1 / 18
僕の四月は君のせい
しおりを挟む
四月の僕は彼女のせいで変わった。
僕はある喫茶店で働いている。
でも、僕はここで仕事をするにあたって面接をしたわけでもない。というか彼女が無理やり僕をここで働かせているのだ……いや、それは正しくないか。僕自身がここで働きたいと思ってしまっていたのもあるから、結局は僕が負けただけなのか。
今日も彼女は僕に語りかけてくる。それが普通だと言わんばかりに。いや、嫌なんじゃない、逆に嬉しいくらいだが。
ともあれそれが僕の日常。
そして彼女の日常。
もうこんな生活が1年以上も続いている。
そういえばもう少しで2年になるのか。終わることもなく、ただ流れていった。いつ終わってもおかしくない。でも、僕には終わるようには感じられなかった。いや、終わらせたくないのだろう、変えたくないのだろう。
「すいません、コーヒーをいいですか」
と、さっき入ってきた会社員が言う。
「はい、ただいま」
そう言って、コーヒーも淹れ始める。もうこの作業にも慣れてしまった。お客さんの接待をし、コーヒーを淹れる、ランチを作る、材料の買い出しをする。
慣れて仕舞えばなんてことない。
2年近くもやっていれば自然と体が動く。
「お客様、砂糖とミルクはどうします?」
そうやってお手本通りに尋ねる。
でもこのお客さんは砂糖もミルクも入れない。
でも、彼は甘党だ。
毎回、追加でケーキなどを注文する。いつのまにかそんなことまで覚えてしまっているのだ。
慣れ、とは少し違うけれど、これもまた仕事の中で身についたものだ。いわゆる経験というものだ。
「どうしたんだ? そんなに改まって、わかっているだろう。私が何を頼むか」
何も変化のない、いつも通りのやりとり。いや、いつもはこんな冗談は言わないな。
「軽いジョークですよ。砂糖もミルクもなしですよね。今日はショートケーキとフルーツタルトがありますけど、どちらにします?」
「悩むなぁ……オススメは?」
「そうですね……個人的にはフルーツタルトがいいです。旬の果物が詰め込まれてますから」
「ではフルーツタルトを頼む」
「わかりました」
こんなやり取りをしていればそれは店員のように見えることだろう。当たり前だ、エプロンをつけてカウンターにいるのだから。そもそもここの店員なんだし。何でそんなことを思っているのかなんてもう僕には分からない。
「どうぞ」
「ありがとう、望君の入れるコーヒーはやっぱり美味しいね」
「ありがとうございます。一ノ瀬さん、それはそうとどうですか?」
「そうだね、千春ちゃんの言った通りだったよ」
つい先日、少し相談に乗ったのだ。世の中を生きる会社員は大変である。そんな感想を受けた。
とはいってもここは街角にある一軒の喫茶店。いわゆるカフェだ。
まぁ、それなりに繁盛している。
そして、カフェとは別の側面を持っていたりもする。ただ唯一そこだけが変わっている点。
「望君チョコレートを買ってきてくれるかしら」
僕と同じエプロンをかけた女子が店内のソファーに腰をかけながらそんなことを言ってくる。
「はい、わかりました」
彼女はまた読書へと、その世界の中に入ってしまった。
彼女は僕の雇い主。
小鳥遊千春僕の通う学校の一個上の先輩だ。
才色兼備な女性で誰にでも好意的で、親切で優しい。
でも、彼女は誰の告白にも振り向かない。
例えそれがどんなにイケメンだとしても彼女は振り返りすらしない、見向きもしない。
彼女はまさしく誰の手にも届かない高嶺の花だ。
よじ登ることもできない断崖絶壁に身を構える一輪の花だ。
勿論落ちてくるわけなんてない。
落とそうものなら自分が落ちる……はずだった。
僕はある喫茶店で働いている。
でも、僕はここで仕事をするにあたって面接をしたわけでもない。というか彼女が無理やり僕をここで働かせているのだ……いや、それは正しくないか。僕自身がここで働きたいと思ってしまっていたのもあるから、結局は僕が負けただけなのか。
今日も彼女は僕に語りかけてくる。それが普通だと言わんばかりに。いや、嫌なんじゃない、逆に嬉しいくらいだが。
ともあれそれが僕の日常。
そして彼女の日常。
もうこんな生活が1年以上も続いている。
そういえばもう少しで2年になるのか。終わることもなく、ただ流れていった。いつ終わってもおかしくない。でも、僕には終わるようには感じられなかった。いや、終わらせたくないのだろう、変えたくないのだろう。
「すいません、コーヒーをいいですか」
と、さっき入ってきた会社員が言う。
「はい、ただいま」
そう言って、コーヒーも淹れ始める。もうこの作業にも慣れてしまった。お客さんの接待をし、コーヒーを淹れる、ランチを作る、材料の買い出しをする。
慣れて仕舞えばなんてことない。
2年近くもやっていれば自然と体が動く。
「お客様、砂糖とミルクはどうします?」
そうやってお手本通りに尋ねる。
でもこのお客さんは砂糖もミルクも入れない。
でも、彼は甘党だ。
毎回、追加でケーキなどを注文する。いつのまにかそんなことまで覚えてしまっているのだ。
慣れ、とは少し違うけれど、これもまた仕事の中で身についたものだ。いわゆる経験というものだ。
「どうしたんだ? そんなに改まって、わかっているだろう。私が何を頼むか」
何も変化のない、いつも通りのやりとり。いや、いつもはこんな冗談は言わないな。
「軽いジョークですよ。砂糖もミルクもなしですよね。今日はショートケーキとフルーツタルトがありますけど、どちらにします?」
「悩むなぁ……オススメは?」
「そうですね……個人的にはフルーツタルトがいいです。旬の果物が詰め込まれてますから」
「ではフルーツタルトを頼む」
「わかりました」
こんなやり取りをしていればそれは店員のように見えることだろう。当たり前だ、エプロンをつけてカウンターにいるのだから。そもそもここの店員なんだし。何でそんなことを思っているのかなんてもう僕には分からない。
「どうぞ」
「ありがとう、望君の入れるコーヒーはやっぱり美味しいね」
「ありがとうございます。一ノ瀬さん、それはそうとどうですか?」
「そうだね、千春ちゃんの言った通りだったよ」
つい先日、少し相談に乗ったのだ。世の中を生きる会社員は大変である。そんな感想を受けた。
とはいってもここは街角にある一軒の喫茶店。いわゆるカフェだ。
まぁ、それなりに繁盛している。
そして、カフェとは別の側面を持っていたりもする。ただ唯一そこだけが変わっている点。
「望君チョコレートを買ってきてくれるかしら」
僕と同じエプロンをかけた女子が店内のソファーに腰をかけながらそんなことを言ってくる。
「はい、わかりました」
彼女はまた読書へと、その世界の中に入ってしまった。
彼女は僕の雇い主。
小鳥遊千春僕の通う学校の一個上の先輩だ。
才色兼備な女性で誰にでも好意的で、親切で優しい。
でも、彼女は誰の告白にも振り向かない。
例えそれがどんなにイケメンだとしても彼女は振り返りすらしない、見向きもしない。
彼女はまさしく誰の手にも届かない高嶺の花だ。
よじ登ることもできない断崖絶壁に身を構える一輪の花だ。
勿論落ちてくるわけなんてない。
落とそうものなら自分が落ちる……はずだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
カフェひなたぼっこ
松田 詩依
キャラ文芸
関東圏にある小さな町「日和町」
駅を降りると皆、大河川に架かる橋を渡り我が家へと帰ってゆく。そしてそんな彼らが必ず通るのが「ひより商店街」である。
日和町にデパートなくとも、ひより商店街で揃わぬ物はなし。とまで言わしめる程、多種多様な店舗が立ち並び、昼夜問わず人々で賑わっている昔ながらの商店街。
その中に、ひっそりと佇む十坪にも満たない小さな小さなカフェ「ひなたぼっこ」
店内は六つのカウンター席のみ。狭い店内には日中その名を表すように、ぽかぽかとした心地よい陽気が差し込む。
店先に置かれた小さな座布団の近くには「看板猫 虎次郎」と書かれた手作り感溢れる看板が置かれている。だが、その者が仕事を勤めているかはその日の気分次第。
「おまかせランチ」と「おまかせスイーツ」のたった二つのメニューを下げたその店を一人で営むのは--泣く子も黙る、般若のような強面を下げた男、瀬野弘太郎である。
※2020.4.12 新装開店致しました 不定期更新※
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうやら私は二十歳で死んでしまうようです
ごろごろみかん。
キャラ文芸
高二の春。
皆本葉月はある日、妙な生き物と出会う。
「僕は花の妖精、フラワーフープなんだもん。きみが目覚めるのをずっと待っていたんだもん!」
変な語尾をつけて話すのは、ショッキングピンクのうさぎのぬいぐるみ。
「なんだこいつ……」
葉月は、夢だと思ったが、どうやら夢ではないらしい。
ぬいぐるみ──フラワーフープはさらに言葉を続ける。
「きみは20歳で死んじゃうんだもん。あまりにも不憫で可哀想だから、僕が助けてあげるんだもん!」
これは、寂しいと素直に言えない女子高生と、その寂しさに寄り添った友達のお話。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる