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帰還

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 街に戻った僕たちはリナを孤児たちのもとに連れて行った。
 年長らしい女の子は戻って来たリナを見て号泣し、それから僕とエルフィに何度もお礼を言った。


 孤児たちと別れたあと、僕とエルフィは冒険者ギルドに向かった。


 オークキングの素材を売却したかったし、オークの死体回収もお願いしたかったからだ。

 ……けれど僕は失念していた。
 僕と一緒に行動している人物がこの町の冒険者たちにとってどのような存在であるかを。

 冒険者ギルドに入った瞬間、そこにいた冒険者たちがぴたりとおしゃべりを止めて僕たたちを――というか、エルフィを見た。


『えっ? 聖女様が何でこんなところに?』
 ――今日からカイさんと一緒に活動させていただくことになりました。

『カイと一緒に? というか、聖女様は冒険者じゃなくてシスターだよな?』
 ――カイさんは『ラルグリスの弓』の担い手になったので、私はその行く末を見届ける記録係を任されたんです。

『記録係って何をする仕事なんだ?』
 ――簡単に言えば、ずっとカイさんのおそばにいて、一緒に行動するお仕事でしょうか。

『『『……』』』


 殺されるかと思った。

 冒険者たちの質問にエルフィがいちいち律儀に答えるせいで、事情がすべてバレてしまった。
 いや、別に隠すつもりもなかったけど。

 この町の冒険者にとって聖女エルフィは日々の疲れを癒してくれる希望の光だ。

 そんな彼女を偶然とはいえ独占することになった僕は、基本的に女性に縁のない冒険者たちにとって魔物以上の仇敵となったらしい。

 本当に大変だった。

 途中でエルフィが『違います! カイさんと一緒に行きたいと言ったのは私で、カイさんが無理に私を連れ回しているわけではないんです!』なんて火に油を注いだ時なんかは本気で死を覚悟したくらいだ。

 最終的には誰が言い出したのか、『真の担い手は俺だ』大会が開催され、一人ずつ『ラルグリスの弓』に触れては拒絶されるという流れを数十回繰り返したあとにようやく僕たちは解放された。

 ……こんなことになるなら、エルフィには外で待っていてもらうべきだったかもしれない。





「ごめんなさい、私のせいで……」

 冒険者ギルドを出たあと、エルフィが申し訳なさそうに言った。

「ううん、エルフィのせいじゃないよ」

 ある意味当然の成り行きといえる。僕も他の冒険者とエルフィさんが一緒にいる光景なんて見たら羨ましがったと思うし。

 なんて納得する僕をよそにエルフィは首を傾げている。

「それにしても、どうして冒険者の皆さんは怒っていたんでしょう? 私なんて、足も遅いし、体力もないですし……自分で言うのもなんですけど」
「いや、それは」
「あっ、もしかして『神官』が貴重なんでしょうか。回復魔術が使えるのは『神官』の職業だけですから」

 やっとわかった、と言う感じで一人納得しているエルフィ。

 この人、『自分が可愛くて人気があるから一緒にいる僕が嫉妬された』なんて可能性は想像もしないんだろうなあ……

「それでカイさん、これからどうしましょうか」
「うーん……晩御飯を食べてから宿探しかなあ」
「なるほど。二人部屋が空いているといいですね」

 エルフィはうんうん頷きながらそんなことを――あれ?

「エルフィ。今もしかして二人部屋って言った?」
「? はい。えっ、だって、私とカイさんで二人ですよね?」

 いやそんな不思議そうに言われても。

「……さすがに部屋は分けたほうがいいと思うよ」

 仮にも男女だし、何があるかわからない。
 というかこんな可愛い人と同じ部屋に泊まったら自制心を保てる自信がない。

「カイさんは私と同じ部屋だと嫌ですか?」
「いやそれはむしろ嬉しいけど」
「え」

 言った瞬間、エルフィがと直した。

 それからだんだん顔が赤くなってくる。僕は遅れて自分の失言に気付いた。

「あの、カイさん。嬉しいとはどういう……」
「い、いやその、宿代! 宿代がね! ほら、一部屋だと安く済むから!」
「あ、や、宿代の話ですか! そうですよね、早とちりしてすみません!」

 咄嗟に言い訳をひねり出すと、エルフィはそれを信じてくれた。

 危なかった……! もう少しで僕の評価がガタ落ちするところだった。

 けどこれは仕方ない。こんな優しくて綺麗で可愛い女の子と同じ部屋に寝泊まりするなんて、男なら誰でも嬉しいに決まってる。

 妙な空気を変えるべく僕は尋ね返した。

「エルフィこそ、僕と一緒の部屋で嫌じゃないの?」
「嫌じゃないですよ。それに私は『ラルグリスの弓』の記録係ですから、同じ部屋のほうが都合がいいんです。神父様もそう仰っていましたし」

 ……ああ、そういえば宿は相部屋が望ましいって言ってたね神父様。

「本当にいいの? 僕、これでも男だよ?」
「女性だとは思っていませんけど……」
「いやそうじゃなくて。怖くないの?」

 質問の意図がわからないというようにエルフィはきょとんとしてから、

「他のひとなら緊張してしまうかもしれませんが、カイさんなら安心できます!」
「…………、」

 満面の笑みでそんなことを言われた。
 笑顔が眩しい。

「……そ、それじゃあ、同じ部屋にしようか」
「はいっ」

 もう何も言えることがなくなってしまった僕は甘んじてこの状況を受け入れることにした。
 いや、全然嫌じゃないしむしろ嬉しいんだけどそれはそれとして。

(僕のことを信用しすぎじゃないかなあ……)

 とりあえず、この信頼は裏切るまいと僕は決意するのだった。
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