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教皇様に報告

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 翌日、俺たちは聖都へとやってきた。

 獣人族の里のことを教皇様に伝えるためだ。
 ちなみに教会全体に対してではなく、あくまで教皇様個人にである。

「……ふむ。報告感謝する」

 俺たちの話を聞き終えた教皇様は言った。

「それにしても……なぜその話を私に? 神託の勇者としてのスキルが使えると広まれば、数々の責務がついて回るというのに」
「……そうですね。俺はファラを助けるために動いています。勇者としての仕事なんて、正直どうでもいいというのが本音です」

 勇者として式典やらに出る時間があれば、冒険者ランクを上げた方がずっと有意義だ。

「ではなぜ?」
「勇者のスキルを使うかもしれないのに、それを持つ者が負うべき責任を一切果たさないのは、筋が通らないと思ったからです」
「……ほう」
「俺はあくまで神託を受けていない冒険者に過ぎません。ですが、勇者のスキルを得たのは事実です。だからこう考えてください。俺は勇者として表立っては動きません。代わりに、教会が本当に困ったときだけは協力します」

 いうなれば裏方という感じだろうか。

「この前の『紫紺の夜明け』みたく、人助けのために動いたりね」
「……ユークは正規の勇者じゃない。そのくらいが限度」

 サリアとルルの言葉を聞き、教皇様は頷いた。

「ユーク殿の申し出に感謝する。ユーク殿が勇者のスキルを得たことは、信用できる数人を除き他言しないと誓おう」
「ありがとうございます」

 これで面倒ごとは最小限に抑えられるはずだ。

「黙っていれば自由にしていられただろうに……ユーク殿は人がいいな」
「打算もありますよ」

 ウラノス教は巨大宗教だし、神聖魔術士も多く抱えている。
 ファラのことも考えれば友好関係を維持したほうがいいはず。

 あ、そういえばファラの呪いについて調べてくれているんだった。
 進捗を聞いてみようとしたところで、教皇様は深いため息を吐いた。

「……レイド殿もユーク殿くらい頼り甲斐があればいいんだが」
「レイドがどうかしたんですか?」
「彼らは王都で騎士たちに鍛えられていると言ったのを覚えているか? 彼らはその訓練に嫌気が差し、王都を脱走したらしい」
「脱走!?」
「あの勇者いっつも逃げてるわね」
「……根性なし?」

 サリアとルルが酷いことを言っている。
 でも否定できないよなあ。
 訓練から逃げるって……本当に勇者か?

「騎士団が探しているが、まだ手がかりがないらしい。フッ……これで我々の信頼がどれほど下がることか……」
「……心中お察しします」

 神託の勇者はウラノス教が選んだ → 神託の勇者が問題を起こす → レイドを選んだウラノス教が悪い!

 という流れで民衆に責められる教皇様の未来が目に浮かぶようだ。

 実際にはレイドを選んだのは神様らしいけど、それを汲んでくれるかは怪しい。
 本当に神様を見たことがある人間なんて多くないだろうし。

「騎士団長は真面目な男で、さっき通信魔術で謝られた。まったく、レイド殿にはユーク殿を見習ってほしいものだな」
「光栄です」
「そうだ、いっそレイド殿をユーク殿たちのパーティに」
「絶対にお断りします」
「即答か」

 当たり前だ。レイドともう一度パーティを組むわけがない。

「あいつは俺の大切な……もう本当に目に入れても痛くないくらい可愛くて仕方ない妹の作ったペンダントを握り潰したんです。二度と和解はできませんね」

 思い出したら腹が立ってきた。
 あのときは殴り損ねたし、今度出会ったらいきなりぶっ飛ばしてやりたいくらいだ。

「その気持ちはわかる。儂もルルをなじった連中のことはすべてノートに書き記し、毎晩呪っているからな」
「待って父さん。それは聞いていない」
「そうですね。俺も似たようなものですよ」
「そうか。ははは、気が合うな」
「最悪な意気投合ね……」

 やはり教皇様と俺は波長が合うのかもしれない。
 光属性と神聖属性がどうこう、とは関係ない部分な気はするが。

 と。

『教皇猊下! こちら王立騎士団長のガルニス。緊急事態が発生した!』
「騎士団長殿? どうかしたのですか」

 虚空に映像が浮かび上がる。
 通信石、と呼ばれる魔道具による緊急連絡だ。
 映っているのは鎧姿の大柄な男性。
 まさに騎士という感じの外見だ。

『王都に向かってワイバーンの群れが飛んできている! 騎士団で迎撃したいが、勇者殿の捜索に人手を割いている分頭数が足りない! 苦戦が予想されるため、そちらの神聖魔術士を借り受けたい!』

 ワイバーン。
 棲み処でも追われたんだろうか?

 そういえば、前にレイザールの街のそばにはぐれワイバーンが現れていた。
 案外、あの一件となにか関係があるのかもしれないな。

「わかりました。すぐにそちらに送りましょう」
『感謝いたします! 戦いの場は王都東の平原となりますので、そこまで直接来ていただきたい!』
「そのように計らいましょう」

 プツッ。

 そこで通信が途切れた。

「私が行く」

 ルルが手を挙げる。

「し、しかし……危険だぞ」
「なら他に戦闘慣れしている神聖魔術士はどのくらいいる? いたとして、それで足りる?」

 教皇様はわずかに沈黙。

「……お見通しか。頼む、ルル」
「ん」

 教皇様は寂しげに頷いた。
 ルルはいつも通りの感じだ。
 そうか。これが<神の愛し子>と呼ばれるルルの日常なんだろう。

「教皇様。俺も行きます」
「あたしも行くわ。パーティだしね」
「二人とも……ありがとう。どうかルルを助けてやってほしい」

 教皇様が深々と頭を下げる。

 俺たちは王都東の平原へと向かうことになった。
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