界を感じていた探索者、織田隆二。
彼はダンジョンで非常に強力なモンスターに襲われる。
死を覚悟するも、その際に起きた天災で気を失ってしまう。
目を覚ましたときには、襲い掛かってきたモンスターと入れ替わってしまっていた。
「嘘だぁぁあああ!」
元に戻ることが絶望的なだけでなく、探索者だった頃からは想像もつかないほど弱体化したことに絶望する。
ダンジョン内ではモンスターや今まで同じ人間だった探索者にも命を脅かされてしまう始末。
このままこのダンジョンで死んでいくのか、そう諦めかけたとき。
「大丈夫?」
薄れていく視界で彼を助けたのは、テイマーの少女だった。
救われた恩を返すために、織田隆二はモンスターとして強くなりながら遠くから彼女を見守る。
そしてあわよくば、彼女にテイムしてもらうことを夢見て。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最強美少女達に愛されている無能サポーター 〜周りの人から馬鹿にされ続けてもう嫌なのパーティメンバーの天才たちが離してくれない〜
妄想屋さん
ファンタジー
最強の美少女パーティメンバーに囲まれた無能、アルフ。
彼は周囲の人の陰口に心を病み、パーティメンバー達に、
「このパーティを抜けたい」
と、申し出る。
しかし、アルフを溺愛し、心の拠り所にしていた彼女達はその申し出を聞いて泣き崩れていまう。
なんとかアルフと一緒にいたい少女達と、どうしてもパーティを抜けたい主人公の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる