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少し不安になったのじゃ
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湯あみを終え、戻るとヴォルフの姿がなかった。
「あやつどこをほっつき歩いておるんじゃ?」
——取られてしまいますよ、ヴォルフ様。
コロンの言葉を不意に思い出す。
ドクンと強い鼓動を感じ、胸を押さえる。
何か大事なものが無くなってしまった気分になる。
ふくは慌てて外に出る。
走って、集落を隅々まで探し出す。
どこにも姿が見当たらず、段々と不安な感情に支配されてしまう。
(どこにも……おらぬ。もしや本当に他の女の元へ……?)
ぎゅっと胸を掴み、再び歩き始める。
道中、犬族の女性から深々とお辞儀をされ、ふくも会釈する。
そして、コリーの家の前に到着する。
(あやつはあやつで良い女子を見つけたのじゃろう……。わしは其れを邪魔できぬ。ならば役目を果たすのみじゃ……)
ふくは玄関の暖簾のような目隠しを避けながら入る。
「こりいよ、居るかの?」
返事がなかったのだが代わりに小さい足音が近づいてくる。
コロンが姿を現し、ふくは驚く。
「ふく様!コリーの様は今村はずれの荒野でヴォルフ様と一緒におられています。いかがなさいました?」
「ころんよ、それは本当なのかの?ぼるふとこりいが外におるのは」
「はい!オスを集めて、戦闘訓練をするとおっしゃっていました」
コロンからそれを聞くと、ほっと胸をなでおろし、安心した。
よく考えれば先ほど歩いたとき村には女性しかいなかったことを思い出す。
安心している事に気づいたコロンはニコリと笑い、手を繋ぐ。
「ご案内いたします!」
「うむ。頼もうかの」
二人はヴォルフと犬族の男性が集まっているだろう村はずれの荒野へ足を運ぶのだった。
集落から殆ど離れてはいないのだが、荒野の中で戦闘訓練が行われていた。
基礎訓練は終えたのか、ヴォルフ対犬族で訓練が行われており、ヴォルフは狼の姿になって、応戦していた。
少し離れたところでコリーは見学しており、ふくはその隣へ座る。
「おや、こちらへいらしたのですね」
「あやつとは切れぬ縁で繋がっておるからの」
「ほう!ではヴォルフ様には良い妻ができたのですね」
「妻ではないのじゃがの。腐れ縁じゃ」
コリーは苦笑し、戦闘訓練を眺めていた。
両手は正直で、ヴォルフの動きに合わせて指がピクピクと動く。
「お前は、再び戦地へ身を投じたいものなのかの?」
「……えぇ、まあ。できればこの手で集落を守りたかったですね」
「五体満足なら、わしの国へ来ることは拒んだのかの?」
「そう……ですね。はじめはあり得ないと思いました。他種族混合の国は聞いたことがない。竜人族ですら『ツバサ』、『ウロコ』、『ケアリ』で種族が分断しています」
ふくは襲撃してきた竜人族を思い出すと翼を持った者とそうではない者がいたが、共通するのは鱗持ちだった。
「竜人族の『ウロコ』というものは翼はあるのかの?」
「いえ、翼を持てば『ツバサ』なります」
「ではこの前にわしの国を襲ったのは『ツバサ』と『ウロコ』が手を組んだものじゃの……」
「えっ!?『ウロコ』と『ツバサ』が手を組んだ部隊ですか!?国は大変な目に遭ったのでは……?」
「昨日の【それ】と比べれば大した実力ではなかったの。まだ鳥人属の方が手ごたえがあったの」
屈指の実力を誇る竜人族の複合部隊を相手にし、大したことがないと言いきったふくの底知れなさに恐怖する。
「あの……何人葬ったのでしょうか……」
「半分は斃したのではないのかの?最後には散り散りになって逃げおったからの」
「竜人の王は怖くないのですか?」
「そんなものに一々恐れて居ったら王なんてなれぬのじゃ」
ふくの強心臓っぷりに驚いていると、コロンがコソっとコリーに囁く。
——ふく様はヴォルフ様が大好きだからそこが弱点だよ!
「ころん、それ以上言うとお仕置きじゃの」
「ご、ごめんなさいっ!」
三人は笑い、和やかな雰囲気になる。
一方ヴォルフは大型の肉食魔獣の対策として魔獣役をしていた。
いくら束になってかかったところで、基本的に相手にすらならない。
石矢、石斧、石槍と武具を使うようだったが、魔力を込められたヴォルフの毛は石どころか鋼すらはじき返す。
ダメージは全く入らず、訓練にもならないだろうと思っていたのだが、コリーの意見は違うようだった。
氷狼相手にダメージは与えられないが、大型の肉食魔獣の動きを観察し、陣形などを取り、自由に狩りをさせないようにする目的があるのだそうだ。
実際、民を殺してはふくに説教どころではないので手加減して相手をするのだが、確かに動きにくく感じていた。
だんだん飽きてきて欠伸をするとコリーが片足で跳びながら来る。
「養生しないときついんじゃないのか?」
「私も少しは訓練したいものでしてね、手合わせを願いたい」
「別にいいけど、けがしないでよ?ふくに怒られるから」
石斧を携え、構える。
五メートルの間合いを一気に詰め、石斧を振るう。
寸前のところをヴォルフは首を動かすだけで回避し、背後へ回り込む。
反撃できないのがもどかしかったが、爪で突こうとした瞬間、ふわりとありえない動きをしてヴォルフの反撃を回避する。
「ん?これはなんだ?」
コリーは空中を蹴り、接近し、石斧を振るう。
基本的に当たることはないが、他のヒトより全然動きが違うものだった。
避けながらそのからくりを見ていくと、ふくの姿が目に入る。
そしてすぐ傍にはコロンが両手をコリーに向けており、からくりが分かった。
ここで術者を仕留めるのが定石だが、ヴォルフはあえてコリーに専念することにした。
(ふくがこのオス犬を戦わせるために仕組んだんだ。受けて立とうじゃないか!)
ヴォルフのテンションが上がり、思わず冷気が漏れていく。
それに気づいたふくは手をパンと叩き、詠唱する。
「『揺れる大地!』」
地震が起こり、ヴォルフは気を取られ、座る。
その隙に頭に石斧がヒットし、石斧は砕け散った。
「そこまでじゃ。ぼるふ!お前が調子に乗ると大変なことになると分かっておらぬのか!?」
「ご、ごめんよ~!」
ヴォルフはふくに伏せて、全面降伏する。
ヴォルフを見たふくはため息をついてコロンの頭を撫でる。
「ころんよ、お前はよくやったの。お前自身が戦うのはむいておらぬかもしれんが、その魔法は強き者の助けになる。もっと精進するのじゃよ?」
「は、はい!」
戦闘訓練は無事に怪我人ゼロで終わり、出発前の宴を開催するのであった。
もちろんヴォルフは罰として肉の調達を命じられるのだった。
「あやつどこをほっつき歩いておるんじゃ?」
——取られてしまいますよ、ヴォルフ様。
コロンの言葉を不意に思い出す。
ドクンと強い鼓動を感じ、胸を押さえる。
何か大事なものが無くなってしまった気分になる。
ふくは慌てて外に出る。
走って、集落を隅々まで探し出す。
どこにも姿が見当たらず、段々と不安な感情に支配されてしまう。
(どこにも……おらぬ。もしや本当に他の女の元へ……?)
ぎゅっと胸を掴み、再び歩き始める。
道中、犬族の女性から深々とお辞儀をされ、ふくも会釈する。
そして、コリーの家の前に到着する。
(あやつはあやつで良い女子を見つけたのじゃろう……。わしは其れを邪魔できぬ。ならば役目を果たすのみじゃ……)
ふくは玄関の暖簾のような目隠しを避けながら入る。
「こりいよ、居るかの?」
返事がなかったのだが代わりに小さい足音が近づいてくる。
コロンが姿を現し、ふくは驚く。
「ふく様!コリーの様は今村はずれの荒野でヴォルフ様と一緒におられています。いかがなさいました?」
「ころんよ、それは本当なのかの?ぼるふとこりいが外におるのは」
「はい!オスを集めて、戦闘訓練をするとおっしゃっていました」
コロンからそれを聞くと、ほっと胸をなでおろし、安心した。
よく考えれば先ほど歩いたとき村には女性しかいなかったことを思い出す。
安心している事に気づいたコロンはニコリと笑い、手を繋ぐ。
「ご案内いたします!」
「うむ。頼もうかの」
二人はヴォルフと犬族の男性が集まっているだろう村はずれの荒野へ足を運ぶのだった。
集落から殆ど離れてはいないのだが、荒野の中で戦闘訓練が行われていた。
基礎訓練は終えたのか、ヴォルフ対犬族で訓練が行われており、ヴォルフは狼の姿になって、応戦していた。
少し離れたところでコリーは見学しており、ふくはその隣へ座る。
「おや、こちらへいらしたのですね」
「あやつとは切れぬ縁で繋がっておるからの」
「ほう!ではヴォルフ様には良い妻ができたのですね」
「妻ではないのじゃがの。腐れ縁じゃ」
コリーは苦笑し、戦闘訓練を眺めていた。
両手は正直で、ヴォルフの動きに合わせて指がピクピクと動く。
「お前は、再び戦地へ身を投じたいものなのかの?」
「……えぇ、まあ。できればこの手で集落を守りたかったですね」
「五体満足なら、わしの国へ来ることは拒んだのかの?」
「そう……ですね。はじめはあり得ないと思いました。他種族混合の国は聞いたことがない。竜人族ですら『ツバサ』、『ウロコ』、『ケアリ』で種族が分断しています」
ふくは襲撃してきた竜人族を思い出すと翼を持った者とそうではない者がいたが、共通するのは鱗持ちだった。
「竜人族の『ウロコ』というものは翼はあるのかの?」
「いえ、翼を持てば『ツバサ』なります」
「ではこの前にわしの国を襲ったのは『ツバサ』と『ウロコ』が手を組んだものじゃの……」
「えっ!?『ウロコ』と『ツバサ』が手を組んだ部隊ですか!?国は大変な目に遭ったのでは……?」
「昨日の【それ】と比べれば大した実力ではなかったの。まだ鳥人属の方が手ごたえがあったの」
屈指の実力を誇る竜人族の複合部隊を相手にし、大したことがないと言いきったふくの底知れなさに恐怖する。
「あの……何人葬ったのでしょうか……」
「半分は斃したのではないのかの?最後には散り散りになって逃げおったからの」
「竜人の王は怖くないのですか?」
「そんなものに一々恐れて居ったら王なんてなれぬのじゃ」
ふくの強心臓っぷりに驚いていると、コロンがコソっとコリーに囁く。
——ふく様はヴォルフ様が大好きだからそこが弱点だよ!
「ころん、それ以上言うとお仕置きじゃの」
「ご、ごめんなさいっ!」
三人は笑い、和やかな雰囲気になる。
一方ヴォルフは大型の肉食魔獣の対策として魔獣役をしていた。
いくら束になってかかったところで、基本的に相手にすらならない。
石矢、石斧、石槍と武具を使うようだったが、魔力を込められたヴォルフの毛は石どころか鋼すらはじき返す。
ダメージは全く入らず、訓練にもならないだろうと思っていたのだが、コリーの意見は違うようだった。
氷狼相手にダメージは与えられないが、大型の肉食魔獣の動きを観察し、陣形などを取り、自由に狩りをさせないようにする目的があるのだそうだ。
実際、民を殺してはふくに説教どころではないので手加減して相手をするのだが、確かに動きにくく感じていた。
だんだん飽きてきて欠伸をするとコリーが片足で跳びながら来る。
「養生しないときついんじゃないのか?」
「私も少しは訓練したいものでしてね、手合わせを願いたい」
「別にいいけど、けがしないでよ?ふくに怒られるから」
石斧を携え、構える。
五メートルの間合いを一気に詰め、石斧を振るう。
寸前のところをヴォルフは首を動かすだけで回避し、背後へ回り込む。
反撃できないのがもどかしかったが、爪で突こうとした瞬間、ふわりとありえない動きをしてヴォルフの反撃を回避する。
「ん?これはなんだ?」
コリーは空中を蹴り、接近し、石斧を振るう。
基本的に当たることはないが、他のヒトより全然動きが違うものだった。
避けながらそのからくりを見ていくと、ふくの姿が目に入る。
そしてすぐ傍にはコロンが両手をコリーに向けており、からくりが分かった。
ここで術者を仕留めるのが定石だが、ヴォルフはあえてコリーに専念することにした。
(ふくがこのオス犬を戦わせるために仕組んだんだ。受けて立とうじゃないか!)
ヴォルフのテンションが上がり、思わず冷気が漏れていく。
それに気づいたふくは手をパンと叩き、詠唱する。
「『揺れる大地!』」
地震が起こり、ヴォルフは気を取られ、座る。
その隙に頭に石斧がヒットし、石斧は砕け散った。
「そこまでじゃ。ぼるふ!お前が調子に乗ると大変なことになると分かっておらぬのか!?」
「ご、ごめんよ~!」
ヴォルフはふくに伏せて、全面降伏する。
ヴォルフを見たふくはため息をついてコロンの頭を撫でる。
「ころんよ、お前はよくやったの。お前自身が戦うのはむいておらぬかもしれんが、その魔法は強き者の助けになる。もっと精進するのじゃよ?」
「は、はい!」
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もちろんヴォルフは罰として肉の調達を命じられるのだった。
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