39 / 108
ぼるふはお金を持っておらんのじゃ
しおりを挟む
「お金ってなに?」
「いえ……お金とは物や事を提供してもらう代わりに支払うものでして……」
「じゃあ、オレは君たちに命を入れたからもらえる?」
ヴォルフの提供に宿屋の受付のキツネは困ってしまう。
確かに獣人を作ったのはヴォルフであることは間違いがないのだが、いくら何でも創造神だからお金頂戴と言われても、はいどうぞとはいかない。
おんぶされ、ふさぎ込んでいるふくに助けを求めるも、まったくと言っていいほど返事もなく、ヴォルフは八方塞がりとなる。
すると、村の外で出会った女が目覚め、睨み合う。
「何だよ」
「まさかお金ないのか?」
「だって今まで要らなかったし」
「神はいいよな。何でも貰えるから」
「お金ない時どうしたらいいんだ?」
女は口に手を当ててヴォルフとふくを交互に見る。
そしてため息をつき、面倒くさそうに告げる。
「アタシの家来いよ。狭いけど……」
二人は女の家に行くことにした。
大通りを歩くだけで、ひそひそと噂をされる。
ヴォルフが宿屋の聞き込みをした影響かと思いきや、女の方の噂で持ちきりであった。
要は任務失敗に加え、侵入者の手助けをしているということで、だ。
「なんか言いたい放題だな」
「気にすんな、狐の連中は噂話が好きなだけだ。ヒソヒソして気色悪い」
「お前もキツネじゃないか?」
「あんなのと一緒にすんなし!アタシはコソコソしてじめじめした奴が嫌いなんだよ!」
「えぇ……なんで怒られんの……」
なぜかぷんぷん怒っている女にヴォルフは戸惑うのである。
宿屋から通りが変わって、路地へ入っていくと一軒だけ雰囲気の違う家が現れる。
他の家屋と違い、上に長い家であり、高さだけなら他の家の二倍ほどのものだった。
「ここがアタシの家。一階が客室になっているから好きに使いな」
「助かるよ。ご飯とお風呂は?」
「ねえよ。自分で用意しな!……あと、ねえと思うけど、交尾すんなよ。やかましいから」
それだけ告げて、女は上に上がっていった。
板間と囲炉裏が用意されているこの部屋で寝泊まりすることになる。
ふくはいつの間にか眠りに就いていたようでそのまま寝かせることにした。
「ふく……好きなヒトできちゃったか……」
ヴォルフは耳を垂らし、気分が落ち込んだまま眠りに就いたのだった。
§
——ゴドンッ!
夜が更け、大きな音でふくは目を覚ます。
ヴォルフの上で眠っていたようで、いつ眠りに就いたのかわからず困惑した。
そして何かの気配を感じ、魔力を目に込めて暗闇を見る。
門の外で出会ったキツネの女だった。
もちろんふくはこの女の家に泊まっていることなど知らないため、戦闘態勢になる。
「アンタも音に気が付いて起きたのか……?」
「お前はわしの敵ではないのか……?」
「そこの邪神がお金持っていねえから助けてやったんだ。それより、外に何がいるかわかるか……?」
ふくは女が外をしきりに気にしており、話し合うのはこの後でもいいと思い、外を【視た】。
複数のヒトならざる者の形をした生き物が村中を徘徊していた。
急いでヴォルフを叩き起こし、状況を説明する。
「ぼるふ、ネズミと犬の集落で出たような奴がいっぱいおるのじゃ!」
「なんだって!?」
ヴォルフは寝起きで状況が飲み込めず、大きな声で反応すると家の壁と柱がバキバキと音を立てて壊れる。
間一髪家から飛び出し、崩れる家の下敷きにならずに済んだ。
「あ、あ、あ、あ、アタシの家が……借金してまで買ったのに……!」
「……ぼるふ、恐れておったことが起こっておるようじゃ」
ヴォルフはふくが何を恐れているかわからず、首を傾げる。
「わしらは一体でも手を焼くやつじゃ。複数現れたとなると対処謎出来ぬ。避難をしなければならぬがここの民はそれを聞いてくれるものか?」
「いや……アンタらじゃ誰も言うことは聞かないだろうよ」
「お前よ、今日のクソギツネのところへ案内するのじゃ」
「ど、どうするのさ!?」
「どうにでもするのじゃ。それだけこの怪物は不味いのじゃ」
ふくの顔を見て嘘ではないと気が付き、諦めたように走っていく。
ふくはヴォルフの背にのり、女を追いかけるのであった。
【それ】は蟻とカブトムシが混ざったような見た目と部分部分で人間の肌が見える。
蟻の特性のせいか、群れを成しているのが非常に厄介に感じる。
「首領の家はそこよ!」
「うむ。お主、名は何という」
「イナホだけど……」
「稲穂か……良い名じゃ。わしはふく。獣の国の王となる女じゃ。生き残ればネズミ族の集落に来てみるのじゃ!」
そう言うとふくとヴォルフは去っていき、イナホは取り残される。
周囲を見ると幸い【それ】の追跡がなく、逃げるのは容易であった。
「逃げるわけには……でも、首領には見放されてるだろうし、そもそもアイツのこと好かないしな……逃げちゃえ!」
イナホはふくの助言通り、走り出していった。
【それ】に見つからないようにこっそりとだが足早に村の敷地を表す塀を目指し走る。
そして、塀の前で一瞬立ち止まる。
なんだかんだ言って愛着のある故郷である。
そして、部外者だが二人の強い獣人が【それ】の対処に当たっている。
ギリィっと歯を鳴らすが、村を背にし、塀を飛び越える。
その行動が吉となることを誰も知らずにいたのだった。
「いえ……お金とは物や事を提供してもらう代わりに支払うものでして……」
「じゃあ、オレは君たちに命を入れたからもらえる?」
ヴォルフの提供に宿屋の受付のキツネは困ってしまう。
確かに獣人を作ったのはヴォルフであることは間違いがないのだが、いくら何でも創造神だからお金頂戴と言われても、はいどうぞとはいかない。
おんぶされ、ふさぎ込んでいるふくに助けを求めるも、まったくと言っていいほど返事もなく、ヴォルフは八方塞がりとなる。
すると、村の外で出会った女が目覚め、睨み合う。
「何だよ」
「まさかお金ないのか?」
「だって今まで要らなかったし」
「神はいいよな。何でも貰えるから」
「お金ない時どうしたらいいんだ?」
女は口に手を当ててヴォルフとふくを交互に見る。
そしてため息をつき、面倒くさそうに告げる。
「アタシの家来いよ。狭いけど……」
二人は女の家に行くことにした。
大通りを歩くだけで、ひそひそと噂をされる。
ヴォルフが宿屋の聞き込みをした影響かと思いきや、女の方の噂で持ちきりであった。
要は任務失敗に加え、侵入者の手助けをしているということで、だ。
「なんか言いたい放題だな」
「気にすんな、狐の連中は噂話が好きなだけだ。ヒソヒソして気色悪い」
「お前もキツネじゃないか?」
「あんなのと一緒にすんなし!アタシはコソコソしてじめじめした奴が嫌いなんだよ!」
「えぇ……なんで怒られんの……」
なぜかぷんぷん怒っている女にヴォルフは戸惑うのである。
宿屋から通りが変わって、路地へ入っていくと一軒だけ雰囲気の違う家が現れる。
他の家屋と違い、上に長い家であり、高さだけなら他の家の二倍ほどのものだった。
「ここがアタシの家。一階が客室になっているから好きに使いな」
「助かるよ。ご飯とお風呂は?」
「ねえよ。自分で用意しな!……あと、ねえと思うけど、交尾すんなよ。やかましいから」
それだけ告げて、女は上に上がっていった。
板間と囲炉裏が用意されているこの部屋で寝泊まりすることになる。
ふくはいつの間にか眠りに就いていたようでそのまま寝かせることにした。
「ふく……好きなヒトできちゃったか……」
ヴォルフは耳を垂らし、気分が落ち込んだまま眠りに就いたのだった。
§
——ゴドンッ!
夜が更け、大きな音でふくは目を覚ます。
ヴォルフの上で眠っていたようで、いつ眠りに就いたのかわからず困惑した。
そして何かの気配を感じ、魔力を目に込めて暗闇を見る。
門の外で出会ったキツネの女だった。
もちろんふくはこの女の家に泊まっていることなど知らないため、戦闘態勢になる。
「アンタも音に気が付いて起きたのか……?」
「お前はわしの敵ではないのか……?」
「そこの邪神がお金持っていねえから助けてやったんだ。それより、外に何がいるかわかるか……?」
ふくは女が外をしきりに気にしており、話し合うのはこの後でもいいと思い、外を【視た】。
複数のヒトならざる者の形をした生き物が村中を徘徊していた。
急いでヴォルフを叩き起こし、状況を説明する。
「ぼるふ、ネズミと犬の集落で出たような奴がいっぱいおるのじゃ!」
「なんだって!?」
ヴォルフは寝起きで状況が飲み込めず、大きな声で反応すると家の壁と柱がバキバキと音を立てて壊れる。
間一髪家から飛び出し、崩れる家の下敷きにならずに済んだ。
「あ、あ、あ、あ、アタシの家が……借金してまで買ったのに……!」
「……ぼるふ、恐れておったことが起こっておるようじゃ」
ヴォルフはふくが何を恐れているかわからず、首を傾げる。
「わしらは一体でも手を焼くやつじゃ。複数現れたとなると対処謎出来ぬ。避難をしなければならぬがここの民はそれを聞いてくれるものか?」
「いや……アンタらじゃ誰も言うことは聞かないだろうよ」
「お前よ、今日のクソギツネのところへ案内するのじゃ」
「ど、どうするのさ!?」
「どうにでもするのじゃ。それだけこの怪物は不味いのじゃ」
ふくの顔を見て嘘ではないと気が付き、諦めたように走っていく。
ふくはヴォルフの背にのり、女を追いかけるのであった。
【それ】は蟻とカブトムシが混ざったような見た目と部分部分で人間の肌が見える。
蟻の特性のせいか、群れを成しているのが非常に厄介に感じる。
「首領の家はそこよ!」
「うむ。お主、名は何という」
「イナホだけど……」
「稲穂か……良い名じゃ。わしはふく。獣の国の王となる女じゃ。生き残ればネズミ族の集落に来てみるのじゃ!」
そう言うとふくとヴォルフは去っていき、イナホは取り残される。
周囲を見ると幸い【それ】の追跡がなく、逃げるのは容易であった。
「逃げるわけには……でも、首領には見放されてるだろうし、そもそもアイツのこと好かないしな……逃げちゃえ!」
イナホはふくの助言通り、走り出していった。
【それ】に見つからないようにこっそりとだが足早に村の敷地を表す塀を目指し走る。
そして、塀の前で一瞬立ち止まる。
なんだかんだ言って愛着のある故郷である。
そして、部外者だが二人の強い獣人が【それ】の対処に当たっている。
ギリィっと歯を鳴らすが、村を背にし、塀を飛び越える。
その行動が吉となることを誰も知らずにいたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる