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第36話
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明日でゴーレムと戦い出して約束の一週間、その間二人とも傷らしい傷すらつけられなかった。
「こんのっ!」
右腕の一撃を避け、左腕の追撃は受け流しゴーレムに肉薄する。動き自体は緩慢だ、しっかり視界に捉えてれば避けられない事はない。斬れるイメージを頭の中で必死に描きながら渾身の一撃をかます。
しかし甲高い音と共に無惨にも僕の剣は弾かれ、大きく隙ができた腹部に容赦無い右腕の一撃が見舞われる。
トラックにでも撥ねられたかのような衝撃で体が大きく宙に舞い、庭の端までぶっ飛ばされる。内臓が全部飛び出るんじゃないかという錯覚すら覚える一撃。現に一日目は殴られた衝撃で失神するわ失禁するわで、目が覚めたら着替えさせられていた。
もうあんな惨めな目に遭うのはゴメンだと意地で意識を保つが、体の方は言うことを聞いてくれない。
「もう、また無茶をして!」
「先生急いで急いで」
「分かっておる、まったく年寄りに無理をさせて」
この訓練を始めてから近くにいてくれるようになったワーナー達が駆け寄ってくるのが分かるが、それに反応を返すことすらできず問答無用で治癒魔法をかけられる。
治癒魔法は便利だが回復量に比例して時間が掛かる上、後から倦怠感が襲うというデメリットがあり、おかげで最近夜は死んだように眠ることばかりだ。
それでも子供は回復が早くて良いなと周りからよく言われるので、体の若さにか任せてかなり無理をしているのだろう。
「よし、これで良いじゃろ。ただ今日はもう三回目じゃ、これ以上は回復してやらんぞ」
「あ、ありがとうございます…」
なんとかお礼を返すが全身の痛みと倦怠感で動けないでいると、一緒に駆け寄って来てたエルザが抱き上げて邪魔にならない所まで運んでくれる。
「若いとは言えあんまり無茶しちゃダメよ、せっかく可愛いのに台無しになっちゃったらどうするの」
「は、はい…」
女性にお姫様抱っこされるのも可愛いと言われるのも恥ずかしいが、それに抵抗すらできない。
庭に生えた木の根元にもたれ掛かるように置かれ、エルザは他の人達との練習に戻っていくと、代わりにポツンと残された僕の元に仁が歩み寄ってくる。
「よう、今日三度目だからこれで終わりか?」
「うん、ドクターストップだって。あと一時間はまともに動けないと思う」
最近回復魔法を受けすぎて、動けるようになるまでの時間は体感で分かるようになってきた。
最初の頃は倒れて二時間経っても動けない僕を見てロバートが泣きついてきたこともあったが、今では慣れた物だ。
「仁はサボり?」
「イメトレだイメトレ、闇雲に撃ったってあの障壁は突破できないからな」
あのゴーレム達は歩くと言うことは知らないようでこちらに近づいてくる事はなく、誰も近づかなければ無害なオブジェクトだ。しかも何を基準に動いてるのかは分からないが、小さな鳥とかだと反応しないらしい。
「お前もせっかく動けないんだからイメトレしてみたらどうだ?」
「イメトレね、やっぱ金髪で髪を逆立てるイメージかな?」
今のお前は元から金髪だろと仁がカインと同じツッコミをしてくる。
「それにイメトレは強化魔法だけじゃないさ、お前だって炎系の魔法は適性があるんだろ?」
これは種見式の時の結果で分かる事らしい。葉が瑞々しく青かった仁は風、水、光などの適性が強いように、葉が赤かったり黒く枯れていた僕は炎や闇の適性があるらしい。
「あるのはあるらしいけど、イマイチイメージが湧かないんだよね」
適性があるとは言っても闇は元々制御が難しいらしいので、実質炎だけが適性みたいなものらしい。でも僕にはその炎もまだ全然使えない。
「火を操る能力者なんてそれこそアニメなんかにいっぱいいただろ、そいつら思い出してみろよ」
炎使いのキャラは確かに多いし、パッと思い出すだけでも雨の日には炎が使えない人とか、死ぬお兄ちゃんとか、光の速さを超えるお兄ちゃんとか結構出てくる。
「でもそんなイメージで出るのかな?」
「それだ、それがいけないんだ!」
僕に跨り食い入るような姿勢の仁にガシッと両肩を掴まれる。ただでさえ全身が痛いんだからあまり乱暴な事は止めて欲しい。
「お前のその魔法への懐疑的な姿勢、それがいけないんだ。もっと心の底から魔法はあると信じて使ってみろ」
「そ、そんな事急に言われても…」
魔法オタクだった仁とは違い元々僕は魔法に興味なんかなかったし、未だに使える意味もよく分からない。それなのにその姿勢が悪いと言われてもこっちが困る。
「ほら、魔法はある!心の奥から信じてみろ」
「分かった、分かったから揺すらないで」
手のひらに竜巻を作りながら迫ってくる仁を宥める。
しかし、分かったとは言ってもそんなもので本当に出るのだろうか?いや、その考えがダメなのか?
とりあえずやらないとまた揺すられそうなので仁を信じて目を閉じ集中してみる。
腕は動かないので手のひらは上向きに投げ出されたまま、頭の中には色んなアニメや漫画キャラが炎を出すところをイメージしながら手のひらに神経を集中させる。
炎を食べる魔法使い、刀に炎を纏う剣士、炎を使う美少女、色んな炎を使うキャラを思い出しながら集中する。集中して集中して、最後にそれらのイメージと自分の手から出るイメージを重ねた瞬間――
ボンッ!!と盛大な音を立てて上向きに投げ出されてた手のひらから爆炎が上がり、僕に跨るような姿勢を取っていた仁を宙へと吹き飛ばす。突然の爆発音に庭にいた人たちの目線が一斉にこちらを向くと同時に、煙を上げながら宙に舞っていた仁が地面へと帰還する。
一瞬で庭が警戒体制に包まれ、弛緩していた空気がピンと張り詰める。みんなのその視線は僕達の方を向いていた。
「今の爆発音は何?敵襲?」
エルザが武器を構えながらこちらに聞いてくるので事の顛末を説明する。本当は説明するのもしんどいけど、仁はそこで焦げちゃってるから仕方がない。
「はぁ、事情は分かったわ。つまり初めて魔法が発動したのね」
エルザ達が警戒を解きつつこちらに歩み寄ってくる。
「うん、驚かせちゃってごめんなさい」
「本当よ、突然爆発するんだもん。大体あなたは安静にしてないとダメでしょ」
そう言いながらエルザとワーナーが焦げた仁の介抱を始める。意識はトんでるようだが幸い傷は大したこと無いらしく、木の下に置かれる子供が一人増えただけで済んだ。
「それにしても本当に僕の手から魔法が出るなんて…」
手に火傷とか無いか見てみるが、マメが潰れた後なんかはともかく特にそういった傷は無さそうだ。
魔法が使えた事に関しては仁に感謝しなければならないかもしれない、思いっきり吹き飛ばしちゃったけど。
その後木の下で何度か同じイメージを重ねてみるが、結局その後出る事はなかった。
「こんのっ!」
右腕の一撃を避け、左腕の追撃は受け流しゴーレムに肉薄する。動き自体は緩慢だ、しっかり視界に捉えてれば避けられない事はない。斬れるイメージを頭の中で必死に描きながら渾身の一撃をかます。
しかし甲高い音と共に無惨にも僕の剣は弾かれ、大きく隙ができた腹部に容赦無い右腕の一撃が見舞われる。
トラックにでも撥ねられたかのような衝撃で体が大きく宙に舞い、庭の端までぶっ飛ばされる。内臓が全部飛び出るんじゃないかという錯覚すら覚える一撃。現に一日目は殴られた衝撃で失神するわ失禁するわで、目が覚めたら着替えさせられていた。
もうあんな惨めな目に遭うのはゴメンだと意地で意識を保つが、体の方は言うことを聞いてくれない。
「もう、また無茶をして!」
「先生急いで急いで」
「分かっておる、まったく年寄りに無理をさせて」
この訓練を始めてから近くにいてくれるようになったワーナー達が駆け寄ってくるのが分かるが、それに反応を返すことすらできず問答無用で治癒魔法をかけられる。
治癒魔法は便利だが回復量に比例して時間が掛かる上、後から倦怠感が襲うというデメリットがあり、おかげで最近夜は死んだように眠ることばかりだ。
それでも子供は回復が早くて良いなと周りからよく言われるので、体の若さにか任せてかなり無理をしているのだろう。
「よし、これで良いじゃろ。ただ今日はもう三回目じゃ、これ以上は回復してやらんぞ」
「あ、ありがとうございます…」
なんとかお礼を返すが全身の痛みと倦怠感で動けないでいると、一緒に駆け寄って来てたエルザが抱き上げて邪魔にならない所まで運んでくれる。
「若いとは言えあんまり無茶しちゃダメよ、せっかく可愛いのに台無しになっちゃったらどうするの」
「は、はい…」
女性にお姫様抱っこされるのも可愛いと言われるのも恥ずかしいが、それに抵抗すらできない。
庭に生えた木の根元にもたれ掛かるように置かれ、エルザは他の人達との練習に戻っていくと、代わりにポツンと残された僕の元に仁が歩み寄ってくる。
「よう、今日三度目だからこれで終わりか?」
「うん、ドクターストップだって。あと一時間はまともに動けないと思う」
最近回復魔法を受けすぎて、動けるようになるまでの時間は体感で分かるようになってきた。
最初の頃は倒れて二時間経っても動けない僕を見てロバートが泣きついてきたこともあったが、今では慣れた物だ。
「仁はサボり?」
「イメトレだイメトレ、闇雲に撃ったってあの障壁は突破できないからな」
あのゴーレム達は歩くと言うことは知らないようでこちらに近づいてくる事はなく、誰も近づかなければ無害なオブジェクトだ。しかも何を基準に動いてるのかは分からないが、小さな鳥とかだと反応しないらしい。
「お前もせっかく動けないんだからイメトレしてみたらどうだ?」
「イメトレね、やっぱ金髪で髪を逆立てるイメージかな?」
今のお前は元から金髪だろと仁がカインと同じツッコミをしてくる。
「それにイメトレは強化魔法だけじゃないさ、お前だって炎系の魔法は適性があるんだろ?」
これは種見式の時の結果で分かる事らしい。葉が瑞々しく青かった仁は風、水、光などの適性が強いように、葉が赤かったり黒く枯れていた僕は炎や闇の適性があるらしい。
「あるのはあるらしいけど、イマイチイメージが湧かないんだよね」
適性があるとは言っても闇は元々制御が難しいらしいので、実質炎だけが適性みたいなものらしい。でも僕にはその炎もまだ全然使えない。
「火を操る能力者なんてそれこそアニメなんかにいっぱいいただろ、そいつら思い出してみろよ」
炎使いのキャラは確かに多いし、パッと思い出すだけでも雨の日には炎が使えない人とか、死ぬお兄ちゃんとか、光の速さを超えるお兄ちゃんとか結構出てくる。
「でもそんなイメージで出るのかな?」
「それだ、それがいけないんだ!」
僕に跨り食い入るような姿勢の仁にガシッと両肩を掴まれる。ただでさえ全身が痛いんだからあまり乱暴な事は止めて欲しい。
「お前のその魔法への懐疑的な姿勢、それがいけないんだ。もっと心の底から魔法はあると信じて使ってみろ」
「そ、そんな事急に言われても…」
魔法オタクだった仁とは違い元々僕は魔法に興味なんかなかったし、未だに使える意味もよく分からない。それなのにその姿勢が悪いと言われてもこっちが困る。
「ほら、魔法はある!心の奥から信じてみろ」
「分かった、分かったから揺すらないで」
手のひらに竜巻を作りながら迫ってくる仁を宥める。
しかし、分かったとは言ってもそんなもので本当に出るのだろうか?いや、その考えがダメなのか?
とりあえずやらないとまた揺すられそうなので仁を信じて目を閉じ集中してみる。
腕は動かないので手のひらは上向きに投げ出されたまま、頭の中には色んなアニメや漫画キャラが炎を出すところをイメージしながら手のひらに神経を集中させる。
炎を食べる魔法使い、刀に炎を纏う剣士、炎を使う美少女、色んな炎を使うキャラを思い出しながら集中する。集中して集中して、最後にそれらのイメージと自分の手から出るイメージを重ねた瞬間――
ボンッ!!と盛大な音を立てて上向きに投げ出されてた手のひらから爆炎が上がり、僕に跨るような姿勢を取っていた仁を宙へと吹き飛ばす。突然の爆発音に庭にいた人たちの目線が一斉にこちらを向くと同時に、煙を上げながら宙に舞っていた仁が地面へと帰還する。
一瞬で庭が警戒体制に包まれ、弛緩していた空気がピンと張り詰める。みんなのその視線は僕達の方を向いていた。
「今の爆発音は何?敵襲?」
エルザが武器を構えながらこちらに聞いてくるので事の顛末を説明する。本当は説明するのもしんどいけど、仁はそこで焦げちゃってるから仕方がない。
「はぁ、事情は分かったわ。つまり初めて魔法が発動したのね」
エルザ達が警戒を解きつつこちらに歩み寄ってくる。
「うん、驚かせちゃってごめんなさい」
「本当よ、突然爆発するんだもん。大体あなたは安静にしてないとダメでしょ」
そう言いながらエルザとワーナーが焦げた仁の介抱を始める。意識はトんでるようだが幸い傷は大したこと無いらしく、木の下に置かれる子供が一人増えただけで済んだ。
「それにしても本当に僕の手から魔法が出るなんて…」
手に火傷とか無いか見てみるが、マメが潰れた後なんかはともかく特にそういった傷は無さそうだ。
魔法が使えた事に関しては仁に感謝しなければならないかもしれない、思いっきり吹き飛ばしちゃったけど。
その後木の下で何度か同じイメージを重ねてみるが、結局その後出る事はなかった。
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