転生少女は元に戻りたい

余暇善伽

文字の大きさ
上 下
7 / 56

第6話

しおりを挟む
 「うっ…た、食べ過ぎた…」
 「俺は完全なおもちゃ扱いに疲れたぜ…」
 食堂に着いた僕達を待っていたのは、城に住み込みで働いているらしい人達からの熱い歓迎だった。ある人は弟妹みたいだと言い、ある人は自分の子供の様だといい、食堂のおばちゃんはもっと食べろと食事を推し勧めてきた。
 「お城じゃ~お二人くらいの年齢の方は珍しいですからね~」
 先を行くシアンが苦笑しながら教えてくれる。
 「そう言えば次は何処に行くか聞いてなかったんですけど、今は何処に向かってるんですか?」
 「お庭ですよ~、この時間帯カインさんはいつもお庭にいらっしゃいますので~、きっとそこで修行が始まると思いますよ~」
 「いよいよ魔法が使えるんだな…」
 仁が感慨深そうに呟く。散々ガラクタを集めたり、親を心配させたり、挙句人を巻き込んでおかしな世界に来てまで得た機会なんだ、しっかり噛み締めて、そしてついでに反省して欲しい。
 その後、しばらくシアンに先導されて歩くと急に開けた場所に出てきた。
 「ここがお庭ですよ~」
 そう言うシアンの向こうでは、確かにカインが数人の騎士に稽古を付けているようだ。数人にまとめて掛かられているのに、あっという間に全員をのしてしまう。
 「お前たち剣先ばかり見過ぎだ!だから足元を掬われるだろ。何度も同じ事言わせるなよ」
 普段は優しそうなカインが厳しい口調で叱る。やはり、こう言うことには本気なのだろう。僕達につける修行というのも厳しいものになるのかもしれない。
 「カインさ~ん、二人をお連れしました~」
 「おう分かった!」
 意外によく通るシアンの声に返事をすると、カインは他の騎士たちにテキパキと指示を出してからこちらに駆け寄ってくる。
 「どうだ、しっかり飯は食ったか?」
 「それはもう食べ過ぎるくらいには食べました」
 僕の様子を見てカインが笑う。
 「いいさ、お前たちくらいのうちは食べるのも修行だからな。しっかり食べてしっかり動けよ」
 「それより早く魔法の修行を付けてくれよ。もう待ちきれないぜ」
 「ほう、随分なやる気じゃないか。だが、始める前に一つ忠告しておくことがある」
 カインは急に神妙な面持ちになってこちらを見る。
 「いいか?魔法はな、便利だし強力だがその分簡単に人の命を奪う。使い方を間違うから奪うんじゃない、正しく使うからこそ人の命を奪うんだ。これは剣や槍なんかの武器でも一緒だな」
 仁が命という単語にピクリと反応する。この手の話題は仁へのNGワードなのだ。仕方ないので仁の手をそっと握ってやると、小さく震えていたのが収まる。
 「だがな、それを恐れたら騎士はやっていけない。騎士は人の命を奪うことで大切な物を守るのが仕事なんだ。だからこそ、力の扱い方を間違ってはいけない。そのことは忘れないでくれ」
 カインの真面目な話が終わる。そうだよね、力の使い方を教える以上、この手の議題は避けては通れないはずだ。
 結局、どんな力も誰かを傷つける宿命にあるのだ。何かを守ると言う結果で隠しているだけで、その事実は曲げることはできない。
 「そ、それでも…俺は力が欲しいです。もう何も失わないように」
 仁にしては珍しく声が震えている。それでもここは仁自身が乗り越えなきゃいけないことだろう。
 「よく言った、お前は特に村のことがあるからな。失うことを知っている者は優しく強くなれる」
 カインは満足げだ。理由はともかく仁の迫真さが伝わったのだろう。
 「アスカ、お前はどうだ?」
 僕に話が振られる。そうか、ここは記憶喪失の振りをしないといけないところか。
 「ぼ、僕は何を失ったのかも覚えてないです。ですが、せっかく助けてもらった命なら誰かを助けるために生きたいです」
 とりあえず話を合わせるが、騙してるようで心が痛む。でも、実際は誰かを助けるなんて大変なことができる人間では無いとしても、その気持ちだけは忘れたくないのは本心だ。
 「そうか。よし、お前たちになら剣と魔法を教えても大丈夫だろう」
 そう言うとカインは腰の巾着袋から二つの石を取り出して僕と仁にそれぞれ手渡す。
 「うおっ、なんかメッチャ吸われる⁉︎」
 「そう?僕は何も感じないけど」
 仁は大袈裟な反応を取るけど、僕にはただの石にしか感じない。
 「ジンは感じられたか。その石は蓄魔石、周囲の魔力を吸収して保存しようとする石なんだ。つまり今吸われてるのが魔力だな」
 カインが種明かしする。つまり感じられる仁が普通で僕が鈍いってこと?
 「まずはその体内の魔力を操ることができる様になることがスタート地点だ」
 「これが…魔力…」
 念願の魔力とのご対面に仁が恍惚の表情を浮かべる。でも、僕には吸われてる感覚なんてないので何の事だかよく分からない。
 「アスカ、魔力は心臓に近いほど多いから胸元に蓄魔石を当ててみろ」
 カインに言われて胸元に石を当ててみる。
 「うひゃ!」
 初めての感覚におかしな声が出ちゃった。なんか薄皮を延々引っ張られ続ける様な痛いのかくすぐったいのかよく分からない感覚だった。
 「なんか引っ張られる感覚があっただろう?それが魔力だ。まずはそれを自在に操れるようになってもらう」
 そう言うと石は危ないからと回収される。今のが魔力と言われても、離したらすぐに分からなくなったんだけどどうやって引っ張り出せばいいんだろう?
 「ジンは才能があるから体系的な方法で修行してもらう。アスカはそれじゃ難しそうだから体感的に学んでもらう。厳しい訓練になるが着いてこいよ」
 こうして僕と仁の修行は始まったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚
ファンタジー
【タイトル】 わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが? 〜魔王を倒し世界を救った最強勇者様だったこの俺が二度目の転生で、超絶美少女貴族に生まれ変わってしまった。一体これからどうなる私のTS貴族令嬢人生!? 【あらすじ】 「どうして俺こんな美少女令嬢に生まれ変わってんの?!」 日本の平凡な男子大学生が転生し、異世界『レーヴェンティオラ』を救う運命の勇者様となったのはもう二〇年も前。 この世界を脅かす魔王との最終決戦、終始圧倒するも相打ちとなった俺は死後の世界で転生させてくれた女神様と邂逅する。 彼女は俺の偉業を讃えるとともに、神界へと至る前に女神が管理する別の異世界『マルヴァース』へと転生するように勧めてきた。 前回の反省点から生まれは貴族、勇者としての能力はそのままにというチート状態での転生を受け入れた俺だが、女神様から一つだけ聞いてなかったことがあるんだ……。 目の前の鏡に映る銀髪、エメラルドグリーンの目を持つ超絶美少女……辺境伯家令嬢「シャルロッタ・インテリペリ」が俺自身? どういうことですか女神様! 美少女転生しても勇者としての能力はそのまま、しかも美少女すぎて国中から讃えられる「辺境の翡翠姫(アルキオネ)」なんて愛称までついてしまって……ちょっとわたくし、こんなこと聞いてないんですけど? そんなシャルロッタが嘆く間も無く、成長するに従ってかけがえの無い仲間との邂逅や、実はこの世界を狙っている邪悪な存在が虎視眈々と世界征服を狙っていることに気がつき勇者としての力を発揮して敵を打ち倒していくけど……こんな化け物じみた力を貴族令嬢が見せたらまずいでしょ!? 一体どうなるの、わたくしのTSご令嬢人生!? 前世は♂勇者様だった最強貴族令嬢の伝説が、今幕を開ける。 ※本作は小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに同時掲載を行なっております。

思春期ではすまない変化

こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。 自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。 落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく 初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉
ファンタジー
『世界を救うために王を目指せ? そんなの絶対にお断りだ!』  ある日めざめたら大好きなゲームの世界にいた。  しかし、転生したのはアクションRPGの中でも、死にゲーと分類されるゲームの世界だった。  死にゲーと呼ばれるほどの過酷な世界で生活していくなんて無理すぎる!  目の前にいた見覚えのあるノンプレイヤーキャラクター(NPC)に必死で縋りついた。 「あなたと一緒に、この世界で平和に暮らしたい!」  死にたくない一心で放った言葉を、NPCはあっさりと受け入れてくれた。  ただし、一緒に暮らす条件として婚約者のふりをしろという。  婚約者のふりをするだけで殺伐とした世界で衣食住の保障がされるならかまわない。  死にゲーが恋愛シミュレーションゲームに変わっただけだ!   ※第17回ファンタジー小説大賞にエントリー中です。  よろしければ投票をしていただけると嬉しいです。  感想、ハートもお待ちしております!

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

猫耳幼女の異世界騎士団暮らし

namihoshi
ファンタジー
来年から大学生など田舎高校生みこ。 そんな中電車に跳ねられ死んだみこは目が覚めると森の中。 体は幼女、魔法はよわよわ。 何故か耳も尻尾も生えている。 住むところも食料もなく、街へ行くと捕まるかもしれない。 そんな状況の中みこは騎士団に拾われ、掃除、料理、洗濯…家事をして働くことになった。 何故自分はこの世界にいるのか、何故自分はこんな姿なのか、何もかもわからないミコはどんどん事件に巻き込まれて自分のことを知っていく…。 ストックが無くなりました。(絶望) 目標は失踪しない。 がんばります。

転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

りーさん
ファンタジー
 神さまの頼みで、精霊に転生したルート。  その頼みとは、双子の妹のルーナと一緒に、世界を浄化してほしいというものだった。  といっても、浄化の力を持っているのは妹だけで、自分はお目付け役。  なぜわざわざと思ったが、それは転生してから判明する。  精霊は、ほとんどがのんびり屋でありマイペース。  そのなかでもルーナは、超がつくほどの怠け者であり、暇さえあれば寝て、寝て、寝まくる性格だった。  そんな妹を叱責しながら、時には一緒にだらけながら、ルートとルーナは旅をする。

処理中です...