上 下
21 / 43

後発部隊

しおりを挟む
「神託の勇者レイド殿。彼らがこの街に来ていたのはまさに神のご意思だ! 我が娘ルディアノーラはきっと戻ってくるだろう!」
「「「うおおおおおおおおおお!」」」

 神託の勇者、という言葉に広場の人々は沸き立つ。

「神託の勇者殿を中心に六名の兵士を募れ! ……どうか頼む、勇者殿。娘を救ってくれ」
「いいでしょう。あんな連中僕たちにかかれば楽勝ですよ」

 教皇様の言葉にレイドは自信たっぷりに答える。

「転移!」

 帰還用の転移アイテムとともに宝玉を受け取ったレイドが叫ぶ。
 レイドたちを含む十人がその場から転移した。

 今頃ルルのもとに行き、『紫紺の夜明け』に対峙しているんだろう。
 俺はここで立っているだけなのか? 
 最後にルルは助けを求めて俺を見たんじゃないのか?

「ユーク……」

 サリアが心配そうに呟く。
 教皇様は続けて叫んだ。

「念のため、もう十人ルディアノーラのもとに送る。兵士の中で特に強い者を――」
「俺も行かせてください!」

 気付けば俺は前に進み出ていた。

「なんだ君は?」
「俺は……ルルの友達です。馬車で話しただけですが、そう思っています」

 すると教皇様は目を見開いた。

「君はもしやユーク君か?」
「は、はい。なぜ俺の名前を?」
「娘が……ルディアノーラが式典の前に君たちのことを話していた。盗賊たちをたった二人で全滅させた凄腕の冒険者だとね。君たちが同行してくれるなら心強い。よろしく頼む」
「はい!」

 俺とサリアも後発組に加わることになった。

「悪いサリア、勝手に決めてしまって」
「ふん、あんたならルルを助けに行くって言うと思ったわよ。お人好しだもの。……パーティメンバーだし、付き合うわ」
「ありがとう」

 教皇様が言う。

「すでに転移先では勇者殿たちが戦っているはずだ。転移直後に巻き込まれないよう、少し離れた場所に飛んでくれ。転移が終わり次第、先行部隊と合流するように」
「「「はい!」」」
「転移!」

 受け取った宝玉を使い、俺たち十人も転移によって移動した。




「なんだお前ら!」
「ここをどこだと思っている!?」

 転移先は廃城の中庭だった。
 どうやら『紫紺の夜明け』とやらはここを拠点にしているらしい。
 無数の信徒たちが襲い掛かってくる。
 兵士たちが応戦する中、俺は魔剣を抜く。

 ガンッ! ゴッ! ドガッ!

「「「ぎゃあああああ!」」」

 山賊たちと戦ったときと同じく、魔力を込めない状態の魔剣で信徒たちを叩きのめしていく。
 さすがにこんな連中でも、生身の人間を真っ二つにするのは抵抗がある。

「こいつら……思い出した! 山道で山賊たちを叩きのめした冒険者だ!」

 俺たちが山賊に襲われたことを知っている?
 こいつら、あのとき山道にいたのか。
 勝ち目がないと思って引いてくれたりしないだろうか。
 こいつらに用はない。

「普通に戦っても勝てん! お前たち、『あれ』を使え! ――我が身は邪神ゲルギア様のために!」
「「「我が身は邪神ゲルギア様のために!」」」

 信徒たちが一斉に懐から短剣を取り出し、自身の胸を突き刺す。

 すると信徒たちの体がぐぐっと大きくなり、全身を黒い体毛に覆われた二足歩行の怪物となる。
 気配でわかるが、さっきまでとは強さが段違いになっている。

「はは、ははははっ! 拷問で苦しませた生贄を邪神様に捧げ、我らは邪神様のしもべとなった! 数分で命は尽きるが、強さは今までとは比べ物にならんぞ」

 狂信者。
 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
 こんな怪物になって、寿命を縮めてまで邪神とやらを崇拝する。
 まったく理解できない。

 だが、好都合だ。
 俺は魔剣を起動させた。

 ザシュッ! ザンッ! 

「な、なんだと……!? この姿の我々を一撃で……」

 人間の姿じゃないなら存分に魔剣を使える。
 俺とサリアの二人で中庭の全員を始末した。

 しゅわんっ。

 あ、また体が光った。
 レベルアップしたんだろうか?
 ステータスを確認したいが、さすがに今はそんなことをしている余裕はない。
 ルルを助け出してからだ。
 廃城を移動する。

 バリンッ!

「「「うわああああああああ!」」」

 ドサドサドサッ!

 上の界から何人かが落下してきた。

「レイド……? それにキャシーたちまで!」

 中庭に落ちてきたのは勇者パーティの四人だった。
 レイドは俺に気付いて驚愕した。

「――ッ、ユークか!? 君のようなクズがなんでここにいる!?」
「こっちの台詞だ! ルルはどうした? 助けに行ったんだろ!?」
「行ったさ! けど話が違う! あんな化け物がいるなんて」

 怯えたようにレイドが言う。
 なんだ? こいつはなにを見たんだ?
 そしてレイドたちを追うように上の階から『それ』は降ってきた。

 ドンッッ! という大きな音とともに着地する。

 身長三メートルはあるだろう。
 額から巨大な角が二本伸びている。
 お伽噺に出てくる悪魔のような外見のそれは、俺たちを見て笑った。

『まだこんなに侵入者がいたのか。ゲルギア様復活の儀式を邪魔はさせん。教祖たる俺が儀式場を守っているのだからな』

 よく見ると、そいつの胸には短剣が刺さっている。
 さっき中庭で倒した連中と同じか?
 しかし中庭の信徒たちとは比べ物にならないほど強そうだ。

「「「ひいっ! ひぃいいいいい!」」」

 悪魔は腰を抜かすレイドたちに目を向けた。

『それにしても……お前たちは本当に神託の勇者か? 弱いうえに、仲間の兵士たちを盾にして逃げようとするとはな。やはりウラノスは偽物の神だ。選んだ勇者がこんなザコなのだからな!』

 兵士を……盾にした?
 そういえば落ちてきた人間はレイドたち四人だけだ。
 先行部隊には他に六人の兵士がいたはず。
 ならなぜ兵士たちはここにいない?

「う、うるさい! 僕は神託の勇者だぞ? 兵士たちが僕たちを守るために死ぬのは当然だ!」

 レイドは悪魔の言葉を否定しなかった。

「おい、レイド……本気で言ってるのか?」
「お前もうるさいんだよ! そうだ、お前たちがあの悪魔の相手をしろ! 僕は魔王を倒す神託の勇者だ! こんなところで死んでいいわけないんだ!」

 そう喚くと、レイドは続けて「転移!」と叫んだ。
 レイドたち四人の姿が掻き消える。
 ここに来る前に渡されていた帰還用の転移アイテムを使ったんだろう。

「は……はあああああああああああ!?」

 逃げた!?
 自分たちだけ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

死刑になったら転生しました ~しかもチートスキル付きだとぉ?~

まこる
ファンタジー
殺人罪で死刑に処されたはずなのに、女神様に異世界に転生させられた!? しかもチートスキル付き......無双するしかないかぁ

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...