32 / 56
第31話
しおりを挟む
途中いくつかの駅に停まったりしながら約六時間、それなりに揺れる快適とは言い難い汽車の旅を終え、ついに終点王都プロテアへと汽車はたどり着いた。
「あ~長かったー」
梯子を降りて、今まで閉じこもってた分目一杯体を伸ばし深呼吸する。
「うげ、気持ち悪ぃ」
「ちょっと戻さないでよ」
揺れる車内で本を読んでた愚か者が乗り物酔いでグロッキーになっている。戻されても困るのでとりあえず近くのベンチに座らせ背中をさすってやる。
「来て早々前途多難だな」
そんな僕たちのやりとりを見てカインが笑う。
仁が復活するのを待ってから乗降客や駅員なんかでごった返すホームを出る。バンクシア駅も広かったがプロテア駅はもっと広く、構内の表示をみる限りホームが十本以上あるようだ。
改札を出て、駅舎の外に出るとバンクシアの大通りより活気のありそうな道に出る。多くの地方から様々な人種が入り混じっているのだろうか、服装も見た目もてんでバラバラだ。
「さて、今日はもう四時だし試験場見学は明日にして宿に入っちまうか」
「ホテルってここから近いんですか?」
「ああ、ジンのやつの酔い覚ましにちょうどいいくらいだ」
そう言うカインに先導されてしばらく歩くと、思ったより近代的な大きい建物に辿り着いた。てっきり酒場の二階みたいな場所だと思ってが意外と立派なホテルだ。
ドアマンがいらっしゃいませと扉を開いてくれると豪華な内装とカウンターが見えてくる。カインが少し待っててくれとホテルマンに荷物を預け、カウンターで受付をしてくるとすぐに部屋へと案内される。
部屋に入ると広い室内にはテーブルとソファと三台のベッドが用意してあった。
「すまない、子供たちだけで一部屋はダメだから三人一部屋なんだ。我慢してくれ」
「全然構わないですよ、普段から仁と相部屋ですし」
それに体はともかく心は男同士なのだ、こちらとしては別段躊躇することはない。
「俺は疲れたし寝る、夕飯の時間になったら起こしてくれ」
仁が勝手なことを言うと、一つのベッドに倒れ込んですぐに眠りについてしまう。
「ジンは寝てしまったか、アスカはどうする?」
「僕は特に予定は無いですけど」
「夕飯まで少し時間があるとは言え、どこか行くには中途半端だもんな」
カインも荷物を置いてソファに座り込む、そうだ時間があるんだったら。
「ねぇカイン、一つ質問してもいい?」
「どうした、何かあったか?」
ソファに座ったまま顔だけこちらを向けてくる。
「前にロバートと決闘した時のあの感覚、あれを引き出すにはどうすればいいかと思って」
僕には良く分からなかったけど、ロバート曰くあの時の動きは凄かったらしい。それをいつでも引き出せればいいのだけれど、何度試してもあれ以来できたことはない。
「そうだな、恐らくあの時はお前の中にどうすればいいのか確固としたイメージが出来たんだろう」
「確固としたイメージ、ですか」
「そうだ、動きでも姿でも自分の中でのイメージが強ければ強いほど良い。試しにお前の中の強い者のイメージをしてみろ」
僕の中の強い者のイメージ…
「髪が金色になって逆立つとか?」
「なんだそのイメージは?大体お前は元から金髪だろ」
「じゃあ青なら?」
「お前がそれでいいならいいが、イメージできるのか?」
あと髪の色は変わらないと思うぞとカインが困惑している。どうやら今の僕の中にある強いイメージ像では難しいようだ。
「まぁお前の強いのイメージはともかく、そういう分かりやすい形から入るってのは手だな」
丁度お前は金髪なんだしと頭を撫でられる。それにしても強いイメージ像か…
「焦るなとは言わない、そろそろ男子と比べると筋力差も出てくるだろうしな。ただお前の場合足りないのは実戦経験だ、これは庭での打ち合いなんかじゃ経験できない」
「じゃあ僕はどうすれば良いんでしょう?」
「受験に受かったら特別な訓練をしてやろう、学校に行き始めたら俺は口出しできなくなるしな」
だから今は目の前の受験に集中するんだとカインに諭される。そうだ、せっかくロバートに勝ったんだから絶対合格しないと。
その後しばらくカインと談笑し、七時になったところで仁を起こして夕食を摂る。
ホテルの外観通り、立派なディナーのコースが出てきてテーブルマナーに四苦八苦しながら食べる。たまにロバートに教わるけど、口頭で聞くだけなのでなかなか実践する機会は無いのだ。
カインは「畏まらなくても良いんだよ、知人しかいないんだから」と言うけれど、知人しかいないうちに練習しておかないといつか恥をかきそうなので頑張って練習しておかないと。
その後部屋に戻り、ちゃんと部屋毎に個別に付いている浴槽で入浴する。一番風呂はカインに譲ろうとしたが、レディファーストだと僕が先に入ることになった。
最近入浴は周りに気を遣ってばかりだったから、久しぶりにノビノビと入浴できたおかげでその夜はぐっすり眠れたのだった。
「あ~長かったー」
梯子を降りて、今まで閉じこもってた分目一杯体を伸ばし深呼吸する。
「うげ、気持ち悪ぃ」
「ちょっと戻さないでよ」
揺れる車内で本を読んでた愚か者が乗り物酔いでグロッキーになっている。戻されても困るのでとりあえず近くのベンチに座らせ背中をさすってやる。
「来て早々前途多難だな」
そんな僕たちのやりとりを見てカインが笑う。
仁が復活するのを待ってから乗降客や駅員なんかでごった返すホームを出る。バンクシア駅も広かったがプロテア駅はもっと広く、構内の表示をみる限りホームが十本以上あるようだ。
改札を出て、駅舎の外に出るとバンクシアの大通りより活気のありそうな道に出る。多くの地方から様々な人種が入り混じっているのだろうか、服装も見た目もてんでバラバラだ。
「さて、今日はもう四時だし試験場見学は明日にして宿に入っちまうか」
「ホテルってここから近いんですか?」
「ああ、ジンのやつの酔い覚ましにちょうどいいくらいだ」
そう言うカインに先導されてしばらく歩くと、思ったより近代的な大きい建物に辿り着いた。てっきり酒場の二階みたいな場所だと思ってが意外と立派なホテルだ。
ドアマンがいらっしゃいませと扉を開いてくれると豪華な内装とカウンターが見えてくる。カインが少し待っててくれとホテルマンに荷物を預け、カウンターで受付をしてくるとすぐに部屋へと案内される。
部屋に入ると広い室内にはテーブルとソファと三台のベッドが用意してあった。
「すまない、子供たちだけで一部屋はダメだから三人一部屋なんだ。我慢してくれ」
「全然構わないですよ、普段から仁と相部屋ですし」
それに体はともかく心は男同士なのだ、こちらとしては別段躊躇することはない。
「俺は疲れたし寝る、夕飯の時間になったら起こしてくれ」
仁が勝手なことを言うと、一つのベッドに倒れ込んですぐに眠りについてしまう。
「ジンは寝てしまったか、アスカはどうする?」
「僕は特に予定は無いですけど」
「夕飯まで少し時間があるとは言え、どこか行くには中途半端だもんな」
カインも荷物を置いてソファに座り込む、そうだ時間があるんだったら。
「ねぇカイン、一つ質問してもいい?」
「どうした、何かあったか?」
ソファに座ったまま顔だけこちらを向けてくる。
「前にロバートと決闘した時のあの感覚、あれを引き出すにはどうすればいいかと思って」
僕には良く分からなかったけど、ロバート曰くあの時の動きは凄かったらしい。それをいつでも引き出せればいいのだけれど、何度試してもあれ以来できたことはない。
「そうだな、恐らくあの時はお前の中にどうすればいいのか確固としたイメージが出来たんだろう」
「確固としたイメージ、ですか」
「そうだ、動きでも姿でも自分の中でのイメージが強ければ強いほど良い。試しにお前の中の強い者のイメージをしてみろ」
僕の中の強い者のイメージ…
「髪が金色になって逆立つとか?」
「なんだそのイメージは?大体お前は元から金髪だろ」
「じゃあ青なら?」
「お前がそれでいいならいいが、イメージできるのか?」
あと髪の色は変わらないと思うぞとカインが困惑している。どうやら今の僕の中にある強いイメージ像では難しいようだ。
「まぁお前の強いのイメージはともかく、そういう分かりやすい形から入るってのは手だな」
丁度お前は金髪なんだしと頭を撫でられる。それにしても強いイメージ像か…
「焦るなとは言わない、そろそろ男子と比べると筋力差も出てくるだろうしな。ただお前の場合足りないのは実戦経験だ、これは庭での打ち合いなんかじゃ経験できない」
「じゃあ僕はどうすれば良いんでしょう?」
「受験に受かったら特別な訓練をしてやろう、学校に行き始めたら俺は口出しできなくなるしな」
だから今は目の前の受験に集中するんだとカインに諭される。そうだ、せっかくロバートに勝ったんだから絶対合格しないと。
その後しばらくカインと談笑し、七時になったところで仁を起こして夕食を摂る。
ホテルの外観通り、立派なディナーのコースが出てきてテーブルマナーに四苦八苦しながら食べる。たまにロバートに教わるけど、口頭で聞くだけなのでなかなか実践する機会は無いのだ。
カインは「畏まらなくても良いんだよ、知人しかいないんだから」と言うけれど、知人しかいないうちに練習しておかないといつか恥をかきそうなので頑張って練習しておかないと。
その後部屋に戻り、ちゃんと部屋毎に個別に付いている浴槽で入浴する。一番風呂はカインに譲ろうとしたが、レディファーストだと僕が先に入ることになった。
最近入浴は周りに気を遣ってばかりだったから、久しぶりにノビノビと入浴できたおかげでその夜はぐっすり眠れたのだった。
21
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
TS転生したけど、今度こそ女の子にモテたい
マグローK
ファンタジー
秋元楓は努力が報われないタイプの少年だった。
何をやっても中の上程度の実力しかつかず、一番を取ったことは一度もなかった。
ある日、好きになった子に意を決して告白するもフラれてしまう。
傷心の中、傷を癒すため、気づくと川辺でゴミ拾いのボランティアをしていた。
しかし、少しは傷が癒えたものの、川で溺れていた子供を助けた後に、自らが溺れて死んでしまう。
夢のような感覚をさまよった後、目を覚ますと彼は女の子になっていた。
女の子になってしまった楓だが、女の子にモテることはできるのか。
カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
思春期ではすまない変化
こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。
自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。
落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく
初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
君は今日から美少女だ
藤
恋愛
高校一年生の恵也は友人たちと過ごす時間がずっと続くと思っていた。しかし日常は一瞬にして恵也の考えもしない形で変わることになった。女性になってしまった恵也は戸惑いながらもそのまま過ごすと覚悟を決める。しかしその覚悟の裏で友人たちの今までにない側面が見えてきて……
前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-
砂風
ファンタジー
とある出来事により悲しんでいた男子高校生の杉井豊花は、ある日突然、異能力者になった。能力の内容は14歳の美少女になるというもの。
最初こそ願ったり叶ったりだと嬉々としていた豊花だが、様々な出来事が豊花の前に立ち塞がる。
女ならではの悩み、異能力者となったことによる弊害、忍び寄る裏社会の恐怖、命の奪い合いにまで遭遇してしまう。些細な問題から大きな事件まで次々に巻き込まれることになった豊花は、否が応にも解決を余儀なくされる。
豊花はまだ知らない。己の異能力が女体化以外にもあることを。戦える力があることを。
戦える力を手にした豊花は、次第に異能力の世界へと身を浸していく……。
※ローファンタジーです。バトル要素あり、犯罪要素あり、百合要素あり、薬物要素あり。苦手な方はご注意ください(でも読んでくださいお願いします)。
※※本作は『前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~』を横読みに変更し空行を空けた作品になります。こちらのほうは最新話まで随時投稿予定です。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる