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三章
「黄金のエリクサー」その⑥
しおりを挟む「なんて戦いだよ。あの威力の炎の玉をあれだけ連射できるとか、熊ゴーレムは凄い魔力量だな」
いったい何十発撃ったんだろ。しかもまだ全然魔力が弱まっていない。ただそんな物凄い攻撃を、アイリスは軽く出した斬撃であしらっている。
「ご主人、上です、上を見てください」
スカーレットに言われ上空に目をやると、そこには巨大な光の剣が浮いていた。
二十メートル級の光の剣は、熊ゴーレムの真上五十メートルに位置し、刃を下に向けている。
「いつの間に……」
アイリスは光の剣の側にいた。間違いなくあれはアイリスの剣技だ。
「聖剣降臨」
ドデカい光の剣が高速で落下し、熊ゴーレムを背中から串刺しにした。
熊ゴーレムは断末魔の叫びを上げ、ライフがゼロになったからなのか、少し不自然に漆黒のボディーはバラバラに弾け飛ぶ。
なんて豪快かつ恐ろしい技だよ、一撃でご臨終だし。もう反則の神レベルですよアイリスさん。って、これ街中だったら大惨事だな。
「やったのにゃ、アイリスちゃん強いのにゃ」
「ご主人、あいつ恐ろしい奴ですね」
「そだな。あれでまだ本気じゃないだろうし」
熊の奴なかなか派手な最後だったな。でも本当に強かった。俺ならどんな風に戦ってたかな……死にはしないけど、勝てなかったかも。
「んっ⁉」
なんだかおかしいぞ。砕けた熊ゴーレムが消えずに残っている。
前に戦ったマリウスのオーク型ゴーレムは泥のようになった……何かあるのか?
アイリスはまだ剣を持ったまま降りてこず、戦闘態勢を解いていない。
その時、バラバラに散らばったゴーレムの大中小の無数の破片がウネウネと動き出し、それぞれが光に包まれた。
破片はその大きさのまま元の漆黒ボディーの熊ゴーレムへと変身した。
ってマジかよ。復活するのも凄いけど、いったい何体いるんだ。小さいやつもいれたら、ぱっと見で二百体以上いるだろ。
あれで終わらず「俺たちの戦いはこれからだ」と言わんばかりに次の手があるとか超強いゴーレムじゃん。マリウスお宝渡す気ねぇだろ、ガチの番人だ。
「にゃにゃっ⁉ 強そうな熊さんがいっぱいなのにゃ」
「ご主人、手伝いますか?」
「いや待て、アイリスは何かするつもりだ」
アイリスは上空から剣を地上に向けて構えている。
剣が凄まじい魔力と共に閃光を発すると、先程と同じように巨大な光の剣が現れた。
「聖剣の断罪」
巨大な光の剣は激しく輝くと、ノーマルサイズの剣へ無数に分裂し、まるで集中豪雨の如く降り注ぎ、大中小の熊ゴーレムの群れに襲い掛かる。
「うおおっ、スゲーーっ‼ 熊の串刺し祭りだ」
光の剣は二百体以上の熊ゴーレム全部に次から次に命中した。
剣の直撃を食らった熊ゴーレムは、今度こそライフがゼロになったようで、その形を保てずに溶けて黒い泥となった。
てか切ねぇ、最後は圧倒的な力の差で見せ場なかったよ。分裂した熊がどんな戦い方するか楽しみだったけどな。まあ仕方がない。
とにかくアイリスの完全勝利だ。っていうかやっぱ鬼強っす。
アイリスは剣をペンダントに収納し、ゆっくりと俺の側に降りてきた。
「主様、終わりました」
「お疲れ様。さっきの剣技、二つとも凄かったね。ホンとアイリスは頼りになるよ」
そう言ってアイリスの頭を撫でると、少し頬を赤くしてはにかんだ。その様子をクリスとスカーレットは羨ましそうに見ている。
「にゃにゃっ、ご主人様、また魔法陣が現れているのにゃ」
「ほんとだ。今度のは小さいやつだな」
その召喚魔法陣は直径一メートル程で、すぐに光の柱を上げ発動した。
流石にここは黄金のエリクサーだろ。もうそれで頼むよマリウスさん。
見守っていると現れたのは、十五センチ程のガラスの瓶が三つで、中には発光している黄色っぽい液体が入っている。
「よし、間違いない。これが黄金のエリクサーだ。しかも三つもゲット」
ラッキーラッキー、売れば金持ちだ。店の開店資金にもなる。でも黄金のエリクサーを鑑定眼で見たら、何もかもが謎だった。
これは売るにしても値段設定が難しいな。まあそこは商人としての腕の見せ所だ。
「おめでとうございます、ご主人」
「キラキラしていて凄く綺麗な液体なのにゃ」
宙に浮いている黄金のエリクサー瓶を掴み取り、自分のウエストポーチに入れた。
「んっ? これも戦利品ってことかな」
一緒に召喚されたようで、地面には銀色の熊の置物があった。
大きさは二十センチ程で鮭を銜えており、まさに北海道土産の熊のデザインだ。
どう見ても木彫りでなく金属っぽいので鑑定眼で見ると、魔法合金とだけ分かった。売買価格やレアリティ、その他の情報は謎だ。
銀色の熊を手に取ると魔法陣はすぐに消えた。因みに魔法合金の熊は凄く軽い。
何か特別な意味があるのか気になるところだ。賢者がわざわざ残したわけだしな。
「かわいい熊の置物なのにゃ。でもこの魚を銜えた熊さんをクリスチーナは見たことあるのにゃ」
「ご主人、私も見たことあるような気がします」
「へぇ~そうなんだ。アイリスは?」
「私は見たことないと思います」
「思い出したにゃ。有名な賢者様が作ったもので、子供が大きく成長するとか将来大物になる、という意味があるのにゃ。どこかの国の王様に子供ができた時に賢者様が送ったものにゃ。その話しを聞いた人たちがマネて木彫りで作り、今では普通にお守りとして売られているのにゃ」
クリスさん分かりやすい説明乙。
「なるほどねぇ。そんな話があるのか」
木彫りの熊と意味まで同じだけど、賢者発案じゃないだろ。
いやもう絶対に違うと断言できる。これ向こうの世界の北海道土産ですからね。おい勇者タケヒコ、お前は何を伝えてんだよ。
「確か北の大国の王家や貴族の間では、今も我が子が生まれる時に、賢者様の銀色の熊を送るのが風習と聞いたことあるのにゃ」
クリスは情報を話した後、凄く褒めてほしそうに少しかがんで頭を俺の方に向けた。どうやら撫でてほしいらしいが、透かさずスカーレットがカットインする。
「その程度で褒めてもらえると思うな、バカ猫」
スカーレットはクリスのお尻に蹴りを入れた。
「ふにゃあっ⁉ 痛いのにゃ、スカーレットちゃん酷いのにゃ」
いつも通りの犬猫のコントを放置して、銀色の熊の置物をウエストポーチに入れた。
「とりあえず貰っておくか」
賢者の魔法合金だし武器やアイテム作りに役立ちそうだ。
一つ残念なのは熊ゴーレムの額に付いていた魔石がゲットできなかったことだ。最初の一撃でボディがバラバラになった時に消滅してしまっていた。
「あの、主様、この紙なのですが」
そう言ってアイリスは封印石のペンダントの中から自分の手に、丸められたクシャクシャの紙を取り出した。
その見覚えのある丸められた紙は、さっきアジトで投げ捨てた、ハズレと書かれたものだ。
「アイリスそれ、拾って持ってたのかよ」
「はい。少しですが魔力を感じましたので、何か仕掛けがあるかもと思い拾っておきました」
「魔力か……」
ベタなとこだと、火であぶる、水につける、とかで文字とか地図が浮かび上がるんだよな。
「アイリス、これまで地図とか紙に魔法の仕掛けがあるのとか見たことはないの?」
「あります。賢者様が地図を炎に入れると焼けて灰にならず、別の地図に変化したことがありました」
「それじゃね⁉」
それっぽいよ正解は。だってマリウスは単純な奴だしさ。
さっそく家事担当のクリスさんがボディバッグの魔法空間から薪を出して焚火の準備をした。
「私が火を用意します」
アイリスは封印石のペンダントの中から剣を出すと刃に炎を纏わせる。その炎で簡単に薪を燃やした。二人とも手際がよくて助かるよ。
で、ハズレの紙を燃やしてみる。まあダメでも全然OK。燃えて悔いなし。
「にゃにゃっ、紙が浮いているのにゃ⁉」
焼かれず宙に浮いた紙は炎を全て巻き込むように吸収し、光の粒子に包み込まれる。
その光は閃光を発すると消え去り、紙は地図に変化していた。
「ははっ、大正解だな」
「はい、主様」
「流石ですご主人」
「きっと宝がいっぱいある場所の地図なのにゃ」
しかしまた地図ですか。物凄く嫌な予感がするのは何故だろうか。
俺って苦労性なのかなぁ……。
てか地図の場所に行くのはマリウスに踊らされてる感が半端ない。もう絶対に面倒臭い事になるよ。でも色々と金に武器にアイテムが手に入るんだよな。そんな風に考えてる時点で、やっぱ踊らされてるか。
でもまあ今回の冒険も無事に終わり、いい結果だった。
のだが、そもそもの原因のアンジェリカとイスカンダルをなんとか遠ざけないと。そのうち俺を探しているバカ二人のせいで死人が出る。いやマジで誰か死ぬって。もしかしたら村や町ごともある。だってあいつら本物のバカなんだもん。考えただけで超絶怖いよ。
「さてと、我が家に帰りますか」
「はいにゃー」
「御意」
「はい」
因みに帰る時にはアジトの結界空間に入る鍵である重ねた石は、誰も入れないようにウエストポーチの中に回収しておいた。
だってこの空間、というかアジトは自分のとして使えそうだから。
べ、別にここで女の子と密会しようなんて考えてないからね。
ホンとエッチな事とか考えてませんから。
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