キツネの女王

わんころ餅

文字の大きさ
上 下
27 / 108

怖い夢を見たのじゃ

しおりを挟む
『ふく様、どうして助けてくれなかったのですか?』

『オレたちを裕福にさせてくれるんじゃなかったのかよ!』

「違う!違うのじゃ!わしは……お前たちを助けたかったのじゃ!」

『けど、わたくしたちは死んでしまいました。どうしてですか?』

「そ、それは……」

 ふくは小麦の指摘を返すことができなかった。
 言葉が詰まり、上手く話すことができない。
 息が苦しくなり、その場に座り込む。

『アンタに賭けたオレが馬鹿だった』

『わたくしたちはネズミ族……。弱い存在は淘汰されるべきですからね』

「そんなことは……」

『ないと言えますか?』

 ふくは再び言葉が詰まってしまう。
 コムギから自身の思っている部分を突かれ、反論できず目をぎゅっと瞑る。
 冷たく言い放ってくるコムギに対し、言葉をかける。


「わしは……!お前たちを救いたいという気持ちにウソはないのじゃ——っ。はっ……はっ……はあっ……はあっ……。ゆ、夢じゃった……のか……」

「ふく大丈夫?」

 太心配そうに声をかけられ、振り浮くと、ヴォルフの姿が目に入る。
 眠りから覚めたヴォルフを見て、顔をゆがませ、号泣する。

「わあぁぁぁぁぁっ!」

「ちょちょちょっと!?どうしたの!?怖い夢を見ていたの!?」

「ばかばかばかばか……キサマは大バカ者じゃ……!なぜわしを一人にする……!」

「ご、ごめんて……。もう一人にしないから……。ね?」

 ヴォルフはふくが背負っていたものと孤独感を感じ取り、獣人の姿になる。
 そして、そっと優しくふくを抱き寄せ、首元のふさふさの毛にふくを埋める。
 ふくは久しぶりのヴォルフの温かい毛に埋もれ、安心して寝息を立て始めた。
 
「あ、あの、ヴォルフ様?」

 レオンに声をかけられたヴォルフは嫌そうな顔をしてレオンを見る。

「一つ疑問なのですが、ふく様の魔法は殆ど複合魔法で、詠唱も無視していました。これはふく様の純粋な力なのでしょうか?」

「……複合魔法。どんな属性を、詠唱無視した?」

「確か……【氷結】、【爆破】、【暴雨】、【蒼炎】です。それぞれ『凍れ』、『白銀の抱擁』、『爆ぜよ』、『吹き荒れる嵐』、『獄炎の檻』と言っていました」

「……オマエ、全部覚えてんの?気持ち悪っ」

 レオンの記憶力にヴォルフは完全に引いており、ふくをかばうようにしっかりと抱き寄せる。
 急に気持ち悪いと言われショックを受けたレオンだが、心が折れてはならないと思い、まっすぐとヴォルフを見る。
 これでも獅子の獣人であるのでまっすぐと見ると普通の獣人なら恐怖で委縮するのだが、今回は相手が違う。
 まっすぐに見つめてもヴォルフは怯むことなく、見返してくる。
 逆にヴォルフのどんな獲物でも委縮してしまう金色の瞳はレオンによく効き、思わず怯んでしまう。

「……オレもだけど、基本的に詠唱なんていらないようにふくには教えてる。それを使いこなしているのはふくの才能だと思う。だが、複数の、しかも全元素魔法を使いこなした上に、複合魔法を複数使うのは話が違う」

「……と申されますと?」

「この世界の魔法のルールは?」

「……一個体につき一つの魔法を所持。複数元素の素養があっても複合魔法の素養がなければ組めない。複合魔法の持ち主は元となった各魔法を使える……です。」

 ヴォルフはうんうんと頷き、レオンの回答が正しいものだと分かり、ほっと一息を吐く。
 そんなレオンを見てヴォルフはもう一言告げる。

「【斬撃】、【治癒】の魔法も使いこなしていたから付与魔法が使えるし、【氷結】も二種類使ったのだろう?」

「は、はあ!?付与魔法まで!?ありえないけど……。【氷結】は直接凍らせるものと、自身の周囲に吹雪を起こすものがありました」

「なら、【収縮】、【発散】の二種類の事象魔法も使えていたということ。ということはもしかしたら、現在使える魔法は『全部』だと思った方がいいだろう」
 
 ヴォルフの考えを聞き、レオンは頭を抱える。
 ふくの規格外の強さに納得がいく半面、出鱈目さに悩む。

「ふく様に聴いたのですか?」

「いや?きっとそうなんじゃないかなと感じているだけ。獅子頭、女の子の秘密はズケズケと踏み入るものではないぞ?」

「……お前が言うでない、あほ犬」

 いつの間にか目を覚ましていたふくを見てレオンは背筋を正す。
 ヴォルフいつもの調子でふくの顔をぺろりと舐める。
 そして、鼻の穴を爪でぐりぐりと抉られるのだった。


「わしの魔法について話をしておったのじゃろう?」

 レオンは背筋をピシッと正し、ヴォルフは涙目になりながら抉られた箇所を擦っていた。
 地震でもよくわかっていない事を説明するのは非常に難しく感じるのだが、ふくはありのままを話すことにした。

「わしの魔法の素養についてはよく知らぬ。じゃが、わしの魔法なのじゃろうな、魔力を込めて念じるとな、書庫に連れていかれるのじゃ」

「「ショコ?」」

「本がいっぱいあっての……なんじゃその気持ち悪いものを見るような顔をして」

「ふ、ふく様申し訳ございません。『ショコ』と『ホン』というものが我々にはわからないのですが……」

 意外な疑問が帰ってきてふくは困ってしまった。

「本というのは今まで物事を記す紙を集めたもので、書庫は本を集めたものなのじゃ」

「壁画のようなものでしょうか?」

「ううむ……。壁画では持ち運びができぬであろう?木や草を砕き、濾したものを乾燥させたものじゃ。わしの国ではそれなりに使われておったのじゃが、この世界にはないものなのじゃな?」

 ふくはヴォルフを見ると、しっかりと頷く。
 肉を焼くことを知らないのであれば、当然だろうと納得する。
 製法まで説明すると長くなるので、ふくは話を進めることにした。

「紙のことはまた後での。その書庫には『魔法大全』といった本があっての、それには術の魔法が記されておる。まあ、その時に必要な魔法しか見させてくれぬものじゃが、それを見て使っておるのじゃ」

「だけど、それじゃあ素養についてが分からないね。魔法には素養が必要だから……」

 ふくは素養について言われるが、よくわからないので、魔法を発動しているときに行っていることを説明するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...