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聖都ウルスへ

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 聖都までは馬車で移動する。

「馬車なんて乗ったのは十年ぶりくらいだ」
「そんなに?」
「ああ」

 ファラが家から出られないので、遠出もしないようにしていた。
 両親が家にいた頃は外出する機会もあったんだが、馬車なんて久しぶりだ。

 乗合馬車の中には俺、サリアを含めて何人もの乗客がいる。
 その中に一人、やたら小柄な人物がいる。
 ……子供だろうか?
 ローブのフードを目深にかぶっているためよくわからない。
 保護者はいないようだ。なんだか気になるな。

 と。

「てめえら止まれええええ!」
「ヒャッハァアアアアアアア!」
「野郎は殺す! ガキは売る! 女は慰みものだぁあああああ!」

 山道に入ってしばらくしたところで、荒っぽい男たちの集団が左右の道から飛び出してきた。
 馬が驚いて止まり、馬車が立ち往生したところを囲まれる。
 慣れてるな。
 こいつら、山賊か。
 乗客たちがパニックに陥り震えだす。

 客の中に武器を持っているのは俺とサリアくらいだった。
 仕方ない、戦おう。

「サリア、馬車の中に残って乗客を守ってくれ」
「そっちは?」
「外に出て山賊の数を減らす」

 馬車を飛び出す。

「なんだぁてめえ。この人数に飛び出してくるとかバカなやつだ! お前らやっちまえ!」

 山賊の頭目らしき男が言うと、部下たちが飛び掛かってくる。
 魔剣は……起動させたくないなあ。
 魔物ならともかく、人間を真っ二つにするのはごめんだ。
 あ、魔力を流さずに使えばいいのか。
 魔力を流さなければ切れ味ゼロだってダンカンさんが言ってたし。

 ガン! ゴッ! ドガッ!

「ぎゃああああああ!」
「こ、こいつ強いぞ!」

 山賊たちはレベルも低いようだ。多分30~40くらいだろう。

「「「熱っちぃいいいいいいい!?」」」

 後ろのほうでは山賊たちのそんな悲鳴。
 サリアが援護してくれているようだ。

「チッ、少しはやるみてえだな。だがこれでどうだ!」

 山賊の頭目は巨大なボウガンを取り出した。
 剣では絶対に届かない間合いから矢を放ってくる。
 人間相手じゃないなら魔剣を使えるな。
 俺は魔剣に魔力を込めた。
 光の魔剣を振るい、矢の軌道を遮る。

 バシュッ!

 金属製の太い矢は消滅した。

「そ、そそ、そんなばかな」

 山賊の頭目が唖然とする。
 俺は再び魔力を抜き、通常の剣となった魔剣で山賊の頭目を倒した。
 頭目を失った山賊たちは動揺し、その隙に俺の剣とサリアの魔術で全滅させた。

「すごい! たった二人であんな数の山賊を……!」
「助かった! ああ、君たち二人に感謝を!」
「君たち二人は救世主だ!」

 乗客たちが安心したのか口々にそんなことを叫ぶ。
 大袈裟……とも言えないか。
 相手は数が多かったし、実際かなり危なかったと思う。

 御者に手伝ってもらい、盗賊たちを縛り付けて近隣の街に通報する。御者が連絡用の魔道具を持っていたので時間はそこまでかからない。
 ……が、さすがに盗賊から目を離せないので足止めだ。
 仕方ない。

「ねえ」
「うおっ!?」

 急に話しかけられた。
 ローブ姿の例の子供だ。
 声からして女の子らしい。

「怪我してる」

 指さされた先を見ると……確かに俺の手首から血が出ている。
 さっき盗賊の攻撃がかすったらしい。
 サリアが肩をすくめる。

「珍しくヘマしたわね。あの人数相手じゃ仕方ないけど」
「このくらいなんてことないけどな」

 冒険者ならよくあることだ。

「治す。助けてもらったお礼」

 そう言ってローブ姿の少女は俺の傷口に手をかざした。

「【ヒール】」

 怪我が一瞬でふさがった。

「ありがとう。今のって神聖属性の回復魔術だろ? そんなのが使えるなんてすごいな」
「すごい……? 生まれたときからできたけど」
「……生まれたときから?」

 サリアが怪訝そうに首を傾げる。
 ちょうどそこで風が吹き、少女の頭からフードが外れる。
 あらわになったのは、水色の髪とどこか眠そうな琥珀色の瞳。
 その少女を見て、乗客の一人が声を上げた。

「そ、その髪と瞳の色――まさかあなたは<神の愛し子>ルディアノーラ様ではありませんか!?」

 ……ええと。
 もしかしてこの子有名人なのか?
 なんだ、<神の愛し子>って。





 ユークたちの様子を、物陰から黒づくめの服装の男が見ている。
 その視線は水色髪の少女――<神の愛し子>ルディアノーラに向けられている。

「少女一人さらうことすらできないとは、所詮は山賊だな。使えないゴミめ」

 それから胸元からペンダントを取り出し、それに特殊な動作で拝礼をする。

「まあいい、次の計画こそ本命だ。ああ、あの方の復活も近い……! 我らが邪神ゲルギア様に栄光あれ」
「「「ゲルギア様に栄光あれ」」」

 黒衣の男に従い、数人の男たちがそう唱える。

 彼らはその後、音もなくその場を立ち去った。
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